交通事故で車椅子生活…慰謝料相場は?車椅子費用の請求の注意点も解説
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交通事故被害者の方の中には、神経系統に障害を負ってしまったり、下半身の骨折後の予後が悪く歩行障害が残ってしまったりして、車椅子生活を余儀なくされる方もいます。
車椅子生活になると、将来的なものも含めさまざまな費用がかかり、日常生活や仕事にも支障が出たりするため、お金の問題で不安や心配が尽きないことかと思います。
この記事は、交通事故で車椅子生活になった場合の後遺障害等級や慰謝料相場をはじめ、請求できる賠償金について解説します。
また、交通事故が原因で車椅子が必要になった場合でも、その購入費用については加害者側と揉めることがあります。揉めやすいケースと実際の判例も紹介するので、ぜひお役立てください。
目次
交通事故で車椅子生活になる可能性のあるケガとは?
交通事故で車いす生活になる原因としては、以下のようなものがあります。
- 脳の損傷による麻痺
脳挫傷やびまん性軸索損傷などが原因。頭部に強い衝撃が加わると、生じることがある。 - 脊髄損傷
脊椎(背骨)の骨折により、脊椎の中を通る脊髄が損傷すると、生じることがある。 - 足の切断
粉砕骨折や解放骨折、周辺組織の壊死などがみられる場合に、切断することがある。 - 脚の変形・運動障害
骨折した骨がうまく癒合しなかった場合などに生じることがある。
上記のようなケガによって後遺症が残り、車椅子生活を送ることになった場合には、後遺障害認定を受けましょう。
後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた補償を受けられます。
車椅子生活になった場合の後遺障害等級と慰謝料
交通事故で後遺症が残った場合、後遺障害認定されれば、「後遺障害残存による精神的苦痛への補償」として、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料がいくらになるかは、認定される等級次第です。
車椅子生活を余儀なくされるような歩行障害が残った場合の後遺障害等級と慰謝料相場、認定を受ける方法について解説します。
後遺障害等級と慰謝料一覧
歩けなくなったことで認定される後遺障害等級は1級から14級までさまざまです。
ただし、生活において車椅子が必要になるほどの後遺障害は特に重いものが予想されます。
歩行障害の主な後遺障害等級と認定基準(弁護士基準)
等級 | 認定の基準 |
---|---|
1級5号 | 両下肢をひざ関節以上で失つたもの 慰謝料:2800万円 |
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの 慰謝料:2800万円 |
2級4号 | 両下肢を足関節以上で失つたもの 慰謝料:2370万円 |
4級5号 | 一下肢をひざ関節以上で失つたもの 慰謝料:1670万円 |
4級7号 | 両足をリスフラン関節以上で失つたもの 慰謝料:1670万円 |
5級5号 | 一下肢を足関節以上で失つたもの 慰謝料:1400万円 |
5級7号 | 一下肢の用を全廃したもの 慰謝料:1400万円 |
5級8号 | 両足の足指の全部を失つたもの 慰謝料:1400万円 |
6級7号 | 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 慰謝料:1180万円 |
7級8号 | 一足をリスフラン関節以上で失つたもの 慰謝料:1000万円 |
7級10号 | 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 慰謝料:1000万円 |
7級11号 | 両足の足指の全部の用を廃したもの 慰謝料:1000万円 |
8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 慰謝料:830万円 |
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 慰謝料:830万円 |
8級9号 | 一下肢に偽関節を残すもの 慰謝料:830万円 |
8級10号 | 一足の足指の全部を失つたもの 慰謝料:830万円 |
9級14号 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 慰謝料:690万円 |
9級15号 | 一足の足指の全部の用を廃したもの 慰謝料:690万円 |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 慰謝料:550万円 |
