交通事故の裁判(民事訴訟)を弁護士に依頼するメリット・デメリット&費用はいくらになる?
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警察庁と日弁連の統計によると、ある年に発生した交通事故約53万件に対し、裁判所での訴訟となったものは約3万4000件です。
このことから、交通事故の大部分は示談(裁判外の和解)で解決し、訴訟に発展するのはごくひとにぎりということがわかります。
しかし、実際に訴訟を起こすケースは少なくても、示談交渉の結果に不満があって訴訟をしようか迷う方は少なくありません。
この記事は交通事故で訴訟を起こすかお悩みの方、弁護士に依頼するか迷っていらっしゃる方、訴訟の流れをお知りになりたい方、交通事故で訴訟を起こすご予定で情報収集をされている方に向けて書かれております。
また、この記事では交通事故で訴訟になった時に支払う費用・弁護士に依頼することのメリットデメリット、実際の訴訟の流れなどを解説しています。
目次
交通事故で訴訟を行い、4000万円以上増額した解決事例
まず、そもそも訴訟を起こすことで慰謝料などは本当に増額するのでしょうか。
実際に、アトム法律事務所で訴訟を行い、解決した一例をみてみましょう。
事故態様 | 死亡事故 |
事前提示額 | 5000万円 |
訴訟後最終支払い額 | 9400万円 |
以前に弊事務所が受任した案件で、自転車を押しながら歩行していた被害者が車にひかれ、死亡するという痛ましい事故がありました。
加害者は任意保険未加入であり、十分な賠償金が支払われない可能性あったうえ、被害者の方は主婦扱いとされ、一部賠償金が不当に低く計算されるなど、ご遺族の方にとっては不利な展開が長く続いていました。
しかし弊社弁護士が、被害者の加入していた保険に「相手方が無保険で十分な賠償を受けられない際に保険金を支払う特約」というオプションを発見したので、この保険から保険金を受け取れました。
その後の訴訟では、被害者が渡米予定であったことから将来収入の増額などを主張。
結果として、大幅な増額が認められるとともに、被害者のご遺族にも賠償金がいきわたることとなりました。
交通事故の民事訴訟とは何か?
上記の例で弊法律事務所が担当したのは、民事訴訟です。
交通事故の民事訴訟とは、損害賠償の金額や責任の有無に関して争うものです。
交通事故の損害賠償金には、車の修理費や治療費、精神的苦痛への賠償金などがあります。
損害賠償責任は加害者の他、加害者を雇用していた会社や車の持ち主などにも発生することがあります。
交通事故の民事訴訟と刑事訴訟の違い
一般に交通事故の訴訟には、民事訴訟・刑事訴訟・行政訴訟の3種類があります。
それぞれの違いは争いの焦点にあり、以下の通りです。
交通事故の裁判の種類
- 民事訴訟…交通事故により被害者が受けた損害の賠償責任に関する争い。
- 刑事訴訟…交通事故により加害者の法律を犯した責任に関する争い。
- 行政訴訟…交通事故により加害者が受けた免許取消などの行政処分に関する争い。
もっと簡単に言い換えると、次のようになります。
- 「加害者は被害者に1000万支払え」という判決がくだりうるのが民事訴訟
- 「加害者を過失運転致死罪により懲役3年の刑に処す」という判決がくだりうるのが刑事訴訟
- 「加害者の受けた免許停止処分を取り消す」という判決がくだりうるのが行政訴訟
これら3つのうち、民事訴訟と刑事訴訟は密接な関係にあります。
刑事訴訟で焦点となる加害者の刑罰は、加害者が被害者に十分な賠償金を支払っているか、和解しているかなど民事訴訟的な面も考慮しつつ判断されます。
もしも被害者と加害者が民事で和解をしていたら、「被害者が許している以上、ことさらに罰を与える必要がない」として、刑事訴訟では加害者に有利にはたらくことがあるのです。
今回は、主民事訴訟の分野を解説していきます。
交通事故の訴訟の管轄|どこに訴えるの?
