交通事故の遅延損害金|支払いを受けられるケースや計算方法は?

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遅延損害金とは?

交通事故で民事裁判をした場合、遅延損害金を損害額に加算して請求することができます

遅延損害金とは

遅延損害金とは、債務の履行(損害賠償債務では損害金の支払い)を遅滞した場合に、債務者が債権者に支払う必要のある損害賠償金のこと。

交通事故による損害金は、事故発生日から生じます。それにもかかわらず、実際の賠償金の支払いは事故発生日よりも後になってしまうので、この「遅れ」について遅延損害金が支払われるのです。

損害金の元本や支払いまでの期間によっては非常に高額にもなりえる遅延損害金ですが、その支払いを受けるためには、ある対応をする必要があります。

この記事では、交通事故で遅延損害金の支払いを受けられるケースや請求できる遅延損害金の適切な計算方法につき、具体例を交えてご説明したいと思います。

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遅延損害金の支払いを受けるには?

裁判(訴訟)での損害賠償請求が必要

遅延損害金の支払いを受けるには、被害者側が裁判にて、遅延損害金を含めた損害賠償額を請求しなければなりません。

裁判(民事訴訟)で判断されるのは、原告(交通事故の被害者)が被告(交通事故の加害者や、加害者側の保険会社)に請求する損害賠償額のうち、どこまでの範囲が認められるべきかということです。

原告が請求していないお金について、被告に支払い義務があるかどうかは判断してくれません。

被害者側が遅延損害金を請求していないのに、裁判所が加害者側に遅延損害金の支払いを命じることはないので、あらかじめ遅延損害金を加算した損害賠償額を請求する必要があるのです。

裁判所の判決を受ける|「裁判上の和解」に注意

交通事故の裁判の流れを示した下記図の通り、裁判には「判決」と「(裁判上の)和解」という2つの終了方法があります。しかし、遅延損害金がもらえるのは判決を受けた場合のみです。

交通事故の裁判の流れ
判決

民事訴訟の場合は、原告の請求を認めるか否かについて裁判所の判断を受けること
当事者双方が判決内容に合意するかどうかは関係ない

裁判上の和解

訴訟手続き進行中に裁判所の関与のもとで原告と被告が、原告の請求した権利関係に関する合意および訴訟終了についての合意をすること

つまり、当事者双方が、争いとなっている内容および訴訟の終了について、裁判所による関与のもと互いに合意すること

関連記事:交通事故裁判の和解とは?和解率や流れ

一般的に、和解よりも判決の方が解決までに時間がかかりますが、その分支払いを受けられる金額は高額になるケースが多いです。

遅延損害金を含む損害賠償請求で裁判を起こす場合については、この記事内でも解説していきますが、裁判の詳しい流れや手続きについて詳しく知りたい方は、『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』の記事をご覧ください。

裁判上の和解なら、調整金がもらえることも

裁判上の和解による解決は、判決と比較して、解決までの時間を短縮できることや合意した金額を確実に支払ってもらいやすいといったメリットがあります。

一方で、遅延損害金の支払いを受けられないのがデメリットです。

ただし、裁判上の和解で解決したケースでも、調整金という費目で、遅延損害金の一部に相当する金額を支払ってもらえることがあります。

もっとも、和解協議の場で原告(被害者)が強く主張をしないと、調整金の費目が含まれない形での和解になってしまうケースもあるので注意しましょう。

示談では遅延損害金が支払われない

交通事故による損害賠償の請求は、裁判をせずに示談で解決するケースも非常に多いです。

示談

裁判外において、民事上の争いを当事者同士が話し合い、合意により事件を解決する手続きであり、民法上の和解契約(695条)の一種

示談による解決は、裁判と比較して解決までに時間がかからないというメリットがあります。

しかし、示談では遅延損害金は支払われません。

法律上は示談交渉においても遅延損害金の請求はできますが、実務上支払われる(=保険会社が支払いに合意する)ことはまずないのです。

示談のその他のメリット・デメリット

裁判をするか示談にするかは、遅延損害金の有無だけで判断すべきではありません。
そこでここでは、示談のメリット・デメリットについて、もう少し詳しく解説しておきます。

