交通事故被害者は加害者の自賠責保険と任意保険のどっちを使うべき?

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自賠責保険

交通事故の被害者となった場合には、加害者が加入する任意保険会社の担当者から治療費や休業損害といった損害賠償に関する連絡が入ります。

このように、加害者の任意保険会社に対して請求をおこない、賠償を受けることが基本です。

しかし、事故態様や経過によっては自賠責保険に対して請求すべきケースもあるので、自賠責保険と任意保険の関係性や違いについて理解しておくことをおすすめします。

自賠責保険と任意保険のどっちを使うべきなのか、優先順位を整理していきましょう。

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自賠責保険と任意保険のどっちを使って請求?

交通事故の被害者が賠償金を請求する先は、加害者の任意保険のほうが、自賠責保険よりも優先順位が高いことが原則です。

しかし、被害者の過失割合が高いときや、示談前に一定の賠償金を受け取りたいとき、治療終了後に後遺障害認定の申請を受けるときなど自賠責保険会社への請求を優先したほうがよいケースもあります。

自賠責の優先も検討すべきケース

  • 被害者の過失割合が高いとき
  • 示談前に一定の賠償金を受け取りたいとき
  • 治療終了後に後遺障害認定の申請を受けるとき

それぞれについてくわしくみていきましょう。

【原則】任意保険への請求のほうが優先順位が高い

加害者が任意保険に加入しているなら、基本的には任意保険会社へ優先的に請求を行いましょう。

加害者が加入している任意保険会社は、被害者に対して、自賠責保険で補償される範囲も含めて損害賠償金の支払いを行います。

そして、本来自賠責保険で補償される損害について任意保険会社が代わりに支払ったとして、加害者の自賠責保険会社に求償を行うのです。

任意保険会社に請求すると、自賠責保険で補償される部分も含めて支払いを受けることができるため、自賠責保険に請求する手間が省けます

したがって、優先順位としては任意保険といえるので、交通事故の被害者は、加害者の任意保険会社を使って請求を行うべきでしょう。

自賠責保険優先がよいケース(1)被害者の過失割合が高いとき

被害者の過失割合が高いときは自賠責保険に対する請求(被害者請求)を検討しましょう。なぜなら、自賠責保険は過失割合の影響を受けづらく、受けとれる金額が多い可能性があるからです。

過失割合とは、交通事故における事故当事者の責任の割合をいいます。賠償金は過失割合分、減額される仕組みです。

自賠責保険では過失割合の影響を受けづらいことについて掘り下げて説明します。

自賠責保険は過失割合の影響を受けづらい

自賠責保険から支払われる傷害部分の賠償金は、被害者の過失割合が7割未満なら減額なし、7割以上10割未満なら重過失減額として2割減額となっています。

つまり、任意保険に請求した場合には7割以上の減額がなされるケースでも、2割から5割の減額に収まります。

後遺障害や死亡部分への賠償金は、被害者の過失割合が7割未満なら減額なし、7割以上になると重過失減額として2~5割減額されます。

自賠責保険から支払われる賠償金の具体的な減額割合は下表をご覧ください。

被害者の過失割合に応じた減額割合

被害者の過失割合減額割合
(傷害)
減額割合
(後遺障害・死亡)
7割以上8割未満2割2割
8割以上9割未満2割3割
9割以上10割未満2割5割

よって、過失割合がついている人ほど自賠責保険への請求(被害者請求)で得られるメリットは大きいといえます。

関連記事:『自賠責保険なら過失割合の減額が軽減。限度額や慰謝料計算には注意を

自賠責保険の過失割合は誰が決める?

交通事故の過失割合は、任意保険会社に対する一般的な請求の流れでは、被害者と任意保険の担当者の示談交渉(話し合い)で決まります。

一方で、自賠責保険会社には示談交渉の担当者はいません。被害者が直接自賠責保険へ請求した際には、書類を元に自賠責保険会社側で過失の見当を付けます。

「被害者側(請求者側)に7割以上の過失がある」と判断されると、自賠責保険からの支払いは減額されるのです。

ただし先ほど説明したように、自賠責保険においては7割未満の過失については考慮されませんので、よほど過失割合が高くないかぎり減額を心配する必要はありません。

まとめ

交通事故の過失割合は当事者同士の話し合いで決まることが原則です。しかし、被害者が自賠責保険に直接請求した場合、自賠責保険が過失割合についておおよその判断をします。

交通事故の過失割合の基本を知っておきたい方は、関連記事『交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順とパターン別の過失割合』の解説をお役立てください。

