交通事故の慰謝料がもらえない?もらい損ねを防ぐ方法を紹介
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交通事故の被害者となれば、加害者側から慰謝料を含む賠償金が支払われることとなります。
しかし、「自分のミスで本来もらえるはずの慰謝料額が十分にもらえなくなったらどうしよう?」と不安になる人は多いのではないでしょうか。
実際に、被害者が対応を間違えた結果、本来もらえる慰謝料額がもらえないケースは存在します。
本記事では、慰謝料が十分にもらえないケースと、ケースごとの対処法をお伝えします。
目次
慰謝料がもらえないケースとは?
慰謝料がもらえないケース一覧
交通事故の慰謝料が十分にもらえないのは、主に「慰謝料の算定基準が異なる」「医師の指示に従わない」「後遺障害等級が適切に認定されない」「示談交渉に失敗した」「必要以上に相殺が行われた」といったケースです。
交通事故の慰謝料に関する知識が不十分だったケースが多いと言えるでしょう。
本来もらえるはずの慰謝料が十分にもらえないケースを、具体的に確認してみましょう。
慰謝料が十分にもらえないケース
- 慰謝料を弁護士基準で計算しなかった
- 入通院で医師の指示に従わず、治療を中断したり通院頻度が低かったりした
- 後遺障害等級認定で十分に書類の準備を行わず、適切な等級に認定されなかった
- 示談交渉で加害者側に慰謝料を上乗せできる事実を主張しなかった
- 被害者の過失割合を必要以上に高くされた
- 本来相殺の対象外であるお金が誤って相殺された
- 被害者の身体的・心理的事情が不当に評価された
- 時効により請求権が消滅した
ケースごとに、対処する方法は異なります。
この記事では、各ケースの具体的な内容と対処法を紹介していきます。
また、本来もらえる慰謝料の目安は以下の慰謝料計算機でも確認できます。
もし、計算結果より加害者側から提示された金額が低い場合は、適切な慰謝料をもらうために弁護士に依頼することをおすすめします。
そもそも交通事故でもらえる慰謝料は?3つの慰謝料を紹介
慰謝料が十分にもらえないケースと対象法を確認する前に、まずは交通事故でもらえる慰謝料を確認しておきましょう。
もらえる慰謝料の種類は、事故の内容によって変わります。
本来もらえるはずの慰謝料がもらえない事態を防ぐためにも、どのような事故でどのような慰謝料が請求できるのかを知っておくことは重要です。
慰謝料の基本情報については『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』の記事で簡単にまとめていますので、あわせてご確認ください。
死亡慰謝料|死亡事故の場合に請求
死亡慰謝料は、事故により死者が出ている場合に請求できます。
死亡した被害者本人の分だけではなく、被害者の近親者自身も請求可能です。
死亡事故の慰謝料については、『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』の記事でも詳しく解説しています。
入通院慰謝料|入通院した場合に請求
入通院慰謝料は、事故により生じた傷害の治療のために、被害者が入院または通院をすることとなった場合に請求できます。
後遺障害慰謝料|後遺障害等級が認定されたら請求
後遺障害慰謝料は、事故により生じた傷害を治療したものの後遺症が残ってしまい、その後遺症に対して後遺障害等級が認定された場合に請求できます。
慰謝料の計算方法は?弁護士基準でもらい損ねを防ぐ
慰謝料の計算には、3つの基準があります。
慰謝料の3つの算定基準
- 自賠責基準
加害者の自賠責保険から支払われる慰謝料額の計算基準。
交通事故被害者に補償される最低限の金額であり、計算方法は国が定めている。 - 任意保険基準
各任意保険会社が独自に設定した慰謝料額の計算基準。 - 弁護士基準(裁判基準)
裁判となった場合にもらえる慰謝料額の計算基準。
加害者の多くは任意保険に加入しています。
よって、多くの場合で示談交渉の相手は加害者側の任意保険会社となり、提示される慰謝料は任意保険基準で計算された金額になるのです。
しかし、この金額は自賠責基準よりは高額ですが、弁護士基準に比べると低額です。
そのため、任意保険基準による慰謝料額で示談を成立させてしまうと、本来もらえるはずの慰謝料が十分にもらえないのです。
慰謝料のもらい損ねを防ぐためには、弁護士基準に基づいた金額を支払うよう交渉しましょう。
弁護士基準については、通称「赤い本」といわれている、民事交通事故訴訟損害賠償算定基準にて知ることができますが、この記事の中でも弁護士基準による慰謝料の計算方法を紹介していきます。
入通院慰謝料がもらえない3ケース
(1)慰謝料を弁護士基準で計算していない
先述のとおり、加害者側が提示する入通院慰謝料の金額は、任意保険基準で計算したものです。
