事故を人身扱いにしないと示談金が少ない場合も!人身扱いのメリットと保険への影響
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交通事故に遭い、加害者から人身扱いにしないよう頼まれたりあとになってケガが発覚したりして、人身扱いにしようか迷っている人もいるのではないでしょうか。
事故を人身扱いにしない場合、示談金の内訳が少なくなったり交渉で不利になったりして、示談金額が少なくなるおそれがあります。
他にも保険がスムーズにおりない、示談金をスムーズに回収できないなどのリスクも生じかねません。
事故を人身扱いにしないと示談金はどうなるのか、人身扱いにするメリットについても解説していきます。
目次
交通事故を人身にしないと示談金が少なくなるリスクあり
治療費、慰謝料、休業損害などの請求に影響する場合がある
実際には警察で人身扱いになっていなくても、加害者側の任意保険会社が「交通事故によって被害者がケガをした」と認めれば、治療費や慰謝料、休業損害も請求できます。
しかし、必ずしも加害者側の任意保険会社が被害者のケガを認めるとは限りません。あるいは「そのケガは事故後に別の要因で生じたものだ」と主張してくることもあるでしょう。
交通事故を人身扱いにしなかった場合、事故は物損事故として扱われます。原則として、人体の被害はなかったものとされるため、示談金として請求できる費目は事故で損壊した物の修理費・弁償代だけになり、示談金の総額が少なくなる恐れがあるのです。
人身扱いにしないと請求できない費目
- 慰謝料:身体の被害により生じた精神的苦痛に対する補償
- 休業損害:ケガの治療で休業した分の減収に対する補償
- 逸失利益:後遺障害や死亡によって減ってしまう生涯収入への補償
また、被害者のケガが認められたとしても、警察で人身扱いになった場合より慰謝料などが少なくなるおそれもあります。
スムーズに適切な示談金を受け取るためにも、ケガをしているのであれば事故を人身扱いにするべきでしょう。
過失割合の交渉で不利になり示談金に悪影響が出ることもある
交通事故を人身扱いにしていない場合、過失割合の交渉で不利になり被害者側の過失割合が大きくなるリスクがあります。すると、被害者側が受け取れる示談金が必要以上に減額され少なくなってしまいます。
過失割合とは
交通事故が起きた責任が、加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるかを割合で示したもの。事故状況に応じて算定される。
自身についた過失割合分、受け取れる示談金が減額される(過失相殺)。
物損扱いだと過失割合の交渉で被害者側が不利になりやすいのは、事故状況を示す実況見分調書が作成されないからです。
実況見分調書とは、警察が事故現場を捜査し事故発生時の状況をまとめた書類です。実況見分調書は、基本的には人身扱いの事故についてしか作成されません。
事故を人身扱いにしていないと事故状況を示す捜査資料が得られないため、加害者側が間違った事故状況を主張してきても反論しにくくなります。
その結果、被害者側に不利な過失割合になり、必要以上に大きな過失相殺が適用されるおそれがあるのです。
交通事故を人身にしないと保険もおりない?
