交通事故での内臓損傷・内臓破裂の後遺障害等級と認定ポイント、慰謝料相場を解説
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交通事故では、衝突や転倒、転落による強い衝撃で内臓損傷や内臓破裂を起こすことがあります。
どの内臓を損傷・破裂するかにもよりますが、受傷後には呼吸困難や心臓機能の低下、消化吸収障害、尿失禁などの後遺症が残る場合があります。
交通事故後に内臓の後遺症が残ってしまったら、後遺障害認定の申請をしましょう。認定された等級に応じた後遺障害慰謝料・逸失利益を請求できます。
この記事では、内臓損傷・内臓破裂の概要、内臓別の後遺障害等級・認定基準、認定を受ける方法について詳しく解説していきます。
慰謝料・賠償金の解説もありますので、ぜひご確認ください。
目次
内臓損傷・内臓破裂とは?
内臓損傷・内臓破裂は、命にかかわるリスクもあるケガです。
具体的にどのような状態のことを指し、どのような症状があるのか、どのような治療をしていくことになるのかなど、見ていきましょう。
内臓損傷・内臓破裂とはどういう状態?
内臓損傷とは、外部からの強い衝撃によって内臓が傷ついたり、打撲のような状態になって炎症を起こしたりすることをいいます。
内臓破裂は、さらに強い衝撃により内臓が破裂した状態を指します。より重篤な状態だと言えるでしょう。
臓器には大きく分けて「実質臓器」と「管腔臓器」があります。
- 実質臓器
- 内部が詰まった、血液が豊富な臓器
- 大脳、甲状腺、副腎、すい臓、肝臓、腎臓、脾臓 など
- 管腔臓器
- 管や袋の形で、内部が空洞状になっている臓器
- 食道、気管、胃、大腸、小腸、膀胱 など
血液が豊富な実質臓器が損傷すると出血性ショック、空洞状の管腔臓器が損傷すると腹膜炎を発症することがあります。詳しい症状については、次をご覧ください。
内臓損傷・内臓破裂の症状
内臓損傷・内臓破裂の症状は、軽度~中程度のものであれば痛みや吐き気、腹部の腫れなどです。
出血性ショックや腹膜炎を引き起こすのは、重度の場合です。
| 重症度 | 出血量と症状 |
|---|---|
| 軽度 | ・出血量は少ない ・軽い腹部の痛み、吐き気、爪の変形や色の黒ずみなど |
| 中程度 | ・腹腔内出血(お腹の内部に血液がたまる)状態 ・腹部の腫れや圧痛(強く押すと感じる痛み) |
| 重度 | ・腹腔内出血が進行した状態 ・出血性ショックや腹膜炎などの合併症を併発 |
出血性ショックとは?
出血性ショックとは、実質臓器(肝臓や脾臓など内部が詰まった血液が豊富な臓器)の損傷により大量出血し、血液の循環が悪くなり、全身に十分な血液が運ばれなくなる状態のことです。
出血性ショックの症状には、チアノーゼ(肌の血の気が引く)や呼吸困難などがあり、ショック状態に陥ると意識障害が起こり、最悪の場合には死亡してしまうこともあります。
腹膜炎とは?
腹膜炎とは、胃腸の内容物や細菌が腹腔内に流れ出ることにより、腹部の内臓の表面を覆う腹膜が炎症する状態のことです。
管腔臓器(胃や小腸、大腸など管状、袋状の構造を有する臓器)を損傷した場合に多く見られる合併症です。
腹膜炎の症状には、腹壁の硬化や歩行困難などがあります。
交通事故による内臓損傷・内臓破裂の原因
交通事故で内臓損傷をする原因としては、主に下記のようなものが挙げられます。
- 事故の衝撃で自動車のハンドルに胸部や腹部が衝突して受傷
- 事故の衝撃でシートベルトがお腹を圧迫して受傷(シートベルト損傷)
- 車の車体が歩行者の背中に衝突して受傷
いずれの場合も、胸腹部に強い衝撃が加わることが原因です。
受傷状況から、骨折などその他の外傷も負うケースが多いでしょう。
内臓損傷・内臓破裂の治療法
内臓損傷や内臓破裂が疑われる場合には、主にレントゲンやMRI、CTといった画像検査に基づく診断が行われます。
検査によって、損傷(破裂)した臓器の特定や損傷・出血の有無・程度の確認ができ次第、その臓器に適した治療法が選択され、具体的には下記のような治療が行われます。
- 保存的治療
- 動脈塞栓術(血管にカテーテルを挿入し、出血部位を塞ぐための物質を注入する止血法)
- 開腹手術(破裂臓器の修復または摘除)
- 全身的治療(臓器に栄養と酸素が届くよう、輸液や輸血、酸素吸入を行う)
内臓損傷や内臓破裂では、最初の数日間の治療が生存率を左右するといわれています。そのため、緊急手術が必要となる事案も多いのが特徴です。
内臓損傷・内臓破裂は後遺症が残る?
