交通事故加害者に誠意がない時、慰謝料増額は可能?不誠実で許せない時の対処法
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交通事故加害者の不誠実な行為や対応により、交通事故被害者自身や遺族の苦痛が増したと考えられるとき、慰謝料増額や、加害者の刑事処分に対して被害者としてできることがあります。
もっとも「加害者は事故後に謝罪に来なかった」「病院に見舞いに来なかった」といった行為は不誠実ではありますが、その理由だけで慰謝料増額は難しいのが実情です。
一方で、加害者側の不誠実な行為や態度を理由として、慰謝料の増額が適正であると判断されてきた裁判例もあります。そのため、一人で泣き寝入りせず、一度弁護士に相談して見解を聞いてみましょう。
この記事では、加害者側の態度を理由として慰謝料を増額請求すべきケースや、不誠実な加害者への対処法を解説します。
目次

加害者に誠意がないことは慰謝料増額の理由になる
交通事故加害者に誠意がない場合、慰謝料の増額ができる可能性があります。
まずは加害者の不誠実な態度が慰謝料増額につながる理由と、実際の事例を見ていきましょう。
加害者の不誠実さが慰謝料増額につながる理由
交通事故加害者に誠意がない場合、慰謝料を増額させられる場合があります。
交通事故の慰謝料は、人体的被害により生じた精神的苦痛を補償するものです。
ケガや後遺障害が残るもの、もしくは死亡事故にもかかわらず加害者が不誠実な言動をとってくると、加害者に対する怒りや悔しさ、悲しさはより一層大きくなるでしょう。
こうした精神的苦痛を考慮し、加害者側の不誠実さを理由に慰謝料を増額させられる場合があるのです。
ただし、慰謝料の増額ができるのは、通常の慰謝料額に上乗せしなければならないほど、加害者の不誠実さが被害者を傷つけたと判断される場合です。
慰謝料増額につながりうる具体的な態度については、本記事内「慰謝料増額につながる加害者の不誠実な行為とは?」の解説をお読みください。
加害者の不誠実な態度で慰謝料が増えた事例
実際に、加害者に誠意がないことが慰謝料増額の一要因となった事例を紹介します。
まずは、加害者が捜査において嘘の証言をするという不誠実さが見られた事例です。死亡慰謝料が通常より3割増額されています(子供の死亡慰謝料の相場は2,500万円程度が目安)。
被害者(男・9歳)につき、加害者は朝まで量が分からないくらい飲酒し、事故後救護せずコンビニで強力な口臭消しを購入し、衝突まで全く被害者に気がついていなかったにもかかわらず捜査段階ではこれを隠す供述をし、父母が事故後心療内科に通院したことから、基準額の3割増しを相当とし、本人分2750万円、父母各250万円、合計3250万円を認めた
事故日平16.12.2 大阪地方裁判所平成20年9月26日判決 自保ジ1784・15
続いての事例では、被害者の死亡慰謝料の相場は本来2,800万円程度です。しかし、加害者の謝罪が不誠実だったことなどを理由に、3,600万円が認められています。
会社代表取締役(男・61歳)につき、加害者が忘年会で飲酒後酩酊しながら自動車で帰宅する途中、高速道を一般道と錯覚して転回して逆走するという常軌を逸した運転行為により事故を発生させたこと、事故後残されていた被害者の病弱な妻が自殺を図ったこと、謝罪意思の表明の在り方等において加害者に配慮の欠けた面があったこと等を考慮し、3600万円を認めた
事故日平12.12.2 東京地方裁判所平成15年3月27日判決 交民36・2・439
慰謝料増額につながる加害者の不誠実な行為とは?
