事故で頭を打った!頭部外傷・外傷性脳損傷(TBI)の後遺症で弁護士ができること
頭部外傷は、外傷性脳損傷(TBI)ともいわれ、外力によって引き起こされた様々な脳の損傷の総称をさします。
頭部外傷により生命の危険がある症状が生じる可能性があるので、交通事故の際に頭部に衝撃があった場合には、頭部外傷が生じていないかどうかを適切に確認するべきでしょう。
この記事では頭部外傷が引き起こされた場合の症状と対処法や、どんな脳損傷を起こしている可能性があるのかを中心に解説します。
あわせて、頭部外傷の原因が交通事故やバイク事故であった場合に、認定を受けれられる可能性がある後遺障害等級や、請求できる損害賠償金についても解説しますので、最後までお読みください。
目次
交通事故による頭部外傷の症状と初期対応
頭部外傷の症状
頭部外傷とは、頭部に強い力がかかって脳に損傷が起こることです。頭部外傷が比較的軽度の場合の症状には、頭痛、吐き気、嘔吐、めまい、意識障害などがあります。
重症の症状には、痙攣、言語障害、視力障害、平衡感覚障害、記憶障害、注意力障害、学習障害、人格障害、認知症などが考えられるでしょう。
最初は受け答えができていても、意識が低下して眠ったようにだんだん反応を示さなくなるといった変化も起こるので、すぐに病院にかかってください。
交通事故で頭を打ったら初期対応が重要
頭部外傷後の対応としては、できるだけ動かさないようにして水平状態で安静を保ちます。嘔吐をしてしまうときは、首は曲げずに身体を横に向けるような姿勢を取ってもらいましょう。
出血している場合は、清潔なガーゼもしくは包帯などで圧迫して止血することも必要です。
初期対応での判断
- 意識不明、吐き気、左右瞳孔の大きさの違い、耳・鼻・口からの出血や液体流出、手足の麻痺など、ひとつでも当てはまれば直ちに救急車を呼んでください。
- 特に異常がないようにみえても症状が進行している可能性があるため、脳神経外科を早期に受診してMRIやCT検査などを受けてください。
バイク事故でヘルメットを装着していても必ず病院へ
バイクに乗る際は、頭部を守るためにヘルメットの装着が義務付けられています。
そのため、事故により頭を打っても、特に痛みや異常が感じられないこともあるでしょう。
しかし、ヘルメットをきちんと装着していたとしても、バイク事故で頭を打ったら、病院で検査を受けるようにしてください。
頭部外傷の場合は特に、事故直後は平気でも時間が経過すると症状がだんだん出てくるケースがあり、脳挫傷など重大なケガを負っている可能性があります。
「ヘルメットをちゃんと付けていたから大丈夫」だとして放置せず、必ず病院に行き、MRI・CTといった検査を受けるようにしましょう。
交通事故後すぐに検査を受けないと損害賠償請求に関して問題あり
事故後に病院に行くのは、事故による損害賠償金の請求という側面からも非常に重要です。
事故後、すみやかに病院に行かないと、後から症状を感じて事故によるものだと主張しても、事故と症状の因果関係が疑われてしまいます。
事故と症状の因果関係を証明できないと、適切な損害賠償金を受け取れません。
症状がなかったり、軽い症状だと思っていたりしても、事故にあったら必ず病院へ行きましょう。
頭部外傷(外傷性脳損傷(TBI))の分類
頭部外傷はあらゆる外傷性脳損傷(TBI)の総称です。交通事故やバイク事故のような外力が頭部に加わったことで、脳に損傷が生じると、頭部外傷によって様々な症状を引き起こします。
たとえば、脳は頭蓋骨で守られていますが、強い衝撃が加わって頭蓋骨が骨折して、脳が損傷することがあります。
また、仮に頭部を直接強打していなくても、脳が外力によって揺さぶられることで、びまん性軸索損傷が生じることもあるでしょう。
ここからは頭部外傷による外傷性脳損傷を分類分けして、より詳しくみていきます。
頭蓋骨骨折
頭蓋骨は、脳を保護する役割をしています。頭蓋骨骨折が軽度の場合には、特に手術などを必要としません。
しかし、損傷の程度によっては脳にまで損傷がおよぶ恐れがあり、開頭手術が必要になることもあります。
頭蓋骨骨折の症状は、頭痛、吐き気、嘔吐、めまい、意識障害、意識喪失、けいれんなどがあげられるでしょう。
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局所性脳損傷(脳挫傷・硬膜下血腫・硬膜外血腫)
