物損事故の修理費|請求の流れや自腹になるケースなどを解説
物損事故にあったとき、「車の修理費は誰が払うの?」「保険で対応できるの?」「修理せずに現金だけ受け取るのはアリ?」と不安になる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、物損事故における修理費の請求方法や支払いのルール、修理しない場合の対応などについて、法律や保険の実務に基づいてわかりやすく解説していきます。
目次

物損事故における修理費請求の流れ
物損事故における修理費の請求方法|2通りあり
物損事故における修理費の請求方法は、大きく分けて以下の2通りです。
- 加害者に直接請求
相手方(加害者)またはその加入する損害保険会社に修理費を請求する - 自分の保険を使う
自分の「車両保険」を使って修理する(過失がある場合は特にこの方法が多い)
事故の過失割合や保険の契約内容によって、どちらの方法を選べるかや自己負担の有無が変わってきます。
通常は、加害者の任意保険会社と交渉して、損傷写真や見積書を提示し、金額を確定させてから修理代を受け取る流れになるでしょう。
保険会社が関与する場合の修理費請求の一般的な流れ
物損事故では、相手方が自動車保険に加入している場合、基本的に加害者側の保険会社が窓口になります。
請求の流れは以下の通りです。
- 相手方の保険会社と連絡を取る
加害者から、保険会社に事故報告がなされていることが前提です。 - 修理工場へ持ち込み、見積もりを依頼する
損傷箇所の写真を撮影のうえ、見積書を取得します。 - 保険会社が修理内容・金額の妥当性をチェック
必要に応じてアジャスター(査定担当者)が現車確認を行います。 - 双方で賠償額について合意
過失割合に争いがある場合には交渉が必要になることも。 - 合意後、修理費の支払いまたは修理実施
支払方法は、直接修理業者へ支払い、もしくは被害者に振込されることもあります。
修理工場に依頼する前に、相手の保険会社と十分にやり取りをしておくことが重要です。
勝手に高額な修理を始めると、後になって「全額は支払えない」と言われることもあります。
物損事故でも自腹で修理するケースとは?
物損事故では、すべてのケースで修理費が補償されるわけではなく、以下のような場合には「修理費を自腹で支払う」ことになることもあります。
(1)自分が全面的に悪い(過失割合が100%)
たとえば、自分の不注意で単独事故を起こしたり、相手に全く非がないと判断される事故(いわゆる「過失割合100:0」)の場合、相手には修理費を請求できません。当然、自分の車の修理費用は自己負担となります。
なお、車両保険に加入していれば、その保険から修理費が補償される可能性があります。
(2)車両保険に加入していない、または免責金額が高額
車両保険に加入している場合は、自身の車両保険から修理費を負担してもらえます。
車両保険に未加入の場合、加害者側に修理費を請求できないのであれば、修理費は自己負担になってしまいます。
また、車両保険に「免責金額(=自己負担額)」の設定がある場合は、その金額分は自腹で支払う必要があります。
たとえば「免責5万円」となっていれば、5万円までは自分で支払わなければなりません。
(3)過失割合に応じた一部負担が発生する
たとえば、被害者側にも過失があり、相手との過失割合が7:3という場合、事故の原因のうち3割は被害者にあると判断されます。
このような場合には、修理費のうち相手の保険会社が負担してくれるのはあくまで7割分で、残りの3割は被害者自身で負担する必要があるのです。
過失がある程度あると、修理費の自己負担分が意外と高額になることも珍しくありません。
自身の過失割合や保険会社の契約内容が重要
「物損事故=相手がすべて払ってくれる」とは限りません。
自分にどれだけ過失があるか、保険にどこまで入っているかによって、修理代を自腹で支払わなければならないケースは意外と多いものです。
事故後には、自分の保険内容と過失割合をしっかり確認することが大切です。
修理しない場合でも「修理費を請求する」ことはできる?
