後遺障害3級の症状と認定基準|3級の慰謝料相場と逸失利益の計算方法
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交通事故の後遺障害3級は、神経系統や内臓に重い障害があるため働くことができなかったり、両手の手指すべてを失ったりした場合に認定されます。
後遺障害3級の症状は非常に重く、被害者自身やご家族の将来のためにも、適切な補償を得るべきでしょう。そのためには、認定基準だけではなく、後遺障害慰謝料や逸失利益などの補償についても十分に理解しておくことが必要です。
本記事では、後遺障害3級の具体的な認定基準や、後遺障害3級に認定されたら請求できる後遺障害慰謝料の相場を解説します。
被害者が受け取るべき妥当な金額を知り、適切な補償を得るためにも、この記事を参考にしてみてください。
目次
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後遺障害3級の認定基準
後遺障害等級の認定基準は、「交通事故損害賠償法施行令」で定められています。
後遺障害3級の認定基準は、症状の内容によって次の3級1号から3級5号に区分されています。
等級 | 認定基準 |
---|---|
3級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
3級5号 | 両手の手指の全部を失つたもの |
各号の認定基準を詳しく確認していきましょう。
後遺障害3級1号|片目の失明、他眼の視力が0.06以下
後遺障害3級1号に認定される症状は、「一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの」です。
以下の定義のいずれかに該当すれば、失明と判断されることになります。
- 眼球を亡失(摘出)した
- 光の明暗が完全にわからない
- 光の明暗が辛うじてわかる
- 暗室で光が点滅するとき明暗がわかる
- 目の前で手を上下左右に動かされたときに動きの方向がわかる
片方の目を失明し、もう片方の目は眼鏡・コンタクトによる矯正視力でも0.06以下になった場合、後遺障害3級1号に認定されるのです。
なお、片方の目を失明し、もう一方の目の矯正視力が0.02以下になった場合や、両目ともに視力が0.02以下になった場合は後遺障害2級認定を受ける可能性があります。
交通事故による目の後遺症と障害等級は、視力障害が両目か片目かということ、失明なのか視力低下なのかで変わります。
関連記事『交通事故による目の後遺障害と慰謝料相場|失明・視力低下・複視の認定基準』で網羅的に解説していますので併せてご覧ください。
後遺障害3級2号|咀嚼機能か言語機能を失った
後遺障害3級2号に認定される症状は、「咀嚼又は言語の機能を廃したもの」です。
なお、「咀嚼機能を廃する」「言語機能を廃する」の定義は以下のとおりです。
- 咀嚼機能を廃する
- スープ状の流動食以外は食べられない
- 言語機能を廃する
- 以下の4種の子音のうち、3種以上の発音が不能
- 口唇音(ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ)
- 歯舌音(な行、た行、だ行、ら行、さ行、しゅ、し、ざ行、じゅ)
- 口蓋音(か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
- 喉頭音(は行)
- 以下の4種の子音のうち、3種以上の発音が不能
咀嚼機能と言語機能のいずれかを失った場合、後遺障害3級に認定されるでしょう。なお、両方の機能を失った場合は、後遺障害1級に認定されることになります。
後遺障害3級3号|神経系統または精神の障害で一生働けない
後遺障害3級3号に認定される症状は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」です。
脳や神経に重い障害が残り、生命維持に欠かせない身の回りの処理はできるものの、働くことはできない場合、後遺障害3級3号に認定されることになります。
後遺障害3級3号に認められうる後遺症としては、高次脳機能障害、脳挫傷や脊髄損傷による身体性機能障害があげられます。それぞれの認定基準を見ていきましょう。
高次脳機能障害の場合
交通事故で高次脳機能障害を負った場合、次の4つの能力のいずれか1つ以上の能力がすべて失われているか、2つ以上の能力の大部分が失われていれば、後遺障害3級3号に認定されます。
- 意思疎通能力
例:職場で他の人と意思疎通ができない - 問題解決能力
例:作業を与えられても手順どおりに進めることが全くできない - 作業負荷に対する持続力・持久力
例:作業への集中が続かず、すぐに投げ出してしまう - 社会行動能力
例:大した理由もなく突然感情を爆発させる
高次脳機能障害で認定されうる後遺障害等級は症状に応じて異なります。
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるためのポイントや等級ごとの慰謝料相場、裁判で争われた事例などは、関連記事も参考にしてください。
高次脳機能障害の関連記事
- 高次脳機能障害の症状別の後遺障害等級を知りたい
関連記事:『高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?』
- 等級ごとの高次脳機能障害の慰謝料相場を知りたい
関連記事:『高次脳機能障害の慰謝料はいくら?後遺障害等級別の金額』
