後遺障害認定の通知書はいつ届く?非該当への対応や等級認定後の流れ
後遺障害認定の申請のうち約9割は、2か月ほどで認定の可否が記載された通知書が送られてきます。
ただし、後遺障害と認定される確率は約5%と低く、「申請したものの、非該当の通知がきてしまった」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、後遺障害認定が非該当だったときに行う「異議申し立て」の流れや、認定されやすくなるコツを紹介します。
また、後遺障害として認定された方が、次になにをすべきかについても解説します。
目次
後遺障害認定の通知書はいつ届く?
後遺障害認定の通知書の到着目安は2か月
後遺障害認定の審査のうち、約9割は申請から2か月以内に結果が出ています。
そのため、後遺障害の申請から被害者のもとへ通知書が届くまでの期間は、2か月を目安にしましょう。
後遺障害認定の通知書の到着が遅いケース
後遺障害認定の審査が長引き、被害者のもとへなかなか通知書が届かないケースには以下のようなものがあります。
後遺障害認定の通知書の到着が遅いケース
- 高次脳機能障害の審査をしている
時間の経過とともに症状が軽減していく傾向があるため
経過観察の期間をある程度設ける必要があるため - 外貌醜状の審査をしている
後遺障害認定の審査の過程で、ほかの後遺症では行われない面接があるため - 後遺症が複数ある
後遺症をひとつずつ審査・調査していくため
とくに高次脳機能障害は後遺障害認定の通知書が届くまで6か月以上かかることも珍しくなく、場合によっては1年以上かかってしまうこともあります。
また後遺症の内容以外の要因だと、以下のような理由で遅れていることも考えられます。
- 保険会社から審査機関への書類提出が遅れている
- 審査機関が担当医に後遺症の症状や所見を問い合わせる「医療照会」の回答が遅れている
後遺障害認定の通知書が届かないときの対処法
後遺障害認定の通知書が来ないときは、書類を提出した保険会社に状況を問い合わせてみましょう。
保険会社から審査機関への書類提出が遅れていた場合、問い合わせをきっかけに対応を早めてもらえる可能性があります。
保険会社に問い合わせる時期としては、2か月以上経っても通知書が来ないタイミングが良いでしょう。
ただし、すでに審査機関に書類が渡っている場合、保険会社が取れる対応はありません。審査が終わり、通知書が届くのを待ちましょう。
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後遺障害認定されない・等級が低い場合の対処法
後遺障害認定の申請をした結果、非該当の通知を受けた場合や、想定よりも低い等級で認定されてしまった場合には後遺障害認定の再申請が可能です。
再申請する場合は「異議申し立て」
後遺障害認定を申請したものの非該当だった場合や、想定よりも低い等級に認定された場合に、後遺障害認定の審査を再び申請することを「異議申し立て」といいます。
後遺障害の異議申し立ては、症状固定日の翌日から3年以内であれば何度でも行えます。
症状固定日
症状は残っているものの、これ以上治療しても改善が見込めないと主治医が判断した日
後遺障害の異議申し立て自体は無料ですが、異議申し立てにあたり新たな後遺障害診断書や資料を発行する場合には、発行手数料がかかることもあるので注意しましょう。
なお、仮により高い等級を目指して異議申し立てをした場合、一度目に認定された等級よりも下がることはありません。そのため、認定された等級に納得がいかない場合は我慢せずに異議申し立てを行うことが大切です。
異議申し立てできる期間にタイムリミットはある?
まず、後遺障害の異議申し立てができる期間に制限はありません。
しかし、自賠責保険に後遺障害慰謝料や逸失利益を請求する権利には「3年」という時効があります。
もし3年が過ぎてしまうと、適切な後遺障害等級に認定されたとしても、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求ができなくなってしまいます。
そのため、請求できる期限も考慮した異議申し立ての計画を立てるようにしましょう。
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異議申し立ての流れ|異議申し立て結果の通知書はいつ届く?