10級9号 | 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 慰謝料:550万円 |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 慰謝料:550万円 |
11級9号 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 慰謝料:420万円 |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 慰謝料:290万円 |
12級11号 | 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 慰謝料:290万円 |
12級12号 | 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 慰謝料:290万円 |
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 慰謝料:180万円 |
13級9号 | 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 慰謝料:180万円 |
13級10号 | 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの 慰謝料:180万円 |
14級8号 | 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 慰謝料:110万円 |
交通事故後に歩けなくなったり、車椅子が必要になったりした方は後遺障害等級認定を受けるべきと言えます。
ただし認定を受けられれば良いというわけではありません。後遺障害等級は損害賠償金額に直結するため、適切な等級認定を受けることが大切です。
以下の関連記事では、麻痺や脊髄損傷に関する後遺障害等級についてくわしく解説しています。
車椅子生活になり後遺障害認定を受ける方法
後遺障害等級認定の流れは、一般的に次の通りです。
症状固定のタイミングで医師に後遺障害診断書の作成を依頼
後遺障害等級認定の準備を開始します。
必要書類を相手の保険会社に提出
相手の自賠責保険へ直接提出するか、相手の任意保険会社に任せるかで提出先が違います。
損害保険料率算出機構が審査
原則書面審査がおこなわれます。服を着ていても分かるところに傷があれば面談が設けられることがあります。
遺障害等級認定の通知がなされる
後遺障害等級認定の審査結果が通知されます。
被害者請求であれば保険金を受け取る
後遺障害等級認定の結果に納得がいく場合には、任意保険会社との示談を始めます。
後遺障害認定の申請手続きには、相手の任意保険会社に手続きのほとんどを任せる「事前認定」という方法と、被害者自らが主体的に手続きを進める「被害者請求」の2つの方法があります。
歩けなくなるほどの重大な後遺障害については適切な等級認定を受けることが大切ですが、少しでも適切な等級認定を受けるためには、基本的には被害者請求が適しています。
事前認定と被害者請求の両者の違いを表にまとめると以下の通りです。
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
主な申請準備者 | 相手の任意保険 | 被害者自身 |
申請書の提出先 | 相手の任意保険 | 相手の自賠責保険 |
保険金受取の時期 | 示談成立後 | 等級認定しだい |
申請書類の工夫 | ほぼできない | できる |
もっとも、足を切断してしまったというケースのように目に見える症状であるときには、事前認定でも十分な場合もあります。
ただし、どちらの後遺障害認定申請方法であっても、最終的には相手方の任意保険会社と交渉して金額を確定させることは同じです。
そのため、いずれくる相手保険との示談交渉に向けて早めに弁護士に相談しておくことは非常に重要といえます。
交通事故で車椅子生活になった時に請求できる賠償金
交通事故被害者が加害者側に請求できる損害賠償金の内容は、以下のようになっています。
- 車椅子に関連する損害
- 車椅子購入費用
- 車椅子買替費用
- 自宅改造費用(住宅リフォーム費用)
- 車両購入費用(改造費用)
- 介護費用
- 通常の交通事故で発生する損害
- 治療関係費・通院交通費など
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害が残った場合に発生する損害
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
車椅子生活を余儀なくされた場合、車椅子の購入費用や買替費用、自宅改造費用などさまざまな損害を請求していく必要があります。
車椅子に関連する費用を中心に、それぞれどのような損害なのか一つずつ見ていきましょう。
車椅子購入費用
