物損事故の賠償金とは?請求できるものや金額の決め方・交渉ポイントを解説

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交通事故に遭ったとき、ケガがなければ「物損事故」として処理されます。物損事故では修理費だけでなく、評価損や代車費用なども賠償金として請求可能です。

ただし、すべての項目が認められるわけではありません。相手方保険会社との交渉でもめることもあるため、事前に知識を備え、証拠を揃えたうえで冷静に対応することが大切です。

この記事では、物損事故で請求できる主な損害項目から、損害賠償金の金額の決め方、保険会社との交渉方法まで、できるだけわかりやすくご紹介します。

トラブルが長引きそうな場合や、金額に納得できない場合は、早めに弁護士などの専門家に相談するのも選択肢のひとつです。

物損事故とは?人身事故との違い

交通事故は大きく分けて「人身事故」と「物損事故」の2種類があります。人身事故は人がケガをした場合、物損事故はモノ(たとえば車や塀、電柱など)に損害が出た場合を指します。

人身事故と物損事故

物損事故で請求できる損害項目

物損事故における損害賠償請求の根拠は、民法709条の「不法行為に基づく損害賠償請求権」です。

加害者が不注意(過失)で他人の物に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任があるため、被害者は損害賠償請求が可能となります。

請求できる主な損害項目

物損事故における損害賠償では、主に以下のような費用を事故相手(または相手の任意保険会社)に請求できます。

項目名内容の説明
修理費用壊れた車や物の修理代。見積書や修理明細が重要な証拠になる。
買い替え費用修理が不可能または経済的合理性がない場合、同等品への買い替え費用が認められることがある。
評価損修理しても事故歴が残ることで市場価値が下がった分の補償。特に高級車や新車で争点になる。
代車費用車の修理中に代車が必要な場合、その費用も請求可能(必要性が認められる範囲)。
休車損害営業用車両の場合、使用できなかったことで発生する営業損害。
その他の損害レッカー代、壊れた積荷の代金など

これらは「実際に生じた損害」に基づいて請求することになります。証拠の保存が非常に大切です。

修理費用・買換え費用

交通事故により車が損壊した場合、加害者に対して修理費用または買い替え費用を請求することが可能です。

原則として、車が修理可能である場合は、かかった修理の実費を請求することになります。

ただし、後日加害者側から修理の必要性や範囲について争われることを防ぐため、修理を始める前に見積書を提示し、相手方の確認を得ておくことが重要です。

修理費用を請求する流れや相場の修理費用については『物損事故の修理費|請求の流れや自腹になるケースなどを解説』の記事で確認することができます。

修理費が高額・修理不可能な場合は買い替え費用を

一方で、修理費用が車の時価額を上回る場合や、物理的に修理が不可能な場合には、修理費用ではなく買い替え費用を請求します。

この買い替え費用とは、損壊した車と同種・同程度の車を購入する費用を上限とし、事故当時の時価額から売却代金を引いた「買い替え差額」と、登録などにかかる「買い替え諸費用」を合計した金額となります。

買い替え諸経費とは、以下のような費用です。

  • 登録費用
  • 車庫証明費用
  • 廃車費用
  • リサイクル費用
  • 自動車取得税
  • ディーラーに支払う手数料

買い替えが必要な全損となった場合に知っておくべきことについては『事故で全損に…相手の保険や車両保険からいくらもらえる?車を買い替える流れ』の記事で詳しく知ることができます。

評価損とは|請求できるケース

評価損とは、「修理しても市場価値が下がる」ことへの補償です。事故に遭った場合、「事故歴あり」とされ売却価格が下がってしまうことがあります。この差額が評価損です。

特に以下の場合に認められるケースが多いです。

  • 高級車や新車
  • フレーム(骨格)に損傷があった
  • 修理費が高額となった

ただし、保険会社は全ての案件で認めてくれるとは限らず「直ったのだから価値は変わらない」と主張してくることもあります。

過去の判例では車種や修復歴の有無、高級車かどうかなども考慮されています。

こうした評価損は専門的な判断が必要になるため、実績ある交通事故専門の弁護士に相談するほうがスムーズです。

物損関連の裁判例解説

代車費用

交通事故で車の修理が必要になった場合、修理期間中に使用した代車の費用を加害者に請求できます。

ただし、その請求が認められるためには、通勤で日常的に車を使っているといった「必要性」と、事故に遭った車と同程度のグレードの代車を修理に必要な期間のみ利用するといった「相当性」がなければなりません。

代車の利用期間は、修理の場合は1~2週間、買い替えの場合は1ヶ月程度が目安とされます。

なお、代車を使用するためのガソリン代は、事故がなくてもご自身が負担すべき費用であるため、損害とは認められず請求の対象外となる点にご注意ください。

休車損害

交通事故により営業車が使用できなくなった場合、営業できなかった期間の利益減少分を「休車損害」として加害者に請求できます。

タクシーや事業用の貨物車など、その車両がなければ営業が成り立たない場合に請求が可能です。

賠償額の計算方法は以下のようになります。

  • (1日当たりの平均売上-経費)×休業日数

ただし、遊休車など他の車両を代替利用して営業を継続できた場合は、損害が発生していないため請求できません。

その他に請求できる損害

物損事故の被害に遭われた場合、車の損害以外にも、事故によって生じた様々な損害を加害者に請求できます。

具体的には、以下のような損害が対象となるでしょう。

  • 事故車両のレッカー費用
  • 破損してしまった積荷や衣服・メガネ
  • ペットが負傷した場合の治療費

物損事故で慰謝料は請求できる?