脳挫傷・脊髄損傷による身体性機能障害の場合
交通事故で脳挫傷や脊髄損傷を負い、身体性機能障害が残存した場合、中程度の麻痺が残れば後遺障害3級3号に認定されます。
中程度の麻痺の定義は以下のとおりです。
- 障害のある腕や足の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある
- 障害のある片腕では500グラム程度のものを持ち上げられない
- 障害のある片腕では文字を書けない
- 障害のある片足があるため杖や硬性装具なしに階段を登れない
- 障害のある片足があるため杖や硬性装具なしでは歩くのが難しい
脳挫傷と脊髄損傷で認定されうる後遺障害等級については、関連記事でも詳しく解説しています。
後遺障害3級4号|内臓機能の障害で一生働けない
後遺障害3級4号に認定される症状は、「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」です。
内臓に重い障害が残り、生命維持に欠かせない身の回りの処理はできるものの、働くことはできない場合、後遺障害3級4号に認定されることになるでしょう。
後遺障害3級4号に認定されうるのは、基本的に呼吸器の障害です。次のいずれかにあてはまり、かつ常時介護・随時介護を必要としないことが条件になります。
- 動脈血酸素分圧が50Torr以下
- 動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下で、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下)にない
- スパイロメトリーの結果が%1秒量が35以下または%肺活量が40以下で、呼吸困難のため連続して100メートル以上歩けない
交通事故で内臓を損傷した場合の症状や後遺障害認定基準、あるいは肺挫傷の後遺症については関連記事を参考にしてください。
より詳細な認定基準や検査方法について解説しています。
後遺障害3級5号|両手の手指をすべて失った
後遺障害3級5号に認定される症状は、「両手の手指の全部を失つたもの」です。
「手指を失う」の定義は以下のとおりになります。
- 手指を中手骨または基節骨で切り離した
- 近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)において基節骨と中手骨を切り離した
骨の名称や関節の位置については、以下の図をご覧ください。
つまり、両手の指すべてを第三関節以上(親指は第二関節以上)で切り離した場合、後遺障害3級5号に認定されることになります。
交通事故で手指を切断したり可動域制限が残ったりした場合の後遺障害認定は『手指の後遺障害|指切断・欠損、可動域制限の認定基準。マレット指で曲がらない』の記事でも解説しています。
後遺障害3級認定までの流れ
次に、後遺障害3級に認定されるまでの流れを簡単に確認していきます。
(1)医師から症状固定と診断される
後遺障害の認定をするには、まず交通事故で負った諸症状について、医師から症状固定の診断を受ける必要があります。
症状固定とは、「これ以上治療を続けても、症状の改善が見込めない状態のこと」です。
症状固定と診断されたことは、交通事故による後遺症が残ったことを意味します。この後遺症について、後遺障害認定を申請することになるのです。
(2)後遺障害診断書を書いてもらう
症状固定の診断を受けたら、後遺障害認定の申請準備をはじめます。まずは、医師に「後遺障害診断書」を書いてもらいましょう。
後遺障害診断書とは、後遺障害認定の審査に必要な書類のひとつで、受傷日時や症状固定日、他覚症状および検査結果、障害内容の今後の見通しなどが記載されます。
後遺障害認定の審査では、後遺障害診断書の内容が重視されます。よって、後遺障害認定を専門的にあつかう弁護士にもどのような内容を記載すべきかあらかじめ相談しておくとよいでしょう。
医師は医療の専門家ではありますが、後遺障害認定の専門家ではありません。よって、「医師に任せていれば大丈夫だろう」と過信するのは禁物です。
後遺障害診断書について解説した記事『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』では、後遺障害診断書の記入例や依頼時のポイントを紹介しています。あわせてご一読ください。
(3)後遺障害申請をする
後遺障害診断書を準備できたら、いよいよ後遺障害認定の申請を行います。
後遺障害認定の申請には、以下の2通りの方法があります。
- 事前認定
- 被害者請求
事前認定とは、相手方の任意保険会社を介して申請する方法です。任意保険会社が後遺障害診断書以外の書類の収集を行ってくれるので、被害者にとって手間がかからないことがメリットです。
一方、症状についての追加書類を添付するといった、より適切な等級に認定されるための工夫を行ってもらえないことはデメリットとなるでしょう。
被害者請求は、相手方の自賠責保険会社を介して申請する方法です。被害者自身で書類を集めなければいけないデメリットがありますが、検査結果や医師の意見書といった追加書類を添付し、より適切な等級に認定されるよう工夫できるのは明確なメリットになり得ます。
事前認定と被害者請求のどちらで申請すべきかは、症状によって異なります。判断に迷ったときは、後遺障害認定に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。
関連記事
事前認定による後遺障害申請:後遺障害の事前認定とは?