内臓損傷は、手足のケガや頭部外傷などに比べて後遺症が残りにくいとされています。
その理由は、手足や脳神経への外傷は回復が難しいのに対し、胸腹部の臓器は生命維持に必要な役割を担っており、損傷しても健常部分が代わりに機能することが多いからと言われています。
しかし、重度の内臓損傷や内臓破裂では後遺症が残ることもあります。主な後遺症は次の通りです。
- 呼吸器系
- 呼吸機能の低下、呼吸困難
- 負荷のかかる運動が制限されたり、寝たきり状態になったりすることもある
- 循環器系
- 心臓機能や免疫機能の低下
- 負荷のかかる運動が制限されることもある
- 除細動器やペースメーカー、心臓弁の置換が必要になることもある
- 消化器系
- 食道の通過障害
- 消化吸収障害
- ダンピング症候群(食べ物が胃にとどまらず、すぐに小腸に流れ込む)
- 人工肛門の造設
- 小腸や大腸の切除・狭さく
- 便秘・便失禁
- 肝硬変・慢性肝炎 など
- 必尿器系
- 尿失禁
- 残尿 など
- 生殖器系
- 生殖機能の障害
内蔵損傷・内臓破裂の後遺障害等級と慰謝料相場
内臓損傷や内臓破裂で後遺症が残ったら、後遺障害等級の認定を受けましょう。
認定された等級に応じた、後遺障害慰謝料を請求できるようになるからです。
内臓損傷や内臓破裂の後遺症で認定されうる後遺障害等級と、認定基準は以下表の通りです。ただし、もう少し細かく、後遺症の部位・症状ごとに認定基準があります。
| 等級 | 認定基準 |
|---|---|
| 要介護1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 慰謝料:2800万円 |
| 要介護2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 慰謝料:2370万円 |
| 3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 慰謝料:1990万円 |
| 5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 慰謝料:1000万円 |
| 7級13号 | 両側の睾丸を失ったもの 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの 慰謝料:690万円 |
| 9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの 慰謝料:420万円 |
| 13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの 慰謝料:180万円 |
以下の項目に分けて、後遺障害等級の認定基準や慰謝料相場を見ていきましょう。
なお、ここで紹介する慰謝料相場は、過去の判例に基づく「弁護士基準」に沿ったものです。
(1)呼吸器系|肺・胸膜(肋膜)・横隔膜など
交通事故により肺・胸膜(肋膜)・横隔膜などの呼吸器が損傷した場合、以下の後遺症が残ることがあります。
【呼吸器系の後遺症】
- 呼吸困難
→負荷のかかる運動が制限される症状が残ったり、寝たきりの状態になってしまったりすることがある
呼吸器の後遺症が残ったら、以下の測定結果から後遺障害等級が判断されます。
- 動脈血ガス分析による測定
- スパイロメトリー(肺機能検査)の測定および呼吸困難の程度
- 運動負荷試験による測定
原則として「動脈血ガス分析」が重視されますが、補助的に「スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度」、「運動負荷試験の結果」も評価に用いられることがあります。
動脈血ガス分析の検査結果で該当する等級よりも、補助的な検査の検査結果で該当する等級の方が上位の場合、後者が採用される仕組みです。
それでは、それぞれの測定結果別に、後遺障害認定基準を確認していきましょう。
動脈血ガス分析による測定
先述のとおり、呼吸器の後遺障害認定では「動脈血ガス分析」という検査方法による測定結果が重視されます。
この分析では、動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の測定値を確認します。
- 動脈血ガス分析
動脈から血を採取し、血液中の酸素や二酸化炭素のガス濃度を測定して肺などの臓器の状態を知る - 動脈血酸素分圧=酸素の濃度
- 動脈血炭酸ガス分圧=二酸化炭素の濃度
重要となるのは、「介護を必要とするか」「動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外か」の2点です。
- 常時介護を必要とする
生活全般において介護が必要な状態のこと - 随時介護を必要とする
日常生活の一部の動作について介護や看視、声かけが必要な状態のこと - 動脈炭酸ガス分圧の限界値範囲とは
37Torr~43Torrの間のこと
この点も踏まえ、動脈血酸素分圧が50Torr以下、50Torr超~60Torr、60Torr超~70Torr、70Torr超の場合にわけて、後遺障害認定基準を見ていきましょう。
動脈血酸素分圧が50Torr以下
| 要介護1級2号 | 呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの 慰謝料:2800万円 |
| 要介護2級2号 | 呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの 慰謝料:2370万円 |
| 3級4号 | 上記2つの基準に該当しないもの 慰謝料:慰謝料:1990万円 |
動脈血酸素分圧が50Torr超~60Torr
| 要介護1級2号 | 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの 慰謝料:2800万円 |
| 要介護2級2号 | 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの 慰謝料:2370万円 |
| 3級4号 | 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、上記2つの基準に該当しないもの 慰謝料:1990万円 |
| 5級3号 | 上記3つの基準に該当しないもの 慰謝料:1400万円 |
動脈血酸素分圧が60Torr超~70Torr
| 7級5号 | 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 上記の基準に該当しないもの 慰謝料:690万円 |
動脈血酸素分圧が70Torr超
| 11級9号 | 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの 慰謝料:690万円 |
スパイロメトリーの測定および呼吸困難の程度
呼吸器の後遺障害認定の補助的な指標として、スパイロメトリーの測定値(%1秒量、%肺活量)と呼吸困難の程度を組み合わせた基準も定められています。
- スパイロメトリー
息を吸ったり吐いたりして、肺活量など換気機能(空気を出し入れする機能)に異常がないかを調べる検査 - %1秒量
検査の最初の1秒間に吐き出した空気量 - %肺活量
平均的な肺活量とくらべ患者の肺活量がどのくらいか
また、呼吸困難の程度は以下のように分類されます。
- 高度の呼吸困難
呼吸困難のため、連続しておおむね100メートル以上歩けない - 中等度の呼吸困難
呼吸困難のため、平地で健常者と同様のペースでは歩けないが、自分のペースなら1キロ程度歩ける - 軽度の呼吸困難
呼吸困難のため、健康な人と同じように階段の昇降ができない
これらを踏まえ、%1秒量が35以下または%肺活量が40以下、%1秒量が35超~55または%肺活量が40超~60、%1秒量が55超~60または%肺活量が60超~80以下の場合にわけ、後遺障害認定基準を見ていきます。