局所性脳損傷とは、頭部外傷によって特定の脳領域に損傷が生じることをいい、具体的には脳挫傷・硬膜外血腫・硬膜下血腫などが該当します。
局所性脳損傷は損傷領域に応じた症状がでることが特徴です。
一般的には意識障害、めまい、けいれん、麻痺、言語障害、記憶障害、認知症などがあげられるでしょう。
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びまん性脳損傷(脳震盪・びまん性軸索損傷)
びまん性脳損傷とは、頭部外傷により頭蓋が回転して脳が損傷することです。びまん性脳損傷は、意識障害の有無や意識障害の持続時間によって、以下のように分けられます。
- 軽度脳震盪:意識障害はなく、一過性の神経症状あり
- 古典的脳震盪:6時間程度の意識障害があり、一過性の神経症状あり
- 遷延性昏睡:6時間以上の意識障害があり、軽症~重度の神経症状あり
- 軽度びまん性軸索損傷
- 中等度びまん性軸索損傷
- 重度びまん性軸索損傷
びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury、DAI)とは、脳にある「軸索」が広範囲に損傷する病気です。
脳と身体の各部位をつなぐ神経の細い線維である軸索が損傷することで、脳からの指令が身体に伝わらず、色んな症状があらわれます。
重度のびまん性軸索損傷では、意識障害や麻痺、言語障害などの後遺障害が残ることもあるのです。
なお、軽度の場合は脳震盪で済む場合もありますが、なんらかの後遺症が残ってしまうこともあるので、早めに脳神経外科で診察を受けましょう。
頭部外傷(外傷性脳損傷)で考えられる後遺障害等級
交通事故やバイク事故による頭部外傷とひとくちにいっても、その損傷の仕方は様々です。
ただし、いずれの場合も、遷延性意識障害・高次脳機能障害・外傷性てんかんといった重篤な後遺症が残ってしまうことがあります。
頭部外傷により後遺症が生じた場合は、後遺障害等級の申請をして適正な補償を請求しましょう。
ここからは、遷延性意識障害・高次脳機能障害・外傷性てんかんとはどういった後遺症なのか、それぞれどのような後遺障害等級が認定されうるのかについて簡単にみていきます。
後遺障害等級の具体的な申請方法について知りたい方は、こちらの関連記事『交通事故で後遺障害を申請する』をご確認ください。
頭部外傷による「遷延性意識障害」
遷延性意識障害ではいわゆる植物状態のことで、意思疎通を図ることができません。寝たきりで、常に介護が必要な状態になってしまうのです。
遷延性意識障害では多くの場合、後遺障害の要介護1級1号に認定されることになるでしょう。
遷延性意識障害とはどういう状態か、慰謝料などの賠償金については関連記事『交通事故で植物状態(遷延性意識障害)になった。賠償金と家族がすべきこと』で詳しく解説しています。
頭部外傷による「高次脳機能障害」
高次脳機能障害とは、脳の損傷により生じる脳機能への障害をいいます。
高次脳機能障害では易怒性や人格変化、記憶障害といった様々な症状があらわれ、日常生活での人間関係に悩んだり、事故以前のように仕事をすることが困難となることがあるのです。
事故前に当然のようにおこなっていた着替えや料理がいきなりできなくなるといった症状もあります。
高次脳機能障害は障害の程度の幅が広いです。
そのため、高次脳機能障害では、後遺障害の1級1号(要介護)・2級1号(要介護)・3級3号・5級2号・7級4号・9級10号、労働制限がかからない程度なら12級13号・14級9号に認定される可能性があるでしょう。
高次脳機能障害の後遺症や等級のさらに詳しい解説は、『高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?記憶障害や性格の変化は?』でご確認いただけます。あわせてご覧ください。
頭部外傷による「外傷性てんかん」
脳内の中枢神経が損傷してしまうと外傷性てんかんを引き起こすこともあるでしょう。
脳挫傷などで脳の中枢神経が傷ついたことで、けいれん発作、突然の意識喪失、記憶障害といった症状があらわれます。
外傷性てんかんでは多くの場合、後遺障害の5級・7級・9級・12級に認定されることになるでしょう。
交通事故による頭部外傷(外傷性脳損傷)の損害賠償金
交通事故やバイク事故による頭部外傷を負った場合には、慰謝料を含め様々な損害について請求を行うことが可能です。
頭部外傷(外傷性脳損傷)を負った場合に請求できる慰謝料
