自転車事故の死亡者数や発生原因は?損害賠償金・遺族の注意点も解説

2023年、交通事故による死亡者数は2,678人であり、そのうち346人が自転車乗用中に死亡しています。自転車事故での死亡者数は、交通事故全体の死亡者数の約12.9%です。
自転車事故で死亡した場合の慰謝料相場は2,000万円から2,800万円となっており、これにほかの賠償金も加算されます。
しかし、特に加害者が自転車の事故に関しては、示談交渉が難航してしまう可能性があるのです。
自転車による死亡事故の傾向を統計から説明するとともに、自転車事故で死亡した場合の賠償金や、自転車事故特有の注意点を解説するので、被害にあわれた方は参考になさってください。
この記事について
この記事では、警察庁交通局による「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」(2024年3月7日)の内容をもとに、自転車事故の死亡者に関する統計を紹介します。

自転車事故の死亡者数や原因
自転車事故の死亡者数の推移
自転車乗用中の死亡者数は、2023年で346人です。

※警察庁交通局「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より作成
死亡者数は年々減少していましたが、2023年は前年に比べてやや増加となっています。
自転車事故の死亡者は高齢者ほど多い
自転車乗用中の死亡者数を年齢別に見てみると、45歳以上から増加しており、増加傾向は60歳以上の死亡者数でさらに顕著です。

※警察庁交通局「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より作成
このように、自転車死亡事故は高齢者になるほど多いのです。
自転車事故による死亡が多い時間帯
2023年の自転車乗用中の死亡者数を事故の時間帯別に見ると、昼間が206人で59.5%、夜間が140人で40.5%でした。2023年においては昼間の死亡者数の方が多い結果です。

※警察庁交通局「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より作成
自転車事故の死亡者に多い法令違反
2023年の統計によると、65歳以上、65歳未満ともに多かったのは、ハンドル操作、信号無視、安全不確認です。
自転車事故死亡者に多い法令違反
多い順 | 65歳以上 | 65歳未満 |
---|---|---|
1 | ハンドル操作 | ハンドル操作 |
2 | 交差点安全進行 | 安全不確認 |
3 | 安全不確認 | 交差点安全進行 |
4 | 一時不停止 | 動静不注視 |
5 | 横断・転回等 | 通行区分 |
※警察庁交通局「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より作成
自転車側にこうした法令違反があるとき、一定の過失割合の修正要素としてみなされ、自転車側の過失が大きくなる可能性があるでしょう。
もっとも不当な過失割合とならないよう、修正要素はお互いに検討すべきです。法令違反があったとしても、相手方にも落ち度があるケースも考えられます。
令和6年11月1日から施行される改正道路交通法において、自転車における「ながら運転」の罰則が強化されています。自転車側の交通マナー向上も重要なのです。
自転車事故の死亡者は頭部の損傷が多い
2023年における自転車乗用中の死亡者の「主な損傷部位」を見てみると、頭部が約50.3%を占めていました。つづいて、胸部が13.6%、頸部が12.1%と多くなっています。

※警察庁交通局「道路の交通に関する統計 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より作成
死亡者の主な損傷部位が頭部である割合は、自動車乗車中で約21%、二輪車乗車中で約36%となっています。自転車乗用中の場合は他のケースに比べて特に、頭部の損傷による死亡者の割合が多いことがわかります。
ヘルメットの有無による死亡率の違い
なお、2023年に自転車乗用中に死亡した346人のうち、ヘルメットを着用していた人は42人、着用していなかった人は301人でした(3人は不明)。死亡者の87%はヘルメット非着用という結果です。
2023年4月から道路交通法においてヘルメットの着用が努力義務とされましたが、依然として死亡者の9割近くがヘルメット非着用である現状です。
あくまでも努力義務なので、ヘルメットを着用していなくても罰則はなく、被害者がヘルメットを着用していなかったことを理由に、慰謝料が減額されることも原則はありません。
しかし前述したように、ヘルメットは自転車事故による死亡を防ぐために効果的だといえます。自転車に乗る際にはヘルメットを着けるようにしましょう。
自転車事故で死亡した場合の賠償金内訳と相場
自転車事故で死亡した場合、加害者に対して請求する主な賠償金は死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬祭関係費です。
死亡事故の主な賠償金
- 死亡慰謝料:死亡した被害者とその遺族の精神的苦痛に対する補償
- 死亡逸失利益:死亡しなければその後得ていたと考えられる生涯収入
- 葬祭関係費:葬儀や位牌などの費用
それぞれの費目についてくわしく説明します。
死亡事故の慰謝料
交通事故によって被害者が死亡した場合に受け取れる慰謝料は、死亡慰謝料といいます。
死亡慰謝料の金額は、基本的に被害者が生前家族内でどのような立場であったかによって決まります。
過去の判例に沿った相場額は、遺族が被害者とは別に請求できる分の慰謝料も含め、2,000万円から2,800万円です。
死亡事故の慰謝料相場
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他の場合 | 2,000万円~2,500万円 |
治療の末に死亡した場合は?
事故後に被害者が入院・通院した末に死亡した場合は、入通院慰謝料も請求できます。治療のための費用(検査費用、手術費用、入院交通費、入院雑費など)も請求可能です。
入通院慰謝料について詳しくは『交通事故で入院した場合の慰謝料や入院費は?』をお読みください。
死亡事故の逸失利益
死亡逸失利益は、被害者の年齢や事故前の収入などから計算されます。
被害者が子どもや学生の場合は基本的に高卒で働くケースを想定して金額が計算されますが、大学進学の蓋然性が高い場合は大卒を想定した金額となります。

