バイクのすり抜け事故|過失割合や損害賠償請求の流れ、違反になるケースもわかる
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バイクによるすり抜け行為は、すべてが違法というわけではありませんが、交通事故の原因にもなる危険な運転です。
しかし、たとえバイクのすり抜けが原因で起こった事故でも、バイクではなく自動車側の過失が大きくなることもあります。すり抜けが起こった時の状態によって、事故において「どちらのほうが悪いか」は変わるのです。
この記事では、バイクのすり抜けが違反となるケースや、すり抜け事故の過失割合について解説しています。交通事故の損害賠償請求で損をしない方法も説明しますので、最後までお読みください。
目次
バイクのすり抜け|違反になるケースを解説
安全運転とは言い難いバイクのすり抜け行為ですが、実は道路交通法違反となるものとならないものがあります。道路交通法違反となるケースについて、わかりやすくすっきりと解説していきます。
すり抜けとは追い越しまたは追い抜きのこと
実は、道路交通法(道交法)には「すり抜け」に関して言及した部分はありません。
すり抜けは一般的に使われる言葉ではありますが、道交法においては「追い越し」または「追い抜き」として扱われています。
つまり、バイクのすり抜けが違反になるかどうかは、追い越しや追い抜きと同じように判断されるのです。
追い越しと追い抜きの違いは以下の通りです。
- 追い越し
進路を変えて前方車を追い抜き、そのまま直進あるいは再び進路を変えて追い抜いた車両の前方に出ること - 追い抜き
進路を変えずに前方車を追い抜き、そのまま直進あるいは進路を変えて追い抜いた車両の前方に出ること
ただし、バイクの場合、たとえ進路変更をして前方車を追い越したとしても、車線をはみ出していなければ追い抜きとされます。
つまり、バイクの場合、追い越しは車線変更をして前方車を抜くこと、追い抜きは車線変更をせずに前方車を抜くこととなります。
バイクのすり抜け|違反となる3パターンを解説
バイクのすり抜けが道路交通法の違反対象となるのは、以下の場合です。
- 白い実線、黄色い実線をはみ出しての追い越し
- 以下の場所における追い越し
- 曲がり角付近
- 上り坂の頂上付近
- 急こう配の下り坂
- トンネルの中
- 交差点の踏切、横断歩道、自転車横断帯とその手前30m内における追い越し・追い抜き
- 割り込み(信号無視にも要注意)
それぞれのケースについて、詳しく解説していきます。
(1)白い実線、黄色い実線をはみ出しての追い越し
道路の車線には、白い破線・白い実線・黄色い実線があり、以下のような意味を持ちます。
白い破線 | はみ出し、追い越し可 →追い越しも追い抜きも可 |
白い実線 | はみ出し禁止 →線をはみ出さない追い越し・追い抜きは可 |
黄色い実線 | 追い越しのためのはみ出しは禁止 →線をはみ出さない追い越し・追い抜きは可 |
上記の表からもわかる通り、白い実線や黄色い実線が引かれた道路では、線をはみ出しての追い越しは違反となります。
白い破線であれば車線を越えた追い越しも追い抜きも可能であり、白い実線や黄色い実線でも車線をはみ出さない追い抜き・追い越しは可能です。
(2)特定の場所における追い越し
車線の種類にかかわらず、以下の場所では、車線を越えての追い越しが禁止されています。
- 曲がり角付近
- 上り坂の頂上付近
- 急こう配の下り坂
- トンネルの中
- 以下の場所とその手前30m内
- 交差点
- 踏切
- 横断歩道
- 自転車横断帯
このことは、道路交通法第30条で定められています。
なお、交差点・踏切・横断歩道・自転車横断帯とその手前30mについては、道路交通法第38条3項にて、追い抜きも禁止されています。
車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。
道路交通法第三十八条三項
(3)割り込み|信号無視にも要注意
赤信号で停車中の車列や渋滞中の車の間をすり抜けて前に出ることは、道路交通法第32条で禁止されています。