「車は動くから修理しないけど…修理費だけ受け取っておきたい」という要望もよくあります。
結論から言うと、 修理するか否かに関わらず、原則として加害者側に対して「相当な修理費相当額」を請求することは可能です。
事故によって修理が必要な損害が生じている以上、実際に修理を行っていなくても修理費用について請求することができます。
過失割合と修理費の関係
物損事故では、「過失割合」に応じてお互いの修理費の負担額が変わってきます。加害者と被害者の双方に過失がある場合、それぞれの責任の度合いに応じて負担額が按分されるのが原則です。
例|修理費30万円、過失割合【7:3】の場合
たとえば次のようなケースを考えてみましょう。
事故によって30万円の修理費が生じたとして、自分と相手の過失割合が「3:7(自分3割の責任)」だった場合、自分の負担額は30万円×30%=9万円となります。
もし自分が車両保険に加入していなければ、この9万円はすべて自腹となります。
項目 | 金額(概算) |
---|---|
総額修理費 | 30万円 |
相手に請求できる額(70%) | 21万円 |
自分負担分(30%) | 9万円(車両保険がないと自腹) |
自分に過失があると、自分の車の修理費はその分だけ自己負担になるのが原則です。
相手が高級車だった場合は注意
修理費の算定においてもう一つ重要なのが「相手の車の価値」です。
事故の相手が高級車や新車だった場合、ちょっとした損傷でも修理費が非常に高額になることがあります。
仮に被害者の過失が1割(過失割合10%)だったとしても、相手の高級車の修理費が100万円かかったとすれば、被害者が負担する金額は100万円×10%=10万円になります。
つまり、被害者に過失がほんのわずかしかなくても、支払う金額が大きくなってしまうことがあるのです。
これは「損害額×過失割合」という計算方式によるもので、相手車両の価値や修理費が高額であるほど、わずかな過失でも高額な支払いリスクがあるということになります。
過失割合・修理費のチェックポイント
過失割合が少ないからといって油断は禁物です。
- 自分の過失が少なくても、相手の修理費用が高額なら支払額も大きくなる
- 修理費の総額だけでなく、車の年式や価値にも注目
- 自身の車両保険があるかどうかで、負担の有無が大きく変わる
「事故 過失割合 修理費」はセットで考える必要があり、とくに相手が高級車だった場合は、数万円~数十万円単位で思わぬ請求を受けるリスクもあります。
こうした場合には、損害額や過失割合が妥当かどうかを弁護士と相談し、冷静に対応することが大切です。
バンパー・ミラーなど「よく壊れる部位」の修理費相場
以下は、よくある物損事故で壊れやすい部品の修理費用の相場です。
部位 | 修理または交換費用の相場 |
---|---|
ボディ | 約1万円~10万円以上 |
バンパー | 約1万円~20万円程度 |
ドアミラー(片側) | 約1万円~10万円程度 |
ドア | 約2万円~10万円以上 |
※修理費は車種や損傷の程度によって大きく異なるため、あくまで「相場」であり、実際は見積もりを取るのがベストです。
修理費をめぐってトラブルになりやすいポイントは?
物損事故では、被害者・加害者の双方が「どこまで修理費を支払うべきか」「いくら請求できるか」で揉めてしまうことが少なくありません。
とくに以下のようなケースでは、修理費をめぐったトラブルが発生しやすいため注意が必要です。
実際の修理費と保険会社が提示する金額が異なる
事故後、修理工場で見積もりをとったところ30万円と提示されたのに、相手の保険会社から「支払えるのは25万円までです」と言われてしまうケースがあります。
これは保険会社が「見積額が相場より高い」あるいは「一部の修理が過剰」と判断したため、減額を求めてくるパターンです。
こうした場合、修理工場と保険会社の間で価格交渉が行われたり、アジャスター(損害査定担当者)が現車確認を行うこともあります。
過剰整備と見なされた箇所は、補償の対象外とされる可能性があるので注意しましょう。
車の「時価」以上の修理費を請求している
事故車両が古く、中古市場での価値(いわゆる「時価」)が低い場合、実際にかかる修理費のほうが車の時価を上回ってしまうことがあります。
たとえば、時価10万円の車に15万円の修理費がかかるとすれば、法律上や保険の実務では「15万円すべてを穴埋めする」ことは認められず、あくまで時価(この場合は10万円)を上限とする処理が基本です。
このようなケースでは「全損扱い」とされ、修理費の実費ではなく、事故時点での車の価値(=時価相当額)をもとに賠償額が決まります。
修理費の請求で揉めないための対策ポイント
物損事故の修理費請求を円滑に進めるには、保険会社とのやり取りだけでなく、法律や損害賠償の基本ルールに配慮することが大切です。
- 修理の見積もり額が妥当かを第三者にレビューしてもらう(複数の見積もり取得など)
- 時価と修理費のバランスを理解し、不当に高額な請求を避ける
不安な場合は、弁護士に相談することで、トラブルの回避や適正な補償の獲得が期待できます。
弁護士費用特約の活用も検討を
トラブルが複雑化した場合、自分で対処するのが難しいこともあります。そのような場合は「弁護士費用特約」が使えるか確認しましょう。
弁護士費用特約のポイント
- 弁護士報酬・相談料等が保険でカバーされる
- 修理費の請求交渉を弁護士に依頼する際の負担が軽減
- 過失割合や支払い額で揉めているときにも有効
加入している自動車保険・火災保険などに弁護士費用特約が付いていれば、自己負担を抑えつつ、弁護士に相談・依頼が可能です。
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まとめ
物損事故での修理費請求は、保険や過失割合のルールを正しく理解していないと、損をしたり、思わぬトラブルに発展することもあります。
以下の点を押さえておきましょう。
- 修理しなくても修理費を請求できることはあるが、注意点も多い
- 過失があればその分の修理費は自分で負担となるのが原則
- 修理費用が妥当か・時価を超えていないかなどを確認
- 弁護士費用特約の利用も視野に
少しでも不安があれば、事故対応や請求のサポートに詳しい弁護士への相談もおすすめです。早めに対処することで、後のトラブルを未然に防げます。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了