交通事故で高齢者(老人)が死亡した場合の慰謝料や逸失利益の金額は?
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ご遺族の方へ
ご家族を亡くされた中での金銭交渉は精神的にも大きな負担です。アトム法律事務所では、交通事故の被害者遺族を対象として、損害賠償請求に関する無料法律相談を行っています。「何から始めればいいかわからない」「相手の対応を弁護士に一任したい」など、お困りごとは様々あると思いますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
交通事故で高齢者が亡くなった場合、加害者側に死亡慰謝料や死亡逸失利益といった賠償金の請求が可能です。ただし、被害者が高齢だったときには、賠償金の一部の費目が比較的低額になる部分もあります。
もっとも、高齢者であるという理由だけで不当に低額な慰謝料を提示されていることもあるので、安易に示談案に合意しないでください。弁護士による交渉次第で慰謝料を含む賠償金を増額できる可能性があります。
この記事では、高齢者が交通事故で亡くなった場合に焦点をあてて、慰謝料や賠償金について網羅的に解説します。
なお、日本では65歳~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としていることに基づき、この記事では65歳以上を高齢者として解説をすすめます。
とにかく早く死亡慰謝料の金額を知りたい場合は、以下の計算機をご利用ください。計算機では、死亡慰謝料だけではなく死亡逸失利益の金額もあわせて確認できます。
※こちらの計算機で確認できるのは、この後に紹介する弁護士基準による金額です。計算機が行う慰謝料の計算の仕組みそのものを詳しく知りたい場合は、『交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる』の記事をご確認ください。
目次
高齢者(老人)の死亡慰謝料相場はいくら?
交通事故で高齢者が亡くなられた場合に請求可能な死亡慰謝料の相場を確認していきましょう。
死亡慰謝料は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3つの算定基準のなかから、いずれかを用いて算定されることになります。
このうち、死亡慰謝料が最も低額になる自賠責基準と、死亡慰謝料が最も高額になる弁護士基準の相場をみていきましょう。
自賠責基準の死亡慰謝料相場|最も低額
交通事故で高齢者が死亡したとき、自賠責保険から支払われる死亡慰謝料は、本人分400万円に加えて、遺族の人数や扶養者の有無に応じて増額され、計400万円~1350万円が相場です。
死亡慰謝料 | |
---|---|
本人分 | 400万円* |
遺族1人 | +550万円 |
遺族2人 | +650万円 |
遺族3人以上 | +750万円 |
扶養者の場合 | 扶養者の人数によらずさらに+200万円 |
*2020年3月31日以前の死亡事故については350万円
自賠責基準の場合、遺族の人数や扶養者の有無によって死亡慰謝料の金額が決まるため、被害者が高齢者かどうかは関係ありません。
弁護士基準の死亡慰謝料相場|最も高額
弁護士が算定する場合、高齢者が交通事故で死亡したとき、死亡慰謝料は家庭内の役割に応じて2000万円~2800万円が相場です。
被害者 | 死亡慰謝料 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
弁護士基準の死亡慰謝料は遺族に対する慰謝料も含めた金額です。
そのため、弁護士基準の場合、事故が発生した当時に家庭内でどのような役割を担っていたかによって死亡慰謝料の金額が決まるため、被害者が高齢者かどうかは関係ありません。
交通事故で死亡したのが高齢者であっても、家庭を支えるために一家の支柱として働いていたなら、死亡慰謝料の相場は2800万円になります。高齢者が母親や配偶者として家庭を支えていた場合、死亡慰謝料の相場は2500万円です。