生活費控除率やライプニッツ係数を用いた計算はやや煩雑です。しかし、被害者の事故前の収入や事故時の年齢によっては請求額が数千万円になる場合もあるため、適正額での獲得を目指すべきでしょう。
関連記事『交通事故の逸失利益とは?計算方法を解説!早見表・計算機で相場も確認』にてくわしい計算を説明していますので、あわせてお読みください。
あるいは、死亡慰謝料や死亡逸失利益の相場は以下の計算機から確認できるので、ご利用ください。
※失業中の方、大学生の方の逸失利益は以下の計算機では算出できません。弁護士にまでお問い合わせください。
死亡事故において請求できる慰謝料等の計算方法や、請求の際の注意点などについては『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』の記事で確認可能です。
葬祭関係費
交通事故による葬儀費用は、150万円程度を上限として実費請求可能です。
葬儀費用の中には、火葬費、祭壇費、墓石費などが含まれます。香典返しや引き出物代は基本的には認められない傾向です。
家族が死亡事故の被害にあったときに、まっさきに直面する賠償問題としては葬儀関係費が挙げられるでしょう。
関連記事ではお葬式から損害賠償請求までを総合的に説明していますので、あわせてお読みください。
自転車の死亡事故で被害者遺族が注意すべき点
死亡事故の示談交渉はもめる可能性が高い
死亡事故における示談交渉は、以下の理由でもめる可能性が高いです。
死亡事故で揉める理由
- 加害者側が虚偽の主張をしても反論が難しいため
- 死亡事故は賠償金が高額になる傾向にあるため
死亡事故は事故の被害者が亡くなっているため、加害者側が事故状況について事実と異なる主張をしても、遺族には反論が困難です。
また、加害者が自転車の場合はドライブレコーダーの映像も期待できず、「被害者が急に飛び出してきた」「被害者も前を見ていなかった」といった主張をされても、遺族には実際の状況を確認する術がありません。
加害者が保険に加入していないケースだと加害者個人で支払うことになるため、賠償額についてより一層シビアな交渉となることが予想されます。
加えて、死亡事故の場合は慰謝料や逸失利益など賠償金が高額になるため、加害者側は支払額を抑えようと強く主張してくる傾向があります。
交通事故の過失割合や証拠の重要性については、関連記事も参考にお読みください。
相手が提示する金額は低額なことがほとんど
慰謝料の場合、加害者側は過去の判例に沿った「相場の半分以下」にとどまる金額を提示してくることがあります。
たとえば、被害者が一家の大黒柱だった場合、過去の判例に沿った死亡慰謝料額は2,800万円です。しかし、加害者側は1,400万円以下を提示してくることも多いのです。
死亡慰謝料額の2,800万円という相場は法的に正当ではあるものの、示談交渉段階ではあくまで保険会社独自の基準で金額を示してくるケースが多くなっています。
こうした保険会社の基準は自賠責基準や任意保険基準といい、弁護士や裁判所が用いる基準よりも低い金額です。