交通事故における積極損害は支払ったお金を全額請求できるとは限らず、必要性と相当性が認められる範囲でしか請求は認められません。
そのため、車椅子購入費用の実費相当額の請求が認められるかは、以下の点がポイントとなります。
車椅子購入費用請求のポイント
- 受傷の部位、程度、後遺障害の状態等を考慮して、車椅子が必要であること
- 購入する車椅子の品質や機能が必要かつ相当な範囲内であること
後遺障害の状態等から希望する車椅子等の品質や機能が必要とは認められず、価格が相当額を超えると判断される場合には、相当額を超える額については請求が認められません。
価格の相当性は、後遺障害の状態との関係で、どのような品質や機能が必要なのかで判断されるため、一概には言えません。ただ、これまでの判例では、車椅子購入費用として1台約50万円程度までの範囲で請求が認められている傾向にあります。
なお、必要性と相当性が認められれば、屋外用と室内用など複数の車椅子購入費用の請求が認められます。
【コラム】義足購入費用について
交通事故で下肢を切断することになっても、切断位置によっては、義足を用いることにより独歩が可能となる場合があります。
その場合は、車椅子購入費用ではなく義足購入費用を装具購入費として請求することができます。
ただし、車椅子購入費用と同様、必要性・相当性が認められる範囲でしか請求は認められないのが注意点となります。
車椅子買替費用
事故の怪我により、生涯にわたり車椅子が必要だと認められた場合、車椅子には耐用年数があるため、将来の車椅子買替費用についても、必要性・相当性が認められる範囲で請求が可能です。
車椅子買替費用の計算方法
具体的に請求できる車椅子買替費用の金額は以下の計算方法で算出します。
計算方法
- 症状固定時の年齢から平均余命までの期間を算出
- 車椅子の耐用年数から1の期間内での車椅子の買い替え回数を計算
- 将来の買替時期(車椅子の耐用年数経過)別に発生する利息を差し引く(中間利息控除)
1の平均余命は厚生労働省がまとめる簡易生命表にて確認可能です。参考に、令和5年の平均余命を例示します。
平均余命(令和5年)
年齢 | 男 | 女 |
---|---|---|
0歳 | 81.09 | 87.14 |
10歳 | 71.33 | 77.37 |
20歳 | 61.45 | 67.48 |
30歳 | 51.72 | 57.65 |
40歳 | 42.06 | 47.85 |
50歳 | 32.60 | 38.23 |
60歳 | 23.68 | 28.91 |
※厚生労働省「簡易生命表」より抜粋して作成
2の車椅子の耐用年数はメーカーごとにさまざまですが、裁判例では耐用年数を5年~7年程度と判断する傾向にあります。
3の中間利息控除にはライプニッツ係数という数値が用いられます。
計算例
たとえば、60歳男性の交通事故被害者が、5年ごとに買替が必要な50万円の車椅子が必要と判断された場合、平均余命は23.68年なので、23.68÷5=4.736となるため、4回分の買替費用が請求できます。
そして、各購入時期ごとの中間利息を控除して、140万2350円を車椅子買替費用として請求できます。(計算式:50万円×(0.8626(5年目)+0.744(10年目)+0.6418(15年目)+0.5536(20年目))
車椅子で公的補助を受けたら損害賠償金から損益相殺する?
車椅子を購入したり買い替えたりする場合、障害者総合支援法にもとづき補助金が出る場合があります。
そのような場合でも、将来買い替えにより購入する際に発生する補助金については損害賠償額から差し引かないでもよいという判例があります(福岡地裁平成25年7月4日判決など)。
なぜなら、補助金はあくまで社会保障の一環で損害の填補を目的とするものではなく、また将来も同じような公的サービスを受けられる保証はないためです。
自宅改造費用(住宅リフォーム費用)
住宅内を車椅子通行できるようバリアフリーに改装したり、車椅子を2階に運ぶためエレベーターを設置したりなど、車椅子生活を余儀なくされたことによる自宅改造費用も必要性・相当性が認められる範囲で加害者側に請求可能です。
改造設置した器具や設備のうち耐用年数が明らかなものは、車椅子同様、将来の買替費用も併せて請求することも検討するのが良いでしょう。
注意点として、加害者に交通事故の損害賠償として請求できるのは、あくまで被害者の不便を解消し、生活を補助するという目的の範囲内の改造費用に限られることが挙げられます。
そのため、設置したエレベーターを家族や同居人も使用するような場合、家族や同居人の利益にもなる部分は損害として認められない可能性があります。
なお、自宅の改造ではなく、転居を余儀なくされた場合にも、転居に必要となった費用を請求することができます。
車椅子のためのバリアフリー化費用は認められる?