慰謝料増額につながる加害者の不誠実な行為としては、以下のようなものがあります。
慰謝料増額につながる不誠実な行為
- 交通事故加害者なのに謝罪に来ない、謝罪の仕方が悪い
- 事故状況などについて嘘の証言を繰り返す
- 事故後に証拠隠滅を図った
- 被害者に対してひどい行為をする
それぞれについて詳しく解説します。
交通事故加害者なのに謝罪に来ない、謝罪の仕方が悪い
交通事故加害者が謝罪に来ない場合や、謝罪の仕方に問題があり被害者の精神的苦痛が増大した場合は、慰謝料を増額させられる可能性があります。
ただし、単に「加害者が謝罪に来ない」というだけで慰謝料を増額させるのは難しい傾向にあります。加害者が謝罪に来ないことには理由がある場合もあるからです。
加害者が謝罪に来ず、その不誠実さに不満がある場合は、まず加害者側に謝罪に来るよう求める必要があります。
そのうえで、加害者が謝罪を拒否したり、不誠実な態度で謝罪してきたりしたら、慰謝料増額を検討しましょう。
加害者が謝罪に来ない理由や謝罪を求める方法については、本記事内「加害者が謝罪に来ない理由は?謝罪を求める方法も解説」をご確認ください。
事故状況などについて嘘の証言を繰り返す
交通事故後は、警察の捜査(実況見分)や示談交渉にて事故時の状況などを証言することになります。
この際、加害者が故意に嘘の証言をしたり、不合理な弁解に終始したり、発言を二転三転させて捜査を混乱させたりすることがあります。
加害者の嘘の証言の例
- 被害者側が信号を守っていなかった
- 被害者側の速度は〇〇kmくらい出ていた
- 加害者自身は一時停止規制を守って適切に停止していた
嘘の証言によって自分が支払う示談金を減らそうとしたり、自身の刑事罰を軽くしようとしたりする態度は非常に不誠実です。
こうしたケースでは多くの場合、慰謝料増額を求めることが可能です。
相手の嘘は証拠で覆す
死亡・重傷事故などのように被害者が自らの主張を言う機会がないとき、加害者側の一方的な意見のみが警察や保険会社に採用されかねません。
そうした不当な扱いを受けないよう、ご家族や周囲の方のサポートも大切になってくるのです。
加害者の主張をうのみにせず、当事者の車両や通行車両のドラレコを確認させてもらう、信号サイクル表を入手して論理性を確かめる、周囲の防犯カメラ映像を調べるといった対応が必要になることもあります。
弁護士であれば証拠の入手方法から交渉での効果的な利用方法まで熟知していますので、交通事故にくわしい弁護士に相談してみましょう。
事故後に証拠隠滅を図る
事故後に加害者が証拠隠滅を図った場合も、慰謝料を増額させられることがあります。
具体例として、飲酒運転で事故を起こしたのに事故後に飲酒の証拠を隠そうとした、事故の瞬間が映ったドライブレコーダー映像を故意に削除したなどの行動が挙げられます。
加害者の証拠隠滅の例
- 消臭グッズで酒のにおいを消して飲酒をごまかす
- 事故直後に飲酒検知されないよう、アルコールが抜けるまで時間稼ぎする
- ドライブレコーダーの記録を勝手に消す
- 破損したナンバープレートを廃棄する
加害者がこのような行動を取った場合、被害者側は強い怒りを感じるでしょう。
こうした精神的苦痛を考慮し、慰謝料が増額される可能性があります。
被害者に対してひどい行為をする
交通事故後、加害者が謝罪するどころか被害者感情を逆なでする行為をとることもあります。
こうした場合も慰謝料を増額させられる可能性があります。
たとえば、事故の被害弁済をしない、被害者に高圧的な態度を取ったり暴言を吐いたりする、被害者が弁護士を立てたことを被害者の保険会社に伝えて非難することなどが例としてあげられるでしょう。
【コラム】故意や重過失も慰謝料増額の理由となる
加害者に無免許運転や事故現場からの逃走(ひき逃げ・当て逃げ)、酒酔い運転、著しいスピード違反、ことさらの信号無視や、薬物などの影響で正常な運転ができない状態での運転、居眠り運転といった落ち度があると、通常よりも慰謝料額が増額する可能性があります。
こうした加害者の行為にとどまらず、さらに誠意のない態度を見せられた場合、被害者側として冷静な対応を続けることは難しいものです。