被害者請求による後遺障害申請:後遺障害申請は被害者請求と弁護士依頼が正解
後遺障害3級の慰謝料・示談金
後遺障害認定を受ければ、等級に応じた後遺障害慰謝料が請求できるようになります。
また、交通事故にあったときに請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。その他の示談金の費目についても、あわせて確認していきましょう。
後遺障害3級の慰謝料
後遺障害3級の慰謝料相場は1,990万円です。
ただし、後遺障害慰謝料の相場はどの算定基準で計算するかで変わります。「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」のうち3つの算定基準のどれを用いるかで、金額が異なるのです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
3級 | 861(829) | 1,990 |
※()内の金額は2020年3月31日以前の事故に適用
※ 単位:万円
自賠責基準と弁護士基準で、1,000万円以上の金額差があることがわかります。
後遺障害慰謝料が最も高額になるのは、弁護士基準を用いたときです。一方、自賠責基準は最も低額になり、任意保険基準は自賠責基準よりやや高額な程度の金額になります。
示談交渉において、任意保険会社は自賠責基準・任意保険基準のいずれかで計算した金額を提示してくるでしょう。高額であるため提示された条件で納得する方も多いですが、本来ならもっと多くの金額を受け取れる可能性もあるのです。
弁護士が示談交渉を行えば、弁護士基準の金額まで増額させられる可能性が高いです。後遺障害3級で示談交渉をしている方は、弁護士への依頼もご検討ください。
後遺障害3級の逸失利益計算
逸失利益は、後遺障害等級認定を受けた場合のみ請求できる賠償金です。
逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が低下してしまい、得られるはずだった生涯の収入が減ったことへの賠償金になります。
逸失利益の計算式は以下の通りで、被害者の立場や年齢によって使い分けられるものです。
逸失利益の計算式
- 有職者または就労可能者の場合
1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 - 症状固定時に18歳未満の未就労者の場合
1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数 )
労働能力喪失率は、基本的に後遺障害等級ごとに目安が定められています。
後遺障害3級の労働能力喪失率は100%です。後遺障害によって完全に労働能力が失われた状態です。
労働能力喪失期間は、症状固定から67歳までの年数が原則になります。労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数は下表の通りです。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1年 | 0.97 |
5年 | 4.58 |
10年 | 8.53 |
20年 | 14.88 |
30年 | 19.60 |
67歳までの年数を労働能力喪失期間とします。
たとえば、交通事故で症状固定となった年齢が57歳であれば労働能力喪失期間は10年で、ライプニッツ係数は8.53です。この被害者の事故前年収が450万円だったとき、逸失利益の計算は以下の通りとります。
450万円×100%×8.53=約3,838万円
逸失利益の相場は約3,838万円です。
逸失利益の計算についてもっと詳しく知りたい方は、関連記事『【逸失利益の計算】職業別の計算例や早見表・計算機つき|もらえない原因と対処法』もお読みください。
示談金の主な費目一覧|後遺障害しだいで介護費も請求可能
後遺障害3級に認定されたとき請求できる示談金の費目は、後遺障害慰謝料以外にも多くあります。主な費目を見ていきましょう。
概要 | |
---|---|
治療関係費 | 治療費、入院費、手術費、付添看護費、リハビリ費用 |
入通院慰謝料 | 怪我による精神的苦痛に対する補償(関連記事:交通事故の慰謝料は通院1日いくら?) |
休業損害 | 交通事故による休業で減った収入の補償(関連記事:交通事故の休業損害) |
後遺障害慰謝料※ | 後遺障害の残存による精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害逸失利益※ | 後遺障害の残存により将来的に減る収入の補償 |
介護費用※ | 後遺障害の内容に応じた補償 |
修理関係費用 | 修理費用、評価損など |
※後遺障害認定により請求可能となる
なお、介護費用は原則要介護1級や2級認定の場合に請求が認められるものです。
ただし判例では、四肢麻痺などで3級3号認定となった被害者の居宅リフォーム費用や、高次脳機能障害を負った主婦の台所のリフォーム費用なども認められています。
つまり、損害賠償請求の費目は後遺障害次第であり、法律の専門家に見積もってもらいましょう。
とくに計算方法が煩雑な慰謝料と逸失利益については、以下の自動計算機で目安を確認できます。
なお介護費用の請求についてさらに知りたい方は、関連記事も併せてお読みください。
後遺障害3級に認定されたら弁護士にも相談しておこう
交通事故の後遺症が後遺障害3級に認定されたら、相手方の任意保険会社との示談交渉を開始することになります。
示談交渉は、相手方の任意保険会社からの示談金の提示ではじまるのが一般的です。このとき提示される示談金は、被害者が本来受け取れる金額よりもかなり低いことが多いです。
後遺障害3級という重い障害を負ったなら、被害者自身やご家族の今後の生活のためにも、十分な示談金を得ることが大切になります。
まずは弁護士に相談し、本来受け取れる金額はいくらか確認してみてください。弁護士が示談交渉をすれば、相手方の任意保険会社に増額を認めてもらえる可能性も高くなります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了