実際に民事裁判を起こす場合、全国各地のどの裁判所に訴えればよいのでしょうか。
それは、民事訴訟法に基づいて次のように決定されています。
- 被害者の所在地(現住所など)を所轄とする裁判所
- 加害者の所在地(〃)を所轄とする裁判所
- 交通事故が発生した現場を所轄とする裁判所
裁判所に行く際の利便性などの観点から、被害者の現住所などを所轄とする裁判所に提訴することが一般的です。
ご自身の住所がどの裁判所の管轄かは、裁判所のホームページから確認できます。
加害者に対する請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えているのであれば地方裁判所に提訴先しましょう。
交通事故の訴訟の当事者
交通事故の損害賠償請求訴訟においては、被害者が原告(訴訟を提起する側)、加害者が被告(訴訟を提起される側)となります。
この場合、実際の事故の加害者だけではなく加害者の加入している保険会社も共同の被告として争うことができます。
また、交通事故によって被害者が死亡している場合は、その相続人が原告となります。相続人でない場合も、固有の慰謝料などを請求できる場合があるので請求漏れの内容にしましょう。
交通事故の民事訴訟のメリットとデメリット|費用・期間・効果は?
それでは、実際に訴訟を起こすか考えるにあたり、交通事故の民事訴訟に関するメリットやデメリット、その他費用などについて考えてみましょう。
交通事故で訴訟を起こすメリット
交通事故の損害賠償問題を訴訟で解決しようとする場合には、以下のようなメリットがあります。
- 保険会社や相手方との紛争を合意なく解決できる可能性がある
- 裁判基準による慰謝料を受け取れる可能性がある
- 判決を得れば保険会社や相手方に強制執行できる
- 弁護士費用・遅延損害金も損害賠償の一部として相手方に請求できる
それぞれ、どのようなものか見てみましょう。
保険会社や相手方との紛争を合意なく解決できる
訴訟ではなく示談で解決する場合には、相手方との合意が必要です。そのため、合意が取れない場合はいつまでも終わりません。
一方、民事裁判の判決には当事者双方の合意は必要ありません。
そのため、示談交渉でどうしても相手方が合意してくれない場合などは有効です。
裁判基準による慰謝料を受け取れる
訴訟を提起すると、示談するよりも多額の慰謝料を受け取れる可能性があります。
実は、損害賠償金の一部に含まれる慰謝料には、支払いに際して3種類の金額基準があります。
自賠責基準、任意保険基準とはそれぞれ自賠責保険、任意保険が提示してくる慰謝料の金額です。
弁護士基準(裁判基準)とは、これまでの裁判例から導き出された「裁判を起こしたらこれくらい請求が認められる」という基準で、最も高額になっています。
一般的に弁護士をつけずに示談する場合は任意保険基準、弁護士をつけて示談した場合は弁護士基準の8~9割、訴訟を提起し主張が認められた場合は弁護士基準で慰謝料の金額が認定されます。
訴訟をすることが最も高額の慰謝料を受け取りうる方法であるといえるのです。
弁護士基準の慰謝料は、慰謝料計算機ですぐに算定可能です。
過失割合などの個別事情は反映されていませんが、目安額として知っておくことをおすすめします。
慰謝料の計算方法を詳細に知りたい方は、関連記事『交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる』にてご確認いただけます。
保険会社や相手方に強制執行できる
強制執行とは、交通事故の場合だと「被害者が加害者から損害賠償を受ける権利」を国が強制的に実現させる手続きを言います。
具体的には、加害者の所有する家や建物といった不動産や車などの動産を競売にかけ、その金銭を被害者への支払いにあてさせるのです。
民事裁判で判決を受けていれば、相手方から損害賠償金が支払われなかった場合には強制執行が行われます。
これは、加害者が任意保険に入っていない場合に特に役立つでしょう。
というのも、相手が任意保険未加入の場合、自賠責保険の支払い上限額までの賠償金は相手方自賠責保険から支払ってもらい、上限額の超過分は加害者本人に請求することになります。
