素因減額とは?減額される割合や拒否する方法を解説【判例つき】

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素因減額とは?

素因減額(そいんげんがく)とは、被害者が事故前から有している「身体的素因」や「心因的要因」が損害の発生・拡大に寄与した場合に、賠償額が減額されてしまう制度です(民法722条2項類推適用)。

示談交渉では、保険会社から素因減額を主張されるケースがあります。

しかし、素因減額は判断が難しく、主張の内容が妥当かどうか、被害者自身では判断しにくいのが実情です。

この記事では、素因減額の仕組みや計算、素因減額の主張に反論する方法などを解説します。

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目次

交通事故における素因減額とは?

素因減額とは、被害者側が事故前から持っていた「素因」が、損害の発生・拡大に寄与している場合に、影響した割合分だけ損害賠償金を減額することを指します(民法722条2項類推適用)。

素因には、身体的素因と心因的要因の2種類があります。

素因減額

それぞれについて、詳しく見てみましょう。

身体的素因による素因減額│ヘルニアなど

「疾患」による素因減額

身体的素因による素因減額とは、事故に加え、被害者がもともと抱えていた「疾患」も損害発生に影響している場合に、その影響を考慮して賠償額を減額されてしまうものです。

ここでいう「疾患」とはいわゆる持病や既往症のことです。

交通事故の場合、具体的には、次のようなものが考えられます。

素因減額される「疾患」の例

  • 頚椎症(骨棘形成、椎間孔狭小化、椎間板膨隆、椎間板ヘルニアなど)
  • 脊柱管狭窄症
  • 後縦靱帯骨化症
  • 別の事故での後遺障害

たとえば、被害者がもともと抱えていた腰痛の疾患と、事故による衝撃があいまって、症状が悪化したとします。

この場合、その損害のすべてを加害者だけに負担させるのは公平ではありません。

そこで、被害者の疾患の内容や程度などを踏まえて、賠償額が減額されることがあります。これを「素因減額」といいます。

「加齢」による変性で素因減額になる?

加齢による変性がある場合でも、年齢相応の健康状態であれば、法的には「身体的特徴」にとどまるため、原則として素因減額されません。

年を取れば誰にでも見られる経年性の変化だからです。

しかし、加齢による変性が、通常の範囲を著しく超える場合には「疾患」として評価され、素因減額の対象となる可能性はあります。

「首が長い」「肥満」などは素因減額になる?

「首が長い」「肥満傾向にある」「長身」といった身体的特徴は、通常の個人差の範囲内であれば、基本的に素因減額の対象にはなりません。

人の体格や体質は、すべて均一同質なものとはいえないからです。

もっとも、極端な肥満など、平均的な身体的特徴から著しくかけ離れており、日常生活でも慎重な行動が求められる場合には、例外的に素因減額が考慮される可能性はあります。

【判例紹介】身体的素因による素因減額の基準

身体的素因による素因減額について、判例では、以下のような判断基準が示されています。

被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である。

最一小判平4年6月25日

事故前に罹患した一酸化炭素中毒を理由に、賠償額が50%減額された事例

最一小判平4・6・25(昭和63年(オ)第1094号)

タクシー運転手が首都高速道路で追突され、頭部打撲傷を負った事案。被害者は事故の約1か月前に一酸化炭素中毒に罹患しており、事故後は精神症状が継続し、約3年後に死亡した。


裁判所の判断

「一酸化炭素中毒の態様、程度その他の諸般の事情をしんしゃくし、損害の五〇パーセントを減額するのが相当である」

最一小判平4・6・25(昭和63年(オ)第1094号)
  • 事故後の精神症状は、事故前の一酸化炭素中毒による症状と共通していた。
  • CT画像の脳室萎縮は、事故の頭部外傷のみでは説明困難なもの。
  • 事故による頭部外傷と一酸化炭素中毒が併存競合して症状が悪化したとして、民法722条2項(過失相殺)を類推適用し、50%の素因減額を認めた。
素因減額