まずは弁護士に相談をして、交渉を任せることも検討してみてください。被害者側の保険会社も親身に対応してくれるものですが、被害者の代理人となって権利保護のために全力を傾ける弁護士に任せることをおすすめします。
加害者の不誠実さを理由に慰謝料を増額させる方法
加害者の不誠実さが慰謝料増額に値するものであっても、実際に増額できるかは示談交渉次第です。
ここでは、加害者がの不誠実さを理由に慰謝料を増額させるにはどうしたら良いのか、ポイントを解説します。
本記事内「加害者が許せない!刑事罰に関してできること」では、加害者の刑事罰に対してできることも解説しているので、あわせてご確認ください。
示談交渉で弁護士を立てる|揉める可能性があるため
加害者に誠意がなく慰謝料増額を求めたい場合は、まず示談交渉でその旨を主張します。このとき、弁護士を立てることがおすすめです。
加害者の不誠実さを理由とした慰謝料増額については、法的な決まりがあるわけではありません。
被害者や被害者の保険担当者が慰謝料増額を求めても、「増額の正当性を示す根拠に欠ける」などとして揉めごとになる可能性があるのです。
仮に増額が聞き入れられても、微々たる金額しか増えないと考えられます。
しかし、弁護士が加害者の態度の不誠実さを主張し慰謝料増額を求めれば、聞き入れられる可能性は高まります。
弁護士は専門知識を持ち、過去の事例にも精通した専門家だからです。
弁護士費用の自己負担をなくす方法もある
自身の保険についている弁護士費用特約を使えば、弁護士費用を保険会社に負担してもらえます。
家族の保険や火災保険のような他の保険についている特約でも使えることがあるので、確認してみてください。

弁護士費用特約が使えない場合は、相談料・着手金無料の法律事務所を選ぶと費用の負担を減らせます。
成功報酬はかかりますが、それを差し引いても弁護士を立てたほうが、より多くの金額が手に入ることは多いです。
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加害者の不誠実さに感情的になるのは避けるべき
加害者が誠意のない言動をしてきた場合、怒りを感じるのはもっともなことです。しかし、怒りに任せて感情的になった状態で加害者側に接触するのは避けましょう。
感情的になることでトラブルに発展したり、加害者側との関係性に悪影響が出て示談が成立しにくくなったりすることがあります。
弁護士を立てれば、加害者側と直接関わる機会がなくなるためこうしたリスクを回避できます。
加害者が謝罪に来ない理由は?謝罪を求める方法も解説
先述の通り、交通事故加害者が謝罪に来ない場合は、直ちに慰謝料増額を目指すのではなくまずは謝罪を求めることがポイントです。
いつまでに謝罪がなければ謝罪を求めるべきなのか、なぜ謝罪に来ないのか、謝罪を求める際はどこに連絡すれば良いのか解説します。
交通事故加害者が謝罪に来ない理由は?
加害者が謝罪に来ない理由として、「加害者側の保険会社に被害者への接触を禁じられているから」ということが考えられます。
加害者と被害者との当事者同士が直接連絡を取ると、トラブルに発展する可能性があるため、加害者の代理人である任意保険会社が、被害者に連絡を取らないよう言っていることがあるのです。
そのため、交通事故加害者が謝罪に来ない理由を「不誠実だから」「反省していないから」と決めつけるのは危険です。
上記のように決めつけて加害者に直接感情的に接触すると、かえって被害者側にとって不都合な状況になる可能性もあります。
加害者側に謝罪を求める際には、なるべく落ち着くことを意識してください。
加害者に謝罪を求めたい時の方法・窓口
加害者に謝罪を求めたい場合、加害者が任意保険に入っているならまずはその保険会社に連絡を入れましょう。
保険会社が加害者側の窓口になっているにもかかわらず、直接加害者に連絡を取るとトラブルになる可能性があるからです。
加害者が任意保険未加入の場合は本人に直接謝罪を求めることになります。ただし、この場合もトラブルになる可能性があるので、弁護士を挟むなどして直接コンタクトを取るのは避けたほうが安全です。
いずれにせよ、加害者に謝罪を要求する際は、強要と捉えられないようやりとりには注意しましょう。
加害者の謝罪のタイミングは?いつまで謝罪を待つべき?
