交通事故の慰謝料|1日4300円(4200円)は増額の可能性あり
人身事故の被害者になってしまった場合、加害者側の任意保険会社から慰謝料や損害賠償金の提示を受けます。
その中に「入通院慰謝料」が含まれているかと思いますが、もし日額4300円または4200円で計算されているのであれば、その金額は受け入れるべきではありません。
きちんと交渉すれば、日額4300円(4200円)よりも高額な慰謝料を得られる可能性が高いからです。
なぜ日額4300円の金額が提示されるのか、具体的にどれくらいの金額獲得を目指すべきなのか、十分な慰謝料額を得るにはどうしたら良いのか、この記事を通して確認してみてください。
4300円(4200円)は入通院慰謝料の日額
4300円は「自賠責基準」での入通院慰謝料の日額
4300円とは、加害者側の自賠責保険会社から支払われる入通院慰謝料の日額です。4300円に治療期間をかけた金額か、「入院日数 + (実通院日数 × 2)」をかけた金額のうち少ない方が、入通院慰謝料となります。
自賠責基準の入通院慰謝料
- [入院日数 + (実通院日数 × 2)]× 4300円と
- [治療期間]× 4300円の少ない方を採用
※民法が改正される2020年4月以前に事故にあった方の場合は、日額が4200円となります。
※慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して決まります。
この計算基準は、自賠責保険で用いられるものであることから「自賠責基準」と呼ばれます。
民法改正では、交通事故に関して入通院慰謝料の日額以外にも変更点が生じています。
詳細は『交通事故被害者が知っておくべき2020年4月1日以降の変更点5選』をご覧ください。
自賠責基準は最低限の金額基準
自賠責保険は、交通事故の被害者に対して最低限の補償をするための保険です。したがって、自賠責基準で日額とされている4300円は最低限のものにすぎません。
示談交渉の結果、日額4300円以上の金額が認められれば、超過分は加害者側の任意保険から支払ってもらえます。
つまり、日額4300円は増額の余地が十分にある金額です。加害者側から日額4300円の入通院慰謝料を提示されても、鵜呑みにしないようにしましょう。
被害者が得るべきは「弁護士基準」の金額
交通事故の被害者が得るべき適正な入通院慰謝料は、「弁護士基準」と呼ばれる金額基準に基づいて計算したものです。
弁護士基準は過去の判例をもとにした金額基準であり、自賠責基準より大幅に高額かつ法的正当性が高い点が特徴です。裁判所でも用いられるため、「裁判基準」と呼ばれることもあります。
弁護士基準では、入通院慰謝料は日額ではなく以下の算定表から算定します。
(1)軽傷用の表
むちうちなど、他覚所見(レントゲン写真やMRI画像)に異常が写らない軽傷の場合に用いる
(2)重傷用の表
軽傷用の表を用いる場合に該当しないときに使う
表は入院・通院それぞれ1ヶ月単位で区切られているので、通院1ヶ月10日のように端数がある場合は、端数分の金額を別途計算しなければなりません。
また、事故の個別的な事情を反映し、上記の表よりも慰謝料額が多くなるケースもあります。
詳しくは、弁護士までお尋ねください。
なお、以下の慰謝料計算機では、弁護士基準における入通院慰謝料の他、後遺障害慰謝料・死亡慰謝料・逸失利益も確認できます。
入通院慰謝料は個別の事情により増額されることも
自賠責基準や弁護士基準における入通院慰謝料の算定方法を見ても分かる通り、入通院慰謝料は治療期間の長さによって金額が決まります。
しかし、それ以外にも事故の個別的な要素を考慮して慰謝料が増額されることもあります。例を挙げると、以下の通りです。
- 加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度等がある
- 事故時や治療中の苦しみがことさらに大きいと判断できる
こうした要素により入通院慰謝料が増額される可能性があることも踏まえると、日額4300円は決して十分な金額ではないとわかるでしょう。
ここからは上に挙げた2つの要素の詳細や事例を紹介します。
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(1)加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度等がある場合
被害者に故意や重過失、著しく不誠実な態度がある場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
重過失とは、以下のようなことを指します。
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- ことさらに信号無視をした
- 薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転等をした
著しく不誠実な態度とは、事故後に適切な救護を行わなかった、証拠隠滅を図った、証言を二転三転させる、被害者を挑発するなどの行動を指します。
では、実際に慰謝料が増額された事例を見ていきましょう。