ですが多くの場合、加害者本人に請求した分は相手方の資力の問題などからスムーズに支払われないのです。
こうした場合でも、強制執行が行えれば安心です。
ただし、加害者がこれらの財産にあたるものを持っていない場合、損害賠償額を回収できないことに注意しましょう。
訴訟費用・弁護士費用・遅延損害金も損害賠償の一部として相手方に請求できる
訴訟費用…訴訟に関してかかった費用。印紙代、郵便切手代、証人の旅費や日当、鑑定費用、謄写費用など
訴状の時点で判決まで至れば、訴訟に関してかかった費用(訴訟費用。弁護士費用は含まない)は敗訴者の負担となります。
なお全額敗訴者の負担になるとは限らず、9:1や8:2などといった割合での負担となることもあり、必ずしも全額払わずに済むというわけではありません。
印紙代・郵便切手代は訴訟の前に必要となる費用ですので、最初は訴訟を起こす側である原告側が負担します。
なお特に印紙代が支払えない場合は、訴状と一緒に「訴訟救助」の申立てをすることで、和解または訴訟後に負担割合の定めに従ったぶんだけ「支払いをすれば済むようになります。
弁護士費用…弁護士に委任をする際にかかる着手金・報酬金など
弁護士費用についても実際に支払った金額ではなく、損害額の10%程度を上乗せする形で、訴訟費用という費目で加害者に請求することになります。
ですが実際のところ、弁護士費用は損害賠償金総額の10%以上になる場合もありますので負担したぶんが必ず返ってくるとは限りません。
遅延損害金…金銭を支払う義務がある者の支払いが遅れたことの賠償として支払う金銭
また、同様の条件では交通事故発生日から実際の支払い日まで、年3%(令和2年3月31日以前の交通事故は年5%)の遅延損害金を受け取ることができます。
交通事故においては、本来損害が発生した日=交通事故発生日には既に損害賠償として金銭を支払う義務があることになります。
その計算式は、以下の通りです。
遅延損害金の計算方法
遅延損害金=判決で認定された損害賠償金×法定利率×事故発生日から判決までの日数/365
交通事故で訴訟を起こすデメリット
一方で、交通事故で訴訟で紛争を解決しようとする場合には以下のようなデメリットもあります。
- 訴訟の手続きは非常に煩雑で時間がかかる
- 訴訟費用がかかる
- 敗訴した場合、十分な損害賠償金を得られない可能性がある
それぞれ、どのようなものかみてみましょう。
訴訟の手続きは非常に複雑で時間がかかる
令和元年の裁判所の統計によれば、交通事故の第一審の訴訟でかかる平均期間は12.4カ月です。
訴訟の手続きは非常に複雑であり、多くの場合、提訴から判決までは最低でも半年、多くは1年前後の時間がかかります。
さらに判決を得ても、相手側から控訴されてしまうとさらに時間がかかります。
では判決を得る前に和解してしまえばいいかというと、仮に初回に和解したような場合でも3ヶ月はかかってしまうので、手続き自体にも相応の時間がかかると考えた方がいいかもしれません。
具体的な手続きの流れに関しましては、次の章で詳しく説明します。
交通事故の訴訟には訴訟費用がかかる|収入印紙代・郵便切手代など
訴訟費用に含まれるもの
- 収入印紙代
- 郵便切手代
- 証人の日当、旅費
- 鑑定費用
- 謄写費用
交通事故の民事訴訟をするにあたり、必ずかかる訴訟費用として「収入印紙代」と「郵便切手代」があります。
これらの訴訟費用は、まず原告が支払い、その後敗訴当事者の負担となります。
ですから、全面勝訴した場合には以下の料金は支払わなくてよいことになりますがリスクには違いありません。
収入印紙とは、裁判の手数料を支払う際に利用される証票で郵便局や法務局、金額は少ないこともありますがコンビニでも購入できます。
支払う印紙の金額は、訴状で「〇〇万円の損害賠償を請求する」と記載される請求金額に基づき、以下のように決定されます。
請求金額 | 収入印紙代 |
~100万 | 10万円ごとに1,000円 |
~500万 | 20万円ごとに1,000円 |
~1000万 | 50万円ごとに2,000円 |
~10億 | 100万円ごとに3,000円 |
例えば、請求金額が150万円の場合は
- 100万円までは10万円ごとに1,000円