損害額の50%減額

心因的要因による素因減額

「心因反応」「神経症」による素因減額

損害が、事故によって通常生じる程度・範囲を超えており、かつ、損害の拡大に被害者の「心因的要因」が影響している場合には、賠償額が減額されることがあります。

心因的要因は、「広義の心因反応を起こす神経症一般のほか、賠償神経症や症状の訴えに誇張があるような被害者帰責と評価できる場合を含む」ものです。

具体例としては、以下のようなケースがあげられます。

素因減額が認められる心因的要因の例

  • 被害者の性格
    人一倍痛みに敏感であるがために、治療期間が長くなった
  • 回復への自発的意欲の欠如
    被害者の治療に対する意欲が低いために治療に時間がかかった
  • 賠償神経症
    より多くの賠償金を得たい気持ちから、実際よりも症状を重く感じてしまう
  • 精神疾患の持病や既往症
    うつ病、PTSD

たとえば、被害者が人一倍痛みに敏感で、一般的な人ならケガは完治したと判断するところ、自覚症状を訴え続けて治療期間が長期化したとしましょう。

この場合、長引いた分の治療費や慰謝料まで加害者側が負担するのは公平とは言えないので、心因的要因による素因減額が認められる可能性があります。

原因となった事故が軽微なもので、患者が訴える症状(痛みやしびれなど)に見合う検査結果などを伴わず、一般的な加療相当期間を超えて加療を必要とした場合などに、心因的要因による素因減額が認められます。

「性格」による素因減額はある?

被害者の性格が、通常想定される個性の範囲内にとどまる場合には、原則として、素因減額の対象にはなりません。

人によって、痛みの感じ方や不安の強さに個人差があるのは当然だからです。

もっとも、通常想定される範囲を著しく超える性格傾向や精神的要因があり、それが損害の拡大に強く影響している場合には、例外的に素因減額が考慮される可能性はあります。

「事故によるPTSD」は素因減額される?

事故が被害者の心身に強い衝撃を与え、PTSDを発症しても不自然でないような場合があります。
このようなケースでは、被害者に、事故以前に精神障害の発現がなく、事故以外に強い心理的ストレス要因も存在しない限り、素因減額は否定されやすいです。

素因減額は、当事者間の公平を保つ制度です。心因的要因による素因減額を適用したことで、かえって不公平が生じるような場合には、素因減額されません。

【判例紹介】心因的要因による素因減額の基準

心因的要因による素因減額の基準について、判例では、以下のように示されています。

身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、裁判所は、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その事情を斟酌することができる。

最判昭和63年4月21日(民集42巻4号243頁)

軽微な追突と心因的素因による損害減額の判例

最判昭63・4・21(昭和59年(オ)第33号)

軽微な追突事故(車体損傷はほぼ目視不能)に遭った被害者が、事故から2日後に病院を受診。外傷性頭頸部症候群(むちうち)と診断され、その後約10年間にわたり入退院を繰り返した事案。被害者には神経症的傾向が認められ、心因的要因を理由とする素因減額の可否が争点となった。


裁判所の判断

「適切さを欠く治療を継続させた結果、症状の悪化とその固定化を招いた」

最判昭63・4・21(昭和59年(オ)第33号)
  • 頸部軟部組織の損傷は一般的に1〜3か月で通常の生活に戻ることができる
  • 症状の長期化・固定化の原因として、①被害者の性格、②初診医の「安静加療約50日」という常識外れの診断への過剰反応、③事故前の損害賠償請求の経験、④加害者の態度への不満、⑤回復への自発的意欲の欠如等が重なったと認定。
  • 素因減額は6割。事故後3年間に発生した損害のうち、4割の賠償にとどまった。
素因減額

事故後3年間に生じた損害額について60%減額

素因減額による賠償金の減額はいくら?