自賠責保険優先がよいケース(2)賠償金を早く受けとりたいとき

本来、賠償金は示談成立後に振り込まれます。

しかし自賠責保険から支払われる範囲においては、自賠責保険会社に直接請求することで示談成立前でも受け取ることが可能です。こうした請求方法を被害者請求といいます。

もっとも被害者請求の書類作成や資料収集など手間もかかるので、手順を熟知した弁護士に依頼することも有効です。

また、加害者側の任意保険会社より「内払い」という形式で一定の賠償を先行して受け取ることが出来る場合もあります。こうした任意保険会社との交渉も、依頼を受けた弁護士であれば代理可能です。

被害者請求の詳細や内払い金については関連記事で解説しています。もっとくわしく知りたい方は、関連記事もあわせてお読みください。

自賠責保険優先がよいケース(3)後遺障害認定を受けたいとき

後遺症部分の賠償金も請求するときには、加害者の任意保険会社ではなく自賠責保険を使った請求を検討しましょう。

なぜなら、後遺症への賠償金請求にあたっては「後遺障害等級認定」を受ける必要があり、認定を受けるためには自賠責保険に直接請求することが有利なケースがあるからです。

後遺障害等級認定の申請から認定までの大まかな流れを以下に示します。

申請から認定までの流れ

  1. 医師から、これ以上は治療の効果がないという症状固定の診断を受ける
  2. 医師に後遺障害診断書を作成してもらう
  3. 後遺障害診断書以外の必要な書類を用意する
  4. 審査機関である損害保険料率算出機構に対して書類を送付する
  5. 審査結果が通知される

後遺障害申請と賠償請求の方法は、相手の任意保険会社に任せる「事前認定」と、被害者が自賠責保険会社に直接おこなう「被害者請求」の2つがあります。

事前認定では、加害者の任意保険会社に後遺障害診断書を提出すると、それ以外の書類はすべて用意してもらえるので手間がかかりません。しかし、申請書類が認定を受けるために適切なものかどうか、被害者自らが確認することはできないのです。

そのため、後遺障害の認定を受けられるかどうかが難しい症状であるなら、被害者が自ら後遺障害診断書以外の書類も用意できる「被害者請求」が望ましいでしょう。

被害者請求

なお、被害者請求で後遺障害認定を受けた場合、自賠責保険会社から被害者が指定した口座に後遺障害に対する賠償金が直接振り込まれます。

一方で、加害者の任意保険保険会社を介した事前認定では、示談時に一括で受領することになるため、賠償金の受けとりまで時間がかかるという点にも注意が必要です。

後遺障害等級認定の被害者請求を弁護士に任せることには多くのメリットがあります。関連記事『後遺障害申請の被害者請求|流れや弁護士に依頼すべき理由を解説』もあわせてご覧ください。

自賠責保険と任意保険の関係と違い

任意保険は、自賠責保険では補償が不十分な部分をカバーする関係にあります。

そのため、自賠責保険と任意保険には補償額や補償対象に違いがあるので、整理しておきましょう。

自賠責保険の補償上限を超えた分を任意保険が補償

交通事故の被害者は、加害者の自賠責保険や任意保険から賠償金を受け取ります。自賠責保険と任意保険の違いは以下の通りです。

  • 自賠責保険
    法律上、自動車やバイクの所有者が加入を義務付けられ、強制保険ともいわれる。補償範囲や金額が法律で定められているが十分な金額とは言えず、物損は補償対象外となる。
  • 任意保険
    自由に加入を決めることができる保険。基本的に補償範囲の上限が自賠責保険よりも高く、物損部分も補償の対象とできる。

損害賠償請求にあたっては、まず被害者が負った損害を算定します。その損害に対してまずは自賠責保険から補償が支払われ、自賠責保険では不足する補償を任意保険が補う関係にあります。

任意保険と自賠責保険の関係

自賠責保険への請求方法や請求に必要な書類の記載方法を知りたい方は関連記事をご覧ください。

自賠責保険の補償の限度額

自賠責保険には補償範囲の上限額が定められています。上限額は損害の内容ごとに異なっており、具体的な金額は以下の通りです。

自賠責保険の補償の限度額

損害上限額内容
傷害120万円治療費、傷害慰謝料、休業損害など
後遺障害75万円~4,000万円後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料など
死亡3,000万円死亡逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費用