- 100万円を超えたぶんは20万円ごとに1,000円
という計算になりますので、(1,000円×10)+(1,000円×2)=12,000円の印紙代が必要となってきます。
実際に計算せずとも、手数料の一覧表は、裁判所公式ホームページでも掲載されています。
なお、この費用は第一審の判決に納得がいかず控訴(2回目の裁判)する場合は1.5倍、上告(3回目の裁判)する場合には2倍となります。
また郵便切手代とは、訴訟を起こしたことで裁判所が相手方などに対し様々な書類を送付する際に使われる切手代を、まとめて原告に支払わせるものです。
その値段は被告1人の場合おおむね5,000円前後ですが、実際の金額は裁判所の種類や場所によって様々ですので、提訴する予定の裁判所ホームページを参考にしてください。
そのほか、証人を呼び出した際の旅費や専門家による鑑定を行ったときの鑑定費用、証人尋問の内容を確認するための謄写費用などがかかる場合があります。
敗訴した場合の負担が大きい
訴訟にあたって手間と時間、費用がかかるのは前述の通りですが、さらに訴訟の場合は敗訴するリスクがあります。
示談する場合は当事者お互いが納得して落としどころをつけますが、訴訟では第三者である裁判官が判決を下します。
訴訟では損害賠償額も多大になりがちなので、相手方保険会社も必死に争ってきます。
さらに裁判官自身の交通事故への詳しさや被害者への態度も様々なので、思いがけず低い損害賠償額が認定される可能性もあることを知っていなければなりません。
交通事故の訴訟にかかる費用とは?弁護士は必要?
交通事故の訴訟は弁護士に依頼すべき?
訴訟といえば弁護士が行うイメージがありますが、実際には被害者自身が裁判所で主張・立証することも可能です。
ですが日本弁護士連合会の統計によると、交通事故訴訟においては98.4%の場合、原告側が弁護士を含む何かしらの訴訟代理人をつけています。
実際のところ、訴訟に伴う手続きが非常に煩雑であること、弁護士に委任していないと被害者が裁判のたび出廷するよう求められることを考えると、多くの人が弁護士に委任していることには一定の理由があるように思われます。
もしもご自分で手続きを進めたい場合も、よろしければ弁護士に相談をしてみてください。
手続き面でのご不安や疑問にお応えすることができます。
交通事故で訴訟するときの弁護士費用の目安と相場は?
一般的に弁護士費用には、以下のような内容が含まれます。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
- 日当
- 実費
弁護士費用の内訳は示談などを委任する際と訴訟を起こす際で変わりませんが、弁護士事務所や案件によっては「訴訟になったら〇万追加で着手金を支払う」とされる場合もあります。
具体的な内容と費用の目安はそれぞれ、以下のようなものになっています。
交通事故の弁護士費用|相談料
30分あたり5,000円、1時間あたり10,000円が目安ですが、初回無料の弁護士事務所も多くあります。
有料だが案件によっては無料、という弁護士事務所もあるため、事前に確認がとれるとよいでしょう。
交通事故の弁護士費用|着手金・報酬金
着手金とは、その案件にとりかかる初期費用です。交通事故の場合着手金はかからないとしている弁護士事務所も多いです。
報酬金はその成果によって支払われる費用を言います。その紛争に弁護士が介入できたことによりいくら増額できたか(=経済的利益)をもとに決定する事務所が多いです。
かつて用いられていた日弁連の旧弁護士基準から見る着手金・報酬金の目安は以下のようになっています。
経済的利益* | 着手金(税込) | 報酬金(税込) |
300万円以下 | 経済的利益の8.8% | 経済的利益の17.6% |
300万円を超え3000万円以下 | 〃の5.5%+9万9千円 | 〃の11%+19万8千円 |
3000万円を超え3億円以下 | 〃の3.3%+75万9千円 | 〃の6.6%+151万8千円 |
着手金、報酬金は実際に支払われる損害賠償金、その前に保険会社から提示されていた金額によって大きく変わります。