素因減額で減額される賠償金の計算方法

素因減額が適用された場合、適用後の賠償金は「損害額×(100%-素因の影響度)」で計算されるのが基本です。

たとえば、損害賠償金が100万円と認定された事故で、そのうち被害者のヘルニアの既往症が20%影響していると考えられる場合、損害賠償金は100万円✕(100%-20%)=80万円となります。

何%影響しているか、という割合については共通の基準がなく、個々の事案によって個別に決定されます。

素因減額と過失相殺がある場合の計算方法

素因減額と過失相殺の両方の問題がある場合は、先に素因減額が適用され、素因減額後の金額に対して過失相殺が適用されます。

損害額が500万円、素因減額30%、過失割合10%の場合を想定した計算例は、次のとおりです。

  1. 損害額について、素因減額が適用される
    500万円✕(100%-30%)=350万円
  2. 素因減額された損害額350万円に対して、過失相殺が適用される。
    350万円✕(100%-10%)=315万円

なお、素因減額がなされなかったとしたら、被害者は500万円✕(100%-10%)=450万円を受け取れていたはずです。

素因減額がなされるかどうかは、最終的な示談金の額に大きく影響してきます。

加害者側が素因減額を主張してくるケース

交通事故の加害者側が素因減額を主張してくるケースとしては、以下の4パターンが考えられます。

  • 事故様態に対して被害が大きい
  • ケガに対して治療期間が長い
  • 既往症が診断書に書かれている
  • 被害者が高齢者である

以下では、それぞれについて解説します。

(1)事故様態に対して被害が大きい

事故態様に対して被害が大きい場合、加害者側が素因減額を主張してくる可能性が高くなります。

交通事故の規模や事故車両の損壊状態などと照らし合わせたときに、被害者のケガが重すぎる、治療期間が長すぎると判断されるからです。

  • ごく軽微な事故なのにこんなに重い腰痛が発生したのは、もともと一定の腰痛があったからでは
  • 車の損傷が軽く全治1週間程度で済みそうな事故なのに3ヶ月も通院したのは、被害者が痛みに敏感すぎるからでは

(2)ケガに対して治療期間が長い

ケガに対して治療期間が長い場合も、加害者側が素因減額を主張してくる可能性が高くなります。

ケガの内容から通常考えられる治療期間を大きく超えて通院が続いていると、「事故以外の要因も症状の長期化に影響しているのではないか」と考えられるからです。

  • 軽い打撲なのに3ヶ月も通院したのは、被害者が症状に敏感すぎたからでは
  • 当初は全治3ヶ月と見られていたのに半年間の通院になったのは、被害者がきちんと通院や服薬などをせず治りが遅くなったからでは

なお、交通事故でよくある打撲・むちうち・骨折は、それぞれ打撲で1ヶ月、むちうちで3ヶ月、骨折で6ヶ月が治療期間の目安と言われています。

例えば骨折でも部位や骨折の種類によって治療期間が変わるように、一概に「〇ヶ月の治療期間が妥当」とは言えません。

しかし、とくにむちうちは治療期間が3ヶ月経つと、加害者側から「もう治る頃では?」と思われる傾向にあるでしょう。

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(3)既往症が診断書に書かれている

既往症が診断書等に記載されている場合も、加害者側から素因減額を主張されやすくなります。

交通事故で受診すると、病院は診断書や診療報酬明細書などを作成します。受診時の問診で既往症について医師に伝えると、「腰痛の既往あり」「過去に同部位の通院歴あり」などと記載されるのが通常です。

交通事故の賠償実務では、こうした診断書や診療報酬明細書をもとに治療費等の支払いが行われるため、相手方保険会社もその内容を確認することになります。

特に、交通事故による受傷部位と同じ部位に既往症がある場合には、「事故前から症状が存在していたのではないか」「既往症が症状の悪化や長期化に影響しているのではないか」として、素因減額を主張されやすいでしょう。

もっとも、診断書に既往症を書かないよう患者や弁護士が依頼しても、医師にその記載を控えてもらうことは基本的にできません。

(4)被害者が高齢者である

被害者が高齢である場合も、事故相手が素因減額を主張しやすいと言えます。

高齢の場合、腰痛などの症状が元からあることが多いからです。

しかし、老化による通常の範囲の症状は素因減額の対象にはならないので、加害者側の主張を鵜呑みにしないようにしましょう。

たとえば、骨密度は加齢により減少していくことが通常であるため、骨粗鬆症を理由とする素因減額は高齢者ほど素因減額されにくい傾向にあります。

素因減額を立証するのは加害者!想定される立証内容は?