交通事故により頭部外傷を負い、病院において治療を受けた場合には、入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料とは、頭部外傷を負ったことや、頭部外傷の治療により生じる精神的苦痛を緩和するための金銭です。
入通院慰謝料を金額を計算する際には、以下の表を用います。
この表は、横列の入院月と縦列の通院月の交差する部分を慰謝料相場とするものです。
表の見方(例)
- 入院なし(0月)・通院6ヶ月の慰謝料相場:116万円
- 入院1月・通院7ヶ月の慰謝料相場:157万円
- 入院2ヶ月・通院8ヶ月の慰謝料相場:194万円
入通院慰謝料の傾向としては、入院を含んだ場合や治療期間が長い場合ほど高額化します。
また、重篤なケガにより生死の境をさまよったような場合、緊急性が高く麻酔なしで手術をしなくてはならなかった場合などの事情はさらなる増額の理由になる可能性があるでしょう。
この表は、裁判所や弁護士が用いている法的に正当性の高い相場です。
しかし、相手の任意保険会社は相場よりも低い金額の慰謝料を算定して示談を迫ってきます。
そのため、相手の任意保険会社の提案額は不十分なことも多く、そのまま示談を成立させては損をしかねません。かならず弁護士に見積もりを取ってもらい、増額の余地を確かめておきましょう。
後遺症が残った場合に請求できる可能性があるもの
頭部外傷により生じた後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けた場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益といった損害を請求することが可能です。
後遺障害慰謝料と逸失利益の相場額を計算する方法について紹介します。
後遺障害慰謝料
交通事故やバイク事故による頭部外傷の後遺障害慰謝料は、認定を受けた後遺障害等級に応じて相場がおおよそ決まっています。
たとえば、頭部外傷によって遷延性意識障害になり、後遺障害1級・要介護と認定された場合は、後遺障害慰謝料は2,800万円が相場とされるのです。
一方、頭部外傷で高次脳機能障害となり後遺障害5級認定となった場合、後遺障害慰謝料の相場は1,400万円となります。
後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料相場額は、以下の通りです。
等級 | 相場額 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800万円 |
2級・要介護 | 2,370万円 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
もっとも、この後遺障害慰謝料の相場は裁判所や弁護士が用いる算定基準のものです。
相手の任意保険会社からはもっと低い金額で提案される可能性が高いので、提案を受け入れる前に、弁護士への依頼を検討してください。
後遺障害慰謝料が支払われる流れなど、後遺障害慰謝料に関するより詳細な情報については『後遺障害慰謝料の相場はいくら?等級認定で支払われる金額と賠償金の種類』の記事をご覧ください。
逸失利益
逸失利益とは、後遺障害の影響により以前のように仕事ができなくなったことで将来的に得られなくなった収入を補償するものです。
逸失利益の算定時には、一般的には以下の要素が考慮されます。
逸失利益の計算式
逸失利益=1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
- 1年あたりの基礎収入:被害者の事故前の年収
- 労働能力喪失率:頭部外傷による後遺障害等級ごとに目安あり
- 労働能力喪失期間:67歳から被害者の症状固定時の年齢を引いたもの(原則)
逸失利益の計算には様々な要素が関連します。
被害者が若かったり、収入の高い人であったり、後遺障害等級が重かったりすると高額化する傾向にあり、相手方との争点になりやすい部分です。
逸失利益の具体的な計算方法については、関連記事『交通事故の逸失利益とは?計算方法を解説!早見表・計算機で相場も確認』が参考になります。
もっとも、逸失利益の計算は非常に複雑なので、無料相談などを通して弁護士に質問することをおすすめします。
弁護士に逸失利益の相場を算定してもらったら、相手方との粘り強い交渉も依頼しましょう。
以下の計算機を利用すれば、自身の慰謝料や逸失利益の相場額を確認できます。