加害者側の主張をそのまま受け入れてしまうと、入通院慰謝料が十分にもらえないでしょう。
入通院慰謝料のもらい損ねを防ぐためには、弁護士基準で金額を計算し、加害者側に主張することが必要です。
では、弁護士基準による入通院慰謝料の計算方法を見ていきましょう。
弁護士基準では、入通院慰謝料は2種類の算定表を用いて計算します。
算定表の見方
算定表は1か月を30日として1か月単位で基準値が示されており、端数については日割り計算します。
入通院慰謝料の対象となるのは、治療開始から症状固定(これ以上は治療の効果が望めないという診断)までの期間です。
ただし、通院が長期にわたる場合には、実際の通院日数の3~3.5倍程度を通院期間とすることがあります。
軽症、またはむち打ちで他覚症状がないとされる場合に用いる表は、以下の通りです。
その他の傷害においては、以下の算定表を用います。
入通院慰謝料をさらに具体的に計算したい場合は、『通院でもらえる慰謝料は?慰謝料相場の一覧表や適正な金額をもらうためのポイント』の記事を確認してみてください。
入通院慰謝料は事情によっては上乗せされることもある
入通院慰謝料は、通常よりも精神的苦痛が大きいと判断されれば上乗せされることがあります。
具体的には、以下のようなケースで上乗せされる可能性があるでしょう。
- 脳や脊髄への損傷が生じた
- 多数の個所にわたる骨折が生じた
- 内臓破裂が生じた
- 麻酔ができない手術や長時間の手術を行った
- 生死の間をさまよった
慰謝料の増額につながる事由は、上記以外にもさまざまあります。
実際に増額されるのか、どの程度増額されるのかについて明確な決まりはないので、詳しくは法律の専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。
(2)治療を中断した・通院頻度が低い
入通院慰謝料は、入通院の期間を基準として計算を行います。
そのため、通院を途中でやめてしまったり、通院頻度が少なかったりする場合は、慰謝料が十分にもらえない恐れがあります。
通院を中断し、入通院の期間が短くなれば、その分慰謝料は減ってしまいます。
また、通院頻度が少なければ、加害者側から不要な通院であったと判断され、慰謝料が減らされてしまう可能性があるのです。
それだけでなく、通院日数が少ないと、入通院慰謝料以外の慰謝料にも悪影響を及ぼすことがあります。
対策としては、医師が通院の必要がないと判断するまで通院を続けることが大切です。
最低でも月に1回以上、可能であれば月に10回は通院することをおすすめします。
ただし、通院日数が少ない理由によっては、慰謝料が減らない可能性もあります。
通院日数が少ない場合に知っておくべきポイントについては、『通院日数が少ない場合でも交通事故の慰謝料を適正額で獲得する方法』の記事で解説しています。
(3)通院先が整骨院や接骨院である
整骨院や接骨院への通院は、整形外科などの病院への通院と異なり、通院として認められない可能性があります。
医師の資格を有さない人による治療行為であるため、治療の必要性や相当性がないと判断されるためです。
しかし、医師が整骨院・接骨院に通うように指示を行った場合などは、整骨院や接骨院での施術も通院として認められる可能性があります。
そのため、まずは病院で治療し、医師から整骨院や接骨院への通院の指示があった場合には従うようにしましょう。
医師の指示がなくても、整骨院・接骨院での施術が通院として認められる場合はありますが、治療の必要性や相当性の証明は、医療知識や法律知識のない人には困難です。
もし、医師の指示がない整骨院や接骨院への通院を認めてほしいのであれば、専門家である弁護士に相談しましょう。
整骨院で治療した場合の慰謝料については、『交通事故の治療を整骨院で受けても慰謝料はもらえる|慰謝料の計算と注意点』の記事をご確認ください。
後遺障害慰謝料がもらえない2ケース
(1)慰謝料を弁護士基準で計算していない
入通院慰謝料と同様に、後遺障害慰謝料も、加害者側は任意保険基準で計算した金額を提示してきます。
任意保険基準で計算した金額は、弁護士基準で計算した金額よりも大幅に低いことがほとんどです。適切な慰謝料をもらうためには、弁護士基準で計算した金額を主張するようにしましょう。
後遺障害慰謝料の金額は、弁護士基準では以下のように決められています。
等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800万円 |
2級・要介護 | 2,370万円 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
関連記事『後遺障害慰謝料の相場はいくら?等級認定で支払われる金額と賠償金の種類』では、後遺障害慰謝料を弁護士基準で請求せず、自賠責基準で受けとる場合の差額についても解説しています。等級ごとの適正な後遺障害慰謝料をもらいたい方は参考にしてください。
