交通事故で治療期間が1年!慰謝料はいくら?増額する方法を弁護士が解説
交通事故でけがをすると、入通院による治療を受けなければなりません。治療期間が長くなると、その分慰謝料も増額されるのが原則です。
ただ通院が1年にも及ぶと保険会社との間でさまざまなトラブルが生じるケースが少なくありません。
今回は治療期間が1年となった場合の慰謝料の相場と気を付けたいトラブルの内容、なるべく高額な慰謝料を払ってもらうために被害者ができることを弁護士視点から解説します。
交通事故後、入通院期間が長引きそうな方はぜひ、参考にしてみてください。
目次
交通事故で入通院期間が1年となった場合の慰謝料
交通事故でけがをすると、被害者は加害者へ「慰謝料」を請求できます。
実は交通事故の慰謝料には2種類があり、後遺障害が残った場合のみ請求できる「後遺障害慰謝料」と、後遺障害が残らなくても請求できる「入通院慰謝料」に分類されます。
ここではまず、人身事故の被害者であれば誰でも請求できる「入通院慰謝料」の相場についてみていきましょう。
入通院慰謝料は、事故後の治療期間が長くなればその分増額されます。入通院期間が1年にも及ぶ場合には、相当高額な支払を受けられるでしょう。
慰謝料の計算基準は3種類ある
交通事故により請求できる入通院慰謝料を計算する基準は複数存在します。
具体的には、以下の3種類です。
- 自賠責基準
自賠責保険が慰謝料を支払う際に、支払う金額を算定する際の基準 - 任意保険基準
任意保険会社が慰謝料を支払う際に、その金額を算定するために使用する任意保険会社独自の基準 - 弁護士基準
弁護士が依頼を受けて慰謝料を請求する際に、請求する金額を算定するために使用する基準
裁判において慰謝料額を決める際にも利用するため裁判基準とも呼ばれる
誰に対して慰謝料の請求を行うのか、誰から慰謝料の支払いを受けるのかによって、算出される慰謝料の金額が異なるのです。
計算基準ごとの慰謝料額を紹介
交通事故の慰謝料の計算基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3種類があるので、以下でそれぞれの基準における「治療期間が1年」の入通院慰謝料の相場をご紹介します。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険が保険金を算定するときの基準です。入通院慰謝料の金額は、以下のとおりとなります。
入通院慰謝料=治療期間×4,300円※
※2020年3月31日以前に発生した交通事故では4,200円で計算します。
治療期間については、以下の2つの日数のうち「少ない方」を採用します。
- 入通院の期間に対応する日数
- 実治療日数×2
1年(365日)入通院した場合、実際に入通院治療を受けた日数が183日以上であれば、計算上は1,569,500円となります。ただし、自賠責保険の傷害に関する保険限度額が120万円なので、支払われるのは120万円までとなるでしょう。
保険限度額の詳しい範囲について知りたい方は『交通事故慰謝料が120万を超えたらどうなる?自賠責保険の限度額や請求方法を解説』の記事をご覧ください。
一方、実際に入通院治療を受けた日数が182日以下であれば、「実治療日数×2×4,300円」となります。
たとえば、実治療日数が100日であるなら、100日×2×4,300円=86万円の入通院慰謝料が支払われるでしょう。
任意保険基準
任意保険基準は、任意保険会社が保険金を算定するときに適用する計算基準です。計算基準が保険会社によって異なるので、一律の数字を出すことはできません。
ただし、かつて全ての任意保険会社に適用されていた「旧任意保険基準」により算出される金額に近い金額となることが多いでしょう。
旧任意保険基準の計算表は以下のようなものとなります。
そのため、通院1年の場合、だいたい93万円前後となる例が多いでしょう。入院期間が発生すると、金額が増額される可能性があります。
弁護士基準
弁護士基準は、弁護士や裁判所が利用する基準です。