また、高齢者が被扶養者の場合、死亡慰謝料の相場は2000万円~2500万円になります。
弁護士基準の慰謝料を希望するなら、弁護士による増額交渉が欠かせません。弁護士に依頼して、適正な慰謝料の獲得を目指しましょう。
交通事故の裁判例|高齢者への死亡慰謝料
高齢者が死亡事故の被害者となり、裁判で損害賠償について争われたケースは多くあります。ここからは、書籍「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」をベースに、実際に裁判で認められた死亡慰謝料額をみていきましょう。
判例1.家業の農業手伝い分を死亡慰謝料に反映
高齢者が乗っていた電動自転車と被告運転の自動車が、信号機のない交差点で出会い頭に起きた交通事故でした。自転車に乗っていた86歳男性は死亡し、損害賠償金を巡って裁判になったのです。
争点の一つは「死亡逸失利益」でした。家業の農業を手伝っていたことについての損害を逸失利益として請求しましたが、結果として裁判では「逸失利益」としての評価が難しいと判断されました。
一方で、逸失利益で評価できない部分を死亡慰謝料に反映するとして、死亡慰謝料2,300万円を含む損害賠償を命じた判例です。(神戸地方裁判所 平成18年(ワ)第761号 損害賠償請求事件)
ポイント
- 被害者が高齢であることや家族構成、年金の受給状況から、主な稼ぎ手として判断されず死亡逸失利益としては認められなかった
- 死亡逸失利益が反映できない分、死亡慰謝料で調整がなされた
慰謝料には事故の様々な事情を反映する役割もあります。そのため、おおまかな相場は決まっていても、最終的にいくら認められるのかは裁判での判断次第です。
判例2.高齢であっても実態に即した逸失利益を認定
被告車両が道路外の駐車場から歩道を横断し、道路に左折進入しようとしたところ、歩道の歩行者と衝突した交通事故です。歩行者は当時81歳の建築会社の代表取締役で、死亡してしまいました。
裁判所は、被害者が高齢でありながら精力的に事業に関わっていたことから、役員報酬の一部を労務対価として認めました。死亡慰謝料2,500万円、逸失利益3,493万1,375円を含む損害賠償を命じた判例です。(横浜地方裁判所 平成26年(ワ)第4571号 損害賠償請求事件)
ポイント
- 高齢であっても、就労の事実が認められれば死亡逸失利益は認められる
- 高齢であることや事故状況から鑑みて被害者の過失を否定し、過失相殺もなされなかった
被害者が高齢であっても労働によって収入を得ていることを証明すれば、逸失利益を請求できる余地は十分あります。
死亡慰謝料が増額されるケースとは?
死亡慰謝料が増額される背景としては、加害者側に故意もしくは重過失があること、著しく不誠実な態度がある場合などがあげられます。
故意もしくは重過失の例
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- 故意の信号無視
- 正常でない状態の運転(薬物など)
こうした加害者側の事情が認められれば、死亡慰謝料が通常よりも増額される見込みがあります。
死亡慰謝料の増額見込みは弁護士に相談しよう
どのような事情で死亡慰謝料が増額されるか、どの程度増額されるかは明確な基準が定まっていないため、示談交渉次第となることに注意しましょう。
もし示談交渉がうまくいかない場合には、ADRや調停、民事訴訟といった示談交渉以外の方法で損害を確定させていく必要があります。
もっとも、示談交渉でまとまらなかったものが、ADRや裁判ならすんなり認められるわけではありません。慰謝料増額の見込みや示談交渉を含む解決手段についても、弁護士への相談をおすすめします。
高齢者(老人)の死亡への賠償金|逸失利益など慰謝料以外も大切
交通事故で高齢者が亡くなられた場合、死亡慰謝料以外にも請求すべき賠償金がいくつかあげられます。
特に、「死亡逸失利益」は、加害者側との争いも起こりやすい賠償金の費目として注目していきましょう。
(1)死亡逸失利益|収入や年金はどうなる?