%1秒量が35以下または%肺活量が40以下
| 要介護1級2号 | 高度の呼吸困難が認められ、かつ呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの 慰謝料:2800万円 |
| 要介護2級2号 | 高度の呼吸困難が認められ、かつ呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの 慰謝料:2370万円 |
| 3級4号 | 高度の呼吸困難が認められ、上記2つの基準に該当しないもの 慰謝料:1990万円 |
| 7級5号 | 中等度の呼吸困難が認められるもの 慰謝料:1000万円 |
| 11級9号 | 軽度の呼吸困難が認められるもの 慰謝料:690万円 |
%1秒量が35超~55または%肺活量が40超~60
| 7級5号 | 高度または中等度の呼吸困難が認められるもの 慰謝料:1000万円 |
| 11級9号 | 軽度の呼吸困難が認められるもの 慰謝料:690万円 |
%1秒量が55超~70または%肺活量が60超~80
| 11級9号 | 高度、中等度または軽度の呼吸困難が認められるもの 慰謝料:690万円 |
運動負荷試験による測定
運動負荷試験による後遺障害等級の検討は、以下の場合に行われます。
- 「動脈血ガス分析」や「スパイロメトリーによる検査」では後遺障害等級に該当しない
- 呼吸機能の低下による呼吸困難がある
上記のようなケースで運動負荷試験を行い、明らかに呼吸機能に障害があると認められる場合は、後遺障害11級9号(慰謝料:690万円)に認定される可能性があるでしょう。
【運動負荷試験とは】
患者に実際に運動してもらって心肺機能を確認する検査のこと。
6分間・10分間の歩行試験、シャトルウォーキングテストなどがある。
ただし、運動負荷試験による測定で後遺障害認定を目指す際は、以下が必要です。
- 医師に意見書を書いてもらう
- 運動負荷試験の内容や結果、試験が適正に行われたことを示す根拠を示す
- 呼吸機能に障害があると考える根拠を示す など
また、呼吸器専門医の意見も必要でしょう。
動脈血ガス分析やスパイロメトリーの測定値で認定を目指すよりもやや難易度が高いので、交通事故事案に精通した弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
(2)循環器系|心臓・脾臓など
交通事故により、心臓や脾臓といった血液などの体液を体内で循環させるための循環器が損傷すると、心機能が低下し、負荷のかかる運動ができなくなるといった症状が残ることがあります。
また、除細動器やペースメーカーを埋め込んだり、心臓弁を置換したりする必要が生じる方もいらっしゃるでしょう。
交通事故で循環器に以下の症状が残ったら、後遺障害認定を受けられる可能性があります。
- 心機能が低下した
- 除細動器またはペースメーカーを植え込んだ
- 房室弁または大動脈弁を置換した
- 大動脈に解離が残った
- 脾臓を摘出した
それぞれの症状で認定されうる等級と基準を見ていきましょう。
心機能が低下したもの
心機能が低下した場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 9級11号 | 心機能の低下による運動耐容能の低下が中程度であるもの 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるもの 慰謝料:420万円 |
運動耐容能とは「運動負荷に耐えられる能力」のことです。
運動強度の指標である「METs」という単位を用いて、どのくらいの運動に耐えられるかといった判断をします。
9級11号・11級10号に当てはまるのは、具体的には以下のような状態です。
- 9級11号
- 6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの(例:家財道具を移動できない)
- 平地を急いで歩く、健康な人と同じような速度で階段を昇るなどができない状態
- 11級10号
- 8METsを超える強度の身体活動が制限されるもの(例:家財道具を上の階に運べない)
- 平地を急いで歩くことには支障がないが、それ以上激しい身体活動ができない状態
除細動器またはペースメーカーを植え込んだもの
除細動器やペースメーカーを植え込んだ場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 7級5号 | 除細動器を植え込んだもの 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | ペースメーカーを植え込んだもの 慰謝料:690万円 |
心臓に除細動器やペースメーカーを植え込んだ場合、一定の姿勢を避けなければならないため、運動や労働に制限がかかることが見込まれます。
また、電磁波の影響に気を付ける必要があるといった生活上の注意も生じるでしょう。
そのため、上記のような後遺障害等級に相当すると評価されるのです。
なお、除細動器やペースメーカーを植え込み、かつ心機能が低下した場合は、後述する「併合」の方法により上位の等級に認定される可能性もあります。
房室弁または大動脈弁を置換したもの
房室弁や大動脈弁に異常が生じ、人工弁に置換する手術を行った場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 7級5号 | 房室弁または大動脈を置換し、継続的に抗凝血薬療法を行うもの 慰謝料:1000万円 |
| 11級10号 | 房室弁または大動脈を置換し、7級5号の基準に該当しないもの 慰謝料:690万円 |
大動脈に解離を残すもの
大動脈解離とは、大動脈が縦に裂けることをいいます。
交通事故により胸腹部への大きな衝撃があると生じる可能性があり、大量の出血が生じる恐れもある危険なケガです。
大動脈解離を発症した場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 11級10号 | 偽腔開存型の解離を残すもの 慰謝料:690万円 |
大動脈解離により、本来血液が流れるべきではない偽腔部分が閉塞せず、血流が残っている場合に後遺障害等級が認定されます。
脾臓を失った
交通事故により脾臓損傷・脾臓破裂して大量出血となった場合、脾臓摘出をすることがあります。
脾臓は、古くなった赤血球を除去する役割などを担っており、摘出されると、免疫機能に影響があり、感染症に罹患するリスクが高まります。
摘出により脾臓を完全に失ったのであれば、後遺障害13級11号(慰謝料:180万円)に認定されます。
(3)消化器系|食道・胃・腸・肝臓・膵臓など
腹部臓器は、大きく消化器系、泌尿器系、生殖器系の3つに分類されます。
消化器とは、食べ物を消化するための器官のことです。
上記のうち、消化器系には下記のような腹部臓器が含まれます。
- 食道
- 胃
- 小腸
- 大腸
- 肝臓
- 胆のう
- 膵臓
- 腹部臓器周辺のヘルニア
それぞれの臓器ごとに、認定基準を見ていきましょう。
食道
交通事故で食道を損傷した場合、食道が狭くなってうまく食べ物を胃に運べない通過障害が起こることがあります。
食道の損傷で通過障害で以下に該当すれば、後遺障害9級11号(慰謝料:690万円)に認定される可能性があるでしょう。
- 通過障害の自覚がある
- 消化管造影検査により、食道の狭窄(きょうさく)による造影剤のうっ滞が認められる
胃
交通事故で胃を損傷した場合、以下の後遺症が残ることがあります。
- 消化吸収障害
- 消化吸収がうまくできなくなる症状
- 次のいずれかに該当
- 胃の全部を亡失した