後遺障害の異議申し立ては、以下の流れで行います。
後遺障害の異議申し立ての流れ
- 異議申立書とその他の必要書類を準備する
- 加害者側の保険会社に書類を提出する
- 審査機関で再審査が行われる
- 後遺障害認定の通知書が送られてくる
なお、後遺障害認定の結果が書かれた通知書が届くまでは、申請から2か月~3か月が目安といわれています。しかし、症状によっては6か月ほどかかることもあります。
1.異議申立書とその他の必要書類を準備する
後遺障害の異議申し立てをするときに、必ず提出する書類は「異議申立書」のみです。
それに加えて任意で、後遺障害に該当していると主張するための証拠書類を用意します。
異議申し立てで提出する証拠書類の例
- 後遺障害診断書
- カルテ
- 医師による意見書
- CT、MRIなどの画像所見
- 神経学的検査で新たに受けた検査の結果
- 実況見分調書はじめ事故の状況を示す資料
- 被害者家族による報告書
異議申立書以外の書類の提出は任意ですが、追加で医学的資料を提出し、前回以上に後遺障害に該当することをアピールしなければ、適切な認定結果を得ることは難しいです。
異議申し立てでは、前回の認定結果に不満があることや、後遺症に悩んでいることを訴えるのではなく、医学的な資料に基づいた客観的な証拠を示すようにしましょう。
2.加害者側の保険会社に書類を提出する
後遺障害認定の申請には、「事前認定」と「被害者請求」という2つの申請方法があります。
異議申し立てについても同様に、この2種類の申請方法で行います。
- 事前認定:書類を加害者側の任意保険会社に提出
- 被害者請求:書類を加害者側の自賠責保険会社に提出
なお、初回の申請で被害者請求を選択した場合は、異議申し立ても被害者請求で行う必要があるので注意してください。
初回申請 | 異議申し立て |
---|---|
事前認定 | 事前認定・被害者請求のどちらも選択可能 |
被害者請求 | 被害者請求のみ |
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被害者請求の方がアピールしやすい
事前認定と被害者請求には以下のような違いがあります。
- 事前認定
被害者が用意するのは後遺障害診断書のみ - 被害者請求
被害者が提出書類をすべて用意する
すなわち被害者請求は、書類を被害者自身が用意する手間がかかる分、証拠書類を自由に選択できるため、後遺症に合わせた適切なアピールがしやすいのです。
3.審査機関で再審査が行われる
後遺障害認定の異議申し立ては、損害保険料率算定機構の内部組織である「自賠責保険審査会」で行われます。
自賠責保険審査会は、弁護士や医師などの専門家が参加する組織です。
すなわち異議申し立てでは、より高度な専門的知識をもとに「後遺障害に認定するか」「後遺障害等級はどれにするか」判断されます。
4.後遺障害認定の通知書が送られてくる
自賠責保険審査会による審査が終了すると、加害者側の保険会社から後遺障害認定の通知書が送られてきます。目安は申請から2か月~3か月です。
なお、被害者請求で異議申し立てをして後遺障害等級が認定された場合、結果通知と同じ時期に「自賠責分の後遺障害慰謝料・逸失利益」が振り込まれます。
異議申し立ての成功率とコツ
後遺障害の異議申し立ての成功率は約11%です。
損害保険料率算出機構が公表している「自動車保険の概況」によると、2022年度は審査件数10,353件のうち1,111件しか、異議申し立てによる後遺障害等級の変更が認められていません。
異議申し立ての成功率を高めるコツ
異議申し立ての成功率を高めるためには、前回失敗した理由を通知書から分析することが重要です。
なぜ前回の申請で後遺障害が認定されなかったのか、理由を知る方法は以下の2種類があります。
- 「後遺障害認定の通知書」を確認する
- 加害者側の自賠責保険会社に「理由開示の申し入れ」をする
まず確認すべきは、前回の認定結果の通知書です。
たとえば通知書に「客観的な医学所見に乏しく、障害が証明されるとは捉えられない」といった記載がある場合には、検査結果を追加添付することが有効だと考えられます。
また、加害者側の自賠責保険会社に「理由開示の申し入れ」をすると、より詳細な理由がわかる可能性があります。
後遺障害認定の通知書は読みにくい?
後遺障害認定の通知書は個々の事案に即した表現ではなく、決められた定型文に基づき作成されています。
そのため、異議申し立て時にどのように改善すれば良いかわからないという場合もあるでしょう。
前回の申請内容からどう改善すれば良いのか、どんな資料を追加で用意すれば良いのかわからない方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士であれば「この症状で後遺障害◯級を目指すのであれば、この書類やこの検査結果が必要」といった知識があるため、後遺障害認定に向けた適切なサポートを提供できます。
紛争処理制度・民事裁判も手段のひとつ
何度か異議申し立てを行い、「もう同じ審査機関に再申請し続けても意味がない」と感じる場合には、「紛争処理制度」や「民事裁判」の活用も手段のひとつです。
紛争処理制度とは?