加害者に飛び出しを咎められたが,加害者が酒に酔っていたのでこれを無視して発進した保母(23歳)を,加害者が車間距離をおかずに追跡して追突した事案で,追突は車間距離不保持による過失が原因とし,危険な態様の追跡で被害者に多大な恐怖感を与えたとして,この点について特に25万円を認め(傷害分50万円,通院28日),同乗者(23歳・保母)にも15万円の慰謝料を認めた
損害賠償額算定基準2020(令和2年)版
(事故日平4.5.24 大阪地判平7.12.14 自保地1164・2)
大学勤務(男・年齢不詳)につき,加害者が赤信号無視で交差点に進入したが,捜査機関に青信号であったと故意に虚偽の供述をしたため,被害者が被疑者として取り調べられ,10ヵ月後にようやく加害者が起訴されたことにより,全身打撲,頸部挫傷のほか,胃炎,円形脱毛症を発症したことも考慮し,事故から約1年9ヵ月(実日数174日)通院した慰謝料として200万円を認めた
損害賠償額算定基準2020(令和2年)版
(事故日平9.1.26 名古屋地判平13.9.21 交民34・5・1303)
加害者が不誠実な場合の対処法については、『交通事故加害者に誠意がない時、慰謝料増額は可能?』の記事が参考になります。
(2)事故時や治療中の苦しみがことさらに大きいと判断できる場合
ケガによる苦しみがことさらに大きいと判断される場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
通常の慰謝料額では精神的苦痛をカバーしきれないと考えられるからです。
具体的には、交通事故により生死をさまよった場合、麻酔のできない状態で手術をした場合、長時間・複数回の手術を強いられた場合などが挙げられます。
実際の判例を見てみましょう。
脛骨開放骨折による下肢機能障害(7級)及び下肢短縮(13級8号、併合6級)の会社員(男・固定時36歳)につき、(略)手術を受けたものの、左下肢の軟部組織の著しい欠損により感染の危険が高く、長期間にわたる入院を要したほか、骨癒合にも長期間を要する中で骨髄炎を発症し、再度入院加療を要したことなどから、傷害分360万円を認めた。
事故日平21.6.24 名古屋地裁平25.8.5 自保ジ1910・131
精神的苦痛の大きさを理由に慰謝料を増額できるケースは、『交通事故の精神的苦痛で請求できる慰謝料は?』で詳しく解説しています。
慰謝料額を1日あたり4300円(4200円)より多くするには?
弁護士を立てての増額交渉が必要
交通事故の慰謝料額は、加害者側の任意保険会社との示談交渉で決まります。
加害者側の任意保険会社は、自賠責基準の金額か、自社独自の基準(任意保険基準)に基づく金額を提示してきます。任意保険基準は各社で異なり非公開ですが、自賠責基準に近いことが多いです。
いずれにしても弁護士基準より大幅に低いことがほとんどなので、増額交渉が必要です。
ただし、被害者が得るべき弁護士基準の金額は、本来裁判を起こして認められるものです。被害者が示談交渉で主張しても聞き入れられることはほぼありません。
しかし、弁護士なら以下の理由から、裁判まで起こさなくても弁護士基準に近い金額の獲得が期待できます。
- 専門知識・資格を持つ弁護士の主張であれば、相手方保険会社もないがしろにはできないから
- 被害者が弁護士を立てると、相手方保険会社は裁判に持ち込まれることを危惧し、示談段階で被害者側の主張を受け入れようとするから
被害者自身の交渉でもある程度の増額はできる場合がありますが、決して十分とは言えません。入通院慰謝料を日額4300円以上にし、適正な金額を得るためには、弁護士を立てることがおすすめです。
慰謝料などが120万円を超えると交渉はさらに難化
先述の通り、入通院慰謝料を4300円以上にするためには弁護士を立てての増額交渉が重要です。
特に、傷害分の費目(入通院慰謝料や治療関係日、休業損害など)の合計が120万円を超える場合は、交渉が難化しやすいです。
傷害分の費目が120万円までなら、これらの費目はすべて加害者側の自賠責保険会社から支払われます。つまり、120万円を超えれば超えるほど、交渉相手である加害者側の任意保険会社の負担額が多くなります。
よって、加害者側の任意保険会社は傷害分の費目が120万円を超えると、一層シビアな姿勢で示談交渉してくるのです。
こうした事情から、傷害分の費目が120万円を超えるならなおさら、示談交渉で弁護士を立てることがおすすめです。
なお、自賠責保険の支払額には、後遺障害分・死亡分についても上限があります。
詳しくは『自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?』でご確認ください。
慰謝料請求で弁護士を立てるメリットは大きい
後遺障害慰謝料やその他の費目も増額できる
示談交渉で弁護士を立てると、入通院慰謝料以外の費目も増額できる可能性が高まります。
入通院慰謝料以外に請求できる、示談金の内訳は次のとおりです。
後遺障害慰謝料 | 「後遺障害等級」に該当する症状が残ってしまったことに対して請求できる慰謝料 |
死亡慰謝料 | 被害者が死亡してしまったことにより請求できる慰謝料 |
治療費 | 治療・入院に要した費用(入院雑費含む) |
休業損害 | 休業したことにより減額した収入の補償 |
逸失利益 | 交通事故にあわなければ得られていたであろう将来の利益 |
通院交通費 | 通院に要した交通費(タクシーは必要な場合に限り認められる) |
