交通事故で脊髄損傷|後遺障害等級と慰謝料は?等級認定の対策も解説

更新日:

交通事故で脊髄損傷

交通事故により強い衝撃を受けると、脊髄損傷(せきずいそんしょう)を負ってしまうことがあります。

脊髄損傷は上肢や下肢の麻痺を伴い、半身不随の状態といった重い後遺症が残る可能性がある怪我ですが、後遺障害等級の認定を受け、適切な損害賠償金を得るには対策が必要です。

この記事では、脊髄損傷で該当しうる後遺障害等級とその認定基準、請求できる損害賠償金の種類と相場を解説します。適切な後遺障害等級や損害賠償金を得るための対策も紹介しますので、ぜひご確認ください。

交通事故の無料法律相談
相談料 0
毎日50件以上のお問合せ!
交通事故の無料法律相談
¥0 毎日
50件以上の
お問合せ

交通事故の脊髄損傷の症状と後遺症

脊髄損傷とは、脊椎の中を通る脊髄が事故などで損傷を受けることを言います。

  • 脊椎:背骨(脊柱)を構成する骨。24個の椎骨と尾骨で成る。
  • 脊髄:脊椎のなかにある管状の構造物。脳からの指令を体の他の部分に伝える運動神経、体の他の部位からの情報を脳に伝える感覚神経が含まれている。

脊髄には運動や感覚をつかさどる神経が多く含まれているため、損傷すると麻痺などの症状があらわれます。まずは具体的な症状や原因などを見ていきましょう。

脊髄損傷の症状

脊髄損傷は大きく完全損傷と不完全損傷(不全損傷)に分けられます。
それぞれの症状は次のとおりです。

  • 完全損傷
    • 脊髄が完全に離断し、脳から末梢神経への伝達機能が絶たれている状態
    • 損傷部位以下が完全に麻痺し、運動機能、感覚機能が失われる
    • 体温調節機能、代謝機能も落ちてしまう
    • 日常生活が困難となり介護が必要になるケースも
  • 不完全損傷(不全損傷)
    • 脊髄が損傷したものの、一部の伝達機能は残っている状態
    • 麻痺、しびれ、筋力低下、巧緻運動障害(箸を持つ、字を書くなどの細かな作業が難しくなる)、歩行障害などが生じる
    • 知覚過敏/鈍麻/消失や異常知覚を併発することもある
    • 日常生活に支障が生じ、リハビリが必要になることが多い

上記の他に、首や背中の痛み、呼吸機能の低下、排せつ機能・性機能の喪失などが生じ、合併症を引き起こすこともあります。

脊髄の損傷部位と麻痺の関係

麻痺が体のどの部位にどの程度現れるかは、損傷した脊髄の位置によって異なります。

脊髄損傷の麻痺の種類
  • 片麻痺
    脳にある上位運動ニューロンが損傷されることで発症します。右脳の損傷で左半身、左脳の損傷で右半身に麻痺が見られるようになり、半身不随の状態になります。
  • 対麻痺
    主に胸から下の脊髄が損傷を受けることで発症します。麻痺が残る部分は、両足や骨盤です。
  • 四肢麻痺
    首部分の脊髄が大きく損傷されたときに発症するもので、両腕・両足・骨盤に麻痺が残ります。
  • 単麻痺
    通常、脊髄からのびる末梢神経の損傷で起こりやすい麻痺です。どの部分が麻痺するかは、損傷部位によって異なります。おおまかに言えば、頚椎付近の損傷で手足、胸椎付近の損傷で足の麻痺が起こります。