紛争処理制度は、「自賠責保険・共済紛争処理機構」に対して、自賠責保険の支払いに関する調停を依頼する制度です。
公正中立な立場である弁護士や医師で構成された紛争処理委員会が、後遺障害の審査結果が正しかったかどうかを判断してくれます。
紛争処理制度は費用がかかりませんが、利用できるのは1回に限られているので注意してください。
交通事故における民事裁判とは?
民事裁判では、適切な後遺障害等級に基づく賠償金算出の主張ができます。
通常、後遺障害等級は損害保険料率算出機構が審査して認定しますが、訴訟を起こせば、裁判所が独自に後遺障害等級を判断・認定することができるのです。
裁判で後遺障害が認定されれば、認定された等級に準じた損害賠償金を請求できるようになります。
ただし、この場における民事裁判では、後遺障害等級のみを争点とするのではなく、損害賠償問題全体を争点にすることが多いです。
そのため、被害者にとって必ずしも有利な結果が出るとは限らない点には注意してください。
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後遺障害認定が通知された後の流れ
後遺障害認定の申請、もしくは異議申し立てで後遺障害に認定された後にすべきことを解説します。
(1)認定された後遺障害等級で納得できるか判断
後遺障害に認定されたらまずは、認定された等級で納得できるか検討しましょう。
より高い等級の認定を目指したい場合には、「異議申し立て」を行います。後遺障害の異議申し立てについては、本記事内「後遺障害認定されない・等級が低い場合の対処法」をお読みください。
どんな症状だとどの後遺障害等級に認定されるか知りたい方は、『【後遺障害等級表】認定される後遺症・症状の一覧と等級認定の仕組み』をご参考ください。
認定された後遺障害等級が妥当なものか判断に困る場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害の等級が変わると、もらえる損害賠償金も大きく変わります。まずは無料相談で「認定された等級が妥当なのか」「もっと上の等級を目指せる可能性があるのか」をご確認ください。
(2)示談内容を確認|納得いかなければ示談交渉
認定された後遺障害等級に不満がなく異議申し立てを行わない場合は、この段階で請求すべき損害額が確定するため、示談交渉が始められます。
加害者側の保険会社に示談交渉が開始できる旨の連絡をすると、加害者側から示談書が届くので、内容を確認しましょう。
示談書には以下のような内容が書かれています。
示談書の内容
- 事故の概要
- 当事者の氏名
- 示談金額(後遺障害慰謝料・逸失利益含む)
- 事故の過失割合 など
提示された示談案に問題がなく合意する場合は、示談書に署名・捺印すると示談成立となり、約2週間で示談金が振り込まれます。
もし示談内容に不満がある場合には、示談金額の引き上げや過失割合の見直しなどを求めて示談交渉を行います。
一度示談が成立すると、原則やり直すことはできないため示談内容に同意するかどうか、慎重に判断してください。
【注意】加害者側が提示する示談金は低額
加害者側が提示する示談金額は、適正な金額よりも低いことがほとんどです。
これは、加害者側の保険会社が「任意保険基準」という独自のルールで慰謝料や損害賠償金を計算するためです。本来もらえる適正な金額は、過去の判例をもとにした「弁護士基準」で計算した金額です。
たとえば、後遺障害12級に認定された場合の後遺障害慰謝料は、弁護士基準だと290万円ですが、任意保険基準だと100万円ほどになってしまいます。
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弁護士基準で請求する方法は?
弁護士基準で慰謝料や損害賠償金を請求するためには、弁護士を立てることが必須といっても過言ではありません。
なぜなら、被害者本人が「弁護士基準で計算した金額に上げてほしい」と増額交渉しても、加害者側の任意保険会社が首を縦に振ることはほとんどないためです。
示談交渉で弁護士を立てて、加害者側が「裁判を起こされるかもしれない」と危惧することで、はじめて示談金の増額が叶うことが多いです。
任意保険会社も営利団体なので、なるべく支払う金額を抑えられるために増額を渋りますが、裁判を起こされると、それ以上の手間や時間がかかってしまうと考えるのでしょう。
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後遺障害認定通知書についてよくある質問にお答え
後遺障害認定後、示談金はいつ支払われる?