(2)適切な後遺障害等級に認定されていない
上記の表を見てもわかる通り、後遺障害慰謝料の金額は等級が上がるほど高くなります。
しかし、後遺障害等級は必ずしも適切に認定されるとは限りません。
後遺障害等級認定の審査で、きちんと後遺症の症状や程度を審査機関に伝えられなければ、本来認定されるべき等級よりも低い等級に認定されてしまう可能性があります。
場合によっては、そもそも等級が認定されず、後遺症が残ったのに後遺障害慰謝料がもらえない状態になることもあるのです。
適切な後遺障害等級に認定されるためには、「被害者請求」で後遺障害等級認定の申請をすること、後遺障害診断書の内容にこだわることの2点が大切です。
被害者請求で後遺障害等級認定の申請をする
後遺障害等級認定は、損害保険料率算出機構という組織が専門的に行っています。
後遺障害等級認定の方法には「被害者請求」と「事前認定」があり、どちらの手続きでも審査機関における審査の過程に変わりはありません。
しかし、適切な等級認定を受けたいのであれば、被害者請求を選ぶようにしましょう。
被害者請求とは?
被害者請求では、必要資料をすべて被害者が用意し、加害者側の自賠責保険会社に提出します。すると、その資料が損害保険料率算出機構に渡り、審査が行われるのです。
被害者請求なら、書類の用意をすべて被害者自身が行うので、より正確に後遺症の症状・程度を伝えるための追加書類の添付が可能です。そのため、適切な認定結果が得られる可能性が高まります。
事前認定とは?
事前認定では、被害者は後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社に提出します。その他の必要な書類はすべて加害者側の任意保険会社が用意し、損害保険料率算出機構に送ってくれます。
被害者請求よりも手間はかかりませんが追加書類の提出は難しいので、審査機関に後遺症の症状・程度が十分に伝わらず、不本意な認定結果となる可能性があるのです。
そのため、適切な等級を認定してもらうには、被害者自身が少しでも有利となる書類をしっかりと用意し、被害者請求による申請を行うべきです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
被害者請求 | 有利な証拠を提出できる | 資料収集の手間がかかる |
事前認定 | 資料収集の手間がかからない | 有利な証拠を提出できない |
後遺障害等級認定の被害者請求については、『後遺障害申請の被害者請求|流れや弁護士に依頼すべき理由を解説』の記事が参考になりますので、ぜひご一読ください。後遺障害の申請は弁護士に任せた方が適切な等級に認定されやすくなることもわかります。
後遺障害診断書の内容にこだわる
後遺障害等級認定のために最も重要な書類は、医師が作成する「後遺障害診断書」です。
後遺障害等級認定は、原則として書面審査となります。
そのため、診断書によってどのような後遺症が発生しているのかを過不足なく伝えることが必要です。
ただし、医師は治療の専門家であり、後遺障害等級認定の専門家ではありません。
後遺障害等級認定に有効な診断書の書き方については詳しくない可能性もあるので、診断書の内容については被害者側から伝える必要があります。
どのような内容にすべきかは、後遺障害等級認定の申請経験がある弁護士に相談するとよいでしょう。
後遺障害診断書の作成方法については、『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』の記事で確認できます。
慰謝料がもらえないその他の5ケース
(1)示談交渉に失敗する
交通事故においては、その多くの場合が示談による話し合いで慰謝料などの賠償金額が決定されます。
そのため、示談交渉の進め方を間違えると、本来もらえるはずであった慰謝料がもらえないということがあります。
1度示談が成立すると、原則として撤回することはできないので、示談交渉の進め方が重要です。
とくに、以下の2点を意識するとよいでしょう。
- 示談交渉相手となる加害者側の任意保険会社は、加害者を顧客とする営利団体である
- 慰謝料を上乗せできる事情がある場合は、きちんと主張する
交渉相手は加害者を顧客とする営利団体である
加害者の多くが任意保険に加入していることから、示談交渉の相手となるのは、加害者の加入する任意保険の担当者となります。
保険会社は営利団体である以上、保険会社自身や顧客である加害者の利益になるよう行動するのが基本です。
そのため、保険会社の担当者は、示談を行う際に少しでも示談金を減らそうとしてきます。
その中で、慰謝料についても減額できる事情があれば主張してきます。また、慰謝料が増額できるような事情があったとしても、保険会社から主張することは考えられません。