死亡逸失利益とは、交通事故により死亡したため得られなくなった将来の収入に対する補償です。
被害者が退職していたり、年金生活を送っていたりすると、死亡逸失利益を請求できるのか不安に感じる方は少なくありません。
しかし、年金も逸失利益として請求できるものはありますし、事故時に無収入でも一定の逸失利益を請求できる可能性があります。
高齢者の場合は、状況に応じて死亡逸失利益の請求の可否や、請求できる金額が変わるので注意してください。収入を得ている状況についてはさまざまなので、以下の通り場合分けして解説していきます。
- 働いて収入を得ている場合
- 無職で年金収入を得ている場合
- 無職で無収入の場合
それぞれ確認していきましょう。
働いて収入を得ている場合
まずは、給与所得者や自営業者など、働いて収入を得ている方の死亡逸失利益の計算方法を紹介します。
以下の計算式で死亡逸失利益を求めることが可能です。
働いて収入を得ている場合の計算式
- 基礎収入×(1‐生活費控除率)×死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数
被害者の年齢に関わらず、上記の計算式を用いて死亡逸失利益を計算します。
ただし、高齢者の場合は「死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数」の部分に注意が必要です。
基礎収入、生活費控除率、死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数について、それぞれ解説していきます。
基礎収入
基礎収入の考え方は、サラリーマンなどの給与所得者と自営業者で異なります。
給与所得者 | 事故前3か月間の収入 |
自営業者 | 事故前年の年収 |
自営業者の場合は、基本的に事故前年の確定申告で申告した所得金額を基礎収入とします。
生活費控除率
生活費控除率とは、死亡事故の被害者が将来得ていたであろう収入から、本人が消費していたであろう金額を差し引くための数値になります。
高齢者が年金収入を元に逸失利益を請求する場合には、生活費控除率は50%~70%程度まで引き上げれる見込みです。
一家の支柱で扶養家族1人 | 40% |
一家の支柱で扶養家族2人以上 | 30% |
女性 | 30% |
男性 | 50% |
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、死亡逸失利益を預金運用することで増える利子分の金額をあらかじめ差し引くための数値です。ライプニッツ係数は、死亡によって就労できなくなった年数に応じたものを用います。
基本的に、死亡年齢~67歳までの期間を死亡によって就労できなくなった年数として考えます。
ただし、定年間近である高齢者の場合や、67歳を過ぎても再雇用などで働いていた高齢者の場合は、就労できなくなった年数の考え方が異なるので注意しましょう。
それぞれのケースでは、就労できなくなった年数を以下のように考えます。
就労できなくなった年数 | |
---|---|
67歳間近の年齢 | 下記のうち長期となる方を適用する ・死亡年齢~67歳までの年数 ・平均余命の2分の1の年数 |
67歳を過ぎていた | 平均余命の2分の1の年数 |
※ 平均余命は「厚生労働省のホームページ」で確認できます。死亡した年の平均余命から、年数を算出してください。
就労可能期間に対応したライプニッツ係数は以下の通りです。交通事故が2020年4月1日以降に発生している場合は年利3%、2020年3月31日以前に発生している場合は年利5%として計算してください。
就労可能期間 | 年利3% | 年利5% |
---|---|---|
1 | 0.97 | 0.95 |
2 | 1.91 | 1.85 |
3 | 2.82 | 2.72 |
4 | 3.71 | 3.54 |
5 | 4.57 | 4.32 |
6 | 5.41 | 5.07 |
7 | 6.23 | 5.78 |
8 | 7.01 | 6.46 |
9 | 7.78 | 7.10 |
10 | 8.53 | 7.72 |
11 | 9.25 | 8.30 |
12 | 9.95 | 8.86 |
13 | 10.63 | 9.39 |
14 | 11.29 | 9.89 |
15 | 11.93 | 10.37 |
無職で年金収入を得ている高齢者の場合
年金収入の中には、逸失利益として認められるものもあります。たとえば、国民年金、厚生年金、共済年金などは、加給年金分を除いて逸失利益性があると判断されるでしょう。高齢者にかかわりのある金銭について、逸失利益として認められるかどうかを以下の表にまとめました。