入通院慰謝料については「通常のケガの場合」と「軽傷、むちうちで自覚症状しかない場合」とで計算方法が異なります。軽傷やむちうちで自覚症状しかない場合、原則的なケースの3分の2程度まで減額されるのが通常です。
また、入院すると、通院期間よりも慰謝料が増額されます。
通常のケガの場合に利用される計算表は以下の通りです。
軽傷、むちうちで自覚症状しかない場合に利用される計算表は以下のようなものになります。
上記の計算表から算出される、治療期間が1年の場合における慰謝料額の相場は以下のとおりです。
入院と通院の内訳 | 通常のケガの場合 | 軽傷、むちうちで自覚症状しかない場合 |
---|---|---|
通院1年 | 154万円 | 119万円 |
入院1か月、通院11か月 | 179万円 | 135万円 |
入院2か月、通院10か月 | 203万円 | 149万円 |
入院3か月、通院9か月 | 226万円 | 158万円 |
弁護士基準には「限度額」がないので、基本的にはどんなに高額になっても算定された慰謝料額を払ってもらえます。
ただし通院頻度が落ちると、治療期間を「実治療日数の3.5倍程度」とされて慰謝料額を減額される可能性があるので注意しましょう。
慰謝料を弁護士基準で計算してみたいという方には、慰謝料計算機がおすすめです。
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慰謝料計算機は、自動計算ツールなので、複雑な計算式を理解していなくても大丈夫です。
治療期間1年の慰謝料は弁護士基準がもっとも高額
交通事故で治療期間が1年に及んだ場合の慰謝料額は、計算基準によって大きく異なります。
弁護士基準なら通常のケガのケースで150万円を超えますが、任意保険基準では100万円を切る可能性があります。軽傷のケースでも弁護士基準を適用すると他の基準より高額になるでしょう。任意保険基準で慰謝料を計算されると、被害者は損をしてしまう可能性が高いといえます。
弁護士基準によって高額な入通院慰謝料を払ってもらうには、弁護士に示談交渉を依頼しなければ難しいでしょう。たとえば通院1年で被害者が自分で交渉すると93万円程度になってしまうケースでも、弁護士に依頼するだけで153万円程度にまで増額してもらえる見込みとなります。
交通事故で示談交渉するときは、必ず弁護士に依頼しましょう。
後遺症が残った場合に慰謝料を受け取る方法
交通事故で受傷し治療期間が1年にも及ぶケースでは「後遺症」が残ってしまう可能性も十分にあります。交通事故後に後遺症が残ったら、「後遺障害認定」を受けることで「後遺障害慰謝料」を請求できます。
後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が残った方へ特別に支払われる慰謝料です。入通院慰謝料とは別に支払われるので、後遺障害慰謝料が加算されると受け取れる慰謝料額が大きくアップします。
後遺障害認定を受ける方法については『交通事故の後遺障害相談窓口|弁護士に相談するメリットがわかる』の記事をご覧ください。
後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害の等級によって異なり、1年入通院したからといって一律の相場があるわけではありません。
参考までに、認定等級ごとの後遺障害慰謝料の相場を示します。
等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
なお上記は「弁護士基準」で算定した金額です。「自賠責基準」や「任意保険基準」の場合には上記より大きく減額されるので、注意しましょう。弁護士基準は、他の基準の2~3倍程度の相場となっています。
交通事故で入通院が1年となったとき、よくあるトラブル
交通事故後、入通院期間が長びくと保険会社ともめごとが発生するリスクが高くなります。以下でよくあるトラブル事例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
途中で治療費を打ち切られる
事故後、入通院にかかる治療費は加害者の保険会社が病院へ直接払いしてくれるのが一般的です。被害者が窓口で負担する必要はありません。ただ入通院期間が長くなると、保険会社が治療費を払ってもらえなくなるケースが多々あります。