素因減額が適用されるかどうかは、基本的にはまず示談交渉で話し合われます。

この際、「事故の損害に影響する身体的・心因的素因はあった」と立証する責任は加害者側にあります。被害者側は、加害者の立証内容に反論していくことになります。

加害者側は、主に以下の点から素因減額を立証しようとしてくるでしょう。

【立証パターン(1)】

被害者が有していた疾患により、本来よりも事故により生じたケガが悪化した

加害者側の主張例

  • 数日で治りそうなねん挫の治療が長引いたのは、もともと該当箇所をよくねん挫していて癖になっていたからではないか?
  • 通常なら軽傷で済んだはずのむちうちが重傷化したのは、被害者がもともとヘルニアだったからだ。

【立証パターン(2)】

被害者の精神的特性により、ケガの完治まで通常よりも期間がかかった

加害者側の主張例

  • このケガで事故後3カ月たっても痛みを感じるとは考えにくい。それにもかかわらず痛みを訴え治療を続けたのは、被害者が痛みに敏感だっただけではないか?
  • 被害者の通院頻度が適切なら、もっと短い通院期間で済んだのではないか?

【立証パターン(3)】

疾患や精神的特性による影響を考慮すると、公平性の観点から損害賠償金を減額するべき

加害者側の主張例

  • 素因がなかったなら100万円で済んだ賠償金が、素因によって被害が拡大したことで150万円に膨らんだ。これをすべて加害者が負担するのは不公平だ。

加害者が素因減額を主張してきたら?立証を覆す方法

加害者が素因減額を主張してきた場合、被害者側としては以下の対応策が考えられます。

  • 疾患と事故の被害とは無関係だと主張する
  • 疾患は素因減額の対象になるものではないと主張する
  • 治療期間の正当性を主張する
  • 類似する判例を提示する

上記の対応によって、素因減額が適用されなくなったり、適用されたとしても減額幅が小さくなったりする可能性があるでしょう。

それぞれについて解説します。

疾患と事故の被害とは無関係だと主張する

加害者が素因減額を主張してきたら、まずは疾患と事故の被害とは無関係だと主張する方法が考えられます。

たとえ既往症があったとしても、事故の被害に影響していないのであれば素因減額は適用されません。

一見すると事故のケガと関連しているように見える既往症でも、厳密に見ると関係していない場合や、被害拡大にそれほど影響があるとは言えない場合もあります。

例えば以下のような場合は、事故の損害に影響するほどの疾患とは言えないと主張できる可能性があるでしょう。

  • 事故前のMRI画像からヘルニアがあったことは確認できるが、自覚症状や日常生活への影響はなかった
  • 事故前からデスクワークなどで軽い肩こりがあった

医師に相談のうえ、検査結果や意見書などを提示して、既往症と事故の損害とは関係ないことを主張しましょう。

疾患は素因減額の対象になるものではないと主張する

加害者が素因減額を主張してきたら、疾患は素因減額の対象になるものではないと主張することも考えられます。

事故の損害に影響する素因があっても、それが単なる身体的特徴や老化に由来するものであれば、素因減額の対象とはなりません。

単なる身体的特徴とは?

前述のとおり、素因減額の対象にならない身体的特徴としては、肥満体形や首が長く頚椎が人より不安定などがあります。

その特徴があるがゆえに、普段から慎重な生活が求められるような極端な身体的特徴でない限り、素因減額の疾患にはあたりません。

そのため、「その身体的特徴が日常生活に支障を及ぼさないものである」ことを主張しましょう。

なお、単なる身体的特徴では素因減額は認められないということは、以下の判例でも言及されています。

被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。

最判平成8年10月29日

老化に由来する身体的素因とは

老化に由来する身体的素因としては、ヘルニアや脊柱管狭窄症、骨粗しょう症などが挙げられます。

たとえば、実際にヘルニアや脊柱管狭窄がケガの悪化に影響していたとしても、老化による現象と認められれば身体的素因減額の対象にはならない可能性があります。

こうした疾患が老化によるものと認められるかどうかは、被害者の年齢や通院歴などから判断されます。

示談交渉の際には、医師による意見書、通院歴に関する資料、CTやMRIの画像所見、過去の判例などを提示しましょう。

治療期間や通院頻度の正当性を主張する

加害者が素因減額を主張してきたら、治療期間や通院頻度の正当性を主張することも大切です。

「被害者自身の問題で通院頻度が低くなり、治療期間が延びた」「被害者が症状に敏感なせいで治療期間が長くなった」などとして素因減額を主張された場合は、通院期間の正当性を主張しましょう。