脊髄損傷の後遺症|麻痺、膀胱直腸障害、呼吸機能障害など

脊髄損傷の後遺症は損傷位置しだいであり、上肢や下肢の麻痺四肢麻痺膀胱直腸障害呼吸機能障害があげられます。

麻痺の範囲は上肢や下肢から四肢麻痺まで幅広く、被害者の生活を一変させてしまいます。

脊髄損傷が自律神経に影響すると排尿や排便などの生理機能が損なわれ、膀胱直腸障害の後遺症が残ることもあります。

また、脊髄損傷の位置によっては自発呼吸に必要な横隔膜を動かせなくなるでしょう。そのため、人口呼吸器が必要になってしまいます。

脊髄損傷の主な後遺症

  • 上肢や下肢の麻痺
  • 四肢麻痺
  • 排尿、排便ができない
  • 自発呼吸ができない

なお、脊髄損傷のなかには下肢より上肢に強い麻痺が残る中心性脊髄損傷もあります。

中心性脊髄損傷と診断された方は、関連記事『中心性脊髄損傷のしびれや麻痺は後遺症?後遺障害等級は何級認定?』もお役立てください。

脊髄損傷の原因|バイク事故や自転車事故が多い

現在は高齢化により転倒による脊髄損傷の割合が増えていますが、かつては脊髄損傷の半分以上が交通事故に起因するものでした。

脊髄損傷に至る原因としては以下のようなものがあります。いずれも、交通事故による衝撃で生じる可能性があるものです。

  • 打撲による揺さぶり
  • 骨折による圧迫
  • 衝撃による部分的あるいは完全な断裂
  • 脊椎の骨折、椎骨の脱臼、亜脱臼、椎骨をつなぐ靱帯の緩み

とくに、バイクや自転車は衝撃から身体を守ってくれる車体がないため、事故を見舞われた場合は脊髄損傷などの重傷に至りやすいと言われています。

バイク事故・自転車事故については以下の記事でも解説しているので、あわせてご確認ください。

脊髄損傷の症状固定のタイミング

症状固定とは、交通事故の損害賠償における転機です。

症状固定とは、ある程度症状が落ち着いているものの、治療を続けても良くも悪くもならないという時期をいいます。

症状固定のタイミング

症状固定を迎えると治療は終了なので、相手方に治療費の請求はできなくなります。

その一方で、後遺障害認定を受けるための申請手続きをはじめ、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償請求を目指すことになるでしょう。

脊髄損傷の症状固定には、リハビリ期間も含めて相当長い時間が必要です。

筋力トレーニングや歩行訓練、食事や着替えの練習などのリハビリも含まれるため、症状固定まで1年以上かかることもありえます。

脊髄損傷の後遺障害等級

交通事故で脊髄損傷になり後遺症が残った場合、「後遺障害認定」の申請を行います。

後遺障害認定とは、後遺症の症状が法律で定められた1級~14級まである後遺障害等級に認められる手続きのことです。後遺障害認定を受ければ、等級に応じた後遺障害慰謝料などを新たに請求できるようになります。

ただし、後遺障害認定の申請をすれば必ず適切な等級に認められるとは限りません。審査の対策をしなければ、非該当となったり、想定より低い等級に認定されることもあります。

後遺障害認定についてより詳しく知りたい方は、『交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方』の記事をご参照ください。

ここからは、脊髄損傷で認定されうる後遺障害等級とその認定基準、認定審査のための対策をお伝えしていきます。

脊髄損傷で認定されうる後遺障害等級

脊髄は顔面以外の運動・感覚を介する役割を持ちます。また、脊髄損傷の位置が頸部に近いほど影響範囲が広く、麻痺、膀胱直腸障害、呼吸機能障害などの重い後遺障害が残る傾向です。

脊髄損傷で認定される可能性のある後遺障害等級は、要介護1級・要介護2級・3級・5級・7級・9級・12級です。

等級ごとの認定基準は以下のとおりです。

脊髄損傷で認定されうる障害等級と認定基準

等級認定基準
要介護
1級
生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常時介護を要するもの
要介護
2級
生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの
3級生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの
5級きわめて軽易な労務にしか服することができないもの
7級軽易な労務にしか服することができないもの
9級通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当な程度に制約されるもの
12級通常の労務に服することはできるが、多少の障害を残すもの

具体的にどのような状態であれば認定基準に該当するのか、等級ごとに詳しく説明していきます。

脊髄損傷による後遺障害要介護第1級の基準

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 高度の四肢麻痺
  • 高度の対麻痺
  • 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
  • 中程度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣などで常時介護を要するもの

「高度」とは?