たとえば、むちうちで通院期間が6か月を超えると、保険会社は治療の終了を打診してくるケースが多数です。被害者がまだ治療の必要性を感じて終了を断ると、保険会社が一方的に治療費支払を打ち切ってしまう事例も少なくありません。
上記で説明したとおり、入通院慰謝料は治療期間が長くなればなるほど高額になります。治療費を打ち切られたからといって通院をやめると、その分慰謝料が減額されてしまうでしょう。
保険会社から治療費打ち切りに遭っても医師から「症状固定」または「完治」の診断を受けるまでは通院を続けてください。後々、必要な治療を行うための費用であったとして請求することが可能です。
自費診療になると負担が重くなるなら、健康保険を適用して通院を継続しましょう。
健康保険の利用方法については『交通事故で健康保険は使える!メリットや健保に切り替えてと言われた時の対処法』の記事をご覧ください。
通院の必要性がないといわれる
交通事故後、長期にわたって通院を継続して高額な慰謝料や治療費を請求すると、保険会社から「早い段階で、すでに通院の必要がなくなっていた」と主張されるケースが少なくありません。たとえば1年通院したけれども、「実際には半年の時点で通院の必要性がなくなっていた」と主張され、半年分の治療費や慰謝料しか払ってもらえない場合があります。
問題になりやすいのは、通院時にほとんど有効な治療行為を受けていなかったケースです。たとえば通院時に「シップをもらうだけ」の診療日を繰り返していると、「すでに通院の必要がなくなり、完治していた」といわれても反論しにくいでしょう。
「通院の必要性がなくなっていた」といわれないため、リハビリをはじめとする治療を受ける際には治療の方法について医師とよく相談し、有効な治療を施してもらう必要があります。
また、治療が必要であるにもかかわらず、通院を面倒に感じて通院頻度を著しく落としてしまう方がおられます。1か月に2、3回しか通院しない被害者も少なくありません。
このような場合も、保険会社からは「通院しなくていいなら、すでに完治しているのだろう」といわれてしまいます。
このような事態にならないよう、1週間に2、3回くらいは通院してください。
相場の慰謝料を受け取る工夫
交通事故で入通院期間が1年となったとき、相場の慰謝料を受け取るには以下のような工夫をしましょう。
通院頻度を意識する
まずは一定以上の通院頻度を確保しましょう。頻度が落ちると入通院慰謝料が減額されるからです。
任意保険会社から「完治した」などといわれて大幅に慰謝料を減額される可能性も高まります。
できるだけ、1週間に2、3回以上は通院するのがよいでしょう。
医師へ正確に症状を伝える
通院時、医師に「痛みをあまり感じない」「症状がおさまった」などと伝えると、カルテに記録が残って「もう通院は必要ない」と判断される可能性が高まります。 日常で症状が消えていないなら、診療中にたまたま痛みを感じないとしても「治った」と捉えられるような発言は控えましょう。
治療は症状固定または完治まで行う
事故後の治療は、必ず症状固定または完治まで継続しましょう。
途中で打ち切ると、その分慰謝料を減額されてしまいます。
弁護士に示談交渉を依頼する
慰謝料の金額を弁護士基準で計算して増額するには、弁護士に依頼する必要があります。
通院期間が1年にも及ぶ場合は、任意保険基準との差額も大きくなるでしょう。被害者が自分で示談交渉を行うときと比べて2~3倍やそれ以上となるケースも少なくありません。
世間的にはあまり知られていないのですが、交通事故の示談交渉に被害者が1人で臨むと損になるのが現実です。適切な補償を受けるため、弁護士に依頼しましょう。
まとめ
交通事故後、入通院期間が1年に及んだ被害者が適切な慰謝料を受け取るには、弁護士によるサポートが必要です。アトム法律事務所では交通事故事案の取扱い実績が豊富で、ノウハウも蓄積しております。慰謝料を不当に減額されないためにも、ぜひとも一度ご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了