加害者側の交渉人は、多くの場合、示談交渉に慣れている保険担当者です。被害者遺族が賠償金の増額を求めても、十分に応じることはほぼないでしょう。
事故相手に支払い能力がないことがある
加害者が自転車を運転していた場合の注意点です。
自転車との死亡事故で最も注意しなければならないのは、事故の相手に十分な支払い能力がない可能性があるという点です。
自動車とは異なり、自転車の運転者は保険加入が法律で義務付けられていないため、事故相手が保険に未加入であることは珍しくありません。
しかし前述したように、死亡事故の損害賠償金は数千万円規模になることがほとんどです。そのため加害者はこの高額な賠償金を、個人の資力のみでは支払うことができないケースがあります。
加害者が賠償金を支払えない場合に、被害者遺族ができる対策は以下のとおりです。
加害者が賠償金を払えない場合の対策
- 分割払い
加害者に一括で賠償金を支払う資力がない場合、双方の合意のもとであれば分割払いに切り替えられます。 - 第三者弁済
第三者弁済とは、法律上の支払義務のない第三者が賠償金を支払うことです。法律的な拘束力はありませんが、加害者の親や配偶者から賠償金を受け取れる可能性があります。 - 示談書の公正証書化
加害者の資力に不安がある場合は、支払いを確実にするため、示談書を公正証書にするのが効果的です。これにより、支払いが滞った場合に裁判所の判決なしで強制執行(不動産、動産、給与の差し押さえ)が可能になります。
未成年者が加害者のときはどうなる?
加害者が中学生以上の場合、法律上は事故を起こした本人に損害賠償請求できます。
ただし、未成年者は十分な資産を持っていないため、実際に支払いは難しく、多くの場合は親に対して請求することになります。
自転車の死亡事故で遺族がやること・流れ
(1)自転車事故の状況を確認する
そのためできるだけ早い段階で、以下のような情報の収集が重要になります。
自転車の死亡事故で確認する項目
- 基本情報
- 事故が発生した日時
- 事故現場の場所
- 事故の状況と原因
- 相手方の車両(自動車か自転車か)
- 証拠の収集
- 店舗やマンションなど事故現場周辺の防犯カメラ
- 目撃者の証言
- 事故現場の写真(道路状況、信号の位置など)
- 加害者の情報
- 保険の加入状況
- 未成年の場合は保護者の連絡先も必須
もし事故に関する有力な目撃情報や証拠がない場合は、警察に目撃者の捜索を依頼したり、自らでチラシを作って目撃者を探したりすることもあります。
事故に関する情報を聞くときは、証拠として提出できるように録音しておきましょう。
(2)保険会社へ連絡する
まず最優先で確認すべきは、被害者やそのご家族が加入している保険です。
特に自動車保険の人身傷害保険は、自転車事故でも適用される場合が多く、過失割合に関係なく早期に補償を受けられる可能性があります。
ほかにも傷害保険、生命保険(災害割増特約)、共済なども確認し、それぞれの保険会社に連絡しましょう。自転車と自動車の事故の場合は、自賠責保険も適用されます。
自転車が加害者の場合は、加害者が保険未加入のケースも少なくありません。そのため、被害者側が加入している保険を最大限活用できるよう、加入している全ての保険を確認することが大切です。連絡が遅れると、保険金の支払いに時間がかかったり、支払額が減額されたりする場合もあるので注意しましょう。
加害者側が保険に加入している場合は一般的に、保険会社の方から連絡が来ることが多いです。
(3)加害者側と示談交渉を行う
示談交渉では、被害者遺族が受け取る示談金(慰謝料や逸失利益などの総計)や、事故の過失割合などを話し合って決めます。
ただし、大切な家族を亡くされた直後から示談交渉を始める必要はありません。まずは故人のための葬儀を行い、その後の年金手続きや生命保険金の請求などが一段落してから行いましょう。
自転車事故の示談交渉では、加害者が保険に加入している場合、その保険会社が示談交渉を行います。ただし、加害者が保険未加入の場合は、加害者本人(未成年の場合は親権者)との直接交渉となります。
死亡事故の場合は示談金が高額になることが一般的です。よって適切な補償を受けるためには、交通事故に詳しい弁護士に依頼することをおすすめします。
示談交渉は人生で経験することが少なく、特に高額な賠償が見込まれる死亡事故では弁護士のサポートがあると安心です。
自転車の死亡事故は弁護士に相談
十分な賠償金を得るためにも弁護士にご相談ください
自転車事故で家族を亡くされた場合は、一度弁護士にご相談ください。
専門知識と交渉力のある弁護士なら、死亡事故の賠償金について適正相場までの増額が見込めます。

弁護士に依頼することで、賠償金の獲得以外にも多くのメリットを受けることが可能です。
詳しく知りたい方は『交通事故を弁護士に依頼するメリット10選と必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事をご覧ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了