種類 | 逸失利益 |
---|---|
障害年金※ | 認められる |
老齢年金 | 認められる |
遺族年金 | 認められない |
※加給年金は認められない
年金収入のみだった場合は、次の計算式で死亡逸失利益を算定します。
年金収入を得ている場合の計算式
- 基礎収入×(1‐生活費控除率)×平均余命までの年数に対するライプニッツ係数
基礎収入は、年金支給額をもとに算定します。
その他の項目については、基本的に給与所得者の場合と同様に考えてください。
ただし、年金収入のみの場合は、生活率控除率に注意が必要です。
年金はそのほとんどが生活費として使われると考えられるため、生活費控除率も通常より高くなる傾向にあります。具体的には、基礎収入額を考慮しつつ、50%~70%の範囲で生活費控除率が設定されることが多いでしょう。
無職で無収入の高齢者の場合
無職で無収入の高齢者の場合でも、再就職の可能性や、年金の受給資格を有していたのかなどを検討することで、一定の逸失利益が認められる可能性があります。
再就職の可能性を検討
被害者がすでに退職し、まだ年金受給も始まっていないといった場合、死亡逸失利益を請求できるかどうかは再就職していた可能性によります。
交通事故にあわなければ再就職し、収入を得ていた可能性が高いと認められれば、死亡逸失利益が認められる可能性があるでしょう。
無職で死亡逸失利益の請求が認められる場合は、給与所得者と同様の計算式を用いて金額を算定します。
無収入の場合の計算式
- 基礎収入×(1‐生活費控除率)×死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数
ただし、基礎収入については、給与所得者と考え方が異なります。
被害者の事故当時の状況に応じて、以下のとおり算定することになるでしょう。
- 事故時すでに就職先が決まっていた場合
就職予定だった職場での給与をもとに基礎収入を算定 - 事故時に就職先が決まっていなかった場合
賃金センサスにおける被害者の属する性別、学歴、年齢の平均賃金をもとに基礎収入を算定
なお、以下の計算機を使えば死亡逸失利益の目安がわかります。ぜひご活用ください。
年金の支給前だった場合
年金の受給資格を有して就労しておらず、受給開始までに交通事故で死亡してしまった場合は、受給予定の年金分を逸失利益として請求できる可能性があります。
もっとも、受給開始までの年数などを考慮すること、受給開始までの掛金は損益相殺として差し引かれること、生活費控除率が高いことには注意が必要です。年金未受給者の逸失利益の請求については、様々な面から考慮して請求するべきかの検討をしていきましょう。
高齢者の逸失利益については『高齢者でも逸失利益はもらえる?何歳まで?ケース別に計算方法も解説』の記事が参考になります。合わせてご確認ください。
(2)葬儀費用
死亡事故では、葬儀費用も加害者側に請求可能です。
葬儀費用として加害者側に請求できる項目には、主に次のものがあります。
- 通夜・葬儀費用全般
- 四十九日の法要代
- 位牌の費用
- 墓石の費用
- 仏壇の費用
なお、香典返し、遺族以外の通夜・葬儀参列者の交通費、四十九日以降の法要にかかる費用については、葬儀費用に含まれないので注意してください。
葬儀費用に関しては、年齢や仕事の有無などが金額に影響することはありません。
葬儀費用は基本的に実費を請求できますが、上限額があります。
相場とされている上限額は150万円です。ただし、金額の妥当性が認められれば、それ以上の葬儀費用を請求できる可能性もあります。
加害者側の自賠責保険会社に請求する場合は、100万円が上限となります。なお、2020年3月31日以前の死亡事故の場合は原則的に60万円が上限です。
(3)死亡までに入通院期間があった場合の賠償金
被害者が亡くなるまでに一定の入通院期間があった場合は、入通院慰謝料、治療関係費、休業損害といった賠償金の費目も加害者側に請求できます。
入通院慰謝料・治療関係費・休業損害に関しては、年齢や仕事の有無などが金額に影響することはありません。
それぞれの費目について、簡単に確認していきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、入通院期間に基づいて金額が算定されます。自賠責基準での算定方法と弁護士基準での算定方法をみていきましょう。
任意保険基準の金額については、自賠責基準の金額を参考にしてください。
自賠責基準では、次の計算式に基づいて入通院慰謝料を算定します。
自賠責基準の入通院慰謝料
- 4300円*×入通院期間
- 入通院期間は次の2つのうち少ない方を採用