仮に保険会社から事前に100万円の示談金支払いの提示を受け、弁護士が介入した結果500万円の支払いとなった場合(経済的利益を400万円として計算)を上記の表で考えると、弁護士費用は以下の通りです。
- 着手金:400万円×0.055+9万9千円=31万9千円
- 報酬金:400万円×0.11+19万8千円=63万8千円
- よって、弁護士報酬は95万7千円、被害者の受け取りは404万3千円。
交通事故の弁護士費用|④日当
示談や訴訟により弁護士が遠方や裁判所に赴く際には、その距離や日数に基づき弁護士に日当が支払われます。
計算方法にもよりますが、1日あたり数万~10万円と定めている弁護士事務所が多いようです。
訴訟の場合は月一回程度口頭弁論に出廷しなければならない場合がありますので、そのたびに日当がかかります。
交通事故の弁護士費用|⑤実費
実費は法律上の手続きをするにあたり、実際に支払うこととなる費用です。
訴訟手続きを委任するような場合には、前述した収入印紙代、切手代のほか交通費、郵送費、手数料などが該当します。
実費は手続きが簡明な場合は数百円、謄写代や医学的な検査費用がかかる場合は数万円までと幅広くなっています。
弁護士費用を支払わずに済む保険がある?弁護士費用特約
なお、自動車の任意保険や火災保険などに弁護士費用特約がついていると、前述の弁護士費用を300万円まで保険会社に負担してもらえます。
弁護士費用が300万円を超えるのは相当重い後遺障害(後遺症)か死亡事故など非常に限られていますので、通常は弁護士費用がかかることを気にせず弁護士に相談・委任できます。
弁護士費用特約を使う場合は保険会社が弁護士を紹介してくれることもありますが、もちろん自分で弁護士を選んで委任することも可能です。
弁護士を選ぶ際は相談のときの態度や交通事故の解決実績、法律的な説明がわかりやすいか、親身になって対応してくれるかなど、ご自身にあうと思われる弁護士を選ぶのがよいでしょう。
なお、弁護士費用特約が無いとしても、保険会社の入金後にそこから差し引く形で着手金を回収したりするなど、まだ示談金を得ていない交通事故被害者が大金を支払う必要が無いようにしている弁護士事務所も増えています。
着手金が用意できないから、と弁護士に依頼することを諦める必要はありません。
多くの弁護士に相談し、見通しを聞いてからご自身の目指すところにあう弁護士を選んでください。
訴訟に勝つと相手方に弁護士費用を負担させられる?
「交通事故で訴訟を起こすメリット」でお伝えしたように、訴訟で損害賠償額が認められれば、その10%程度が弁護士費用として上乗せされます。
ですが弁護士費用が常に10%以内でおさまるとは限らないこと、認められる損害賠償額が低額になれば当然その費用も低額になることから、過信は禁物です。
交通事故で訴訟提起→支払いまでの流れ
それでは、実際に交通事故で訴訟を提起し、相手方から損害賠償金が支払われるまでの流れをみてみましょう。
またここでは簡易的な解説を行いますが、交通事故の訴訟の流れや費用についてより詳しくお知りになりたい方は、以下の記事をご参照ください。
前提|訴訟は交通事故の示談がまとまらない場合に起こす
まず、多くの場合、交通事故の損害賠償問題は被害者と加害者側保険会社間で話し合いで解決(=示談)が図られます。
訴訟は保険会社にとっても時間・金銭面で負担となりますから、最初は出来るだけ示談で解決しようとします。
それでも交通事故の過失割合や損害賠償額で合意が得られない場合、被害者側がとりうる手段として訴訟があるのです。
(1)交通事故の訴状を提出する
交通事故の民事訴訟は、管轄の裁判所に訴状とその他の書類を提出することから始まります。
交通事故の訴訟の必要書類|訴状
訴状とは、原告(訴訟を提起する側)から裁判所に対して訴えの内容を述べるものです。
訴状の書式については、それぞれ裁判所のホームページでダウンロード可能です。
訴状に記載する内容として、具体的には以下のものがあります。
- 訴状提出日
- 訴状提出先の裁判所
- 被害者ならびに加害者の氏名、住所
- 被害者ならびに加害者の代理人弁護士の氏名、住所
- 請求する損害賠償の金額
- 印紙代の金額
- 請求の趣旨(賠償金の金額、支払い方法など)