人身にしないと自賠責保険の補償はおりない
事故を人身扱いにしていないと、加害者側の自賠責保険から補償を受けることができません。自賠責保険は人身被害に対する補償のみをおこなっており、人身扱いされていない事故は対象外となるからです。
自賠責保険の補償とは
人身事故の被害者は、加害者側の自賠責保険から最低限の補償を受けます。最低限の補償の基準は国によって決められています(自賠責基準)。
そして、自賠責保険からの補償では足りない部分は加害者側の任意保険(※)に請求します。
加害者側の任意保険会社からの支払い額は示談交渉で決まるため、交渉次第では少なくなることもあります。
※加害者が任意保険未加入の場合は加害者本人
加害者側の自賠責保険金がおりない場合、以下のようなリスクが生じます。
- 示談金はすべて加害者側の任意保険に請求することになる。もし加害者側の任意保険が人身分の示談金を認めてくれたとしても、示談交渉が上手くいかなければ自賠責基準以下の金額しか得られない可能性がある。
- 加害者が任意保険未加入の場合は、示談金をすべて加害者本人に請求する。資力がなかったり踏み倒されたりすれば、自賠責基準の最低限の金額すら得られないリスクがある。
自分の自動車保険もおりない可能性がある
事故を人身扱いにせず加害者側から十分な補償を受けられない場合は、自身の保険を活用することになるでしょう。
この場合、車両保険は物損扱いの事故でも問題なく使えます。
しかし、ケガの治療費などを含む人身傷害保険は人身扱いでない事故については使えない場合があります。
加害者側の保険会社からも自身の保険からも人身被害に関する補償を受けられないおそれがあるため、ケガをしているなら人身扱いにしておくことが重要です。
人身にしなくても保険金を受け取るための手続き
事故を人身扱いにしていなからと言って、必ずしも加害者側の自賠責保険金や自身の人身傷害保険金がおりないというわけではありません。
「人身事故証明書入手不能理由書」を提出して、なぜ人身事故としての証明書がないのかを説明すれば、保険金がおりることもあります。
ただし、先に説明した「人身扱いにしていないと実況見分調書が作成されず、過失割合で不利になるリスクがある」という点は変わりません。
「人身事故証明書入手不能理由書」を用意するのも手間なので、事故を人身扱いにしておくほうがおすすめです。
関連記事『人身事故証明書入手不能理由書とは?理由の記入例と注意点【見本あり】』では、人身事故証明書入手不能理由書の書き方について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
交通事故を人身扱いにするメリット
交通事故人身扱いにする主なメリットは3つあり、慰謝料や治療費の請求が可能になること、追加で実施される捜査・書類作成は示談に役立つこと、加害者に刑事罰・行政罰を問えることです。
- メリット1.慰謝料や治療費の請求が可能になる
- メリット2.追加で実施される捜査・書類作成は示談に役立つ
- メリット3.加害者に刑事罰・行政罰を問える
それぞれの理由について、詳しく説明していきます。
メリット1.慰謝料や治療費を請求できる
人身扱いにするということは、交通事故によりケガ人がいるものとして警察に処理されることになります。
つまり、身体的な損害が発生している訳なので慰謝料や治療費といった賠償金をスムーズに請求できるようになります。修理費などの物損部分とは別に請求できるので、示談金が全体的に大幅アップする可能性が高いです。
人身扱いとすることで請求できる賠償金の費目を下表に示します。
費目 | 支払われる金額の基準 |
---|---|
治療費 | 必要・相当な範囲で実費全額 関連記事:交通事故被害者の治療費は誰が支払う? |
通院交通費 | 必要・相当な範囲で実費全額 関連記事:交通事故の通院交通費|請求できる条件 |
休業損害 | 1日あたりの収入×入通院で休んだ日数 関連記事:交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方 |
慰謝料 | 入通院日数・後遺障害等級などによる 関連記事:交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる |
逸失利益 | 後遺障害等級・事故前の収入などによる 関連記事:【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき |
たとえば、後から痛みが出てむちうちと診断されて1~3か月通院した場合、入通院慰謝料だけでも19万円~53万円になります。