ここでの「高度」とは、障害のある手足の運動性・支持性がほとんど失われ、それぞれ立つこと・歩くこと・物を持ち上げて移動させること(以下、基本動作)ができないものをいいます。

具体的には、以上のような症状が該当します。

  1. 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
  2. 肩・肘・手首関節および5つの手指のいずれの関節も自分では動かすことができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
  3. 股・膝・足首関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
  4. 障害を残した腕ではモノを持ち上げて移動させることができないもの
  5. 障害を残した足の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの

「中程度」とは?

ここでの「中等度」とは、障害のある手足の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある手足の基本動作にかなりの制限があるものをいいます。

具体的には、次のような症状が麻痺部分に認められる状態です。

  1. 障害を残した腕では仕事に必要な軽量の物(概ね500g)を持ち上げることができないもの、又は障害を残した腕では文字を書くことができないもの
  2. 障害を残した片足を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、又は障害を残した両足を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であるもの

脊髄損傷による後遺障害要介護第2級の基準

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 中等度の四肢麻痺が認められるもの
  • 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣などで随時介護を要するもの
  • 中等度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣などについて随時介護を要するもの

「軽度」とは?

ここでの「軽度」とは、障害のある腕または足の運動性・支持性が多少失われており、障害のある腕または足の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が、相当程度損なわれているものをいいます。

具体的には、次のような症状が麻痺部分に認められている状態です。

  1. 障害を残した腕では、文字を書くことに困難を伴うもの
  2. 日常生活は概ね一人で歩けるが、障害を残した片足を有するため、不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの、または障害を残した両足を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの

脊髄損傷による後遺障害第3級の基準

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 軽度の四肢麻痺が認められる
  • 中等度の対麻痺が認められる

脊髄損傷による後遺障害第5級の基準

「極めて軽易な労務にしか服することができないもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 軽度の対麻痺が認められるもの
  • 片足に高度の単麻痺が認められるもの

脊髄損傷による後遺障害第7級の基準

「軽易な労務にしか服することができないもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 軽度の片麻痺が認められるもの
  • 片足に中等度の単麻痺が認められるもの

脊髄損傷による後遺障害第9級の基準

「通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 片足に軽度の単麻痺が認められるもの

脊髄損傷による後遺障害第12級の基準

「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」とは、以下の症状が該当します。

  • 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
  • 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの

▼適切な等級の判断は難しいため、弁護士にご相談ください。目指すべき等級を正確に把握することは、適切な認定対策に欠かせません。

交通事故の無料法律相談
相談料 0
毎日50件以上のお問合せ!
交通事故の無料法律相談
¥0 毎日
50件以上の
お問合せ

認定の対策(1)被害者請求で申請する

先述のとおり、後遺障害認定では適切な対策をしなければ、想定より低い等級に認定されたり、非該当となったりする可能性があります。
そこで、ここからは脊髄損傷で後遺障害認定の申請をする際の対策をお伝えしていきます。

まずポイントとなるのが、後遺障害認定の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類がありますが、被害者請求を選ぶべきであることです。

事前認定と被害者請求の違いは以下のとおりです。

  • 事前認定
    • 加害者側の任意保険会社を介して審査機関に書類を提出する。
    • 「後遺障害診断書」以外の必要書類は保険会社が集めてくれる。
    • 手間がかからないが、最低限の書類しか用意されず認定にあたって不利
  • 被害者請求
    • 加害者側の自賠責保険会社を介して審査機関に書類を提出する。
    • 必要書類はすべて被害者側で用意する。
    • 手間がかかるが、書類の精査や追加書類の添付が可能

後遺障害認定の審査は、基本的に書面審査のみで行われます。
よって、提出書類でいかに後遺症が認定基準に当てはまっているかを伝える必要があります。

その点、被害者側で書類の精査や追加書類の添付ができる被害者請求の方が、より適切な等級に認定される可能性が高いと言えるのです。

どの後遺障害等級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料の金額は大きく変わります。将来の不安を少しでも緩和するためにも、多少の手間がかかっても被害者請求を選ぶことをおすすめします。

なお、弁護士に依頼すれば、被害者請求に必要な書類の収集や、書類の精査・改善も行ってもらえるでしょう。リハビリや日常生活への復帰で忙しい、家族も介護で時間がとれないといった場合は、弁護士に依頼することも検討してみてください。