(割込み等の禁止)
道路交通法第三十二条
第三十二条 車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。
なお、信号待ちをしてる先頭車の前に割り込んで停止線を超えた場合、信号無視となってしまうので注意しましょう。
左側のすり抜けは状況次第で違反
車線をまたいでの追い越しは、原則として前方車の右側を走行するよう定められています。よって、前方車の左側からすり抜けをした場合は基本的に交通違反となります。
(追越しの方法)
道路交通法第二十八条
第二十八条 車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
ただし、車線変更を伴わない追い抜きについては、前方車の左側から可能です。
また、前方車が右折のため道路の中央または右端によっている場合は、左側から追い越しをするよう定められています。(道路交通法第28条2項)
路肩はすり抜け可、路側帯は不可
道路の両端には、車道外側線と呼ばれる白線で区切られた細い通路があります。
この細い通路が「路肩」であれば、バイクの走行は違反ではありません。そのため、路肩を通って、車道の自動車を抜いていくことは可能です。
一方、車道外側線の外側が路側帯であれば、バイクの走行は禁止されているので、路側帯を通っての追い抜きはできません。
- 路肩(すり抜け可)
外側に歩道があるもの
人の乗り降りや荷物の積み下ろしのために駐車ができる - 路側帯(すり抜け不可)
外側に歩道がないもの
歩行者のためのスペースであり、車両の立ち入りはできない
バイクのすり抜け事故|過失割合4つのケース
バイクのすり抜け事故には以下のような4つのケースがあります。
- 直進する車とバイクのすり抜け事故
- 停車中の車とバイクのすり抜け事故
- 左折車とバイクのすり抜け事故
- 右折車と対向車線からすり抜けてきたバイクの事故
- 開いた車のドアとバイクのすり抜け事故
こうしたすり抜け事故はそれぞれ過失割合が異なるので、整理しておきましょう。
なお、過失割合は、事故類型別に決められている「基本の過失割合」に修正要素を反映させて算定します。ここでは基本の過失割合を紹介しますが、適用される修正要素により最終的な過失割合は変わるという点にはご留意ください。
修正要素はここからの解説でも一部紹介していますが、『過失割合の修正要素はどのようなものがある?事故類型別に紹介』でも具体例を紹介しています。
交通事故のさまざまな過失割合が掲載されている書籍「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に記載されている情報をベースに、バイクによるすり抜け事故の過失割合を紹介していきます。
(1)直進する車とバイクのすり抜け事故
基本の過失割合
基本の過失割合の決まりなし(判例などを踏まえてゼロベースから個別的に算定)
直進中の車の横をバイクがすり抜け接触した事故については、基本の過失割合がありません。事故時の状況を踏まえて、ゼロベースから過失割合が算定されるのです。
そのため、ここでは参考として、バイクのすり抜け時に起きた接触事故の判例をひとつ、紹介しておきます。
すり抜け事故の判例
- 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7064号
- 事故状況
片側2車線の道路において、青信号になったタイミングで第1車線の被害者(自動車)が発進したところ、第1車線の被害車両と第2車線の別自動車との間を後方から加害者(大型二輪自動車)がすり抜けようとした。
この際、加害車両の左側と被害車両の右側が接触し、加害者は右に転倒した。 - 過失割合
加害者(大型二輪自動車):被害者(自動車)=100:0 - 過失割合の理由
加害者は被害者の横をすり抜ける際、被害者の動向に注意してハンドル操作をする義務があったが、それを怠っていたと言える。
一方被害者は道路を直進していただけであり、後方からすり抜けてくる車両の有無・動きに対する注意義務はなかった。
よって、過失割合は加害者側が100%となる。
