交通事故被害者と保険会社のかかわり|事故直後から示談までの対応を迷わない!
交通事故の被害者と保険会社の関係は、事故発生直後から示談終了まで長期間にわたって続きます。もし大きな事故で重大なケガを負ってしまったら、年単位でのかかわりは避けられません。
その過程ではさまざまなトラブルが起こりえますし、うまくトラブルに対処できなければ、ストレスを感じたり、獲得示談金額に悪影響が出たりする可能性があります。
そこで、交通事故の被害者がどのように保険会社とかかわり、対応していけばいいのかを状況別にお伝えしていきます。
目次
交通事故で被害者が関わる保険会社
(1)加害者の自賠責保険会社
相手方自賠責保険会社は、被害者に対して最低限の賠償金を支払ってくれます。
強制加入の保険なので、加害者が自賠責保険に入っていないということは原則ありませんが、以下の点には注意しましょう。
- 自賠責保険から支払われる金額は最低限であり、上限がある
- 自賠責保険から支払われる賠償金は、人身の傷害に関するもののみ
- 自賠責保険の支払い上限額を超える部分や、物損に関する賠償金は、相手方任意保険会社または加害者本人から支払われる
なお、相手方自賠責保険会社からの賠償金は多くの場合、相手方任意保険会社を通して支払われます。その他の加害者側とのやり取りも、基本的には相手方任意保険会社が窓口となります。
よって、相手方自賠責保険会社と直接的に関わる機会は多くありませんが、次のような場合には直接関わることになるでしょう。
- 加害者が任意保険に入っていない場合
- 加害者が任意保険に入っていない場合については、本記事内「事故相手が任意保険未加入の場合もある」参照
- 「被害者請求」「仮渡金請求」をする場合
- 被害者請求や仮渡金請求をすれば、示談金の一部が早くもらえる
自賠責保険をもっと知る
自賠責保険の支払い上限額や、被害者請求・仮渡金請求について解説しています。▶自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?計算方法や支払い限度額を解説
(2)加害者の任意保険会社
任意保険とは、自賠責保険からの損害賠償金だけでは足りない部分を補てんする保険です。
つまり、示談交渉で決まった損害賠償金のうち、自賠責保険の支払い上限額を超える金額と、物損に関する費目は、相手方任意保険会社から支払われるのです。
相手方任意保険会社とは、交通事故後に次のような形で直接的にかかわることになります。
- 示談交渉の相手となる
- 損害賠償金は、相手方自賠責保険分も相手方任意保険分もまとめて相手方任意保険会社から支払われる
- その他、通院先や転院先などを加害者側に伝えるときも、相手方任意保険会社に連絡する
なお、示談交渉の際に相手方任意保険会社が提示してくる賠償額は、低めに計算されていることが多いです。
「これくらいが相場です」「これでも多めに計算しています」などと言われるかもしれませんが、うのみにせず、一度被害者側で適正額を確認するようにしましょう。
こちらも要チェック
- 相手方任意保険会社が提示する金額の相場や適正額との比較を紹介しています。▶交通事故慰謝料の「任意保険基準」とは?