後遺障害の被害者請求についてさらに詳しく知りたい場合は、『後遺障害申請は被害者請求と弁護士依頼が正解|必要書類も紹介』の記事をご参考ください。

認定の対策(2)医師の指示がない検査も検討する

医学的・客観的に症状の程度を示せる各種検査結果を提出することは、適切な等級に認定されるため非常に重要となります。

ここで注意すべきなのは、医師から指示があった検査しか受けていないと、後遺障害認定にあたって必要な検査を漏らしてしまう可能性があることです。

医師が検査を行う目的は、基本的に治療方針を決めるためです。
医師が「この部位については詳しく調べなくてもよいだろう」と判断して、後遺障害認定のために必要となる検査を行わない可能性も十分にあります。

このような場合は、被害者側から依頼して検査を実施してもらいましょう。

受けるべき検査は症状によって異なりますが、代表的なものは以下のとおりです。

  • 画像検査
    • MRI、CT、レントゲンなど
    • 交通事故の発生から時間があかないうちに、可能なかぎり精度の高いMRI・CTによる画像撮影をすることが望ましい
      (骨折を伴わない場合、脊髄の異常はレントゲンだけだと見逃されることがある)
  • 電気生理学的検査
    • 電気刺激を与えたことによる反応を確かめる検査
    • 体性感覚誘発電位検査(SEP):感覚神経の反応を確認するために手足に電気刺激を与える
    • 運動誘発電位(MEP):大脳から脊髄などに運動の指示を送る機能を確かめるため、大脳運動野をパルス磁場で刺激する
  • 神経学的検査
    • 症状が生じている部位を刺激して反応を見たり、筋力を確認したりして、麻痺や痛み・しびれなどの程度・範囲を確認する検査
    • 腱反射テスト:肘や膝をたたいた時の反応を見る
    • 徒手筋力テスト:麻痺により使用しなくなった筋力の低下具合を見る
    • 筋萎縮検査:麻痺により使用しなくなった筋肉のやせ細り具合を見る

後遺障害認定のために受けるべき検査については弁護士の方が詳しいことも多いため、受け漏らしのないよう、弁護士にアドバイスをもらうこともおすすめです。

認定の対策(3)書類内容は医師に任せきりにしない

後遺障害認定の書類のうち、とくに重要なものは医師の作成する「後遺障害診断書」です。

また、状況に応じて医師による「意見書」や被害者の家族による「日常生活報告書」なども提出することになるでしょう。

上記のような書類は、記載内容によって認定結果を大きく左右し得ます。
そのため、ただ書いて提出するのではなく、内容を精査し、必要に応じて修正することが重要です。

たとえば、後遺障害診断書で「患部に違和感がある」といった抽象的な表現がされていると、審査機関に症状の程度が伝わらないでしょう。
また、「原因不明」などと書かれてしまうと、交通事故以外の原因で後遺症が残ったと捉えられてしまうおそれもあります。

医師などに書類を作成してもらったら、被害者側でも内容をよく確認し、後遺症を的確に伝えられているか、審査にあたって不利な記述がないか検討しましょう。

後遺障害診断書の記入例については、『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』の記事もご参考ください。被害者自身では判断がつかないなら、無料相談を利用して弁護士に確認してもらうこともおすすめです。

▼後遺障害認定の審査で不利になる記述がないか、法律の専門家の目線で確認します。

交通事故の無料法律相談
相談料 0
毎日50件以上のお問合せ!
交通事故の無料法律相談
¥0 毎日
50件以上の
お問合せ

脊髄損傷で受け取れる賠償金

交通事故で脊髄損傷を負って後遺障害が残った場合、請求できる損害賠償金は以下のとおりです。

  1. 後遺障害慰謝料
  2. 逸失利益
  3. 将来介護費
  4. その他の将来に備える費目
  5. その他の治療中の費目

それぞれの費目の金額や請求が認められるケースを見ていきましょう。

(1)後遺障害慰謝料|精神的苦痛の補償

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残った精神的苦痛をなぐさめるお金です。

脊髄損傷の後遺障害慰謝料相場は290万円から2,800万円となります。具体的には、要介護1級で2,800万円、要介護2級で2,370万円、3級で1,990万円、5級で1,400万円、7級で1,000万円、9級で690万円、12級で290万円です。