自賠責保険から支払われる慰謝料の計算方法についてくわしく知りたい方は関連記事を参照してください。

自賠責保険は物損部分を補償しない

被害者の車両の修理費や衣服・物品などの物的損害について、加害者の自賠責保険へ請求することはできません。自賠責保険はあくまで人身部分の損害を補償するからです。

そのため物的損害については相手の任意保険から補償を受けることになります。

逆に、被害者にも事故の過失がつき、相手の車両修理費や破れた物品の補償をする際には、自分の任意保険の対物補償を使うことになるでしょう。

任意保険基準が自賠責より低いことはない

任意保険基準が自賠責より低いことはなく、自賠責と同額または自賠責よりも少し高い金額になります。もっとも、法的に正当な基準は「裁判基準(弁護士基準)」ともいわれるものです。

しかし、法的に認められているとはいえ、相手の保険会社は任意保険基準や自賠責基準をベースに金額の提案をしてきます。

裁判基準(弁護士基準)での金額を受け取るためには、任意保険会社への増額交渉が必要です。

自賠責保険や任意保険を使って請求する際の注意点

自賠責基準・任意保険基準の金額で示談しない

加害者が任意保険に加入している場合には、基本的に加害者の任意保険会社に請求を行い、任意保険会社との示談交渉により損害賠償金が決まります。

この際は、自賠責基準や任意保険基準で算出された金額で示談せず、弁護士基準の金額で示談することに注意してください。

慰謝料は弁護士基準(裁判基準)での請求を目指す

損害賠償金の費目の一つである慰謝料には、以下の3つの計算基準が存在します。

慰謝料の計算基準

  • 自賠責基準
    自賠責保険が慰謝料の金額を算定する際に利用する計算基準
  • 任意保険基準
    任意保険会社が慰謝料の金額を算定する際に利用する計算基準
  • 弁護士基準(裁判基準)
    裁判所が裁判において慰謝料の金額を算定する際に利用する計算基準

上記の計算基準で算出される金額は自賠責保険が最も低額であり、弁護士基準(裁判基準)が最も高額です。

本来裁判所で認められるはずの相場まで引き上げることが重要といえます。

慰謝料金額相場の3基準比較

しかし、任意保険会社は自賠責基準や任意保険基準で算出された金額で示談するよう交渉してくるでしょう。

これに対して、被害者は示談交渉において裁判基準で算出された金額で示談するよう主張する必要があるのです。

もっとも、示談経験が豊富な任意保険会社に対して増額の交渉を成功させることは簡単ではありません。

増額交渉(弁護士なし)

どれくらいの増額の余地があるか、どういった資料を提出して請求するべきか、あるいは弁護士に示談交渉を任せるべきなのかなど、専門家である弁護士の見解を聞いてみることをおすすめします。

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被害者加入の任意保険の利用を検討すべきときもある

事故の相手が任意保険未加入の場合、自賠責基準を超えた補償を受けにくくなったり、物損部分については加害者本人に請求する必要があったりと、被害者には多くの不都合が生じます。

あるいはひき逃げの被害にあってしまい、加害者が特定できておらず賠償請求できないという状況に困っている方もおられるでしょう。

そういうときには、ひとまずご自身の任意保険を使うことも検討すべきです。任意保険の中には、契約者が交通事故によって生じた損害を補償してくれるというものがあります。

具体的には、以下のような保険が考えられます。

  • 人身傷害保険
  • 搭乗者傷害保険
  • 無保険車傷害保険
  • 車両保険

また、保険の内容次第では、事故車のレッカー移動や、パンク時のスペアタイヤ交換などのロードサービスを受けることも可能です。

加害者側の保険加入状況が十分とは限りません。いざというときには自身の保険で損害をカバーすることも必要になります。

どっちの保険を使うか悩んだときは弁護士に相談しよう

弁護士に相談・依頼するメリットは多数ある

交通事故の被害者となった場合には、基本的に加害者の任意保険会社に請求を行うこととなりますが、ただ請求するだけで相場の損害賠償金を得ることは困難です。

弁護士に相談や依頼を行うことで、以下のようなメリットを受けることが可能です。

  • どのような保険を使うべきなのか助言がもらえる
  • 任意保険会社との連絡窓口になってもらえて治療に専念できる
  • 後遺障害等級認定の申請手続きをサポートしてもらえる
  • 弁護士基準に近い金額への増額交渉を任せられる

弁護士に相談・依頼することで生じるメリットを詳しく知りたい方は『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事をご覧ください。

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法律相談後に正式な依頼を行う際は、弁護士費用特約が利用できるかどうかご確認ください。弁護士費用特約を利用すると、多くのケースで自己負担なく弁護士への依頼が可能です。

仮に、弁護士費用特約を利用することができない場合でも、アトム法律事務所では依頼の時点で生じる着手金が原則無料となります。

弁護士費用の支払いは、基本的に加害者から損害賠償金を得た後となるので、金銭面を気にせず依頼が可能です。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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