このような保険会社からの主張に適切に対処できなければ、本来もらえる慰謝料よりも低い金額で示談成立となってしまう恐れがあります。
慰謝料を上乗せできる事情があればきちんと主張する
示談交渉の際にとくに気を付けるべきなのは、事故の個別の事情から、慰謝料をどの程度増額または減額すべきかという点です。
交通事故の慰謝料は、事故の内容や治療期間、後遺障害の有無や程度などを基にした計算基準が存在します。
そのため、法律知識が不十分である人も計算することが可能です。
しかし、計算基準をもとに算出した慰謝料額は、個別の事情によってさらに増額されたり減額されたりします。そしてこの増額・減額については、明確な基準や計算方法があるわけではありません。
つまり、個別的な事情による慰謝料の増額・減額は、示談交渉次第ということです。
そうすると、たとえ慰謝料を増額できる事情があっても、保険会社からわざわざ増額を提案してくれることはなないでしょう。
次のような事情がある場合は慰謝料を増額させられる可能性があるので、被害者から主張を行うことが必要です。
慰謝料を増額できる事情
- 悪質な運転により事故が起きている
- 事故後の加害者の対応が非常識なものである
- 通常よりも精神的苦痛が大きくなる箇所の傷害である
- 事故が原因で家族の経済や精神の状態が悪化した
ただし、上記の事情を根拠に慰謝料の増額を主張しても、加害者側が聞き入れてくれるとは限りません。聞き入れたとしても十分な増額にはならない可能性が高いので、交渉は弁護士に任せることが大切です。
(2)被害者の過失割合が必要以上に多い
交通事故で被害者側にも過失割合が付いた場合、その割合分、もらえる慰謝料や損害賠償金が減額されてしまいます。これを「過失相殺」と言います。
加害者側は過失相殺によって少しでも示談金額を減らそうと、被害者の過失の割合を必要以上に大きく見積もる可能性が高いと言えます。
そのまま加害者側の主張する過失割合に応じてしまえば、必要以上に過失相殺がされてしまい、本来もらえるはずの慰謝料がもらえないのです。
そのため、自身で適切な過失割合を計算し、加害者側に主張する必要があります。
過失割合の計算方法
過失割合の計算には、過失割合を示した基準表を用いることとなります。
この基準表は、過去の裁判例から事故の状況をパターン化し、過失割合の判断基準を明らかにしたものです。
基準表は判例タイムズ社が発行している、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)にて確認することができますが、ここでは例として直進車と右折車の衝突事故について紹介します。
A | B | |
---|---|---|
基本 | 10 | 90 |
A 15km以上の速度違反 | +10 | -10 |
A 30km以上の速度違反 | +20 | -20 |
B 徐行なし | -10 | +10 |
B 合図なし | -10 | +10 |
B その他の著しい過失・重過失 | -20 | +20 |
まずは基本となる過失割合を決め、速度違反や徐行なしなどの個別の事情に応じて修正を加えていくといった形になります。
判例タイムズ38号に載っている基準表は典型的な事故についてのものであり、特殊なケースには対応していません。
過失割合の計算が適切かどうかについては弁護士に相談し、確認すべきでしょう。
過失割合を誰がどのように決めるかについては、『交通事故の過失割合は誰が決める?いつ決まる?算定方法と注意点』の記事において確認できます。
(3)一部の保険金や見舞金などが誤って相殺される
事故を原因として何らかの利益を得た場合に、利益と事故による損害が同質のものであるなら、利益分の金額を賠償額から控除することになります。これを「損益相殺」と言います。
正確には、慰謝料がもらえないということではなく、すでに慰謝料などの賠償金と同視できる利益を得ているので、その分はもらえないということです。
たとえば、健康保険を使って交通事故の治療を行っていた場合、加害者側に請求できる治療費は健康保険で補償された金額を差引いたものとなります。
しかし、何が損益相殺の対象となるのかを理解していないと、対象外のものまで示談の際に相殺してしまう恐れがあります。
損益相殺の対象となるものとそうでないものをまとめてみました。
損益相殺の対象となるもの
- 加害者や加害者の保険会社からの支払い
- 自賠責保険会社からの支払い
- 労働者災害補償法による遺族年金
- 国家公務員災害補償法による遺族補償金
- 国民年金法による遺族厚生年金
- 国家公務員等共済組合法による遺族年金
- 国家公務員等退職手当法による退職手当
- 無保険車傷害保険金からの支払い
- 人身傷害補償保険金からの支払い