交通事故によるケガの治療では、医師の指示によって通院期間が長くなったり、通院頻度が低くなったりすることもあります。

実際に治療に対して消極的な気持ちがあったか否かにかかわらず、治療期間・通院頻度に医学的根拠があるなら、素因減額の対象にはなりません。

以下の点を主張し、通院期間や通院頻度の正当性を証明しましょう。

  • 医師の指示通りに通院していたことを示す、医師の意見書を用意する
  • 症状が日常生活や仕事に及ぼしていた影響や各種検査結果などを提示し、被害者の感じ方の問題ではなく、実際に症状が治療後期まで続いていたことを主張する

類似する判例を提示する

加害者が素因減額を主張してきたら、類似する判例を提示するという方法もあります。

過去の類似する判例を示し、「この疾患では素因減額されない」「この程度の疾患でこれだけ大きな減額は不当だ」などと主張するのも1つの手です。

素因減額によってどれくらいの金額が減額されるのか、明確な決まりはありません。このことを利用して、加害者側は必要以上に大幅な減額を主張してくる可能性があります。

医師による意見書、CTやMRIの画像所見、被害者の陳述書なども合わせて提示するとよいでしょう。

ただし、判例については加害者側の保険会社のほうが知識が豊富であり、「今回の事案とは違う」「判例の解釈が間違っている」などと反論される可能性があります。

事前に弁護士にも相談しておくことがおすすめです。

素因減額が認められた裁判例(20%~80%減額)

続いて、実際に身体的素因減額が適用された裁判例を、減額の割合別に紹介します。

糖尿病による素因減額80%

Aが重篤な糖尿病に罹患しており、視神経内血管に糖尿病による障害が存在していたために、最終的に左眼失明にまで至ったものであり、既往症が左眼失明に寄与した割合は5割とするのが相当である。(略)右足膝下切断は、糖尿病の合併症である閉塞性動脈硬化症の増悪を原因とする上、本件事故によって(略)糖尿病が増悪し、右足の人差し指に壊疽を発症したものであり、既往症が右足膝下切断に寄与した割合は8割とするのが相当である。

東京高裁 平成30年(ネ)第1374号/平成30年(ネ)第1527号 平成30年7月17日判決

この判決は、交通事故によって高齢の被害者が左眼失明および右足の膝下切断に至った事案です。

裁判所は両後遺障害について事故との因果関係を認めつつも、被害者に重度の糖尿病という既往症があったことから、損害の一部に素因減額(左眼失明に50%、右足膝下切断に80%)を適用しました。

脊柱管狭窄症による素因減額40%

原告B1に脊髄の圧迫による神経症状が発生したこと(略)重篤なものとなったことについては、原告B1に本件事故前から広範囲にわたる脊柱管狭窄(略)等の既往があったことが大きく影響しているものと認められるから(略)40%の素因減額をするのが相当である。

東京地方裁判所 平成26年(ワ)第30124号

この判決では、脊柱管狭窄の既往症があったことから、40%の素因減額がされました。

動揺性肩関節による素因減額20%

原告が動揺性肩関節であったことが後遺障害の発生等の損害拡大に寄与していることは明らかである(略)本件事故に巻き込まれたために、現在の原告の後遺障害が発生するに至ったものであること、前記認定の事故態様からすれば事故自体が原告の左肩関節に与えた衝撃も相当強度のものであること、(略)によれば、(略)事故によって原告に生じた損害の八割を被告に負担させるのが公平というべきである。