通院月数 | 入通院慰謝料 |
---|---|
1か月 | 19万円 |
2か月 | 36万円 |
3か月 | 53万円 |
※過去の判例に基づく「弁護士基準」の金額。加害者側の任意保険会社は上記より低い金額を提示することが多い。
むちうちの症状が後遺症として残り、後遺障害12級13号または14級急9号に認定されれば、さらに弁護士基準の場合だと110万円~290万円の後遺障害慰謝料がもらえる可能性もあります。
交通事故の慰謝料相場は以下の計算機から簡単にわかるので、確認してみてください。
メリット2.警察による捜査・書類が示談に役立つ
人身扱いとされた交通事故は、実況見分が実施されます。
実況見分とは、事故現場を実際に確認しながら、事故発生時の状況を捜査することです。被害者・加害者・目撃者なども立ち会ったうえでおこなわれ、捜査した内容は実況見分調書という書類にまとめられます。
実況見分調書は事故時の状況を示す証拠として、示談交渉でも使われることがあります。
特に過失割合について話し合う際には正しい事故状況を示す証拠となるため、加害者側が虚偽の主張をしてきても反論する根拠となるでしょう。
過失割合
交通事故が起きた責任が、加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるのか割合で示したもの。自身についた過失割合分、受け取れる示談金が減額される。
物損事故でも人身事故でも、基本的に示談交渉時に話し合って決定される。
参考になる記事:交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順
事故状況を示す証拠にはドライブレコーダー映像などもありますが、必ずしもこうした証拠が用意できるとは限りません。
正しい事故状況に基づいた過失割合を決めるためにも、実況見分調書がとても重要な書類です。
メリット3.加害者に刑事罰・行政罰を問える
交通事故が人身事故扱いになると、加害者に自動車運転過失致傷といった罪で刑事罰が科され、行政処分としても違反点数が加算されます。
特に、加害者に対して処罰感情があり、刑事罰を強く望むのであれば、人身扱いとする必要があるでしょう。
物損事故なら刑事罰は原則問えない
物損事故では、刑事罰が科されることはほとんどありません。他人の所有物を壊せば器物損壊罪といった犯罪に問われる可能性がありますが、これは故意(わざと)の場合のみ成立します。
基本的に、交通事故は過失(うっかり)によって起こるものなので、物損事故の場合にこういった犯罪が成立することはないのです。
もっとも、物損事故であっても、無免許運転や飲酒運転などであった場合、刑事罰を科される可能性はあります。
刑事面の示談を行う場合は注意が必要
加害者が刑事手続きに乗った場合、刑事罰が決まる前に「刑事面の示談」を持ちかけてくることがあるでしょう。刑事面の示談では、10万円~30万円程度の見舞金を提示されることがあります。
刑事面の示談が成立すると減刑される可能性があるため、加害者側は早く示談を成立させようとして被害者の主張する条件に応じやすくなるでしょう。
もっとも、この刑事面の示談は、交通事故の損害賠償金に関する示談とは別に行うようにしてください。加害者が損害賠償金の前払いとして見舞金を支払っていた場合、見舞金の分が損害賠償金から差し引かれてしまう恐れがあるからです。
また、見舞金を受け取ると、加害者の謝罪を受け入れたと判断されることもあります。処罰感情が強い場合は、見舞金にどういった意味が含まれているのか十分に確認してから受け取るようにしましょう。
見舞金を受け取る際の注意点については、関連記事『交通事故の見舞金の相場は?受け取って損しないためのポイント』で深掘り解説していますのであわせてご覧ください。
物損事故も後から人身扱いに変更も可能
一度は物損事故として届け出たものの、後からでも事故は人身扱いにできます。とくに、後から痛みが出た場合は事故との因果関係が疑われる可能性があるので、早めに人身扱いへと変更しましょう。
人身扱いへと変更する手続きは次のとおりです。
- 病院で診察を受け診断書を作成してもらう
- 診断書を事故現場管轄の警察署に提出し、人身扱いへ変更してもらう
- 自身と加害者側の保険会社に人身扱いにしたことを伝える
人身扱いへの手続き受付時間や具体的な持ち物などは、警察署によって違うことがあります。必ず事前に管轄の警察署に確認してください。
事故から時間が経つほどに、事故とケガとの関連性があいまいになります。人身扱いへの変更ができなくなるおそれもあるため、事故から10日以内に手続きすることが理想的です。