- 労働保険法による休業補償、障害補償
- 国民年金法による障害基礎年金
- 厚生年金保険法による障害厚生年金
なお、遺族年金など将来にわたって継続的に支払われることが予定している利益については、すでに支払われている分と、将来の支払いが確定している分のみが対象となります。
損益相殺の対象とならないもの
- 社会礼儀の範囲での見舞金
- 労働災害補償保険法による遺族特別年金、一時金、支給金
- 生命保険金の支払い
- 傷害保険金の支払い
損益相殺の対象となるお金の中には、特定の損害に対してのみ相殺を行い、慰謝料とは相殺しないものもあります。
特定の損害との間で相殺されなかった部分について、慰謝料で相殺することはできません。
そのような部分が慰謝料で相殺されていないか、チェックすることが大切です。
損益相殺の対象となるのか、慰謝料との相殺が許さるのかについては、法律の専門家である弁護士に確認することが最も安全でしょう。
(4)被害者の事情を不当に評価される
交通事故により生じた損害が、被害者が有していた事情により拡大した場合に、拡大を及ぼした程度に応じて賠償額を減額させることがあります。これを「素因減額」と言います。
どのような場合に素因減額となるのか、減額がどの程度となるのかを知っていなければ、本来もらえるはずの慰謝料をもらえない恐れがあります。
素因には、健康状態や身体的特徴などの身体的素因と、神経症などの心の健康状態である心因的素因があります。
身体的素因による減額
身体的素因については、交通事故以前から病気により健康状態が悪化しており、そのことが損害の発生や拡大に寄与していることが明白である場合には、素因減額の対象になりうるとしています。
ただし、加齢が原因であり病名がつく程度ではない場合や、身体的特徴に過ぎず負傷しないように慎重な行動が求められているという事情がない場合には、素因減額の対象とはなりません。
心因的素因による減額
心因的素因については、裁判所の傾向として、以下のような場合に、素因減額の対象となるとされています。
- 原因となった事故が軽微で、通常人に対し心理的影響を与える程度のものではない
- 被害者の自覚症状が他覚的な医学の所見を伴っていない
- 一般的な加療相当期間を超えて加療が必要
どのような素因が減額の対象となるのかについては、明確な基準があるとまでは言えないため、弁護士に確認するとよいでしょう。
(5)時効により損害賠償請求権が消滅する
交通事故に基づく損害賠償請求権には時効があります。
時効となってしまえば、慰謝料の請求自体が行えないのです。
交通事故に基づく損害賠償請求権の時効は、物損事故が3年、人損事故が5年です。
なお、この年数は、民法改正により2017年4月1日以降に発生した事故が対象となっています。2017年3月31日以前に発生した事故については、人損事故であっても時効は3年となります。
また、自動車損害賠償保障法や保険法は民法改正の影響を受けません。
そのため、自賠責保険や保険契約に基づく請求は人損事故であっても3年のままです。
2017年4月1日以降 | 2017年3月31日以前 | |
---|---|---|
損害賠償請求 (人損事故) | 5年 | 3年 |
損害賠償請求 (物損事故) | 3年 | 3年 |
保険金請求 | 3年 | 3年 |
時効のカウントは、「被害者が損害および加害者を知ったとき」、つまり被害者が損害の発生を認識した時点から開始されます。
後遺症が残らない場合は、事故の時点で損害が発生したことを認識できるため、事故の時点から時効のカウントが始まります。
後遺障害が残る場合は、後遺障害に関する賠償金については症状固定時点からカウントが始まるのです。
また、「加害者を知ったとき」とは、損害賠償請求が事実上可能な程度に加害者を知った時点をいいます。
事故発生の時点で加害者から名前や住所などを聞き出していれば、その時点となります。
ひき逃げなどで加害者が不明の場合は、実際に加害者の名前や住所が判明した時点となります。
時効のカウント開始の時点
加害者の名前や住所が分かり、かつ、事故による傷害を認識した時点
- 後遺障害のない人身事故:事故日からカウント
- 後遺障害のある人身事故
- 後遺障害に関する賠償金:症状固定日からカウント
- その他の賠償金:事故日からカウント
- 死亡事故:死亡日からカウント
通常、示談の交渉は、治療が終了し、すべての損害額が判明してからとなります。
そのため、事故発生から長期にわたり治療を行っている場合、示談交渉を始める時点で時効までの期限が短くなってしまっている場合があります。
このような場合は、時効を阻止する措置を取るとよいでしょう。
示談交渉を開始し、加害者が応じれば、時効のカウントは応じた時点からやり直しとなります。
こんなケースでは慰謝料はもらえない?よくある疑問4つ
Q1.物損事故のケースは?