自宅のバリアフリー化にかかった費用について、被害者の後遺障害の重さや改装内容によっては、相手方との間で争いになることがあります。
以下の事例は、改装が必要・不可欠な範囲内だったとして、費用全額を認めた事例です。
自宅のバリアフリー化費用は損益相殺されるか
…浴室、洗面所、便所及び勝手口を車椅子のまま移動することができるような改装工事の施工並びに段差昇降リフト及び浴室リフトの設置…上記改装工事等は、いずれも原告の自宅における療養生活のために必要・不可欠な範囲に止まっているということができるから、被告らの上記主張は採用できない。(大阪地判平19.12.10)。
車両購入費用(改造費用)
車椅子生活を余儀なくされたことにより、介護用自動車を購入したり、車椅子を車両に搬入できるようリフトを設置する改造をしたりしたことによる費用も必要性・相当性が認められる範囲で加害者に請求することができます。
自宅改造費用と同様、請求できるのは、あくまで被害者の不便を解消し、生活を補助するという目的の範囲内に限られるため、改造費用にカーナビやドライブレコーダーなどの設置費用が含まれている場合には、その部分は認められない(減額される)可能性が高いです。
介護費用
車椅子生活では、多くの場合、将来にわたって介護が必要となります。医師の指示や症状の程度によって、必要があると判断されたときには介護費用の請求が可能です。
介護費用の目安は以下の通りです。
介護費用の目安
- 職業付添人:全額
- 近親者介護:1人8,000円
被害者が必要な介護のレベルだけでなく、職業付添人の人数、職業付添人と近親者介護の併用など家庭の事情に合わせた請求が認められます。
関連記事『交通事故で介護費用が請求できる2ケース|計算方法と裁判例から金額もわかる』では裁判例を交えて認められうる介護費用の詳細を解説しています。
弁護士に交渉を任せることもおすすめ
車椅子関連の費用請求に関する相手の任意保険会社との示談交渉は、損害賠償額が高額であるほどシビアになってきます。
これまで認められた判例を参考にしながら慎重に交渉を進めていくためには、交通事故の損害賠償にくわしい弁護士のノウハウが欠かせません。
アトム法律事務所では年中無休で相談予約を受け付けています。
車椅子が必要になった方が外出されるのは大変な困難でしょう。無料相談は電話・LINEでおこなっておりますので、ご自宅からでもご利用いただけます。
そのほかに損害賠償請求可能な賠償金
交通事故で車椅子生活になった場合に請求できる賠償金はほかにもあるので、紹介します。
なお、後遺障害慰謝料についてはすでに解説済みなので、割愛します。
治療関係費・通院交通費など
交通事故では、怪我の治療費について、治癒または症状固定までが賠償の対象として認められます。また、治療費の他にも、手術費や薬代、リハビリ代など治療関係費として請求が可能です。
さらに、通院に際して要した通院交通費に関しても請求できますので、漏れがないよう算定する必要があります。
休業損害
休業損害とは、交通事故の怪我の治療や療養のために仕事を休んだことで減ってしまった収入の補償のことをいいます。
休業損害の計算方法は、「1日当たりの基礎収入×休業日数」です。
休業損害は、会社員や自営業者のように現実の収入がない専業主婦(夫)なども請求可能です。
入通院慰謝料
交通事故の治療やリハビリ期間に負ったつらさや痛みなどの精神的苦痛に対しては、入通院慰謝料の請求が可能です。
入通院慰謝料は治療期間に応じて算定し、治療期間が長くなるほど入通院慰謝料の金額も原則高額になります。
具体的には、以下の入通院慰謝料算定表により、入院と通院月数の交わる部分を入通院慰謝料相場として計算していきます。(弁護士基準の場合)

たとえば、入院3ヶ月・通院5ヶ月となった場合には、入通院慰謝料として204万円が相場となります。
治療期間のなかには医師の指示を受けて自宅で患部を固定したり、歩けなくなってしまった状態を元に戻すためにリハビリに励んだりした期間も含むものとされています。
通院期間と入通院慰謝料からおおよその相場を割り出すことができますので、気になる方は関連記事をお読みください。
逸失利益
逸失利益とは、事故がなければ得られたはずの将来の収入を補償するものであり、後遺障害等級が認定された場合にのみ請求できる費目です。
逸失利益の計算方法は以下のとおりです。
逸失利益の計算方法
逸失利益=年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益の計算式に用いられる労働能力喪失率は、後遺障害等級によっておおよその目安があります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1 | 100% |