(2)停車中の車とバイクのすり抜け事故
基本の過失割合
車:バイク=0:100
停車していた車の脇をバイクがすり抜けて接触した場合、過失割合は「車:バイク=0:100」となります。
車が正しい場所・方法で停車していたのであれば、バイクのすり抜けを妨害したとは考えられません。よって、バイク側が接触しないよう気を払うべきだったとして、バイクに100%の過失割合がつくのです。
ただし、車の停車方法が不適切だった場合は、車側にも過失割合がつく可能性があります。
(2)左折車とバイクのすり抜け事故
基本の過失割合
車:バイク=80:20
車が左折しようとしたときに後ろからすり抜けてきたバイクが巻き込まれて事故になった場合、過失割合は「車:バイク=80:20」です。
車は左折する際、後方からバイクや自転車などが来ていないかよく確認し、巻き込まないようにしなければなりません。これを怠った責任は重いとして、車側に80%の過失割合がつくのです。
一方のバイクは、前方をよく確認して左折車の存在を認識していれば事故を回避できたはずと考えられます。よって、バイク側にも過失割合が20%つきます。
ただし、以下のような修正要素により、過失割合が変わることもあります。
左折車 | 過失割合 |
---|---|
大型車両 | +5 |
左折の合図が遅れた | +5 |
徐行せず左折しようとした | +10 |
大回り左折 進入路鋭角 | +10 |
左折の合図なし | +10 |
直近左折 | +10 |
バイク | 過失割合 |
---|---|
著しい前方不注意 | +10 |
15㎞以上の速度違反 | +10 |
30㎞以上の速度違反 | +20 |
たとえば、左折車が大型車両だった場合、左折車側の過失割合は5%増えて「左折車:バイク=85:15」となるのです。
巻き込み事故の場合は、基本的に車側の方が過失割合が大きくなってしまいます。また、バイクが転倒してライダーが怪我をするケースも多く、軽微な物損事故では済まない場合が多いです。
巻き込み事故の過失割合については、『巻き込み事故とは?車・バイク・自転車の過失割合と内輪差の危険性』の記事でもパターン別に詳しく紹介しています。
(3)右折車と対向車線からすり抜けてきたバイクの事故
基本の過失割合
車:バイク=70:30
車で右折しようとしたところ、対向車のかげからすり抜けて直進してきたバイクと衝突してしまった場合、過失割合は「車:バイク=70:30」です。
ただし、バイク側に著しい前方不注意があればバイク側の過失割合が10~20%、交差点以外での事故なら右折車側の過失割合が5~10%増えます。
右直事故の過失割合について詳細を知りたい方は、関連記事『右直事故の過失割合は?交差点での早回り右折・速度超過など修正要素も解説』も参考にしてください。
(4)開いた車のドアとバイクのすり抜け事故
基本の過失割合
車:バイク=90:10
路上でドアを開けていたところにバイクがすり抜けようとして来て事故になった場合、過失割合は「車:バイク=90:10」です。
このケースでは、車側がドアを開ける前に前後をよく確認すべきだったとされるため、車側のほうが過失割合が大きくなります。
なお、実際には以下のような修正要素が適用されることがあります。
車 | 過失割合 |
---|---|
夜間 | +5 |
合図(ハザードランプなど)なし | +5 |
直前のドア開放 | +10 |
バイク | 過失割合 |
---|---|
ドア開放を予測できた | +10 |
15㎞以上の速度違反 | +10 |
30㎞以上の速度違反 | +20 |
ドア開放事故については、『ドア開放事故の過失割合は?対バイク・自転車、車同士のケース』で解説しています。合わせてご覧ください。
すり抜け事故の過失割合でよくある疑問にお答え
ここからは、すり抜け事故の過失割合に関してよくある以下の質問にお答えします。
- 過失割合は示談金にどう影響する?
- バイクより車の過失割合が大きくなりやすいのはなぜ?
- 加害者側から提示される過失割合は正しい?
過失割合は示談金にどう影響する?