- 治療開始から終了までの日数
- 入院日数、通院日数を2倍にした数字
- 入通院期間は次の2つのうち少ない方を採用
*2020年3月31日以前の交通事故については4200円
一方、弁護士基準では、算定表を用いて入通院慰謝料を算定します。
弁護士基準の入通院慰謝料
算定表には軽傷用と重傷用があり、むちうちや軽い打撲・挫傷などのケガでは軽傷用、それ以外のケガでは重傷用を用います。
治療関係費
治療費は、加害者側に実費を請求できます。基本的には入通院と並行して、加害者側の任意保険会社が病院に直接支払うことになるでしょう。
付き添い看護費や介護費については基本的に次の金額を請求できます。
付き添い看護費 | 入院:日額6500円 通院:日額3300円 |
介護費 | 日額8000円 |
ただし、例外もありますので詳しくは、関連記事『交通事故の付添費|付き添いに認められる範囲と相場は?慰謝料との違いも解説』をご覧ください。
休業損害
被害者が働いていた場合や、主婦・主夫として家事に従事していた場合は、休業損害を請求できます。
休業損害の計算方法は以下のとおりです。
基礎収入(日額)×休業日数
被害者が働いていた場合は、事故前の収入をもとに基礎収入を算定します。
主婦・主夫として家事に従事していた場合は、賃金センサスを用いて基礎収入を算定することになるでしょう。
休業損害の職業別の計算方法を詳しく知りたい場合は、『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方、いつもらえるかを解説』の記事をご確認ください。
高齢者(老人)の死亡事故に関するQ&A
この章では、高齢者の死亡事故でよくある質問にお答えしていきます。
Q1.若者と比べると高齢者の慰謝料は低額?
死亡事故の賠償金のうち、慰謝料に関しては被害者の年齢によって増減することは基本的にありません。
ただし、被害者の家庭内での立場によって、慰謝料が比較的低くなることはあるでしょう。
たとえば、死亡慰謝料は家庭内の役割に応じて金額が変わります。高齢者の方の収入によって世帯生計を維持していない場合、維持している場合と比べて、死亡慰謝料は低額になるのです。
高齢者の方が同居する子に扶養されているような場合、若者と比べると高齢者の死亡慰謝料は低額になることがあるといえるでしょう。
また、「死亡逸失利益」は、高齢であることが金額に影響する場合が大いにあります。
死亡逸失利益は、被害者が死亡したため得られなくなった将来的な収入を補償するものなのですが、金額を計算する際に「収入を得られる期間」を考慮します。
若年層と比べると、高齢者は「収入を得られる期間」が少ないと想定されるため、死亡逸失利益が低額になりやすいのです。
なお、被害者が無職かつ無収入の場合は、死亡逸失利益を受け取れないこともあるでしょう。
Q2.高齢者を理由に保険会社は低額な慰謝料を提示する?
任意保険会社は、「被害者は高齢なので死亡逸失利益を支払う必要がない」「被害者の収入によって世帯の生計が維持されているとは言えない」といったさまざまな理由をつけて、低額な慰謝料や賠償金を提示してきます。
示談交渉で任意保険会社が提示してくる金額は、被害者が本来受け取れる金額よりも低いことがほとんどなので、安易に合意しないようにしましょう。
また、保険会社が用いる賠償金の計算方法では、相場より低い金額が算定されることも、任意保険会社が提示する金額が低い理由のひとつです。
任意保険会社は会社の損失を減らすために少しでも支払う金額をおさえようとしますが、そのことを悟られないようにうまく示談交渉を進めてきます。
任意保険会社が提示する金額が低額であることを知らないまま示談してしまうと、本来受け取れるはずの金額を受け取れなくなってしまいます。
適正額の慰謝料にするには対策を立てる必要がある
あらかじめ対策を立てて示談交渉に臨まなければ、相場よりも大幅に低い金額しか獲得できない可能性が高いです。
被害者の相続人は示談交渉に関する知識・経験が浅いため、任意保険会社と交渉しても増額を聞き入れられない可能性が高いのです。
一方、対策を立てれば、加害者側の任意保険会社が提示する金額から2倍~3倍まで増額される余地があります。
加害者側の任意保険会社と示談交渉をする前に、しっかりと対策を考えておきましょう。
十分な対策をしていないと、示談交渉が長引いたり、納得いかない内容で合意せざるを得なくなったりしてしまいます。
とくに法律の専門家である弁護士に相談することがおすすめです。
交通事故に精通した弁護士であれば、妥当な慰謝料や賠償金の算定、根拠資料の収集、加害者側の任意保険会社との交渉などを適切に行ってくれるでしょう。
Q3.高齢者の死亡慰謝料を請求するのは誰?