以上のように、後遺障害慰謝料は認定された等級ごとに目安の金額が設定されています。
なお、自賠責保険会社が用いる「自賠責基準」、任意保険会社が用いる「任意保険基準」、弁護士や裁判所が用いる「弁護士基準」で金額は異なります。

任意保険基準は保険会社が独自で設定しており非公開であるため、ここでは自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料を紹介します。任意保険基準の金額は、自賠責基準とほぼ同額~やや高額な程度と考えてください。

後遺障害慰謝料の目安(抜粋)

等級 自賠責基準弁護士基準
要介護1級1,650万円
(1,600万円)
2,800万円
要介護2級1,203万円
(1,163万円)
2,370万円
3級861万円
(829万円)
1,990万円
5級618万円
(599万円)
1,400万円
7級419万円
(409万円)
1,000万円
9級249万円
(245万円)
690万円
12級94万円
(93万円)
290万円

※()内は2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合

上記の表を見るとわかるように、自賠責基準と弁護士基準では数百万円~数千万円も金額が異なります

弁護士基準の金額は、過去の判例に基づいた法的に正当と言える金額です。加害者側と示談交渉をする際は、弁護士を立て、弁護士基準の金額を請求することをおすすめします。

(2)逸失利益|将来的な減収の補償

逸失利益とは、後遺障害により労働能力が低下したため減少した将来的な収入の補償です。

逸失利益とは

後遺障害の逸失利益は、以下の式を用いて計算されます。

逸失利益の計算式

  • 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入には、事故前年の年収を用います。被害者が主婦や子どもの場合、賃金センサスから算出される平均賃金をもとに計算することが多いでしょう。

労働能力喪失率とは、どれくらいの労働能力が失われたかを示す割合です。後遺障害等級ごとに、以下のように目安が定められています。

等級ごとの労働能力喪失率(抜粋)

等級労働能力喪失率
要介護1級100%
要介護2級100%
3級100%
5級79%
7級56%
9級35%
12級14%

労働能力喪失期間は、労働能力が失われた期間をさします。原則的に症状固定時~67歳までの年数を用いてください。

ライプニッツ係数は、将来の収入を一括で受け取るため、本来なら生じなかった利息などの利益を差し引くための係数です。

逸失利益の計算について詳しくは『【逸失利益の計算】職業別の計算例や早見表・計算機つき』で確認できますが、より簡単に逸失利益の目安を知りたい場合は以下の計算機をご利用ください。慰謝料だけではなく、逸失利益についても自動で計算可能です。

(3)将来介護費

将来介護費は、重度の後遺障害が残ったとき、将来にわたって必要となる近親者や職業付添人による介護費用の補償です。

将来介護費が認められるのは、基本的に後遺障害等級が要介護1級・要介護2級の場合です。
ただし、3級以下でも介護の必要性を立証できれば認められることもあります。

将来介護費の金額は、基本的には次のように決められます。

  • 基本的な金額(常時介護の場合)
    • 近親者が介護する場合:1日あたり8000円~1万円程度
    • 職業人が介護する場合:実費全額(おおむね1万2000円~2万円程度
  • 対象となる期間
    • 症状固定時から症状固定時における年齢別の平均余命まで

なお、近親者が67歳になるまでは近親者、その後は職業人が介護をするとして計算される傾向にあります。
また、多くの場合は一括で将来介護費を受け取るため、平均余命に対応するライプニッツ係数が乗算されるでしょう。

基本的な考え方は上記のとおりですが、実際には被介護人と介護人の体格差や住宅の仕様などさまざまな要素が考慮されて金額が決まることが多いです。
また、随時介護の場合や後遺障害3級以下の場合は、やや低額になる傾向があります。