算出された金額より相手方の提示額が低額な場合は、弁護士への相談を行うべきでしょう。
その他に頭部外傷(外傷性脳損傷)で請求できる損害
交通事故により頭部外傷を負った場合には、以下のような損害についても請求が可能です。
- 治療関係費
投薬代、手術代、入院費用など
関連記事:『交通事故被害者の治療費は誰が支払う?立て替えは健康保険を使う!過失割合との関係は?』 - 入通院交通費
原則として公共交通機関の利用費用 - 休業損害
治療のために仕事を休んだことで生じた減収部分が対象
関連記事:『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方、いつもらえるかを解説』 - 介護費用
将来分も含めた介護のために必要となる費用
関連記事:『交通事故で介護費用が請求できる2ケース|計算方法と裁判例から金額もわかる』 - 物的損害
自動車や自転車の修理費用、代車費用など
どのような損害をいくら請求可能となるのかは、個別具体的な事情により異なるため、専門家である弁護士に確認を取るべきでしょう。
頭部外傷(外傷性脳損傷)の賠償請求は弁護士に依頼
頭部外傷は非常に重大なケガであり、後遺障害認定を受けるほどの後遺症が残ってしまう可能性もあります。
それだけ大きなケガは必然的に賠償請求額も高額になるため、そのぶん相手方との交渉が難航する恐れもあるでしょう。
そんなときには、被害者が損をしないように、利益の最大化を目指してくれる弁護士に相談・依頼をするべきです。
弁護士に相談・依頼することで生じるメリットや、デメリットである弁護士費用の負担を抑える方法について紹介します。
後遺障害等級認定の申請についてサポートを受けられる
頭部外傷によって何らかの後遺症が残ったならば、後遺障害等級認定の申請をしましょう。
後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益などの損害賠償を請求できるため、得られる金額が増加します。
後遺障害等級認定の申請は、複雑で難しい手続きを伴い手間のかかる作業になるため、弁護士のサポートが重要です。
弁護士に依頼することで、後遺障害等級認定に必要となる申請の書類の収集や作成を手伝ってもらえるため、適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まるでしょう。
後遺障害等級認定を受けられるか、何級の認定となるのかは、被害者が受けとる賠償金額を大きく左右するため、弁護士のサポートを受けるべきといえます。
損害賠償金の増額交渉を任せられる
相手方の保険会社にとっては、できるだけ少ない金額で解決できることが望ましいです。
そのため、被害者自身で示談交渉を行うと、本来の相場に程遠い条件提示をしてくる可能性があります。
慰謝料を含む賠償金を算定するにあたっては、上記の図の通り自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準のいずれかが用いられるのですが、どの基準で算定するかで金額は異なります。
被害者のみで交渉していると、保険会社は低額になる自賠責基準や任意保険基準でしか算定してきません。
弁護士は、交通事故やバイク事故の損害賠償に関する知識と経験が豊富なため、相場である弁護士基準での賠償金を獲得できるように交渉を行います。
保険会社も、弁護士から法的根拠のある請求を行われるため、弁護士基準に近い金額の支払いに応じることが多いでしょう。
早めに弁護士に相談して、損害賠償金の増額交渉を任せるべきといえます。
弁護士に相談・依頼する費用は抑えることができる
弁護士に相談・依頼を行う際には、弁護士に支払う費用を気にする方が多いでしょう。
弁護士に支払う費用に関しては、弁護士費用特約を利用することで負担を減らすことが可能です。
弁護士費用特約とは、弁護士に支払う費用について上限額まで保険会社が負担してくれるという特約をいいます。
基本的に弁護士費用が上限額を超えることは珍しいので、多くのケースで金銭的な負担なく弁護士に相談・依頼をすることが可能となるのです。
弁護士費用特約について詳しく知りたい方は『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事をご覧ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了