- 噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重(BMI20以下。事故前からBMI20以下なら体重が10%以上減った)
- ダンピング症候群
- 食べ物が胃にとどまらずすぐに小腸に流れ込んでしまう症状
- 次のいずれもに該当
- 胃の全部または幽門部を含む胃の一部を亡失した
- 早期ダンピング症候群に起因する症状または晩期ダンピング症候群に起因する症状(食後30分以内に出現するめまいや起立不能等もしくは食後2~3時間後に出現するめまいや全身の脱力感等)がみられる
- 胃切除術後逆流性食道炎(次のいずれもに該当)
- 胃の全部または噴門部を含む胃の一部を亡失した
- 胸やけ、胸痛、嚥下困難などの胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状がある
- 内視鏡検査により食道にびらんや潰瘍などの胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見が認められる
胃の損傷で後遺症が残った場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 7級5号 | 消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎のいずれもが認められる 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 消化吸収障害およびダンピング症候群が認められる 消化吸収障害および胃切除術後逆流性食道炎が認められる 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められる 慰謝料:420万円 |
| 13級11号 | 噴門部または幽門部(胃の入り口部分または出口部分)を含む胃の一部を亡失した 慰謝料:180万円 |
小腸
交通事故で小腸を損傷した場合、以下の症状が残ることがあります。
- 小腸を大量に切除する
- 人工肛門(排泄口)を造設する
- 小腸皮膚瘻を残す
- 小腸の狭さくを残す
それぞれの症状ごとに、認められうる後遺障害等級を見ていきましょう。
小腸を大量に切除した場合
| 9級11号 | 残存する空腸および回腸の長さが100cm以下 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 残存する空腸および回腸の長さが100cmを超え300cm未満であり、消化吸収障害が認められる 慰謝料:420万円 |
なお、小腸を切除して人工肛門を造設した場合は、次の「人工肛門を造設した場合」の認定基準を適用してください。
人工肛門を造設した場合
| 5級3号 | 小腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんが生じ、パウチなどの装着ができない 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 上記の基準に該当しない 慰謝料:1000万円 |
小腸皮膚瘻を残した場合
| 5級3号 | 瘻孔から小腸内容の全部または大部分が漏出し、小腸皮膚瘻周辺に著しいびらんが生じ、パウチなどの装着ができない 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 瘻孔から小腸内容の全部または大部分が漏出し、5級3号の基準に該当しない 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上で、パウチなどによる維持管理が困難 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上で、7級5号の基準に該当しない 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する 慰謝料:420万円 |
小腸の狭さくを残した場合
| 11級10号 | 小腸に狭さくを残す 慰謝料:420万円 |
なお、小腸に狭さくを残すとは、次の2つの条件に該当することを言います。
- 月1回程度、腹痛・腹部膨満感・嘔気・嘔吐などの症状が認められる
- 単純X線像においてケルクリングひだ像が認められる
大腸
交通事故で小腸を損傷した場合、以下の症状が残ることがあるでしょう。
- 大腸を大量に切除する
- 人工肛門(排泄口)を造設する
- 大腸皮膚瘻を残す
- 大腸の狭さくを残す
- 便秘を残す
- 便失禁を残す
それぞれの症状ごとに、認められうる後遺障害等級を確認していきます。
大腸を大量に切除した場合
| 11級10号 | 結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除した 慰謝料:420万円 |
なお、大腸を切除して人工肛門を造設した場合は、次の「人工肛門を造設した場合」の認定基準を適用してください。
人工肛門を造設した場合
| 5級3号 | 大腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんが生じ、パウチなどの装着ができない 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 上記の基準に該当しない 慰謝料:1000万円 |
大腸皮膚瘻を残した場合
| 5級3号 | 瘻孔から大腸内容の全部または大部分が漏出し、大腸皮膚瘻周辺に著しいびらんが生じ、パウチなどの装着ができない 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 瘻孔から大腸内容の全部または大部分が漏出し、5級3号の基準に該当しない 瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上で、パウチなどによる維持管理が困難 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 瘻孔から漏出す大腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上で、7級5号の基準に該当しない 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 瘻孔から少量ではあるが明らかに大腸内容が漏出する 慰謝料:420万円 |
大腸の狭さくを残した場合
| 11級10号 | 大腸に狭さくを残す 慰謝料:420万円 |
大腸に狭さくを残すとは、次の2つの条件に該当することを言います。
- 月1回程度、腹痛・腹部膨満感などの症状が認められる
- 単純X線像において貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められる
便秘を残した場合
| 9級11号 | 用手摘便を要すると認められる 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 上記の基準に該当しない 慰謝料:420万円 |
ここで言う便秘とは、次の2つの条件に該当することです。
- 排便反射を支配する神経の損傷がMRIやCTなどで確認できる
- 排便回数が週2回以下の頻度であり、恒常的に硬便であると認められる
便失禁を残した場合
| 7級5号 | 完全便失禁を残す 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 常時おむつの装着が必要であり、7級5号の基準に該当しない 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 常時おむつの装着が必要ではないものの、明らかに便失禁があると認められる 慰謝料:420万円 |
肝臓
交通事故で肝臓を損傷すると、慢性肝炎や肝硬変といった症状が生じることがあります。