将来介護費については、『交通事故で介護費用が請求できる2ケース|計算方法と裁判例から金額もわかる』の記事でより詳しく解説しています。

(4)その他の将来に備える費目

脊髄損傷で重い後遺障害を負った場合、介護費用以外にも将来の生活に備える費目を支払ってもらうことが可能です。ここでは、以下の3つの費目を紹介します。

  1. 器具・装具などの購入費
  2. 住宅・自動車などの改造費
  3. 将来の治療関係費

具体的にどのような内容が請求できるか、順に確認していきましょう。

装具・器具などの購入費

車椅子や松葉杖、介護用ベッドといった装具・器具の購入費も、必要性が認められれば請求できます。

なお、将来的に装具・器具を買い換える際の費用もあわせて請求可能です。買い換えが認められる回数は、平均余命の範囲内で、厚労省の定める「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」にある耐用年数を参考に決められるのが一般的です。

たとえば、車椅子の耐用年数は上記の基準では5年になっています。症状固定時の被害者の平均余命が59年なら、初回を含めて12回分の車椅子購入費が認められるでしょう。

なお、逸失利益や将来介護費と同様位に、装具・器具の購入費もライプニッツ係数を用いて中間利息が控除されます。

住宅・自動車などの改造費

後遺障害が残ったため住宅をバリアフリーにしたり自動車を改造したりする必要性が生じた場合、その費用も相当な範囲で請求できます。

なお、自動車についても、装具・器具と同様に買い換え費用も含めて請求可能です。自動車の買い換え周期は10年程度とする見解もありますが、6年周期での買い換えを認める判例も増えてきています。

将来の治療関係費

交通事故では、原則として症状固定後に治療やリハビリを受けても、その費用を加害者に請求することはできません。

ただし、以下のような場合には例外的に将来の治療費・リハビリ費を請求できる可能性があります。

  • 症状固定後も治療を継続しなければ症状が悪化するケース
  • 症状固定後も住宅をバリアフリーにするまで入院する必要があったケース
  • 症状固定後も定期的な手術が必要になるケース など

ただし、請求が認められるかどうかはあくまでも加害者側との交渉次第です。請求したい場合は、将来の治療関係費の必要性を客観的・医学的に立証するようにしましょう。

(5)その他の治療中の費目

ここまでは後遺障害が残ったことで請求できる費目を紹介してきましたが、治療中に発生した損害に関する費目ももちろん請求可能です。

治療中に発生した損害に関する費目としては、主に以下のものがあげられます。

入通院治療をしたため請求できる主な費目

費目概要
治療費診察費、手術費など治療に要した費用
入通院付添費家族や職業付添人が入通院に付き添った費用
入院雑費ガーゼなどの購入費や通信費など
通院交通費通院に要した交通費
休業損害治療のため仕事を休んだことによる減収の補償
入通院慰謝料事故でケガを負った精神的苦痛の補償

脊髄損傷の治療費や休業損害、入通院慰謝料などの治療中に発生した損害賠償は、原則として症状固定まで請求可能です。治療費に関してはリハビリ費用も含めて数百万円になることもあるでしょう。

治療に関連して請求できる費目は、『交通事故|人身事故の賠償金相場と計算方法!』の記事でより詳しく紹介しています。計算方法や相場を知りたい方は、あわせてご覧ください。

脊髄損傷を負ったときの重要なポイント

交通事故で脊髄損傷を負った場合、治療や示談交渉が長引いて損害賠償金の受け取りまで時間がかかる、既往症があるなら症状への影響が問われるといったさまざまな問題が起こり得ます。

この章では、脊髄損傷を負ったとき気を付けるべき重要点を紹介していきます。

賠償金受け取りまでは各種保険を活用する

事故の加害者が任意保険に加入している場合、治療費や休業損害などは示談成立前に支払われることもありますが、その他の費目は原則として示談成立後にしか支払われません。

交通事故で脊髄損傷を負った場合、重度の後遺症が生じるのであれば治療や示談交渉が長引くことも多いため、経済的に困窮してしまう可能性もあるでしょう。

示談成立前にまとまったお金が必要な場合は、各種保険を活用することをおすすめします。具体的には、以下のような保険が候補になります。

  • 被害者自身が加入する任意保険(人身傷害保険・搭乗者傷害保険など)
  • 被害者自身が加入する労災保険
  • 被害者自身が加入する健康保険の傷病手当金
  • 加害者が加入する自賠責保険(仮渡金の請求、被害者請求により一定の金額を示談成立前に受け取れる)