死亡事故の場合、原則的に遺族の中から選ばれた法定相続人が慰謝料や賠償金を請求することになります。
法定相続人を選ぶ基準は、以下のとおり定められています。
被害者に妻または夫がいる場合には、妻または夫が法定相続人となる。
そのうえで、次の優先順位にしたがって、もう一人の法定相続人を決める。
- 被害者の子。
子がすでに亡くなっていれば、孫などの直系卑属。 - 被害者の両親。
両親がすでに亡くなっていれば、祖父母などの直系尊属。 - 被害者の兄弟姉妹。
兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹の子。
遺族なら誰でも損害賠償を請求できるわけではないこと、法定相続人の間には優先順位があることをおさえておきましょう。
なお、慰謝料や賠償金を受け取ったあとの遺産分割については、関連記事『交通事故の慰謝料|遺産分割できる相続人は?』で解説していますので、あわせてご確認ください。
Q4.高齢者の死亡慰謝料を受け取れるのはいつ?
死亡事故の慰謝料や賠償金を受け取れるのは、基本的に示談成立後です。
具体的には、示談成立してから約2週間後に受け取ることが多いでしょう。示談成立後は、示談書を交わす、加害者側の任意保険会社で事務処理をするといった手続きが必要になるためです。
なお、示談で合意に至れない場合は、裁判などで慰謝料や賠償金の金額が確定したあとの受け取りになります。
参考までに、死亡事故の流れをご紹介します。
- 交通事故が発生する。
- 四十九日を終えた頃に、加害者側の任意保険会社と示談交渉を始める。
- 示談成立すれば、示談書を取り交わしてから約2週間後に示談金が受け取れる。
- 示談不成立となれば、民事裁判や民事調停などで賠償金を決める。
判決の確定または調停の成立後に賠償金が受け取れる。
死亡慰謝料の一部は示談前に請求できる
被害者が受けとる死亡慰謝料のうち、自賠責保険から支払われる分は示談成立前に請求できます。この方法を「被害者請求」といい、相手方の自賠責保険会社に対して被害者が直接請求する方法です。
被害者請求には書類収集などの手間もかかりますが、弁護士に依頼すれば申請の大部分を任せることができます。示談前に慰謝料を受けとりたい方は、弁護士に相談すると良いでしょう。
Q5.高齢者が被害者だと過失割合が変わるって本当?