- 適正額の計算方法はこちら▶交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求
【補足】事故相手が任意保険未加入の場合もある
自賠責保険が強制加入であるのに対し、任意保険への加入は任意です。
よって、交通事故の加害者が任意保険未加入(無保険)である場合もあります。
この場合、本来相手方任意保険会社から支払われる賠償金の支払いや示談交渉は、加害者本人がおこなうことになり、以下のようなリスクが出てきます。
- 加害者の資力が足りず、賠償金をきちんと支払ってもらえない
- 示談交渉に応じてもらえない、話がまとまりにくい
よって、加害者が任意保険未加入の場合には、内容証明郵便を出す、示談書を公正証書にする、相手方自賠責保険に直接賠償請求するなど取るべき対応をしっかり確認することが重要です。
相手が無保険の場合に必見
(3)被害者自身の保険
交通事故にあったら、被害者自身の自動車保険にも連絡をして、やり取りする必要があります。
また、自身の自動車保険や健康保険などを効果的に活用すれば、以下のような場面で役立ちます。
- 加害者側から賠償金が支払われるより前に、まとまったお金が必要
- 過失相殺によって賠償金が減らされてしまった
- 当て逃げで加害者がわからない
- 治療費を一時的に立て替えなければならない
具体的な事故の形態や損害の内容によって使える保険・役立つ保険は異なるので、詳しくは『交通事故で使える保険の種類と請求の流れ』にて確認してみてください。
交通事故発生から治療中の保険会社とのかかわり
自分の保険会社|交通事故が起きたことを報告
交通事故が起きたら、たとえ自分の保険を利用するつもりがなくても、自分の保険会社に連絡を入れ、次の内容を報告しましょう。
- 自身の証券番号
- 事故状況
- 被害者の情報
- 加害者の情報
- けがの有無
- 自動車の損傷状況
ただし、事故現場ではけが人の救護や警察への連絡が最優先です。
また、事故現場で警察の到着を待っている間に保険会社に電話していると、警察から電話がかかってきたときに対応できない可能性があります。
よって、保険会社への連絡は事故直後のもろもろの対応が落ち着いてからにしましょう。
事故直後の対応について
事故後は、自身の保険会社へ連絡する以外にもさまざまなことをしなければなりません。
交通事故直後の対応について以下のような疑問・不安がある被害者の方は、関連記事『交通事故にあったら初期対応の手順は?事故を起こしたらまずすること』をご確認ください。
- 交通事故を警察に連絡しないとどうなるか
- 交通事故後、加害者から聞き出しておくべき情報
- 事故後に協力すべき警察の捜査とは
相手の保険会社|治療費の支払い方法を確認
治療段階では、治療費の支払いに関して相手方任意保険会社と次のようなやり取りをします。
- 通院先を相手方任意保険会社に伝える
- 任意一括対応をしてもらうための同意書にサインする
任意一括対応とは
交通事故の治療費を、相手方任意保険会社が病院に直接支払うこと。
これにより、被害者は治療費を立て替えることなく治療を受けられる。
なお、保険会社側の方針や被害者側の過失割合によっては任意一括対応をしてもらえないことがあります。
任意一括対応をしてもらえない場合は被害者側で治療費を立て替え、示談交渉時に相手方に請求しなければなりません。
治療費の支払いについて確認
- 治療費の支払われ方
- 任意一括対応の手続きの流れ
- 治療費を被害者が立て替える場合のポイント
上記の内容について詳しく解説しています。▶交通事故被害者の治療費は誰が支払う?立て替えは健康保険を使う!過失割合との関係は?
相手の保険会社から治療費を打ち切られることがある
たとえ「任意一括対応」によって相手方任意保険会社が治療費を支払ってくれていても、途中で打ち切られてしまうことがあります。
具体的には、以下のような場合に治療費打ち切りのリスクがあります。
- 治療期間が平均よりも長引いている場合
- 治療頻度が低い場合
- 漫然治療が続いている場合
しかし、たとえ治療費打ち切られても、まだ治療が必要なら最後まで継続するべきです。
最後まで治療を続けないと、請求できる慰謝料の金額・種類に悪影響が出る可能性があるからです。
もし治療費打ち切りを打診されたら、打ち切り延長を交渉する、費用を立て替えながら治療を継続して後から相手方に請求するといった対応を取りましょう。
治療費が打ち切られたら?