慢性肝炎は、肝臓の炎症が最低6ヶ月以上継続している症状であり、肝硬変に進行するおそれがある疾患です。
慢性肝炎などにより肝細胞が細胞死すると、それを補修するため「線維組織」できます。これが肝臓全体に広がり、肝臓が硬く、さらには小さくなった状態が、肝硬変です。
肝機能の低下に伴って、以下のような症状が現れます。
- 腹水(お腹が張る)
- 浮腫(膝から下へのむくみ)
- 黄疸(白目や皮膚が黄色く染まる)
肝臓の損傷で後遺症が残った場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 9級11号 | 肝硬変 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 慢性肝炎 慰謝料:420万円 |
なお、肝硬変・慢性肝炎が後遺障害認定を受けるには、いずれも「ウイルスの持続感染が認められる」「AST(GOT)・ALT(GPT)が持続的に低値である」という2つの条件を満たしていることが必要です。
AST(GOT)やALT(GPT)とは、身体の重要な構成要素であるアミノ酸を作り出す酵素のことです。
胆のう
交通事故で胆のうを損傷すると、脂肪を分解するための胆汁を貯蔵する機能が失われます。
その結果、消化吸収が悪化して、食事制限を強いられたり、排便に支障が出たりすることがあるでしょう。
胆のうについては、完全に失ったなら後遺障害13級11号(慰謝料:180万円)に認定される可能性があります。
膵臓
交通事故で膵臓を損傷すると、ホルモンを分泌する内分泌機能や食べ物を消化する膵液を作る外分泌機能が失われます。
その結果、糖尿病や脂肪便になるといった症状が起こることがあります。
膵臓の損傷で後遺症が残った場合の後遺障害認定基準は以下のとおりです。
| 9級11号 | 外分泌機能の障害・内分泌機能の障害の両方が認められる 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 外分泌機能の障害・内分泌機能の障害のいずれかが認められる 慰謝料:420万円 |
| 12級13号 14級9号 | 軽微な膵液瘻を残したために皮膚に疼痛等が生じる(局部の神経症状として評価) 慰謝料:4290万円(12級13号)、110万円(14級9号) |
なお、後遺障害認定における「外分泌機能の障害」「内分泌機能の障害」の定義はそれぞれ以下のとおりです。
- 外分泌機能の障害(次のいずれにも該当)
- 上腹部痛、脂肪弁、頻回の下痢などの外分泌機能の低下による症状が認められる
- 次のいずれかに該当する
- 膵臓を一部切除した
- BT-PABA(PFD)試験で異常低値(70%未満)を示した
- ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示した
- アミラーゼまたはエラスターゼの異常低値を認めた
- 内分泌機能の障害
- 異なる日に行った経口糖負荷試験で境界型または糖尿病型であることが2回以上確認された
- 空腹時血漿中のC-ペプチド(CPR)が0.5ng/ml以下
- Ⅱ型糖尿病に該当しない
腹部臓器周辺のヘルニア
交通事故で腹部臓器の周辺を損傷したり、腹部臓器の手術をしたりすると、内臓などが筋膜から飛び出してしまうヘルニアが生じてしまうことがあります。
交通事故で腹壁瘢痕ヘルニア・腹壁ヘルニア・鼠経ヘルニア(いわゆる脱腸)・内ヘルニアが残ったなら、以下の後遺障害等級に認定される可能性があるでしょう。
| 9級11号 | 常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められる 立位をしたとき常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められる 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 重激な業務に従事した場合など、腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められる 慰謝料:420万円 |
(4)泌尿器系|腎臓・膀胱など
泌尿器とは、腎臓、膀胱、尿管、尿道等の、血液の老廃物や余分な水分、塩分などをろ過して尿として排出するための器官のことです。
交通事故により泌尿器を損傷すると、腎不全や排尿障害といった症状が残ることがあるでしょう。
「腎臓の障害」「尿管・膀胱・尿道の障害」の2つの区分にわけ、泌尿器の機能障害の具体的な認定基準を見ていきます。
腎臓の障害
腎臓の障害については、左右対称に1つずつあるうちの「片側の腎臓を失ったか」「GFR値(ml/分)はいくつか」によって後遺障害等級が決まります。
なお、GFR値とは、1分間に腎臓にある糸球体が血液をろ過して尿を作った量を示す値のことであり、腎機能を見る指標です。
片側(片方)の腎臓を失った場合と失っていない場合にわけ、後遺障害認定基準を見ていきます。
片側の腎臓を失った場合
| 7級5号 | GFR値が30超~50 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | GFR値が50超~70 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | GFR値が70超~90 慰謝料:420万円 |
| 13級11号 | GFR値が90超 慰謝料:180万円 |
片側の腎臓を失っていない場合
| 9級11号 | GFR値が30超~50 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | GFR値が50超~70 慰謝料:420万円 |
| 13級11号 | GFR値が70超~90 慰謝料:180万円 |
尿管・膀胱・尿道の障害
尿管・膀胱・尿道の障害については、大きく「尿路変向術を行った」「排尿障害が残った」「蓄尿障害が残った」といった3つの区分にわけられます。
尿路変向術とは、膀胱や尿管などを損傷することで通常は腎臓、尿管、膀胱、尿道の順で尿を排出する「尿路」の機能が損なわれたため、尿を排出するために新たな経路を作る外科手術のことです。
それぞれの区分ごとに、後遺障害認定基準を見ていきましょう。
尿路変向術を行った
| 5級3号 | 非尿禁制型尿路変向術を行ったもので、尿が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パッド等の装着ができない 慰謝料:1400万円 |
| 7級5号 | 非尿禁制型尿路変向術を行ったもので5級3号の基準に該当しない 禁制型尿リザボアの術式を行った 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 尿禁制型尿路変向術(禁制型尿リザボアおよび外尿道口形成術を除く)を行った 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 外尿道口形成術を行った 尿道カテーテルを留置した 慰謝料:420万円 |
排尿障害が残った
| 9級11号 | 残尿が100ミリリットル以上 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 残尿が50ミリリットル以上100ミリリットル未満 尿道狭窄(狭さく)のため、糸状ブジーを必要とする 慰謝料:420万円 |
| 14級相当 | 尿道狭さくのため、「シャリエ式」尿道ブジー第20番が辛うじて通り、時々拡張術を行う必要がある 慰謝料:110万円 |
蓄尿障害が残った
| 7級5号 | 持続性尿失禁を残す 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、終日パッド等を装着し、かつパッドをしばしば交換しなければならない 慰謝料:1000万円 |