2 | 100% |
3 | 100% |
4 | 92% |
5 | 79% |
6 | 67% |
7 | 56% |
8 | 45% |
9 | 35% |
10 | 27% |
11 | 20% |
12 | 14% |
13 | 9% |
14 | 5% |
車椅子生活となってしまった場合には、重い後遺障害等級認定が予想され、数千万円規模の高額な後遺障害逸失利益が見込まれます。
事故で歩けなくなったり、車椅子が必要になったりすると、仕事への影響は非常に大きいものです。後遺障害等級認定を受け、逸失利益についてもしっかり請求していきましょう。
逸失利益の計算方法については、関連記事でくわしく解説しています。
【自動計算可能】慰謝料計算機で見通しを立てよう
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益は下記の慰謝料計算機を使うと自動で計算できます。
交通事故の過失割合を考慮しない目安額となりますが、簡単な情報入力のみで利用いただけますので、おおよその見通しを立てたい方におすすめの計算ツールです。
車椅子購入費の請求で揉めやすいケース|判例も紹介
車椅子に関する費用を加害者側に請求する際には、本当に車椅子が必要か、どの程度の機能を持った車椅子が必要なのかで争いになることがあります。
実際の裁判例を見て、車椅子を購入するかどうかの参考にしてください。
後遺障害等級が低い、後遺障害が軽い
車椅子の購入費は、必要性・相当性が認められる範囲でしか補償されません。そのため、後遺障害等級が低かったり、歩行障害はあるものの必ずしも車椅子を必要とするほどではないと判断されたりすると、車椅子関連費用の補償が認められないことがあります。
たとえば後遺障害14級程度ですと、車椅子の必要性までは認められないことが多いでしょう。
実際の判例を紹介します。
後遺障害等級14級で車椅子の必要性が認められなかった例
…車椅子購入費用、家屋・自動車改造費も請求するが、前記のとおり、本件事故により原告Aに残存する後遺障害は別表第二第14級に該当すると認められるにとどまるから、これらについては本件事故との間に相当因果関係があるとは認められない。…
東京地判平30.3.15
車椅子が必要不可欠なのに、後遺障害等級が低いために車椅子関連費用の補償が認められないという場合は、後遺障害等級の再審査を受けることも視野に対応を考える必要があります。
どのような対応をとるべきかについては、弁護士に相談してみることがおすすめです。
電動車椅子や高機能な車椅子を購入したい
電動車椅子や高機能な車椅子は費用が高くなるため、「本当そこまで高額な車椅子でないといけないのか」が問題になる可能性があります。
特に比較的後遺障害が軽い場合は、車椅子の必要性は認めても、電動車椅子まで必要だったかについて争われることがあるので注意が必要です。
実際の判例を紹介します。
後遺障害等級9級10号で電動車椅子の必要性が認められなかった例
…左下肢に神経症状が残存しそのために歩行が困難であることが認められるが、左下肢以外の症状は、自覚症状の存在自体は否定できないもののこれを裏付ける他覚的所見が明らかではない。…後遺障害の程度に照らすと、車いすの必要性は否定できないものの、電動である必要性はなお認めることができない。…
名古屋地判平14.1.25
後遺障害等級1級1号で電動式車椅子の必要性が認められた例
…原告P1は車椅子により自走できるとはいえ、自走式の車椅子のみでは勾配のある場所等を移動するには相当な困難を伴うと認められ、電動による自走アシスト機能があることにより活動範囲を広げることができると考えられ…、電動車椅子(アシスト型)が不必要である旨をいう被告の主張も採用できない。…
大阪地判令4.7.26
電動車椅子の購入費のうち、一部のみの補償が認められた例
…280万円で電動車椅子を購入したことが認められる。…原告らの購入した付属機器を含めた電動車椅子の価格は全体として高額すぎるというべきであり,その他,本件弁論に表れた一切の事情を考慮すれば,電動車椅子の購入費用のうち,本件事故と相当因果関係のある相当な損害は140万円と認められる。…
東京地判平22.2.12
高機能で高額な車椅子の補償については揉めやすいとはいえ、できるなら機能性が高く快適に使える車椅子を購入したいと思うのも自然なことです。
どこまでのラインであれば認められやすいのかなどについては、過去の判例も参考にして判断する必要があるので、弁護士に相談することをお勧めします。
事故で車椅子生活を余儀なくされた場合のよくある質問
Q1.相手の保険会社が提示してくれた金額は妥当?