通信費 | 示談交渉中に発生した通話代や郵便代など |
診断書作成費用 | 後遺障害診断書などの作成費用 |
付添看護料 | 被害者に介護・介助などが必要と認められた際発生する損害 医師の指示があった場合や受傷の程度により認められる |
複数の費目を増額できれば、それだけ示談金の総額が大きくなります。
中でも増額の余地が大きい慰謝料については、『交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求!慰謝料相場と増額成功のカギ』をご確認ください。
やむを得ない慰謝料減額を最小限に抑えられる
交通事故の慰謝料は、事故の個別的な事情を反映して減額されることもあります。
減額の要因として代表的なのは「素因減額」や「過失相殺」です。こうした減額が適用されること自体は、ある程度仕方がない部分もあります。
しかし、加害者側としっかり交渉しなければ、必要以上に慰謝料が減額されるリスクがあります。そうしたリスクに備えて弁護士を立てれば、慰謝料の減額を最小限に抑えられる可能性があるのです。
ここからは素因減額と過失相殺について解説します。
(2)素因減額
「素因」とは、被害者にもともとある精神的傾向(心理的要因)・既往症や身体的な特徴(身体的素因)をいいます。
素因減額は、たとえば以下のようなケースで適用されます。
- 被害者が治療に消極的で、医師の指示通りに通院しなかったために治療期間が長くなった
- 交通事故によって被害者は捻挫をしたが、以前にも何度か同じ箇所を捻挫したことがあり、クセになっていた
ただし、たとえば既往症であれば、そのことが治療経過に影響を及ぼしたという医学的根拠がなければ減額されません。
相手方任意保険会社が不十分な医学的根拠をもって一方的に素因減額をおこなうケースもあるため、対抗できる根拠があれば弁護士に相談するといいでしょう。
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(3)過失相殺
被害者にも過失割合が付くと、その割合分、慰謝料・損害賠償金が減額される「過失相殺」が適用されます。
過失割合とは、事故が起きた責任が被害者と加害者それぞれにどれくらいあるかを割合で示したものです。
被害者にまったく過失のない「もらい事故」である場合を除き、加害者だけでなく被害者にも過失が認められるケースは少なくありません。
ただし、加害者側は、過失相殺による大幅な減額を狙い、あえて被害者側の過失を多めに見積もっていることもあります。
過失割合について納得いかない点がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
過失割合の決め方や過失割合で相手方ともめた時の対処法については、以下の関連記事でご確認ください。
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示談交渉にかかる負担を軽減できる
相手方任意保険会社は、自社からの支払額を少なくするため、そして顧客である加害者に損が出ないようにするため、シビアな姿勢で示談交渉に臨んでくるでしょう。
実際、示談交渉において相手方任意保険会社の厳しい態度を目の当たりにし、以下のような負担を感じる被害者は多くいます。
- 相手方任意保険会社から高圧的な言動をとられた
- 被害者側の主張を聞いてもらえない
- 分からないことや疑問に思うことを質問してもきちんと答えてもらえない
- 強引に交渉を進められる
これでは十分な示談金獲得が見込めないうえ、示談交渉の過程でさらなる精神的苦痛を受けてしまいます。
受ける必要のない精神的苦痛を避けながら十分な慰謝料・損害賠償額を獲得するために、ぜひ弁護士への相談・依頼をご検討ください。
交通事故を弁護士に依頼するメリットは、慰謝料増額以外にも多数あります。
ぜひ『交通事故を弁護士に依頼するメリット8選|弁護士は何をしてくれる?』の記事も参考にしてください。
弁護士費用の負担は減らせる!まずは無料相談から
弁護士費用は自身の保険会社に負担してもらえる
交通事故に会い弁護士に相談・依頼したくても、弁護士費用が気になるという方は多いです。
しかし、自身の保険に弁護士費用特約がついていれば、弁護士費用の負担は大幅に減らせます。
弁護士費用特約とは?
弁護士費用の300万円および相談料10万円を自身の保険会社に負担してもらえる特約。
弁護士費用がこの補償額を超えることはあまりないので、弁護士費用特約を使えば多くの場合、弁護士費用の負担がなくなります。
※具体的な補償額は、保険により異なることがあります。
ご家族の保険や火災保険、クレジットカードの保険に付帯している特約でも使えることがあります。
- 弁護士費用の詳細:交通事故の弁護士費用|弁護士費用の計算や弁護士費用特約の中身
弁護士費用特約がない方でも、相談料・着手金無料の法律事務所を選べば費用負担を軽減できます。
成功報酬は発生しますが、それを差し引いても、弁護士を立てた方が多くの金額が手に入ることは多いです。
弁護士費用や弁護士を立てることで得られる金額の見込みは、法律相談時に確認可能です。まずはお気軽にご相談ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了