一般的に、交通事故加害者から被害者への謝罪は早ければ早い方が良いとされ、事故翌日〜3日以内には謝罪の申し入れをすべきとされます。
このタイミングを過ぎても加害者側から何も連絡がない場合は、そのまま謝罪がない可能性があります。
こうした場合は被害者側から謝罪を求めることも検討しましょう。
加害者が許せない!刑事罰に関してできること
加害者の刑事処分を決めるのは裁判官や検察官であるため、交通事故加害者を許せないと感じていても被害者にできることは限られてしまいます。
それでも、加害者への刑事責任追及のためにできることとして「物損事故から人身事故に切り替える」「事情聴取で処罰感情の強さを伝える」「刑事上の示談をしない」「見舞金は受け取らない」「刑事裁判に参加する」ことがあります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
物損事故から人身事故に切り替える
加害者の刑事責任を追及するには、まず前提として物損事故から人身事故に切り替えるという手続きをとる必要があります。
交通事故では、物損事故として処理されると、基本的に刑事事件として扱われず、人身事故として処理されてはじめて刑事事件として扱われるようになるケースが多いからです。
この物損事故では基本的に刑事事件にならないことが、加害者が事態を軽く考えてしまい、真摯に問題に向き合わず、不誠実な態度をとる原因の一つと考えられます。
事情聴取で処罰感情の強さを伝える
加害者を許せないという気持ちが強く、しっかりと刑事罰も受けてほしいと考えている場合、まずは警察との事情聴取で処罰感情の強さを伝えましょう。
事情聴取とは、警察や検察から事故当時の状況や加害者の様子などのくわしい事情を聴かれる手続きです。
警察や検察から「加害者の処罰を望みますか」とたずねられたとき、許せないという気持ちがあるときは「厳罰を求める」旨を伝えてください。
聴取内容は供述調書にまとめられ、加害者の起訴・不起訴や刑事処分の内容を判断する際に参考にされます(罪名によっては、被害者側の刑事告訴が起訴の条件になっているもの(親告罪)もあります。)。
加害者の態度がどれだけ不誠実なものなのか、それによってどのような精神的苦痛を受けたのかを伝えることが重要です。
ただし、誇張した供述をすると供述内容が信用されなくなるので注意してください。
起訴や裁判の前に刑事上の示談を成立させない
加害者にしっかり刑事罰を受けてほしい場合、起訴や刑事裁判の前に刑事上の示談を成立させるのは避けましょう。
起訴や刑事裁判の前に刑事上の示談を成立させると、「当事者間での和解は成立している」として不起訴になったり、刑事罰が軽減されたりする可能性があります。
なお、刑事上の示談とは、損害賠償金・慰謝料を請求するための相手の保険会社との示談(民事上の示談)とは別物です。
検察審査会への申立も視野に入れよう
交通事故の加害者であっても、必ず刑事裁判になるわけではありません。様々な事情を考慮したうえで担当検察官が不起訴処分(起訴猶予含む)と判断すると起訴されず、裁判は開かれないのです。
裁判が開かれないということは加害者に刑事処分が下ることはありません。
そんなとき、加害者を正式な刑事裁判にかけるように申立てることができ、これを検察審査会への申立といいます。
検察審査会にて起訴相当と判断されたら、検察側にもう一度判断を求めることが可能です。
見舞金は受け取らない
見舞金を受け取らないことも、加害者の刑事罰を軽くしないために重要です。
見舞金とは、加害者の謝罪の気持ちを金銭や果物、花などの形にして示したものです。
見舞金を受け取ると、「加害者は被害者に対して謝罪の気持ちを示し、被害者もそれを受け入れた」と判断されます。
その結果、加害者が不起訴になって刑事罰が下されなかったり、刑事罰が軽減されたりすることがあるのです。
被害者参加制度で裁判に参加
加害者が一定の罪状で起訴された場合、被害者は「被害者参加制度」を利用して裁判に参加できます。被害者参加制度でできることの例は以下のとおりです。
被害者参加でできること
- (傍聴席でなく)法廷の中に着席し、裁判に出席できる
- 検察官の説明を求めたり、意見陳述したりできる
- 証人尋問で証人に質問ができる
- 意見陳述に必要な場合には加害者に質問(被告人質問)できる
このやり取りは裁判官の前でおこなわれるので、量刑(懲役や執行猶予など)の検討材料になる可能性もあります。
加害者への処罰感情が強く、思いを伝えたい場合は制度の利用も検討してみましょう。
被害者通知制度も利用できる
被害者を保護するための制度には被害者通知制度があり、加害者の刑事手続きの結果通知を受けることが可能です。被害者通知制度により、次のような加害者情報の報告を受けることができます。
被害者通知制度でわかること
- 起訴されたかどうか
- 刑罰の内容
- 出所の時期
加害者を許せないと思ったとき、加害者の刑事面の処遇が気になるのは当然です。犯罪被害者となってしまったとき、加害者の刑事処分にどんなことを望むのかを整理しておき、利用できる制度を知っておきましょう。
誠意のない加害者にお困りなら弁護士にご相談ください
交通事故加害者に誠意がない場合、慰謝料を増額させたいと思うのは自然なことです。
しかし、弁護士を立てずに慰謝料を増額させることは、難しいと言わざるを得ません。
まずは弁護士に相談することが慰謝料増額への第一歩です。
アトム法律事務所では、電話・LINE・メールにて無料相談を24時間365日予約受付しています。相談のみのご利用も可能なので、ぜひお気軽にご連絡ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了