交通事故の被害者が使える保険について解説した記事を以下にまとめたので、あわせてご一読ください。

既往症がある場合は「素因減額」に注意する

素因減額とは、被害者が有していた事情により交通事故の被害が拡大した場合、その程度に応じて損害賠償金を減額することを言います。

脊髄損傷の場合、脊髄の周辺に脆弱性が生じるような既往症を持っていると、「重症化したのは既往症のせいである」などとして加害者側から素因減額を主張される可能性があるでしょう。

とくに多いのは、既往症として中高年の方が発症しやすいOPLL(後縦靭帯骨化症)や脊柱管狭窄症を持っていたケースです。OPLLについては、無症状性のものが事故をきっかけに発症する事例もあるため、「脊髄損傷はOPLLのせいで悪化した」「そもそも一連の症状は脊髄損傷ではなくOPLLによるものだ」といった主張がされることもあります。

既往症がある場合はある程度の素因減額は避けられませんが、加害者側が必要以上の素因減額を主張しているケースも多いので注意しなければなりません。

また、素因減額だけではなく、既往症が不当に評価されて後遺障害認定を受けられないようなケースもあるでしょう。

素因減額を最小限にとどめたり、適切な後遺障害認定を得たりするには、過去の判例やさまざまな医学的証拠を提示する必要があります。被害者自身では交渉や手続きが難航することも多いため、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

素因減額に関しては『素因減額とは?適用される疾患・ケースや計算方法を解説【判例つき】』の記事でも深掘り解説していますので、あわせてご確認ください。

不完全損傷は後遺障害認定が難しいケースもある

不完全損傷と診断されたケースの中には、神経学的な異常があっても、画像所見では異常を証明できないものがあります。具体的には、以下のようなケースがあげられます。

  • 画像所見で異常が見られない
  • 画像所見で異常が見られるが、脊髄を圧迫するほどではない軽微なものである
  • 神経学的な異常と画像所見の異常に整合性が見られない

このようなケースでは、脊髄損傷ではなく末梢神経の障害や心因的なものであると評価されてしまい、想定より低い後遺障害等級に認定されたり、非該当になったりする可能性があるでしょう。

また、既往症による症状と評価される可能性もあります。この場合は、後遺障害認定だけではなく、先述の素因減額についても注意しなければなりません。

脊髄損傷を負っているにもかかわらず、上記のような評価をされることを避けるためには、事故発生後できるだけ早期に精度の高いMRI検査を受けるとよいでしょう。

不完全損傷で後遺障害認定の申請をする場合、過去の事案や判例をふまえた対策をするべく、交通事故事案を多く取り扱っている弁護士に相談することもご検討ください。

脊髄損傷の難しい局面は弁護士に任せたい

交通事故で脊髄損傷を負った場合は、後遺障害認定・示談交渉・訴訟は弁護士に任せることをおすすめします。その理由を見ていきましょう。

(1)後遺障害認定|専門知識・立証力が必要

後遺障害認定については、わざわざ弁護士に頼まなくとも、医師に任せておけば適切な診断書作成と検査を行ってもらえると思われるかもしれません。

しかし、後遺障害認定を見据えて診断書作成や検査をする場合、医学的な知識だけではなく以下のような知識も必要になります。

  • 被害者の後遺障害が何級に該当するものなのか
  • なぜその等級に該当すると言えるのか
  • 類似の後遺障害における認定事例ではどのような点が評価されたのか
  • 類似の後遺障害で等級認定されなかった事例では、どのような点が問題だったのか

医師は医療の専門家ではありますが、後遺障害認定の専門家とは言えません。とくに、交通事故被害者の治療経験が少ない医師の場合、後遺障害認定に詳しくないことが多いです。