後遺障害認定の申請での保険会社とのかかわり
後遺障害は相手方保険会社を介して申請
交通事故によって後遺症が残った場合は、「後遺障害申請」をして、後遺障害等級の認定審査を受けます。
審査によって後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料・逸失利益がもらえるようになるからです。
後遺障害申請では必要書類を審査機関に提出するのですが、このとき、相手方任意保険会社または相手方自賠責保険会社を経由しなければなりません。
それぞれの違いは以下の通りです。
相手方任意保険会社を経由
- 相手方任意保険会社を経由する申請方法は「事前認定」と呼ばれる
- 後遺障害診断書以外の書類はすべて相手方任意保険会社が用意してくれる
- 被害者は後遺障害診断書以外の書類に関与できないので、審査対策が不十分になりがち
相手方自賠責保険会社を経由
- 相手方自賠責保険会社を経由する申請方法は「被害者請求」と呼ばれる
- すべての書類を被害者が用意し、相手方自賠責保険会社を介して審査機関に提出
- 被害者は以下のような審査対策ができる
- すべての書類の内容をチェックし、質を高める
- 審査に効果的な追加書類を添付する
後遺障害慰謝料の金額は審査の結果認定される後遺障害等級によって大きく変わります。
たとえば、むちうちでは後遺障害12級または14級に認定される可能性がありますが、どちらに認定されるかによって後遺障害慰謝料の相場*は180万円も違ってくるのです。(*弁護士に示談交渉を依頼した場合)
よって、審査対策がしっかりできる被害者請求の方がおすすめです。
被害者請求に関して以下のような不安がある場合は、弁護士にご相談ください。アドバイス・サポートを受けることができます。
- 提出書類をすべて集めるのが大変そう
- 提出書類の内容や質をどうチェックすればいいかわからない
- どんな追加書類を添付すればいいのかわからない
弁護士に後遺障害の被害者請求を依頼するメリット、弁護士費用の負担を減らす方法は『後遺障害申請の被害者請求|流れや弁護士に依頼すべき理由を解説』の記事が参考になります。
注意|後遺障害申請するなら治療は原則半年以上
後遺障害申請は、医師から後遺症が残ったことを意味する「症状固定」の診断を受けてからおこないます。
このとき重要なのは、症状固定までに半年以上治療を受けていることです。
例外もありますが、基本的には治療期間半年未満で後遺障害申請をしても、以下の点から等級が認定されない可能性が高いのです。
- もう少し治療を受ければ完治するのではないかと疑われる
- 半年未満の治療で症状固定になるような後遺症は、等級に認定されるほどではないと判断される
他にも症状固定に関しては「症状固定までの期間分しか請求できない費目がある」「損害賠償請求権の時効カウントが始まる」などの注意点があり、知らないままだと思わぬ不利益を被る可能性があります。
詳しくは『症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談』の記事にて解説しているので、ご確認ください。
示談交渉での保険会社とのかかわり
示談交渉相手は加害者の任意保険会社|流れを解説
示談交渉の相手は、基本的には加害者の任意保険会社の担当者となります。
具体的な流れは次の通りです。
- 相手方から、示談金額や過失割合を記載した示談案が送られてくる
- 示談案の内容を確認し、交渉したい点があれば交渉を開始する
※交渉は電話やFAXなどでおこなわれることが多い - 双方の間で合意ができたら、合意内容をまとめた示談書が送られてくる
- 示談書に署名・捺印をして相手方任意保険会社に返送
- 2週間程度で示談金が振り込まれる
なお、「損害賠償請求権の消滅時効」が成立すると相手方に損害賠償請求できなくなるので、示談は時効までに成立させる必要があります。
交渉が行き詰まった場合や、治療や後遺障害認定の審査が長引き交渉開始が大幅に遅れた場合などは時効に間に合わない可能性があるので、速やかに弁護士に相談してください。
示談の平均期間と時効をチェック
加害者の保険会社と示談する場合の注意点3つ
加害者の保険会社との示談交渉では、次の3点に注意しましょう。
- 示談交渉開始の時期
- 示談交渉は、すべての損害が確定してから始めます。
それより早く交渉を始めると、示談成立後に新たな損害が発覚する恐れがあります。しかし、示談成立後の再交渉は原則としてできません。 - 全ての損害が確定するタイミングは交通事故の種類によって異なります。
- 詳しく:交通事故の示談交渉はいつ開始する?
- 示談交渉は、すべての損害が確定してから始めます。
- 相手方が提示してくる内容
- 相手方任意保険会社が提示してくる示談金額・過失割合は、適正でない可能性があります。
- 特に慰謝料には2倍~3倍も増額の余地があることも多いので、提示された内容を鵜呑みにしないようにしましょう。
- 適正額や増額事例はこちら:交通事故の示談金相場は?