関連記事
- 人身扱いへの具体的な変更方法:物損から人身への切り替え方法と手続き期限!切り替えるべき理由もわかる
- 後から痛みが出たときの対応:事故で後から痛み…因果関係が疑われないためには?因果関係なしの判例も紹介
人身扱いに変更されるまでの治療・通院方法
人身扱いへの変更手続きが完了するまでは、一旦被害者側で治療費を立て替えながら治療してください。
まだ変更手続きが終わっていないからと通院を控えると、「そこまで重いケガではない」「被害者が治療に消極的だった」などとしてのちの示談交渉で不利になる可能性があります。
変更手続きが終わる前でも、医師に指示された頻度で治療を受けましょう。
人身扱いに変更されたあとの流れ
事故が人身扱いに変更されたら、加害者側の任意保険会社に治療費の支払い方を確認してください。
加害者側の任意保険会社が病院に直接治療費を支払う「任意一括対応」が取られる場合、今後の治療で被害者が治療費を立て替える必要はありません。
任意一括対応が取られない場合は引続き被害者側で治療費を立て替えておき、示談交渉の際に請求しましょう。
交通事故を人身扱いにする際のよくある疑問
加害者に人身扱いにしないでほしいと言われた
加害者側から人身扱いにしないでほしいと言われても、気にする必要はありません。
加害者が人身扱いにしないでほしいと考えるのは、以下の理由からでしょう。
- 人身扱いにならなければ、免許に違反点数が加算されずに済む
- 人身扱いにならなければ、刑事罰も受けなくて済む
人身扱いにしなくても示談金は人身事故同様に支払うと言われても、過失割合の交渉で不利になるリスクや各種保険金請求がスムーズに進まないリスクは残ります。
事故を人身扱いにしないデメリットは示談金以外の面でもあるので、総合的に考えれば人身扱いにするほうがおすすめです。
警察に人身扱いにしなくても良いと言われた
警察に「人身扱いにしなくても人身事故と同じように示談金をもらうことはできるから、物損扱いにしませんか?」と言われることがあります。
警察としては物損事故なら実況見分捜査・実況見分調書の作成をしなくて良いため、特に軽微な事故ではこのように言われることもあるようです。
しかし、軽微な事故であっても、実況見分調書を作成してもらうことは過失割合の交渉対策として重要です。
本来なら被害者側の過失割合が1割で済むはずのところ2割や3割になってしまうと、受け取れる示談金額に大きな影響が出ます。
ケガをしているならその事故は人身事故なので、遠慮せず人身扱いにしてもらいましょう。
人身扱いにするかしないか迷ったらしておこう
人身扱いにするデメリットは特にない
人身扱いにするかしないか迷ったら、基本的には人身扱いにする方向性で考えましょう。
ここまで解説したように、事故を人身扱いにしないデメリットはさまざまあります。一方、人身扱いにするデメリットは特にありません。
被害者側にも事故発生について重大な責任がある場合は行政処分や刑事処分を受ける可能性がありますが、そうでなければ人身扱いにしても特に問題はないでしょう。
よって、ケガをしている場合は人身扱いにすることをおすすめします。
示談金を十分に受け取るには弁護士相談もおすすめ
慰謝料や逸失利益など人身分の示談金は、金額が大きくなる分加害者側と揉めやすくなります。
せっかく人身扱いにして示談金の内訳を増やしても、示談交渉が上手くいかず本来得るべき金額を得られないおそれがあるのです。
加害者側は、法的正当性の高い相場よりも大幅に低い示談金額を提示してくるでしょう。十分に増額させるには専門知識と交渉スキルを持つ弁護士を立てることがおすすめです。
弁護士費用特約を使えば弁護士費用の負担は基本的になくなります。弁護士への相談も前向にご検討ください。
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人身事故の賠償問題では、弁護士が交渉の場に立つことで増額となる可能性が高いです。
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損害賠償額にもよりますが、多くの交通事故はこうした特約の補償内でおさまることも多く、結果として被害者自身で支払うお金はゼロ円になることも珍しくありません。
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弁護士費用を支払ってでも、弁護士を立てたほうが多くの示談金が手に入ることは多いです。まずはお気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了