後遺障害認定に精通しているのは、法律の専門家である弁護士です。

脊髄損傷の後遺障害は症状も該当しうる等級も幅広いため、医師と弁護士両方のサポートを受けて後遺障害認定の申請をすることが重要になります。

(2)示談交渉|低額での合意を避ける

交通事故で脊髄損傷を負った場合は、示談交渉も弁護士に任せることをおすすめします。

脊髄損傷は損害賠償金が高額になりやすいため、加害者側の任意保険会社から提示された金額を見て「十分だろう」と納得されてしまう方も多いです。
しかし、一見すると高額に見える賠償金が、本来の相場と照らし合わせると低額であることは少なくありません

また、交渉相手となる加害者側の任意保険会社は、さまざまな被害者・弁護士との示談交渉を経験しています。
そのため、経験が比較的少ない被害者自身で交渉しても、思うように増額を認めてもらえないことが多いのです。

とくに、脊髄損傷は損害賠償金が高額になりやすいことから、加害者側が支払う金額を抑えようとシビアな態度で交渉に臨んでくるケースが散見されます。

被害に見合った適正な金額を受け取るためにも、法律の専門家であり、交渉にも長けている弁護士に示談交渉を任せることをご検討ください。

弁護士による増額事例|1億円以上の損害賠償金を獲得

実際に、アトム法律事務所で受任した脊髄損傷の事例を紹介します。

事例の概要

傷病名頚椎骨折・脊髄損傷
後遺障害等級2級
最終的な損害賠償金1億785万円

本案件の被害者の方は、車に同乗している際に電柱に衝突する交通事故にあい、頚椎を圧迫骨折し、四肢に麻痺が残る状態でした。お話をおうかがいしたところ、将来的にさらに手厚い介護が必要となるのではといった点に不安を抱えているとのことでした。

弁護士は被害者の方のご事情を汲み、将来介護費や家屋の改造費用を含めて訴訟を提起し、結果として1億円以上の損害賠償金を回収しました。

とくに慰謝料に関しては、当初に加害者側から提示された1500万円から大幅な増額を実現しています。被害者の方にもご満足いただける結果となりました。

(3)民事裁判|被害者自身では対応が困難

脊髄損傷は損害賠償金が高額になりやすいため、民事裁判に発展する可能性もあります。

被害者本人だけで民事裁判に対応し、望ましい結果を得るのは非常に困難です。

裁判の手続きや書類作成は非常に煩雑であり、経験が少ないとその対応に追われてしまうでしょう。その結果、本来力を入れるべき論点の組み立てや証拠の収集に時間をさけず、十分な主張が行えなくなるのです。

また、裁判に発展した場合、加害者側の任意保険会社も弁護士を立てることが予想されます。法知識や裁判の経験が少ないなら、互角に論じ合うのは難しいと言わざるを得ません。

もし敗訴してしまうと、納得のいく損害賠償金を受け取れないだけではなく、訴訟費用も被害者側で負担することになってしまいます。

よって、裁判に発展したなら代理人として弁護士を立てることが望ましいと言えるのです。

自宅から相談可能!アトムの弁護士無料相談

アトム法律事務所では、電話・LINEによる弁護士への無料相談を実施しています。

ご自宅から弁護士に相談できるので、脊髄損傷によって外出が難しい被害者の方、介護でまとまった時間を作れないご家族の方も、気軽にご利用いただけます。

交通事故の無料法律相談
相談料 0
毎日50件以上のお問合せ!
交通事故の無料法律相談
¥0 毎日
50件以上の
お問合せ

無料相談では、後遺障害認定の対策や損害賠償金の算定、弁護士費用を踏まえた弁護士の必要性の検討などが可能です。現在の状況や不安に思っていることなども、気軽にお伝えください。無料相談のみのご利用、セカンドオピニオンとしてのご利用でも大丈夫です。

また、ご依頼される場合は、以下のいずれかの方法によって弁護士費用を軽減できます。

  • 弁護士費用特約が利用できる場合
    ご加入の保険から、弁護士費用が一定金額までまかなわれます。
  • 弁護士費用特約が利用できない場合
    初期費用である着手金が基本的に無料となります。
    すぐに大きなお金を用意できなくても安心してご依頼いただけます。

相談予約は24時間365日受け付けていますので、まずは気兼ねなくお問い合わせください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

突然生じる事故や事件に、
地元の弁護士が即座に対応することで
ご相談者と社会に安心と希望を提供したい。