- 請求の原因―事故の発生(交通事故の発生日時、場所、事故態様など)
- 〃―責任原因(加害者の過失、根拠条文)
- 〃―原告の傷害(傷病名、治療状況、後遺障害)
- 〃―原告の損害(損害それぞれの内訳、金額、計算式)
- 〃―既払い金(相手方から既に支払われた金額)
- 〃―損害合計額
訴状の内容が不明確であったり、不備があったりすると不受理となり修正が求められます。
訴状の書式には細かな規則があり、例えば被告が複数人であるにもかかわらず「被告は」と書いていると、不備とみなされることもあります。
この場合、正しい記載は「被告らは」なので注意してください。
多くのホームページに訴状の記入の仕方が記載されていますが、実際のところ個人で訴状を作成するのは困難です。
また、特に請求の趣旨・原因の記述は裁判の中での争い方に密接に関連してきますので、可能であれば訴状作成は弁護士に依頼するのが適切でしょう。
交通事故の訴訟の必要書類|訴状以外の書類
訴状以外にも、主張を裏付ける証拠となる書類の提出が必要です。
その一例は以下の通りです。
訴訟で争う事項 | 必要書類の例 |
事故態様・過失割合 | 交通事故証明書(基本的に必須) 刑事記録(実況見分調書など) 車両の写真 ドライブレコーダーなど |
治療費・障害慰謝料など | 診断書 診療報酬明細書 |
通院交通費 | 領収書 通院交通費明細書 |
休業損害 | 休業損害証明書 源泉徴収票 納税証明書 課税証明書 確定申告書の控え(税務署の受付日付印のあるもの) |
後遺障害慰謝料・逸失利益など | 後遺障害診断書 後遺障害等級認定票 |
修理費など | 領収書 修理明細書 修理部分の写真 事故車の市場価格の判断資料 |
代車料 | 領収書 |
これらの書類は証拠説明書・損害一覧表などと共に、訴訟提起時に提出します。
(2)第一回口頭弁論期日
訴状に不備がなければ、訴状提出後からおよそ3ヶ月後を平均として「第一回口頭弁論期日」が指定されます。
口頭弁論とは、法廷で当事者がそれぞれ主張を行うことです。
主張に不備があるような場合は裁判長が質問をし、次回口頭弁論にて明らかにするよう指示を受けます。
口頭弁論は月に1度程度開催され、これを繰り返して「この裁判では何が争いになるのか」という争点を見極めていきます。
(3)争点整理・証拠調べ
争点が明らかになると、それぞれどちらの主張が正しいのかというフェーズに入ります。
当事者はそれぞれ、自身の主張の正しさを証明するために証拠品を提出しなければなりません。
また、裁判所から当時者の主張を書面にした陳述書の提出を求められる場合もあります。
多くの場合は弁護士の作成が前提となっていますので、弁護士に一任してしまうのがよいでしょう。
(4)証人尋問、当事者尋問
物的証拠だけではその主張が裏付けられないような場合、必要に応じて証人尋問や当事者尋問が行われます。
証人になるのは交通事故の目撃者、医師や保険会社の担当者などです。
交通事故の当事者も、当事者尋問を行う場合は出廷しなければなりません。
(5)判決または和解
以上の手続きのなか、当事者はいつでも和解ができます。
訴訟上の和解…訴訟の最中に当事者が互いに紛争解決の合意をすること
交通事故以外の民事訴訟も含めた数ですが、令和元年の裁判所の統計によるとおよそ75%の事件が和解で終結しています。
訴訟は通常、示談(=裁判外の和解)で決着がつかなかった場合に行うものですが、裁判中でも裁判官からの勧告などにより、互いにある程度譲歩して和解をすることは少なくありません。
和解をすることで紛争の早期解決を図ることができ、また判決よりも柔軟な解決が可能となります。
訴訟中に和解がなされなかった場合は、判決が下され、勝訴した場合は被告に対し、損害賠償金を支払うよう告げられます。
(6)納得がいかなければ控訴、上告へ
ここで出た判決に納得できない場合は、さらに上級の裁判所に対して上訴することが出来ます。
一審判決に対する上訴を控訴、二審判決に対する上訴を上告と言います。
なお実際のところ、上告ができるのは憲法違反など重大な理由に限られるため、裁判を何度も繰り返せるとは限りません。
なお、交通事故における上訴の割合は40%となっています。
(7)相手方の損害賠償金の支払い