メリット

  • 裁判と比べて解決までに時間がかからない
  • 費用が掛からない(裁判では、敗訴すると裁判費用を負担しなければならない。また、裁判を起こす際は、起こす側が一旦費用を負担する必要がある。)

示談のメリット・デメリットは『交通事故の示談のメリットは?示談金の増額と短期間での示談成立を目指す!』でより詳しく解説しています。
示談ではなく裁判をするメリット・デメリットについても触れているので、参考にしてみてください。

デメリット

  • 弁護士に示談交渉を頼まない限り、適切かつ妥当な基準で計算された損害賠償金額の支払いが受けられない

弁護士を立てずに示談交渉をした場合、基本的には加害者側の保険会社が提示する金額をベースとして、損害賠償額が決められてしまいます。
加害者側の保険会社は適切な金額より大幅に低い金額を提示してくる傾向にあり、被害者自身の交渉で適切な金額まで増額させることは難しいのが実情です。

ただし、損害賠償額は弁護士を立てることで適切な金額となることが見込めますし、「弁護士費用特約」を使えば、ほとんどの事故については自己負担ゼロで弁護士を立てられます

詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。

関連記事

ADRでも遅延損害金は支払われない

交通事故による損害賠償請求問題の解決方法には、裁判と示談の中間的なものとしてADR機関を利用した解決方法があります。

ADR

訴訟手続きによらず、裁判所以外の第三者機関の関与の下、紛争を解決する方法

交通事故では、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターなどの機関が代表的なADR機関

ADR機関を利用した解決は、裁判よりは時間がかからないにもかかわらず、裁判した場合に準じた計算方法での金額の支払いを受けられるというメリットがあります。

一方で、裁判した場合と異なり、ADR機関を利用して解決したケースでは、遅延損害金が支払われないのがデメリットです。

つまり、交通事故において、裁判は遅延損害金の支払いを実務上受けられる唯一の解決方法ということになります。

解決方法遅延損害金
裁判
(判決)
裁判
(和解)
△※
示談×
ADR×

※調整金の費目で遅延損害金の一部に相当する金額が支払われるケースがある

遅延損害金はどうやって計算する?

遅延損害金の計算式|民法改正で法定利率は年3%に

金銭債務の不履行については、特に立証をせずに、法定利率で計算した遅延損害金を請求できることが法律上定められています(民法419条)。

よって、遅延損害金は、以下の計算式によって算定されます。

請求元本×法定利率×遅滞期間(日数)÷365日

「遅滞期間」とはいつから始まるのかについてはこの後解説するとして、まずは法定利率の引き下げについて説明しておきます。

法定利率は、2020年4月1日に施行された民法改正により年5%から年3%に引き下げられた上、3年ごとに見直しをすることになりました。

1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。

2 法定利率は、年三パーセントとする。

3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。

(以下略)

民法第404条

つまり、民法改正により、改正前と比べて請求できる遅延損害金は減ってしまったのです。

法定利率の引き下げによる遅延損害金額への影響は、遅滞期間が長ければ長いほど大きくなります。

例えば、請求元本が1億円で遅滞期間が1年の場合、民法改正により請求できる金額は500万円から300万円になり、200万円減額することになります。

一方、請求元本が1億円で遅滞期間が2年の場合、民法改正により請求できる金額は1000万円から600万円になり、400万円も減額することになるのです。

法定利率は事故発生日のものを用いる

遅延損害金の利率を年3%で計算するか、年5%で計算するかは交通事故発生日が2020年4月1日以降かどうかで判断します。

改正民法419条1項では「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」を適用すると定められています。
では、「債務者が遅延の責任を負った最初の時点」とはいつなのかというと、それは交通事故発生日なのです。

このことは、最高裁判例にて「不法行為に基づく損害賠償債務は、損害発生と同時に遅滞に陥る」と判示されていることからもわかります。

不法行為によりこうむった損害の賠償債務(略)は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥ると解するものが相当である。(以下略)