| 9級11号 | 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しない 慰謝料:690万円 |
| 11級10号 | 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれる 頻尿 慰謝料:420万円 |
持続性尿失禁、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁とは、以下のようなものです。
- 持続性尿失禁
一過性でなく、尿道を締める筋肉に障害があるなどの理由で尿漏れを繰り返す状態 - 切迫性尿失禁
突然の激しい尿意が起こり(尿意切迫感)、直後あるいは同時にコントロールできない尿漏れが起こる状態 - 腹圧性尿失禁
咳やくしゃみをする、笑う、物を持ち上げる等して腹腔内の圧力が急激に上昇した結果、尿漏れが引き起こされる状態
11級10号の「頻尿」の目安は、多飲などの原因がなく日中8回以上の排尿が認められることです。頻尿で後遺障害認定を受けるためには、器質的な病変や支配神経の損傷を示す必要もあります。
(5)生殖器系|睾丸など
交通事故により生殖器が損傷すると、生殖機能を喪失したり障害が残ったりする症状が残ることがあります。
生殖器の機能障害は、前出の表のとおり「生殖機能を完全に喪失したもの」が7級、「生殖機能に著しい障害を残すもの」が9級、「生殖機能に障害を残すもの」が11級、「生殖機能に軽微な障害を残すもの」が13級に認定されることになります。
「著しい障害」とは、生殖機能は残っているものの、通常の性交では生殖できない状態をいいます。
生殖器の働きは男女で異なるため、後遺障害認定基準も男女で違いがあります。
男性と女性の場合にわけて、生殖器の機能障害の具体的な認定基準を見ていきましょう。
男性の場合
男性の生殖器の機能障害の後遺障害認定基準は、以下のとおりです。
| 7級13号 | 両側の睾丸を失ったもの 慰謝料:1000万円 |
| 7級相当 | 常態として精液中に精子が存在しないもの 慰謝料:1000万円 |
| 9級17号 | 陰茎の大部分を欠損したもの 勃起障害を残すもの 射精障害を残すもの 慰謝料:690万円 |
| 13級相当 | 一側の睾丸を失ったもの 慰謝料:180万円 |
9級17号に認定される各症状には具体的な基準があるので、確認していきます。
- 陰茎の大部分を欠損した
- 陰茎を膣に挿入することができないと認められるものに限る
- 勃起障害を残す(次のいずれかに該当)
- 夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャンによる夜間陰茎勃起検査により証明される
- 神経系検査または血管系検査で支配神経の損傷といった勃起障害の原因となりうる所見が認められる
- 射精障害を残す(次のいずれかに該当)
- 尿道または射精管が断裂している
- 両側の下腹神経の断裂により当該神経の機能が失われている
- 膀胱頚部の機能が失われている
また、13級相当となる「一側の睾丸を失ったもの」には、一側の睾丸が失われたと準じられる程度に萎縮したものも含みます。
女性の場合
女性の生殖器の機能障害の後遺障害認定基準は、以下のとおりです。
| 7級相当 | 両側の卵巣を失ったもの 常態として卵子が形成されないもの※ 慰謝料:1000万円 |
| 9級17号 | 膣口狭さくを残すもの 両側の卵管に閉塞もしくは癒着を残すもの 頸管に閉塞を残すもの 子宮を失ったもの 慰謝料:690万円 |
| 11級相当 | 狭骨盤または比較的狭骨盤 慰謝料:420万円 |
| 13級相当 | 一側の卵巣を失ったもの 慰謝料:180万円 |
※女性で2.5グレイ以上の大量の放射線被爆を前提としたもので、交通事故では通常想定されていない。
9級17号に認定される各症状には具体的な基準があるので、確認していきましょう。
- 膣口狭さくを残す
- 陰茎(男性器)を膣に挿入することができないと認められるものに限る
- 両側の卵管に閉塞もしくは癒着を残す、頸管に閉塞を残す、子宮を失った
- 画像所見により認められるものに限る
また、11級相当である「狭骨盤または比較的狭骨盤」とは、産科的真結合線が10.5cm未満または入口部横径が11.5cm未満のものを指します。
内臓損傷・破裂で後遺障害認定を受けるには?
次に、交通事故による内臓損傷・内臓破裂で後遺障害認定を受ける手続きと注意点を解説していきます。
後遺障害認定の手続きの流れ
後遺障害に認定されるまでの流れは、基本的に以下のようになります。
後遺障害等級認定の手続きの流れ

- 事故の発生後、入通院治療を行う
- 医師から「症状固定」と診断される
- 医師に「後遺障害診断書」を作成してもらう
- 保険会社を介し、審査機関に申請書類を提出する
- 審査機関で審査が行われ、保険会社を介して結果が通知される
症状固定とは、「これ以上治療しても症状が改善しないとみなされた状態」のことです。
後遺障害認定を受けるには、基本的に症状固定まで6か月以上の治療期間が必要とされています。
ただし、内臓の一部を切除しているなど、これ以上治療しても改善しないことが明らかである症状は除きます。
また、後遺障害認定の審査は基本的に書面で行われます。
よって、書面で後遺障害の認定基準を満たしていると示すことが非常に大切です。
医師の作成する「後遺障害診断書」に症状を測定値も含めてしっかりと記載してもらいましょう。提出前に後遺障害認定にくわしい弁護士に書類をチェックしてもらうことも有効です。
詳しい後遺障害の申請手続きは、『交通事故で後遺障害を申請する|認定までの手続きの流れ、必要書類を解説』で紹介しています。あわせてご参考ください。
複数の内臓や内臓以外の部位に後遺症が残ったときは?
交通事故で内臓損傷・内臓破裂を負うような衝撃を受けたなら、複数の内臓が損傷したり、内臓以外の部位もケガをしていたりすることが考えられます。
複数の後遺症が残ったら、それぞれの症状について後遺障害認定を受け、複数の等級に認定されたら等級を繰り上げる「併合」という処理がされることになるでしょう。
併合による等級の繰り上げは、基本的に以下の考え方で行われます。
併合による等級の繰り上げ
- 5級以上が2つ以上あるなら、重い方の等級を3級繰り上げる
- 8級以上が2つ以上あるなら、重い方の等級を2級繰り上げる
- 13級以上が2つ以上あるなら、重い方の等級を1級繰り上げる
- 14級が2つ以上あるなら、14級のまま
- その他の場合は、重い方の等級に従う
たとえば、腹部臓器の症状で後遺障害11級、神経症状で後遺障害12級に認定されたなら、重い方の後遺障害11級を1級繰り上げ、併合10級に認められるのです。
ただし、後遺障害等級の併合にあたっては以下のような注意点もあります。
- 後遺障害認定では「系列」という区分が定められている。
複数の系列で後遺障害等級に認定されたら、まず同一系列内で併合を行い、そのうえで他の系列との併合を行う。- 例:腹部臓器と泌尿器の併合をしたうえで、足の変形と併合する
- 内臓と別系列の症状が派生関係にある場合、併合するのではなくいずれか上位の等級に認定する。
- 例:肋骨の変形で後遺障害12級、それを原因とする呼吸器の障害で後遺障害11級に認定されたら、上位である後遺障害11級に認定する。
複数の後遺症が残ったら、どの後遺障害等級への認定を目指すかは個別具体的な事情を考慮して決めなければなりません。
ご自身の症状で後遺障害何級を目指すべきか知りたい方は、交通事故事案を取り扱っている弁護士に相談するとよいでしょう。
なお、後遺障害等級の併合ルールについては関連記事『後遺障害等級の認定ルール「併合・相当・加重」後遺症が複数残った時の慰謝料は?』でも詳しく解説しています。
内臓損傷・破裂の慰謝料・賠償金はいくら?