過失割合が自身につくと、その割合分、受け取れる損害賠償金が減額されます。これが「過失相殺」です。
加えて、加害者側から損害賠償請求を受けている場合は、そのうち自身の過失割合分を支払わなければなりません。
たとえば
交通事故の過失割合が8対2となったとしましょう。
自身にも2割の過失がついてしまったなら、受け取れる損害賠償金はもともとの金額の8割になります。さらに、相手から損害賠償請求されている場合はそのうちの2割を支払わなくてはなりません。
「やや強引にすり抜けをしてしまった」「もっとしっかり後方を見ていたら、ひょっとして事故は起きなかったのか」など、自分にも非があるうしろめたさを感じているかもしれません。しかし、だからといって正しくない過失割合を安易に受け入れるべきではありません。
関連記事『過失相殺をわかりやすく解説!計算方法や交通事故判例の具体例も紹介』でも確認できる通り、過失割合が1割違うだけでも、損害賠償に及ぼす影響は絶大です。
過失割当については妥協することなく、万全の準備を整えたうえで交渉することが重要です。
バイクより車の過失割合が大きくなりやすいのはなぜ?
すり抜け事故に限らず基本的にバイクと車の事故では、「車のほうが車体が大きく強いこと」「バイク運転手のほうが重大なケガを負いやすいこと」から車の過失割合が大きくなる傾向にあります。
「バイクが危険なすり抜けをしたのに、バイクより車側の過失割合が大きくなるのはおかしい」と感じる人もいますが、両者の力関係も、交通事故に対する責任に影響するのです。
ただし、車のほうが過失割合が大きくなる詳しい理由は事故類型によっても異なります。バイクのほうが過失割合が大きくなるケースもあります。
上記はあくまでも過失割合全般に関する基本的な考え方として捉えてください。
加害者側から提示される過失割合は正しい?
示談交渉の際に相手方が主張する過失割合は、正しいとは限りません。その理由は以下のとおりです。
- 正しい過失割合を算定するのは難しいから
- 自身の過失割合が小さければ、自身は損害賠償の点で得をするから
それぞれについて詳しく解説します。
正しい過失割合を算定するのは難しいから
過失割合は、事故類型ごとに決められた「基本の過失割合」に「その事故特有の事情(修正要素)」を反映させて算定します。
明確な答えがあるわけではなく算定者の裁量次第となる面も大きいため、過去の判例や専門知識に精通していないと正しい過失割合の算定は難しいのです。
自身の過失割合が小さければ、自身は損害賠償の点で得をするから
過失割合は以下の形で損害賠償にも影響します。
過失割合と損害賠償の関係
- 自分の過失割合が少なければ、相手へ支払う損害賠償金が少なく済む
- 自分の過失割合が少なければ、受け取れる賠償金の減額が少なく済む
こうした理由から、相手方があえて相手自身の過失割合を低く見積もっている可能性もあるのです。
過失割合の関連記事
すり抜け事故の過失割合がおかしいと感じたら
正しい過失割合を確認する方法
すり抜け事故の過失割合がおかしいと感じたら、まずは正しい過失割合を確認してみましょう。
そのためには、弁護士に連絡を取ることがもっともおすすめです。
過失割合は事故の個別的な事情まで考慮し、過去の判例や専門知識を用いて柔軟に算定するものです。被害者が自力で正しい過失割合を確認するのは難しいと言わざるを得ません。
アトム法律事務所のように、無料での相談が可能な法律事務所もあります。正しい過失割合を知ることは今度の示談交渉でも必要不可欠なので、まずは弁護士に事故状況を伝え、厳密な過失割合を確認してみてください。
正しい過失割合にするためのポイント
加害者側が提示してきた過失割合が正しくないとわかったら、示談交渉で訂正を求めていきましょう。
ただし、訂正を求めても相手方がスムーズに受け入れてくれるとは限りません。
どのような根拠でどのような過失割合にすべきなのか、相手方に納得してもらえるよう主張することが重要です。
この際、弁護士を立てて交渉すると主張が通りやすくなります。
自分自身ではいくら法的知識や過去の判例に関する知識を身につけても、「その分野のプロではない」「その判例の解釈は間違っている」などと理由をつけて主張を退けられてしまう可能性が高いです。
また、先述の通り正しい過失割合を算定するのは難しいため、適切な過失割合を知る意味でも一度弁護士に相談することをおすすめします。
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弁護士費用特約については、関連記事『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』も参考にしてみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了