最判昭和37年9月4日

そのため、遅延損害金の利率は交通事故発生日の法定利率で計算するということになるのです。

交通事故発生当日を起算日に計算する

遅延損害金の計算で用いる「遅滞期間」は、交通事故発生日を起算日とします。

ここで注意すべきなのは、起算日が交通事故が発生した翌日ではなく当日であるということです。

期間や日数の計算については法律上、「初日不算入の原則」が定められており(民法140条)、この原則からすると起算日は交通事故の翌日になりそうです。

しかし、先ほどご紹介した最高裁判例で、不法行為に基づく損害賠償請求権は、発生と同時に遅滞に陥るものと判示されています。

そのため、交通事故の遅延損害金には初日不算入の原則が適用されず、交通事故発生日(当日)を起算日にして金額を計算しています。

【参考】民法改正は逸失利益にも影響

民法改正による法定利率の引き下げは、遅延損害金に対しては「もらえる金額」に影響するため、法定利率の引き下げにより遅延損害金額が減ってしまいます。

しかし一方で、法定利率の引き下げは「差し引かれる金額」に影響することで、結果的に「もらえる金額」の増加につながる一面もあります。それが、逸失利益です。

この逸失利益について、参考程度に解説しておきます。

逸失利益の計算では民法改正が有利に働く

逸失利益とは、後遺障害の認定を受けた被害者が請求できる損害賠償項目の一つで、交通事故に遭わなければ将来受け取れたはずの収入・利益の減少を補償するものです。

将来受け取るはずだった利益をまとめて先に受け取る形になるため、その金額は基本的に預金・運用されることとなり、将来的には利息が生じてしまいます。

この利息を逸失利益から差し引くことを「中間利息控除」といい、法定利率の引き下げはこの「中間利息控除」の金額に影響します。

今回の民法改正では、交通事故の逸失利益などの損害賠償額を計算する中間利息控除にも、法定利率が適用されることが明記されました(722条417条の2)。

法定利率が年5%から年3%に変更されたことで、差し引かれる中間利息の金額が減額するため、被害者が受け取れる逸失利益の金額は増額するのです。

逸失利益には決まった計算式がありますが、実際には加害者側との間で金額についてもめやすい項目です。詳しい計算方法を確認しておくと安心でしょう。

逸失利益も、事故発生日の法定利率で計算する

逸失利益における法定利率は、遅延損害金の場合と同様、症状固定日ではなく交通事故発生日が基準とされます。

交通事故による損害の中でも、逸失利益のような後遺障害に関する項目の金額が確定するのは、症状固定日です。
そのため「債務者が遅延の責任を負った最初の時点」の法定利率を採用するのであれば、後遺障害に関する費目では症状固定日の法定利率を使うのでは?と思われるかもしれません。

しかし、損害金額は症状固定日に確定するとしても、請求権自体は事故発生日に生じると考えられているので、法定利率は事故発生日のものを用いることになります。

たとえば事故発生日が民法改正前の2017年(平成29年)、症状固定日が民法改正後の2020年(令和2年)4月1日以降となった場合、法定利率は民法改正前のものを使うのです。
当然、後遺障害に関する費目における遅延損害金の起算日も、症状固定日ではなく事故発生日とされます。

なお、これは、後遺障害認定時に請求できるもう一つの後遺障害慰謝料という項目でも同じです。

後遺障害慰謝料は、交通事故における損害賠償金の中でも大きな金額を占めるものです。
また、後遺障害慰謝料を請求するために必要な「後遺障害等級」は、症状固定日が正しくないと認定されない可能性があります。

詳しくは、以下の記事をご覧ください。

交通事故の損害賠償請求について

交通事故の被害者は加害者に対し、法律上、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を持ちます。

そして不法行為に基づく損害賠償は、金銭の支払いという方法により行われると定められています(民法722条1項417条)。

裁判での遅延損害金の請求方法は?

訴状などを提出して裁判を起こし、判決を受ける

交通事故の損害賠償請求を裁判という方法で行うには、裁判所に訴状という書類を提出する必要があります。
訴状に損害賠償金・遅延損害金を請求する旨を記入し、交通事故証明書、実況見分調書などの必要書類と合わせて簡易裁判所または地方裁判所に提出すると、裁判が行われるので、判決まで進んでいきましょう。

交通事故の裁判の流れ

遅延損害金を請求する場合の訴状の書き方

具体的にイメージしやすいよう、下記のケースで裁判をする際に、遅延損害金を請求するための訴状の記載方法をご説明したいと思います。

  • 事故日:2020年(令和2年)4月1日
  • 損害額:1000万円
  • 支払済みの損害金なし

上記のケースで遅延損害金を請求するには、訴状に記載すべき内容の一つである「請求の趣旨」に下記のように記載します。

被告は,原告に対し,金1100万円及びこれに対する令和2年4月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え