通常、物損事故の場合、精神的苦痛への慰謝料は認められません。

物損が生じたという精神的苦痛は、修理や買い替えによって癒されると考えられているためです。

ただし、過去の判例では次のような場合に慰謝料が認められた例もあります。

  • 大切にしていたペットが事故で死傷した
  • 芸術品や思い出の品など、替えのきかない物の破損があった
  • 家屋が壊されて生活場所の変更が必要となった

こうした例外事項については、弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

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保険会社との示談交渉の注意点

保険会社の提示額が正しいとは限らない

物損事故の損害賠償では、相手方の保険会社とのやり取りになることがほとんどです。

ただし、保険会社からの提示額が「すべて正しい」とは限りません。

最初に提示される金額や過失割合が、被害者にとって不利な可能性があります。

特に評価損や休車損害、修理金額の妥当性は、相手と見解が分かれやすいポイントです。

金額に納得いかない場合は、証拠を揃え、冷静に交渉しましょう。第三者(弁護士)に依頼することで、負担が大きく軽減されるケースも多いです。

物損事故における損害の決め方を理解する

示談交渉においては、物損事故により自分がどの程度の損害を被ったのかを計算し、客観的に証明することが必要です。

物損事故における損害賠償金は次のポイントをもとに決定されます。

  1. 損害額を示す客観的な証拠があるか(修理見積書・写真・査定など)
    損害の内容を証明するには修理見積書や領収書などが不可欠です。代車を借りた場合も、契約書やレシートを保存しておきましょう。
  2. 損害と事故との因果関係が明確か
    事故直後の車体の写真や、事故状況がわかるドライブレコーダの映像などがあると、事故によりどのような損害が生じたいのかを証明しやすいでしょう。
  3. 補償対象になる損害かどうか
    特に、評価損については相手方の保険会社が賠償を拒否・減額する場合もあるため、根拠を持って主張することが重要です。
  4. 当事者間の過失がどの程度か
    被害者自身にも事故発生に関する責任(過失)がある場合、過失割合に応じて請求できる賠償額も変わってきます。

保険会社は過去の事例や内部基準をもとに計算した金額を提示することが多く、被害者として納得できる金額かどうかはきちんと判断する必要があります。

明らかに過小な提示があった場合に備え、同様のケースでの相場を調べておくと役立つでしょう。

弁護士に依頼するメリット

物損事故の示談交渉について弁護士に依頼すると、以下のようなメリットを得られます。

  • 適正な損害項目を把握して漏れのない請求を行ってくれる
  • 評価損や慰謝料など請求が難しい損害も適切に請求してくれる
  • 加害者と連絡を弁護士が行ってくれるため負担を減らすことができる

物損事故では、評価損や代車費用など、どのような場合にいくら請求できるのかが分かりにくい損害もあるため、適切な金額の請求を行いたい場合は、弁護士に示談交渉を依頼すべきといえるでしょう。

特に、原則として認められていない慰謝料を請求するのであれば、弁護士から適切な主張を行ってもらうべきといえます。

また、弁護士に示談交渉を含めた加害者側とのやり取りを一任することで、被害者自身が加害者側と連絡を取ることで生じる負担を減らすことも可能です。

賠償金を支払う立場になったときに知っておきたいポイント

賠償金を支払う立場になった場合、以下の点を押さえておくとトラブルを防げます。

  • 速やかに加入している保険会社に連絡する
    事故発生後は、早期に保険会社に連絡し、今後の対応について指示を受けましょう
  • 逃げずに誠実に対応することが大切
    被害者との信頼関係を損なうと、トラブルが長期化する可能性があります
  • 示談交渉は慎重に行う
    どのような示談内容とするのかについては、保険会社や弁護士の指示を受けつつ慎重に決めましょう

物損事故の賠償金でよくある質問

Q.自賠責保険でも物損は補償されますか?

自賠責保険(強制保険)は、物的損害(車や建物など)は対象外です。自賠責保険は人身事故のみを補償対象としているからです。

任意保険の対物賠償保険で対応することが必要になります。

Q.ケガをしていたことが発覚した場合はどうするべきですか?

交通事故の後にケガをしていることが判明した場合、警察へ届け出た事故の扱いを物損事故から人身事故へ切り替える手続きを行いましょう。

人身事故に切り替えることで、治療費や慰謝料、休業損害も請求対象となり、受け取れる賠償金額が大きく増える可能性があります。

手続きには医師の診断書が必要ですが、事故発生から時間が経ちすぎると、事故とケガの関連性が不明確と判断され、切り替えが認められない場合があるため、迅速な対応が重要です。

人身事故への切り替え方法について詳しく知りたい方は『物損から人身への切り替え方法と手続き期限!切り替えるべき理由もわかる』の記事をご覧ください。

納得できないなら相談しよう|弁護士があなたをサポート

「保険会社から提示された賠償金額が安すぎる気がする」
「請求できる補償項目をすべてカバーできているか不安」

そんなときは、専門家である弁護士に相談・依頼を行い、サポートを受けましょう。

法律相談の対象となる代表的なケース

  • 修理費・評価損・代車費用の算定が曖昧
  • 保険会社との交渉がうまくいかない
  • 自分にも過失があるケースでの賠償請求
  • 評価損の証明が難しい
  • 慰謝料請求が可能な特殊事情がある場合

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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