- 相手方の言動
- 相手方任意保険会社は交渉を有利に進めるため、高圧的な言動をとったり、専門用語を多用したりすることがあります。
- 相手方任意保険会社は会社の業績をかけて交渉に臨んでくるため、被害者側の主張を簡単には受け入れてくれないことが多いです。
- 実際の体験談:交通事故の体験談8選
相手方任意保険会社は示談交渉のプロであり、知識も経験も非常に豊富です。
また、あくまでも保険加入者である加害者を顧客とする立場なので、被害者に寄り添った親切な対応をしてくれることも期待できない点はよく理解しておきましょう。
自分の保険の示談代行サービスを使うか検討しよう
自身が加入する自動車保険の「示談代行サービス」を使えば、示談交渉を自身の保険担当者におこなってもらえます。
示談代行サービスとは
自身が加入する任意保険会社の担当者に、示談交渉を代行してもらえる。
被害者自身で相手方任意保険会社と交渉する必要がなくなるので、以下のようなメリットが得られる。
- 相手方の言動からストレスを受けなくて済む
- 示談を代行する担当者は知識・経験が豊富なので、被害者自身で交渉する場合より多くの示談金額獲得が期待できる
ただし、示談代行サービスには以下のような注意点もあるので、それも踏まえて示談代行サービスを使うかどうか検討してみてください。
- もらい事故など被害者側の過失が0の場合は、示談代行サービスが使えない
- 示談代行サービスによる交渉で得られる示談金額は、弁護士を立てた場合に比べると低額になりがち
- 示談代行サービスはあくまでも示談代行のみをおこなうが、弁護士なら示談交渉に至るまでのさまざまなサポートも可能
示談交渉の際には、弁護士を立てることも可能です。
示談代行サービスの利用を検討する場合は、弁護士への依頼も一緒に検討してみてください。
保険会社とのトラブルを解決する方法
保険会社の間でよくあるトラブル6つ
相手方保険会社とやり取りしているとさまざまなトラブルが起こりがちですが、中でも多いトラブルは以下のようなものです。
- 相手方保険会社から示談案提示などの連絡がこない
- 相手方保険会社の態度が良くない
- 治療費を打ち切られた
- 休業損害を請求しても十分な金額が支払われない
- 被害者側が主張するけが・症状を嘘だと疑われる
- 示談交渉で意見が対立し、話し合いが進まない
上記のようなトラブルが起きたとき、どんな手順で被害者側の主張を伝えるべきか、その際どんな事前準備が必要なのかは、トラブルの内容によって異なります。
ただやみくもに「この点に納得いかない」「これについてどうなっているのか」などと相手に伝えても効果がない場合も多いのです。
詳しくは『保険会社の対応が悪い!対処法と取ってはいけない対処法を状況別に解説』にて確認してみてください。
保険会社ともめた時のベストな対応法
相手方保険会社との間で起きるトラブルにはさまざまなものがありますが、いずれにせよ、弁護士に相談・依頼することがベストな対応法と言えます。
その理由は以下の通りです。
- 被害者自身でトラブルに対応する必要がないので、ストレスや手間がかからない
- 弁護士なら適切な対応がすぐにわかるので、早く対応できる
- 弁護士なら起こりうるトラブルを見越してトラブルを回避することもできる
- 被害者側に弁護士が付いていることで、相手方保険会社の言動が慎重・適切になり、新たなトラブルが起きにくくなる
トラブル対処以外にも、弁護士に相談・依頼すると獲得示談金が大幅に増額する・早く示談金を受け取れるなどのメリットが期待できます。
すでにトラブルで困っている場合はもちろん、まだトラブルに遭っていない場合でも、いざというときにすぐに頼れる弁護士を見つけておくと安心です。
相談料無料の弁護士事務所や「弁護士費用特約」を利用すれば弁護士費用は抑えられるので、一度弁護士とコンタクトを取っておくことをおすすめします。
保険会社から弁護士を紹介されたら応じるべき?
自身の保険会社が「うちの会社の顧問弁護士を紹介しましょうか」と提案してくれることがありますが、この申し出は断ることができます。
以下の点から自分で弁護士を探した方が良い可能性もあるので、保険会社から紹介された弁護士に依頼するかどうかは慎重に判断しましょう。
- 紹介された弁護士が被害者案件に特化しているとは限らない
- 弁護士自身の熱意が高くない可能性がある
- 被害者が加入している保険の利用を避ける可能性がある
- 後遺障害等級の申請・認定に関するメリットが受けられないことがある
上記のような注意点が生じる理由・仕組みはこちら▶交通事故で保険会社から弁護士を紹介されたらどうする?
弁護士選びを間違えてしまうと、思ったような成果・サポートが得られなかったり、途中で弁護士変更の手間が生じたりしてしまいます。
弁護士選びのポイントをおさえたうえで、自分自身で信頼できると思う弁護士を探すことが重要です。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了