訴状には他にもさまざまな項目を記入する必要があります。
関連記事『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』では、訴状の内容の他、具体的な裁判の流れ、費用などについて言及しているので、より詳しく知りたい場合はご覧ください。

裁判では、弁護士費用も請求できる

裁判を起こすこと自体は弁護士を立てなくても可能ですが、裁判によって適切な判決を受けるためには、弁護士を立てることが非常に重要です。

ポイントをおさえた対策を練り、被害者側の主張を裏付ける証拠資料を裁判所に提出しなければ、被害者にとって不利な判決が出てしまう可能性があるからです。

このときかかる弁護士費用は、他の損害賠償金や遅延損害金とともに加害者側に請求できます。

弁護士費用として認められる金額は、請求額の10%が一般的です。請求額が1000万円で支払い済みの損害金がないケースでは、弁護士費用として1000万円の10%である100万円を請求できるのです。

ただし、この請求額には支払済みの損害金は含まれないので、仮に請求額が1000万円、支払い済み損害金が100万円だったとすれば、認められる弁護士費用は900万円の10%、すなわち90万円となります。

なお、遅延損害金は「請求元本×法定利率×遅滞期間(日数)÷365日」で計算されますが、請求元本には加害者に請求する弁護士費用も含まれます。

つまり、損害賠償請求する全額に対し、交通事故発生当日から遅延損害金が発生しているものとして請求することになります。

自賠責から裁判前に賠償金を受領した場合

裁判で遅延損害金を請求する場合の原則的な記載内容はここまで解説したとおりです。

ただし、「被害者請求」によって裁判前に損害金の一部を受領していた場合は、注意が必要です。

被害者請求

加害者側の任意保険会社と自賠責保険会社から支払われる損害賠償金のうち、自賠責保険会社からの支払い分のみ先に受け取ること。
通常は、どちらからの支払い分もまとめて、加害者側の任意保険会社から支払われる。

詳しい手続きの方法や、被害者請求でもらえる金額の上限などは、『交通事故の被害者請求とは?自賠責へ請求すべき?やり方やメリットもわかる』で解説。

自賠責保険から損害賠償金を受領した場合、受領分を元本にどう充当するかで、請求金額や遅延損害金請求の起算点が変わります。

具体的にイメージしやすいよう、下記のケースを例にしてご説明していきます。

  • 死亡事故
  • 事故日:2020年(令和2年)4月1日
  • 損害額(弁護士費用を除く):1億円
  • 事故日の1年後(令和3年3月31日)に自賠責保険から3000万円を受領

上記のケースについて、遅延損害金の考え方には「自賠責保険からの受領金を全額元本に充当する」ものと、「自賠責保険からの受領金の一部を遅延損害金に充当する」ものの2つがあります。

それぞれでどのような違いが出るのか、わかりやすく解説していきましょう。

(1)自賠責保険からの受領金を全額元本に充当する考え方

  • 死亡事故
  • 事故日:2020年(令和2年)4月1日
  • 損害額(弁護士費用を除く):1億円
  • 事故日の1年後(令和3年3月31日)に自賠責保険から3000万円を受領

仮に、自賠責保険からの受領額を全額損害額の元本に充当してしまう、つまり全額「損害賠償金」として扱ってしまうと、裁判における加害者側への請求額及び遅延損害金は、以下のように考えられます。

  1. 損害賠償金1億円から、自賠責保険より支払われた3000万円を差引くと、7000万円。弁護士費用は7000万円の10%にあたる700万円として請求できるので、裁判で加害者側に請求する金額は、合わせて7700万円。
  2. 遅延損害金は、7700万円について、事故発生日を起算日として請求する。

つまり、訴状に記載する請求の趣旨は下記のようになります。

被告は,原告に対し,金7700万円及びこれに対する令和2年4月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え

ただし、上記の計算では、自賠責保険からの損害金3000万円については遅延損害金が支払われていません。しかし法律上は、自賠責保険からの損害賠償金に対しても、受領日までの間に遅延損害金が発生しています。