物損事故では、人損事故と異なり、基本的に慰謝料の請求は認められていません。
財産に対する損害賠償により、精神的苦痛に対しても賠償が行われたと判断されるためです。
しかし、財産部分の損害の賠償だけでは賄いきれない精神的苦痛がある場合には、慰謝料がもらえることがあります。
たとえば、以下のようなケースで慰謝料が認められたことがあります。
- 事故によりペットが死亡、傷害を負った
- 事故により家屋が破壊された
どのような場合に慰謝料が認められるのかは明確に定まっていません。よって、加害者側からわざわざ慰謝料の支払いの提案がされる可能性は低いでしょう。
そのため、物損事故で慰謝料をもらい損ねないためには、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
Q2.加害者がお金を持っていないケースは?
加害者自身にお金がなければ、たとえ慰謝料の請求権を有していても、慰謝料がもらえない可能性があります。
加害者が任意保険に加入しているのであれば、任意保険会社が代わりに支払うとされている範囲で慰謝料をもらうことが可能です。
しかし、加害者が保険の等級が下がることを嫌がり、任意保険の利用を拒否することもあります。そのような場合は、任意保険会社から慰謝料をもらうことができません。
また、加害者が自賠責保険に加入しているのであれば、自賠責保険に対して支払いを求めることもできます。
ただし、自賠責保険から支払われる保険金には上限があるので、納得のいく金額が支払われない可能性が高いでしょう。
被害者自身が加入している任意保険には、不足している補償を補ってくれるものがある可能性があります。
もし加害者がお金を持っておらず、保険会社からも十分な慰謝料がもらえない場合は、被害者自身が加入している任意保険の利用を検討しましょう。
代表的な保険を紹介するので、自身の保険の契約内容を確認してみてください。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険とは、被保険者やその家族が人身傷害事故の結果、傷害を負ったり、死亡した場合に保険金が支払われる保険です。
加害者が自賠責保険にも入っていない場合や、自賠責保険には入っているがその補償だけでは不足している場合には、人身傷害補償保険から補てんがなされます。
人身傷害保険での支払いの場合は、加害者の責任の有無や過失割合を考慮することなく、保険会社の保険金支払い基準での支払いが行われます。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは、被保険自動車の運行による事故で、その自動車に乗車していた人が死傷した場合に保険金が支払われる保険です。
被保険自動車に乗車していれば、被保険者の家族でなくても補償の対象となります。
ただし、支払われる保険金は一定であり、大きな金額ではありません。
Q3.加害者が保険に入っていないケースは?
加害者が任意保険には加入していないものの、自賠責保険に加入している場合には、自賠責保険に対して慰謝料の支払いを求めることが可能です。
しかし、先述のとおり、自賠責保険からもらえる慰謝料には上限があり、慰謝料をもらい損ねる恐れがあります。
自賠責保険からの支払いが不十分である、または、加害者が自賠責保険にも入っていない場合には、加害者自身に対して慰謝料の支払いを求めることが必要です。
しかし、軽い傷害があった程度であればともかく、死亡事故や後遺症が残るような重大な傷害が生じている場合には、そもそも加害者に慰謝料を支払う資力がないということが考えられます。
このような場合に、加害者が自賠責保険にも加入していないのであれば、政府保障事業に対して支払いを求めることができます。
また、被害者が加入している保険内容に「無保険車傷害保険」があれば、被害者が死亡、または、後遺障害を負った場合には保険金がもらえます。
加害者が無保険の場合の対応については、『交通事故相手が無保険でお金がない!賠償請求の方法とリスク対策』の記事で詳しく解説しています。
Q4.被害者が無職のケースは?