和解となった場合
訴訟上の和解が成立した場合、それぞれ和解する条件を満たした和解調書が作成されます。
この調書は強制執行力を持ち、もしも相手方が支払いに応じない場合は相手方の不動産などを競売にかける強制執行の手続きを行うことができます。
判決が出た場合
訴訟内で和解が成立しなかった場合は判決の言い渡しがあり、判決書の送達から2週間以内に控訴されなければ判決は確定します。
勝訴判決である場合は、その判決に基づいて強制執行の手続きを行うことが可能です。
交通事故の訴訟以外の解決方法3選
もしもまだ訴訟を提起していないのであれば、訴訟以外の解決を目指すのも選択肢の一つです。
訴訟(裁判)以外の示談・ADR機関の利用それぞれの違いを見てみましょう。
(1)保険会社との示談で解決をめざす
示談…裁判外の手続きにより、当事者間で話し合って紛争を解決する合意をすること
多くの交通事故は、訴訟に至る前に保険会社との示談で解決します。
当事者同士の話し合いですので、示談で決める事案に制限はなく比較的短期間で決着します。
ですが弁護士をつけないと非常に低額にまとまりがちであることには気を付けなければいけません。
示談にかかる期間の参考記事
(2)交通事故のADR機関を用いて解決をめざす
交通事故ADR機関…交通事故の紛争において、裁判外紛争処理手続き(Alternative Dispute Resolution)を行う機関
ADR機関とは、裁判以外で紛争の解決を図る民間の手続きです。
例えば交通事故の主なADR機関には交通事故紛争処理センター、日弁連交通事故相談センターなどがあります。
多くの機関は無料、あるいは訴訟より大幅に低額で利用でき、また一部ADR機関の示談斡旋の効果は保険会社などに拘束力を持ちます。
ですがADR機関はあくまでも中立の立場であり、被害者の側にたって増額を目指してくれるとは限らないことから、必ずしも納得のいく解決となるとは限りません。
(3)民事調停を用いて解決をめざす
民事調停…裁判所の調停委員のもとで互いに話し合い、合意により紛争解決を目指す手続き
裁判所の手を借りて解決を目指しつつも、訴訟よりも手続きが簡易・費用が安い・非公開で行われる手段として民事調停があります。
交通事故の民事調停の流れ
民事調停は原則として相手方の住所を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。
裁判所の管轄は、裁判所ホームページで調べてみてください。
民事調停の申し立ては、申立書を作成し、交通事故証明書と診断書を添付、さらに収入印紙で手数料を納付することで行えます。
診断書は治療を行った医師に作成してもらいましょう。交通事故証明書の入手方法については『交通事故証明書とは?もらい方と目的、後日取得の期限やコピーの可否』の記事で確認可能です。
調停が申し立てられると、裁判官1名と民間の調停委員2名からなる調停委員会が立ち上がります。 その後指定日時に当事者双方が裁判所に呼び出され、当事者と調停委員会とで話し合いを重ねていきます。
話し合いの結果、調停委員会から解決案が出されるので、それに双方が合意すれば、「調停証書」が作成されて争いは解決です。
この調停証書には裁判所の出す確定判決と同じ効果があるので、相手方が支払いの義務を履行しない場合は強制執行が可能です。
調停は多くの場合、2,3回の話し合いを重ねてヶ月以内に調停が成立します。
ただしどうしても折り合いがつかなかった場合、相手方が不出頭の場合などは調停不成立となり、改めて訴訟を提起するなどして解決を図る必要があります。
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交通事故の訴訟は、示談以上に複雑な手続きとなります。
自分だけの手でなんとかしようと思わず、まずは弁護士にご相談ください。
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アトム法律事務所では24時間365日、ご相談の予約を受け付けております。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了