そのため、自賠責保険からの受領額を受領日までの遅延損害金に充当した方が、被害者にとっては有利といえます。

では、「自賠責保険からの受領額を受領日までの遅延損害金に充当する」といはどういうことか、見ていきましょう。

(2)自賠責保険からの受領金の一部を遅延損害金に充当する考え方

  • 死亡事故
  • 事故日:2020年(令和2年)4月1日
  • 損害額(弁護士費用を除く):1億円
  • 事故日の1年後(令和3年3月31日)に自賠責保険から3000万円を受領

上記のケースにおいて、自賠責保険からの支払額の一部を遅延損害金に充当すると、裁判における加害者への請求額および遅延損害金は、以下のように計算されます。

  1. 自賠責保険から支払われた3000万円のうち、300万円は遅延損害金(計算式:1億円×年率3%×1年)、残りの2700万円は損害賠償金と考える。
  2. 裁判で加害者に請求する損害賠償金は、1億円-2700万円=7300万円。弁護士費用の730万円(7300万円の10%)を合わせると8030万円。
  3. 遅延損害金は、損害賠償金7300万円に対しては、自賠責保険からの支払いを受けた翌日を起算点とする。弁護士費用730万円は、交通事故発生日を起算点とする。

では、より詳しく解説していきます。

自賠責保険からの受領金は、事故発生から1年後に支払われています。
つまり、自賠責保険からの受領時点で、損害額1億円に対しては、1年間分の遅延損害金300万円発生がしているということです。

そこで、自賠責保険から受領した3000万円のうち300万円は遅延損害金として考えます。
すると、自賠責保険から支払われた損害金は、3000万円-300万円=2700万円ということになります。

よって、加害者側に支払ってもらうべき残りの損害額は、1億円-2700万円=7300万円となり、弁護士費用730万円(7300万円の10%)と合わせて8030万円です。

遅延損害金は、弁護士費用を除いた7300万円については、自賠責保険からの損害賠償金受領日の翌日を起算日とします。

自賠責保険からの損害賠償金受領日までの損害額に対する遅延損害金は、自賠責保険からの受領額の中から受け取り済みだからです。

ただし、充当された損害額に弁護士費用分は含まれていないため、弁護士費用分の遅延損害金の起算日は交通事故発生日となります。

そのため、自賠責保険からの受領額を受領日までの遅延損害金に充当したケースで訴状に記載する請求の趣旨は下記のようになります。

被告は,原告に対し,金8030万円及びうち金7300万円に対する令和3年4月1日から,うち金730万円に対する令和2年4月1日から,いずれも支払済みまで年3%の割合による金員を支払え

上記のとおり、裁判で適切な金額の遅延損害金を請求するためには、複雑な計算が必要になるので、裁判の専門家である弁護士に相談するのが確実です。

アトム法律事務所では、交通事故案件の知識と経験豊富な弁護士による無料相談を24時間365日予約受付しております。

弁護士費用特約が使えるケースでは、弁護士費用を保険会社に負担してもらえるので、相談前に被害者側の保険の内容をよく確認されることをおすすめします。
(関連記事:交通事故の弁護士費用相場はいくら?弁護士費用特約を使って負担軽減

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【参考】既払いの治療費は遅延損害金に充当しない

裁判や示談の前に支払われる損害賠償金には、自賠責保険金以外に任意保険会社による治療費支払い(一括対応)があります。

そうすると、自賠責保険のケース同様、保険会社から治療費が支払われるまでの間に、遅延損害金が法律上は発生していることになります。

しかし、このケースでは自賠責保険のように支払日までの遅延損害金に充当することを認めた最高裁判例はありません。

むしろこのケースでは、保険会社が治療費として支払った金額は、元本に充当するという黙示の合意があると認定する裁判例の方が多いです。

そのため、このケースでは、原告の方が請求時に、治療費の既払い金として元本から控除するなど、実務上遅延損害金への充当を争わないことが多いです。

まとめ

  • 交通事故の実務上、裁判は遅延損害金の支払いを受けるための唯一の方法
  • 交通事故の遅延損害金は、事故発生日を起算日に年率3%で計算する
  • 年率3%で計算するのは、2020年4月1日以降に発生した交通事故のケース

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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