慰謝料については、被害者が無職であることを理由にもらえないということはありません。
しかし、損害賠償の内訳のなかには、休業損害や逸失利益といった被害者の収入を基準に賠償額を決定するものがあります。
このような種類の損害賠償を請求する場合には、無職であることが問題となりうるので気を付ける必要があります。
無職である場合の問題については、『無職でも交通事故の慰謝料は請求できる|休業損害や逸失利益の計算方法』の記事を確認してください。
慰謝料をもらい損ねそうなら公的機関の利用を検討しよう
紛争処理センターを利用する
加害者側と示談交渉を行ったものの、金額に納得がいかず、慰謝料が十分にもらえない場合には、公的機関を利用することも検討しましょう。
紛争処理センターとは、裁判所以外で第三者である弁護士が仲裁してくれる場所のことです。
以下のような場所に、和解や示談のあっせんを申し立てることができます。
- 交通事故紛争処理センター
- 日弁連交通事故相談センター
この場合、仲裁を行う弁護士は、弁護士基準に基づいた慰謝料に近い金額を提示することが多くなります。
そのため、本来もらえるべき金額に近い慰謝料をもらうことができ、十分な慰謝料をもらえない可能性が下がるのです。
ただし、解決には加害者側の合意が必要なので、注意が必要です。
参考までに、日弁連交通事故相談センターでの交通事故の示談までの流れは、下記のとおりになります。
- 日弁連交通事故相談センターに相談する
- 示談あっせんを申込む
- 示談あっせん期日を最大3回まで重ねる
- 示談の成立・不成立
- 示談が不成立となったら、日弁連交通事故相談センターの審査を受けるか、裁判所で訴訟する
裁判所を利用する
裁判となった場合には、弁護士基準(裁判基準)に基づいた慰謝料の支払いを裁判所が命じることが多いです。
この金額は、被害者が本来もらえるべき慰謝料の金額であるため、十分な慰謝料がもらえない事態を防ぐことができます。
また、裁判所による判決のため、加害者側の合意は不要です。
もし加害者側が支払いを拒む場合には、強制執行による差し押さえを行い、慰謝料を確保することができます。
交通事故の裁判の流れは、以下のようになります。
- 裁判所に訴状を提出する
- 口頭弁論を何度か重ねる
- 和解協議を行う
(和解が成立すれば裁判終了) - 和解が不成立となれば、証人尋問・本人尋問を行い、判決を受ける
(判決に納得すれば裁判終了) - 判決が不服ならば控訴・上告する
- 最終的に判決が確定し、裁判終了となる
交通事故の裁判については、『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』の記事が参考になります。
注意!裁判には問題点もある
裁判には上記で解説したようなメリットもありますが、デメリットもあります。
裁判の手続きは複雑であり、結論が出るまでに時間がかかります。
また、裁判官は証拠に基づいて判断を行うため、提出する証拠を間違えてしまうと、十分な慰謝料をもらえない内容で判決がなされる恐れがあります。
わざわざ裁判を行う以上は、納得のいく結果とすべきでしょう。
そのため、裁判を起こす際は、法律の専門家である弁護士に依頼する場合がほとんどです。
よって、裁判を提起するのであれば、弁護士へ報酬を支払ってでも慰謝料のもらい損ないを避ける必要があるのかどうか、よく検討する必要があるでしょう。
慰謝料がもらえないか心配なら弁護士に依頼しよう
弁護士に依頼すれば慰謝料が増える理由
紛争処理センターや裁判の利用を検討する前に、1度弁護士に相談してみることをおすすめします。
加害者側から提示される慰謝料の金額は、先述した任意保険基準で計算した金額であり、過去の判例を基にした弁護士基準で計算した金額よりも大幅に低いことが多いでしょう。
加害者側の提示額に応じてしまえば、本来もらえるべき慰謝料がもらえないのです。
また、示談の交渉の相手は、加害者の加入する保険会社の担当者であることが大半です。
保険会社の担当者は、示談の経験を多く積んでいます。
そのため、示談の経験のない素人では、うまく言いくるめられてしまう恐れがあるのです。
とくに、被害者に過失がないとされるもらい事故の場合は、被害者が任意保険に加入していたとしても保険会社の示談代行サービスを利用できません。
希望通りの慰謝料をもらうことは非常に難しいと言えるでしょう。
なお、もらい事故の詳細については『交通事故で過失割合が10対0になる場合とは?過失割合を減らす方法も解説』の記事にて確認してください。