事故の被害にあったのが高齢者の場合、被害者側の過失割合が低く修正されることが多いです。
過失割合とは、事故が発生した責任が被害者と加害者にそれぞれどのくらいあるのかを示した割合になります。
事故の類型ごとに基本の過失割合が定められていて、事故の状況に応じた修正要素を加算し、最終的な過失割合が決まるのです。
事故の被害にあったのが高齢者であることは、修正要素として加味されます。
たとえば、横断歩道や交差点付近ではない道路で、直進する車と道路を横断する歩行者が事故を起こしたケースを考えてみましょう。
修正要素が「被害者が高齢者」だけの場合、過失割合は以下のようになります。
加害者 (車) | 被害者 (歩行者) | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 80 | 20 |
(修正要素) 被害者が児童・老人 | +5 | -5 |
最終的な過失割合 | 85 | 15 |
※「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)をもとに算定
加害者側の任意保険会社と示談交渉をする際は、過失割合の計算で修正要素が反映されているか確認するとよいでしょう。
下記の関連記事では車と自転車の事故について、様々な過失割合を解説しています。年齢以外の過失割合の修正要素についても説明しているので併せてご覧ください。
過失割合は、慰謝料や賠償金の金額に大きく影響します。
被害者に過失割合がつくと、その分だけ、慰謝料や賠償金が減額されるのです。
高齢者の場合、被害者側の過失割合が低く修正されることが多いとはいえ、被害者が死亡していると保険会社は賠償金の減額を狙って、被害者の過失割合を多く見積もってくることもあるので注意してください。対応方法については『交通死亡事故の過失割合はどう決まる?被害者が亡くなっても過失はつく?』の記事が参考になります。
Q6.非接触事故で転倒して死亡しても賠償請求できない?
自動車や自転車との接触を避けようとしたり、出会い頭に衝突しそうになったはずみでバランスを崩してしまうことは大いにあります。高齢者であればなおさら、足腰がおぼつかなかったり、相手のブレーキ音に驚いてしまったりと転倒のリスクは高いでしょう。
非接触事故(誘因事故)も、通常の事故の過失割合をベースに損害賠償請求できます。仮に、高齢者側に何らかの過失がついてしまったとしても、年齢を根拠に過失を減らす交渉の余地もあるでしょう。
高齢者(老人)の死亡事故が起こったら弁護士に相談しよう
高齢者の死亡事故が発生したら、遺族だけで対応するのではなく、弁護士に一度相談してみることをおすすめします。
弁護士に相談するメリットや、弁護士を立てて慰謝料や賠償金を増額できた事例を紹介します。
弁護士を立てれば慰謝料などの大幅な増額が見込める
死亡慰謝料の相場は、計算する際に用いる基準によって変わります。
死亡慰謝料の算定基準には、以下の3種類があります。
自賠責基準 | 交通事故の被害者に最低限補償される基準。 |
任意保険基準 | 加害者側の任意保険会社が慰謝料を提示する際の基準。 自賠責基準と大きく変わらないことが多い。 |
弁護士基準 (裁判基準) | 裁判において過去の判例から慰謝料を算定するために用いる基準。 3つの基準の中で最も高額であり、法的にも適正。 |
3つの算定基準のうち、慰謝料が最も高額になるのは弁護士基準です。
過去の判例を基準にしているため、法的にも適正な相場と言えるでしょう。
一方、加害者側の任意保険会社が提示してくる慰謝料は、任意保険会社独自の基準で計算されていることが多いです。任意保険基準で計算した金額は、弁護士基準で計算した金額の半分から3分の1程度でしかないことが多いでしょう。
示談交渉では、弁護士基準で計算した金額まで増額するように主張する必要があります。そして、示談交渉で十分な慰謝料や賠償金の獲得を目指したいなら、弁護士を立てることが有効です。
弁護士が示談交渉を行うことで、「弁護士を立てたということは裁判も考えているのかもしれない、示談段階である程度譲歩しよう」と保険会社は態度を軟化させ、慰謝料や賠償金を大幅に増額できる可能性が高くなります。
弁護士は法律の専門家であり、交渉のプロでもあります。また、交通事故案件を多く手掛けている弁護士であれば、交通事故の損害賠償問題について熟知しています。
以上より、弁護士が交渉を行えば、慰謝料や賠償金を弁護士基準まで増額しやすいのです。
弁護士を立てて高額の慰謝料などを獲得した事例を紹介
弁護士を立てたことで、慰謝料・賠償金を増額できた事例をご紹介します。
以下は、いずれもアトム法律事務所で解決してきた高齢者の死亡事故における事例です。
3162万円を獲得した事例
こちらは、80代男性の死亡事故における事例です。
加害者はひき逃げをしていたため、遺族は、なるべく高い慰謝料を支払ってもらいたいという強い意向をお持ちでした。
示談交渉では過失割合について争いましたが、被害者側にとって最大限に有利な過失割合になるよう、弁護士は粘り強く交渉を行いました。
そのうえで被害者側の任意保険に付帯していた人身傷害保険を利用することで、最大限の慰謝料・賠償金と保険金の獲得に成功したのです。
3415万円を獲得した事例
こちらは、60代女性の死亡事故に関する事例です。
被害者女性は事故前に社会奉仕活動をしており、その成果として給与所得を得ていました。
そのため、逸失利益について加害者側と争いになりましたが、弁護士による粘り強い交渉の結果、3415万円の獲得に成功したのです。
この他にもアトム法律事務所の弁護士が実際に解決した事例を知りたい場合は、「交通事故の解決事例」ページをご確認ください。年代別や職業別でも確認可能です。
弁護士にお得に相談・依頼する方法はある?