示談金は、事故相手との示談成立後に支払われます。
ただし、後遺障害認定の請求を「被害者請求」で行った場合には、後遺障害の認定が通知されたタイミングで、自賠責基準で算出した後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の一部を受け取れます。
自賠責保険からもらえる後遺障害慰謝料の金額について詳しくは、『自賠責保険の慰謝料計算や限度額を解説|任意保険からも両方もらえる?』をお読みください。
示談成立前に賠償金を受け取る方法はある?
示談が成立する前でも、以下のような方法で賠償金の一部を受け取れます。
- 加害者側の自賠責保険から受け取る
- 加害者側の任意保険から受け取る
- 被害者自身の保険から保険金を受け取る
加害者側の自賠責保険から受け取る
示談前に、加害者側の自賠責保険から賠償金を受け取る方法は「仮渡金の支払いを請求する」と「被害者請求する」の2つです。
仮渡金の請求とは、示談成立前に傷害の程度に応じた金額を受け取れる制度です。請求からおよそ1週間程度で支払いを受けられます。
被害者請求とは、交通事故の賠償金のうち、加害者側の自賠責保険負担分の金額を示談前に請求する方法です。被害者請求の申請からおよそ1か月程度で支払いを受けられます。
なお、ここでいう被害者請求とは、後遺障害認定の申請方法の1つである被害者請求とは別のものなので注意してください。
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加害者側の任意保険から受け取る
加害者側の任意保険から、損害賠償金の「内払い」をしてもらえる可能性もあります。
内払いとは、示談成立前に賠償金の一部を支払ってもらえる制度です。特に、通院交通費や休業損害などは、生活にかかわる費目なので、内払いに応じてもらえる可能性が高いといえます。
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被害者自身の保険から保険金を受け取る
被害者の「人身傷害補償保険」を使えば、示談成立前に慰謝料と同等の保険金を受け取ることができます。
ただし、支払われる金額は被害者が加入する保険会社の基準に基づいて算定した金額です。
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弁護士に後遺障害認定に関する不安を相談するメリット
後遺障害に認定される確率を高められる
弁護士なら、「この等級を目指すならこの検査が必要」や「この意見書の書き方が有効だった」というような、後遺障害の認定基準や過去の事例をもとに後遺障害認定の申請が行えます。
また、異議申し立ての場合には、なぜ前回の後遺障害認定の申請が失敗したのか分析することが、適切な後遺障害等級に認定されるためのカギとなります。
弁護士であれば過去の成功例を参考に、説得力のある申請書類を揃えられます。
後遺障害認定後の示談交渉で示談金増額を目指せる
前述したとおり、さまざまな費目を最も高額になる「弁護士基準」で受け取るためには、弁護士を立てることが必須といっても過言ではありません。
特に、後遺障害が認定されるケースでは示談金が高額になりやすいです。
示談金額が上がるほど、任意保険基準と弁護士基準の金額の差も広がるので、加害者側から提示されている示談金からどのくらい増額が見込めるのか、まずは一度弁護士にご相談ください。
弁護士費用特約を使えば自己負担なく依頼できる可能性がある
弁護士に依頼するメリットはわかっていても、弁護士費用に不安があり依頼に踏み出せないという方は多いと思います。
しかし「弁護士費用特約」を活用すると、被害者の自己負担なしに後遺障害認定の申請や示談交渉を依頼できる可能性があります。
弁護士費用特約とは、被害者が加入している保険会社に弁護士費用を負担してもらえる特約です。
弁護士費用特約を使えば多くの場合、弁護士費用として300万円まで相談料として10万円までを、保険会社に負担してもらえます。
事故相手への請求金額が大きくなると、発生する弁護士費用が特約の上限を超える場合もありますが、同時に獲得できる示談金額も増えるため、費用倒れになる可能性は低いです。
弁護士費用や弁護士費用特約について詳しくは、関連記事をお読みください。
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- 相談者の後遺症だとどの後遺障害等級が目指せるか
- 後遺障害が認定されるために必要な対策はなにか
- 加害者側が提案する示談金額が適切かどうか
事務所にお越しいただくことなくご相談いただけるため、ケガの治療中であってもお気軽に利用していただけます。
また、ご相談時に無理にご契約を勧めるようなことは一切ありません。安心してご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了