弁護士に依頼すれば、弁護士基準に基づいた、より高額な慰謝料を求めることが可能です。
相手が弁護士となれば加害者側も無理な主張をせず、譲歩してくることが多くなります。
そのため、慰謝料が十分にもらえない事態を防ぐことができるのです。
また、加害者側との交渉を弁護士に一任できるので、被害者自身が加害者側へ連絡を行う必要がなくなり、精神的に楽になるというメリットもあります。
慰謝料を適切にもらいたいなら早めの依頼がおすすめ
弁護士に依頼する時期は、早ければ早いほどよいでしょう。
なぜなら、弁護士に依頼しても、今までの慰謝料を十分にもらえないようなミスがすべてなくなるわけではないからです。
弁護士に依頼するまでに大きなミスをしてしまっているのであれば、そのミスは弁護士であったとしても取り返せない可能性があります。
そのため、交通事故が起きてからなるべく早い段階で弁護士に相談を行い、取り返しのつかないミスをしていないか、十分に慰謝料をもらうにはどのような行動をすべきか確認することが大切になるのです。
弁護士費用特約があれば自己負担なしで弁護士に依頼できる
弁護士に依頼するとき、弁護士費用が気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
弁護士費用を懸念しているのであれば、まず、自身の加入している保険に「弁護士費用特約」が付いていないか確認してみてください。
弁護士費用特約は、保険会社が弁護士費用を一定額まで負担してくれる特約です。
賠償金の総額が数千万円にのぼらない限りは、弁護士費用特約の範囲内で弁護士費用がまかなえます。弁護士費用に不安があっても、弁護士費用特約があれば気軽に弁護士に依頼できる場合も非常に多いのです。
弁護士費用特約については、『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事で詳しく解説しています。
弁護士費用特約がついていない場合や、弁護士費用特約の対象外である場合も、慰謝料が十分にもらえない事態を防ぎたいのであれば、1度は弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談の際に、弁護士に依頼することでどのぐらいの慰謝料増額が期待できるのか、弁護士費用はどの程度になるのかを具体的に聞くことができます。
そのうえで、弁護士への依頼を改めて検討するとよいでしょう。
弁護士に依頼しても経済的に損をしないか不安な方は、『交通事故で弁護士に頼むと費用倒れになる金額はいくら?弁護士の必要性診断』の記事で、具体的な判断方法が確認できます。
まずは無料で弁護士に相談してみよう
弁護士に依頼するにしても、弁護士にはそれぞれ得意・不得意な分野があります。
依頼するのであれば、交通事故の経験を積んでいる弁護士に頼むほうが安全です。
アトム法律事務所は、交通事故の実績が豊富な弁護士が多数在籍しています。
電話・LINE・メールで無料法律相談を実施していますので、まずはあなたのお悩みを聞かせてください。
慰謝料を適切にもらえない可能性があるのか、慰謝料を適切にもらいたいならどうしたらいいかなど、弁護士が親身にアドバイスやサポートを行わせていただきます。
相談予約は24時間365日受け付けています。皆様からのご連絡をお待ちしています。
まとめ
慰謝料がもらえない状況を防ぐには、以下のような方法をとりましょう。
「慰謝料がもらえない!」を防ぐ方法
- 慰謝料が弁護士基準で計算されているか確認する
- 入通院の際に医師の指示にしっかり従う
- 後遺障害等級認定の申請を被害者請求で行い、書類を入念に準備する
- 慰謝料が増額される事実を主張し忘れていないか確認する
- 被害者の過失割合が必要以上に高くされていないか確認する
- 損益相殺の対象外であるお金が控除されていないか確認する
- 被害者の事情が不当に評価されていないか確認する
- 時効期間が経過していないか確認する
- 紛争処理センターや裁判所といった公的機関を利用する
- 弁護士に依頼し、加害者側と交渉してもらう
慰謝料を十分にもらえない事態を防ぐために最も意識すべきことは、弁護士基準で慰謝料を計算することです。
なぜなら、弁護士基準は過去の判例を基にしており、法的に適正で、計算された慰謝料は最も高額になることが多いからです。
ご自身の慰謝料の金額に不安がある方や、弁護士基準で計算した慰謝料を加害者側に認めてもらいたい方は、法律の専門家である弁護士に1度相談してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了