大阪地裁 平成12年(ワ)第1287号 平成14年2月22日

この判決では、もともと被害者が動揺性肩関節という脱臼しやすい体質だったことについて、20%の素因減額がされました。

素因減額が認められなかった裁判例(素因減額なし)

さらに、素因減額が適用されなかった裁判例を紹介します。

椎間孔狭窄症・骨棘について素因減額されなかった例

原告のC四/五椎間板が狭小化していたことや、C四/五、五/六に骨棘が形成されていた(略)。しかしながら、原告に、本件事故前にこれらに起因する神経症状が出ていたと窺われる事情はなく、原告の年齢を考慮すると加齢性の変性としてこれらの所見は往々にして見られることであり、原告の上記所見が原告の年齢相応の通常人の程度を大きく逸脱すると認めるべき事情はなく、素因減額は相当でない。

京都地裁 平成24年(ワ)第1059号 平成24年11月28日判決

この判決では、事故前から被害者の頸椎・腰椎に異常が生じていたものの、年齢上通常ありうる範囲だとして素因減額は相当でないと判示しました。

精神科の通院歴が素因減額されなかった例

原告の精神症状は本件事故前には相当程度改善していたといえることや(略)本件事故によって非器質性精神障害並びに頸部痛及び腰部痛を負い(略)後遺障害が残存したとしても、これによる原告の損害が本件事故によって通常発生する程度ないし範囲を超えているとはいえない(略)原告に素因減額されるべきほどの心因的要因があることを認めるに足りる証拠もない。

東京地裁 平成27年(ワ)第20215号 平成29年7月18日判決

この判決では、事故被害者は精神科への通院歴があったものの事故当時には安定していたと判断し、事故をきっかけに非器質性精神障害を新たに発症したと認定し、素因減額を認めませんでした。

素因減額をせずとも不公平ではないとされた例

(略)原告の性格・器質などがうつ病の発症及び増悪に影響したことは否定できない。しかし,(略)本件事故との相当因果関係を認めた損害額について,原告の性格・器質等の寄与を理由に減額をせず,被告に損害額全部を賠償させるのが公平を失するということはできない。

東京地方裁判所 平成23年(ワ)第37519号 損害賠償請求事件 平成27年2月26日

この判決では、ケガの程度は軽微だったものの、抗不安薬の処方を継続的に受けていたという被害者の心因的素因により損害が拡大したことを否定していません。

しかし被害者が脳神経外科医で、事故のケガが職業生活を左右しかねないものだったことなどを考慮し、心因的素因減額を適用しなかったからといって、不公平が生じるとは言えないとして、心因的素因減額の適用が否定されました。

素因減額と過失相殺・損益相殺の違い

交通事故で、被害者の損害賠償金が減額されてしまう制度には、素因減額のほかにも「過失相殺」や「損益相殺」などがあります。

素因減額・過失相殺・損益相殺の違い

ここでは、それぞれの制度の概要、素因減額との違いを解説します。

素因減額と過失相殺の違い

過失相殺(かしつそうさい)とは、自身についた過失割合分、受け取れる損害賠償金が減額される制度のことをいいます。

「加害者が損害を全額負担するのは不公平だから、減額する」という点は同じですが、何を理由に不公平が生じるかが違います。

  • 素因減額
    被害者側にも事故の被害拡大に影響する身体的・心因的要因があるのに、加害者が損害を全額負担するのは不公平。だから減額する。
  • 過失相殺
    被害者側にも事故が起きた責任・原因があるのに、加害者が損害を全額負担するのは不公平。だから減額する。

過失相殺の詳しい内容については『過失相殺とは?計算方法や交通事故の判例でわかりやすく解説』の記事で知ることができます。

素因減額と損益相殺の違い

損益相殺(そんえきそうさい)とは、交通事故が原因で被害者が何らかの利益を得た場合に、その利益を賠償額から控除する制度のことをいいます。

損益相殺における減額の目的は、損害賠償金の二重取りの防止です。

例えば、労災保険から受け取れる療養補償給付は、治療費の補償として受け取れます。(事故が労災事故と認定された場合)