相手方の任意保険会社が提示してくる金額は、多くのケースで不十分なものが多いです。なぜなら、慰謝料の算定に用いられる基準が3つあり、保険会社があつかう基準で算定しても低くなってしまうためです。

相手方の任意保険会社は自賠責基準(国が定める最低水準の補償額)や任意保険会社独自の基準で計算して、慰謝料を提示してきます。
しかし交通事故の損害賠償を裁判所であつかうときには、弁護士基準(裁判基準)での請求が認められており、保険会社のあつかう基準よりも2~3倍金額が高くなることも多いのです。
相手方の任意保険会社が提示してくる金額は、一見すると日常生活でなかなか目にしない高額に見えることもあるでしょう。
しかし、その金額をまず疑ってみて、交通事故の損害賠償にくわしい弁護士に算定しなおしてもらうことが大切です。
Q2.子供が車椅子で通学するために親が付き添ったことへの補償は?
子どもの年齢・怪我の程度や医師の判断により母親の付き添いが必要だと認められた場合には、母親の付き添い費用が認められます。
判例でも、退院後に車椅子で登校した61日間につき、母親の通学付き添い費日額1,000円、合計6万円を認めたものがあります(東京高判平26.12.24)。
Q3.治療中に車椅子生活が続いたことは慰謝料増額の理由になる?
治療中の車椅子生活は、被害者の精神的・肉体的苦痛を増大させる要因となるため、慰謝料増額の根拠になる場合があります。
ただし相手の任意保険会社が積極的に多くの慰謝料を提示してくれるとは限りません。
被害者が受けた精神的苦痛が車椅子によって増大させられたことを、具体的な事例とともに伝えて交渉していきましょう。
Q4.車椅子を買うのに補装具支給制度は使った方がいい?
車椅子を購入する際の支援制度は、利用しても利用しなくともどちらでも問題はありません。
裁判例としては、交通事故被害者が車椅子を購入する費用や性能などについて、市町村の定めた価格や限度には左右されないと述べているものがあります(神戸地判令和3年6月25日)。
交通事故後の車椅子生活や歩行障害が残った方は弁護士に相談
交通事故の損害賠償では、自分で示談交渉をすることもできますが、弁護士に示談交渉を任せることで賠償額が大きく変わります。同じ交通事故であっても、弁護士に交渉を任せること自体が増額のカギとなるのです。
また、金額面だけではなく、精神的な面でも弁護士という法律の専門家を味方にすることは大きな変化をもたらすでしょう。
弁護士に交渉を任せてしまえば、相手方の任意保険会社との面倒な交渉の電話に出る必要もなく、少しでも穏やかな日常を送ることができます。
弁護士費用特約も確認してください
交通事故の解決を弁護士に任せると、法律相談料、着手金、報酬金が発生します。弁護士に依頼するデメリットとして心配する方も多いです。
ただし、弁護士費用は、弁護士費用特約を利用することで最小限におさえることが可能です。交通事故の賠償額が大きい場合には弁護士費用特約を活用することで、自己負担を大きく軽減できます。
保険の約款次第にはなりますが、多くの弁護士費用特約では、1つの交通事故に対して弁護士費用300万円、法律相談料10万円までを補償するものが多いです。

弁護士費用がいくらになるのかは、弁護士に直接問い合わせてみてください。そうすれば、弁護士に依頼する場合と依頼しない場合とで、被害者が手にする賠償金の見通しを立てることが可能です。
「費用のことは何となく聞きづらい」と遠慮する必要はありません。弁護士もできるだけわかりやすく費用を説明しますので、今後の生活のためにも少しでも有利な結果を目指していきましょう。
アトム法律事務所の無料相談
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了