交通事故で内臓を損傷し、後遺障害認定を受けたら、将来の生活のためにも事故の相手方にしっかりと賠償を求めていくことが大切です。
ここからは、内臓損傷で後遺障害認定を受けたら請求できる「後遺障害慰謝料」「逸失利益」を中心に、相手方に請求できる損害賠償金を解説していきます。
(1)後遺障害慰謝料|精神的な苦痛の補償
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残った精神的な苦痛への賠償金です。
後遺障害慰謝料の相場は、後遺障害等級によって異なります。
なお、交通事故の慰謝料には3種類の「算定基準」があり、どの基準を用いるかによっても金額が変わってきます。
交通事故の慰謝料の算定基準とは?
- 自賠責保険が用いる「自賠責基準」、任意保険が用いる「任意保険基準」、弁護士や裁判所が用いる「弁護士基準」の3種類がある。
- 慰謝料額は、基本的に「自賠責基準≦任意保険基準<弁護士基準」となる。

上記を踏まえて、後遺障害慰謝料がもっとも低額になる自賠責基準と、もっとも高額になる弁護士基準の相場を比べてみましょう。
| 等級 | 自賠責 | 弁護士 |
|---|---|---|
| 1級・要介護 | 1,650(1,600) | 2,800 |
| 2級・要介護 | 1,203(1,163) | 2,370 |
| 1級 | 1,150(1,100) | 2,800 |
| 2級 | 998(958) | 2,370 |
| 3級 | 861(829) | 1,990 |
| 4級 | 737(712) | 1,670 |
| 5級 | 618(599) | 1,400 |
| 6級 | 512(498) | 1,180 |
| 7級 | 419(409) | 1,000 |
| 8級 | 331(324) | 830 |
| 9級 | 249(245) | 690 |
| 10級 | 190(187) | 550 |
| 11級 | 136(135) | 420 |
| 12級 | 94(93) | 290 |
| 13級 | 57(57) | 180 |
| 14級 | 32(32) | 110 |
※単位:万円
※()内は2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合
自賠責基準と弁護士基準で、数十万円~千数百万円の金額差があることに注意しなければなりません。
加害者側の任意保険会社は、自賠責基準とほぼ同額か、自賠責基準にやや上乗せした程度の金額を提示してくるでしょう。この金額には、大幅な増額の余地があるのです。
しかしながら、被害者自身で弁護士基準の金額を主張しても、相手方の任意保険会社に認めてもらえることはほとんどありません。
そのような場合は、法律の専門家である弁護士に示談交渉を代理してもらうことで、増額を叶えられるでしょう。
請求できる慰謝料は他にもある
交通事故で後遺障害を負った方は、後遺障害慰謝料の他に、入通院慰謝料も請求することが可能です。
入通院慰謝料とは、交通事故で入通院した精神的苦痛への賠償金であり、治療期間や治療日数をもとに計算されます。入通院慰謝料も、算定基準によって金額が大きく異なることに注意しなければなりません。
交通事故の慰謝料についてより詳しく知りたい方は、『交通事故の慰謝料|相場や計算方法を知って損せず増額【2025年最新】』の記事をご参考ください。
各慰謝料の金額の目安や適切な金額を受け取るためのポイントを紹介しています。
(2)逸失利益|将来的な減収の補償
逸失利益は、後遺障害が残ったため将来にわたって減った収入の補償です。
交通事故で内臓の機能障害が残ると、仕事を辞めざるを得なくなったり就労できる範囲が限られてしまったりする可能性が生じます。
このように後遺障害の影響で減ってしまう将来的な収入は、逸失利益として相手方に賠償してもらえるのです。

逸失利益の計算方法は以下のとおりです。
逸失利益の計算式
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
- 基礎収入
事故前の年収のこと。
専業主婦や学生などは平均賃金を用いることもある。 - 労働能力喪失率
後遺障害によって落ちた労働能力を示す数値。
後遺障害等級ごとにおおよその目安が決まっている。 - 労働能力喪失期間
労働能力を失った期間のこと。
基本的に「症状固定時~67歳」の期間となるが高齢者は異なる。 - ライプニッツ係数
逸失利益を預金・運用することで生じる利息を差し引くための数値。
逸失利益の計算式には専門用語も多く含まれており、どのくらいの金額になるかイメージしづらいかと思われます。
『交通事故の逸失利益は?計算式や早見表・計算機で解説【職業別の計算も】』の記事ではわかりやすくかみ砕いて計算方法を紹介しているので、ぜひご一読ください。
また、以下の計算機で逸失利益の大まかな金額を見積もることも可能です。
慰謝料の計算式ですが、同時に逸失利益も自動計算できるようになっているため、よろしければご利用ください。
(3)その他|治療費・休業損害・将来介護費など
ここまで紹介してきた慰謝料や逸失利益の他に、以下のような費目も相手方に請求可能です。
損害賠償金の主な費目
- 治療関連費
診察費、手術費、入院雑費、通院交通費、付添看護費など
関連記事:交通事故の治療費は誰が支払う? - 休業損害
交通事故の影響で働けなかった期間の減収の補償
関連記事:交通事故の休業損害 - 将来介護費
将来的に介護が必要な場合の費用の補償
基本的に要介護1級・2級に認定されたら請求可能
関連記事:交通事故で介護費用が請求できる2ケース - 将来的な治療費や器具・装具費
将来のリハビリや検査などで必要となる費用
また、介護用品やストーマ用装具なども買替分を請求可能 - その他、物損の修理・買い替え費用など