それにもかかわらず、加害者からも損害賠償金として治療費を受け取ると二重取りになるため、損益相殺が適用されます。

  • 素因減額
    被害者側にも事故の被害拡大に影響する身体的・心因的要因があるのに、加害者が損害を全額負担するのは不公平。だから減額する。
  • 損益相殺
    すでに受け取った金銭と、目的を同じくする金銭を受け取るのは過剰。だから減額(相殺)する。

なお、交通事故が原因で得られた利益であっても、その利益が損害の補填を目的としたものでない(例:死亡事故の生命保険金)場合には、損益相殺の対象にはなりません。

アトムの解決事例(素因減額の引き下げに成功した事例)

ここでは、過去にアトム法律事務所の弁護士が解決した交通事故のうち、素因減額が争点になったものをご紹介します。

素因減額50%の主張を30%まで引き下げに成功│約1800万円回収

バイク死亡事故の賠償と素因減額

バイク運転中の被害者が、追越し車にひかれて植物状態となり、約2か月後に死亡した事故。アトムへのご相談時点で、保険会社から過失割合(被害者20%)と素因減額(肺疾患・50%)を主張され、約1166万円を事前提示されていた。


弁護活動の成果

弁護士が医療照会や刑事記録の精査を行い、保険会社に反論した結果、過失割合は10%まで、素因減額は30%まで引き下げに成功。

最終的な受取金額は、約1800万円まで増額した。

傷病名

死亡(既往症:肺疾患)

素因減額30%の主張を15%まで引き下げに成功│12級認定

信号待ち中の追突事故で504万円回収した事例

追突事故でむちうちを負ったケース。ヘルニアの既往症があったため、後遺障害認定や示談交渉にご不安があり、ご相談いただいた。


弁護活動の成果

医療照会を実施し、後遺障害申請を行った結果、後遺障害12級13号を獲得。

保険会社が主張する素因減額30%に対しても、粘り強い交渉を行った結果、最終的に15%まで引き下げることに成功し、504万円での解決となった。

傷病名

頸椎捻挫(既往症:頸椎ヘルニア)

後遺障害等級

12級13号

20年以上前の既往症による素因減額の主張を排斥│ほぼ満額回収した事例

むちうちの増額事例

被害者は、渋滞している高速道路を低速度で自動車で走行していたところ、加害者のバイクに追突され、むちうちを負った。加害者側が20年以上も前の腰椎圧迫骨折を理由に、素因減額30%を主張をしてきたケース。


弁護活動の成果

交渉での解決が見込めず、紛セ(ADR)での解決を目指した。

弁護士の反論により、加害者側は素因減額の主張を取り下げ、最終的に100万円での解決となった(相手方の初回提示は12万円)。

傷病名

頸椎捻挫、腰椎捻挫、背部挫傷

素因減額でお困りなら弁護士にご相談・依頼を

素因減額についてお困りなら、一度弁護士までご相談や依頼をおすすめします。

素因減額は示談交渉でもめやすいポイントである一方、過去の判例や専門知識に基づいて判断しなければならない難しい項目です。

加害者側の任意保険会社は被害者の知識不足を利用し、本来なら素因減額に当たらない要素について素因減額を主張してきたり、不当に大幅な減額を主張してきたりする可能性があります。

被害者は示談交渉経験や知識量の差から不利だと言わざるを得ないので、早めに弁護士に相談・依頼することが重要です。

また、素因減額以外に関する主張についても、弁護士であれば適切な主張をし、受け取れる損害賠償金を増額することが可能でしょう。

アトム法律事務所では、電話・LINEにて無料相談を実施しています。

無料相談予約の受付は24時間対応となっているので、いつでもお気軽にご連絡ください。

弁護士費用特約が使えるケースでは、自己負担なく弁護士に依頼できることがほとんどです。

弁護士費用特約の詳しい内容については『交通事故の弁護士特約とは?使い方・使ってみた感想やデメリットはあるかを解説』の記事で知ることができます。

また、弁護士に相談するメリットは様々あります。詳しくは『交通事故を弁護士に依頼するメリット9選|弁護士基準で慰謝料増額?』をご覧ください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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