弁護士への相談・依頼で気になるのが、弁護士費用ではないでしょうか。
以下の方法を使えば、お得に弁護士に相談・依頼することができます。
- 弁護士費用特約を利用する
- 相談料・着手金無料の事務所に相談する
それぞれ詳しく確認していきましょう。
弁護士費用特約を利用する
弁護士費用特約とは、被害者が加入している保険会社に弁護士費用を負担してもらえる特約のことです。
弁護士費用特約を使えば、弁護士費用の合計300万円まで、相談料の合計10万円までを保険会社に負担してもらえます。
弁護士費用特約は、任意保険に加入する際にオプションとしてつけていれば利用できます。
また、火災保険やクレジットカードなどに付帯されている場合も利用できることが多いです。
もし、被害者本人の任意保険に弁護士費用特約がついていなくても、遺族の保険についていれば利用できる可能性があります。
なお、弁護士費用特約を利用しても保険の等級が下がることはないので、保険料が上がる心配はいりません。
弁護士費用特約については、『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』で詳しく紹介しています。
相談料・着手金無料の事務所に相談する
弁護士費用特約が使えない方でもご安心ください。
法律事務所の中には、依頼前の相談料や着手金が無料のところもあります。
相談料 | 弁護士への依頼前の法律相談料。 30分あたり5000円程度が相場。 |
着手金 | 弁護士に事案を依頼し、着手してもらうときに必要な費用。 20万円程度が相場。 |
相談料・着手金が無料の法律事務所なら、費用は事案の解決後に支払う成功報酬のみですみます。
つまり、加害者側から慰謝料や賠償金を獲得してから費用を支払うことができるため、すぐにお金が用意できない方でも安心です。
「獲得した慰謝料や賠償金から弁護士費用を払うと、手元にあまり残らないのでは?」と不安な方は、無料相談を利用して、弁護士に慰謝料・損害賠償額が増額できる見込みを聞いてみてください。
増額が見込める金額と弁護士費用とを比較し、弁護士に依頼すべきか検討してみましょう。
弁護士への相談・依頼を悩んでいる方は、関連記事『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』も参考にしてください。弁護士に依頼するメリットをわかりやすく解説しています。
アトム法律事務所は電話・LINEで無料相談が可能
アトム法律事務所は、これまで交通事故の賠償問題を多数受任し、解決してまいりました。
死亡事故でお困りの場合は、アトム法律事務所への相談をご検討ください。
交通事故に精通した弁護士が、丁寧にサポートやアドバイスを行わせていただきます。
先述のとおり、弁護士費用特約を利用すれば、自己負担なく相談・依頼が可能です。
また、アトム法律事務所は法律相談が無料、依頼時の着手金も原則無料と初期費用がかかりません。弁護士費用特約が使えない方も安心してご利用いただけます。
依頼前の相談は、電話やLINEから無料で行えます。
- 法律事務所まで行けない
- まずは相談だけなので簡便な方法が良い
- 対面での相談時間がなかなか確保できない
上記のような方も、ぜひお気軽にご利用ください。
もちろん、無料相談のみの利用でも問題ありません。
相談予約は24時間365日受け付けております。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了