「他にもこんなお金も請求できる?」といった疑問をお持ちの方は、『交通事故の損害賠償とは?賠償金の範囲や計算方法、請求時の注意点を解説』の記事をお役立てください。相手方に請求できる費目と計算方法を網羅的に紹介しています。
交通事故で内臓を損傷・破裂となったら弁護士に依頼を
交通事故で内臓損傷・内臓破裂を負い、後遺症が残りそうな方は、弁護士への相談・依頼をご検討ください。
ここからは、交通事故で内臓損傷した方が弁護士に依頼するメリットを紹介していきます。
治療に専念できる
交通事故で受傷した被害者本人が保険会社の担当者とやり取りするとなると、時間も取られ、精神的なストレスも増えるので、中々治療に専念することができません。
この点、弁護士に依頼すると保険会社との面倒なやり取りから解放され、余計な心配をせず、安心して治療に専念することができるというメリットがあります。
適切な後遺障害等級への認定に向けたサポートが可能
内臓の機能障害はわかりやすく目に見えるものではないことが多いため、後遺障害認定を受ける際は申請書類で症状を詳細かつ客観的に立証することが求められます。
また、内臓の機能障害が残ったときは、他にも後遺症が残っていることが多く、後遺障害何級が妥当かは専門家による総合的な判断が必要になります。
弁護士に依頼すれば、後遺障害認定に向けた包括的なサポートを受けられます。
たとえば、以下のようなサポートが挙げられるでしょう。
- 後遺障害何級が妥当かの検討
- 後遺障害認定のために必要な検査の検討
- 後遺障害認定に向けた医師との打ち合わせ
- 申請書類や認定に有利となる資料の収集
- 申請書類の内容の確認・改善 など
後遺障害認定にあたって必要な検査や書類の検討は医師に頼ればいいと考える方も少なくありませんが、医師は交通事故の賠償に関する実務的な知識・経験を持っていません。
交通事故事案を手掛ける弁護士に依頼し、事前認定ではなく、被害者請求という申請方法で後遺障害申請をすることで、「後遺症の立証が不足して適切な後遺障害等級に認定されなかった」といった事態を防ぐことができるでしょう。
また、既に適切な後遺障害等級に認定されなかったという方も、異議申し立てという手続きによって、適切な後遺障害等級に認定される可能性があります。
将来のために慰謝料・賠償金の増額を目指せる
交通事故で内臓の機能障害を負った方は、将来の生活を安定させるためにも、適切な慰謝料・賠償金を相手方に支払ってもらうべきでしょう。
ところが、相手方の任意保険会社は相場より大幅に低い慰謝料・賠償金を提示してくることがほとんどです。
被害者自身で妥当な慰謝料・賠償金を主張しても、「裁判をしなければ認められない金額です」「弊社ではこの金額が上限です」などと反論され、増額を認めてもらえないのが実情と言えます。
一方、法律の専門家である弁護士が示談交渉を代理すれば、相手方任意保険会社が慰謝料増額を認める可能性が高いでしょう。
なぜなら、弁護士が出てくることは「裁判への発展が現実的になった」ことを意味するからです。
裁判は保険会社にとってデメリットが大きいうえ、裁判になったらどのみち弁護士基準で計算した慰謝料の支払いを求められるので、「それならば示談交渉で増額を認めよう」と判断する保険会社が多いでしょう。
弁護士が増額交渉をすることで、慰謝料・賠償金額が提示額の2倍~3倍になるケースも少なくありません。相手方から示談案の提示があったら、弁護士に妥当な金額か一度確認してみてください。

弁護士費用について不安がある方へ
弁護士への依頼を検討するとき、弁護士費用が不安な方も多いと思われます。
しかし、後遺障害認定を受けられるような状況なら、弁護士に依頼してかえって損することはほとんどないと言えるでしょう。
なぜなら、損害賠償金全体が高額になる分、相手方の任意保険会社の提示額と弁護士が依頼して増額できる金額に差が生じやすくなるからです。
無論、「そうは言われても、依頼して結局損したら困る…」と悩まれる方も多いことでしょう。
このようにお悩みの方には、以下の2つの方法をご提案します。
- 弁護士費用特約を使う
- 無料相談で弁護士費用と増額幅の見積もりをとる
それぞれの方法について、詳しく説明していきます。
弁護士費用特約を使う
弁護士費用特約とは、保険会社に弁護士費用を一部負担してもらえる保険の特約です。自動車保険や火災保険、クレジットカードなどに付帯されていることがあるでしょう。
弁護士費用特約を使えば、多くの場合は弁護士費用の合計300万円まで、相談料の合計10万円までを保険会社に負担してもらえます。
被害者自身が負担する弁護士費用を大きく減らせるので、弁護士に依頼してかえって損する事態をほぼ防ぐことが可能です。
弁護士費用特約は、被害者自身の保険だけではなく、被害者の家族が加入している保険に付帯されているものも利用できることがあります。
「付帯していたつもりはなかったけどいつの間にか付帯されていた」といったケースもあるため、まずは保険の契約状況を確認してみてください。

無料相談で弁護士費用と増額幅の見積もりをとる
弁護士費用特約を使えない状況でも、弁護士への依頼を断念するのはやや早計と言えます。
なぜなら、先述のとおり後遺障害認定を受けられるような状況なら、弁護士費用を支払っても弁護士に依頼した方が最終的に手元に入る金額が増える傾向にあるからです。
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この度は、親切・迅速な対応により予想よりも大幅な増額に大変驚きました。自分で交渉していたら満足する結果は得られなかったです。もし、またなにかあったら是非お願いしたいです。今回は本当にお世話になりました。ありがとうございます。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

