傘差し運転は事故の過失割合に影響?交通違反で罰金の対象になる?

更新日:

傘差し運転

傘差し運転は道路交通法70条に違反するもので、都道府県ごとの道路交通法施行規則違反にもあたる可能性がある行為です。

傘差し運転をした自転車が事故を起こしたときには、通常よりも過失割合が5%から10%程度高くなるでしょう。

傘差し自転車との事故に巻き込まれてしまった方は、相手の過失をしっかり主張して、不当な過失割合を受け入れないようにすべきです。

一方、自身が傘差し運転をして事故にあった方は、傘差し運転が刑罰の対象になること、そして自身の過失面で不利になることに留意してください。

この記事では傘差し運転がどういった違反行為にあたり、どんな刑罰が適用されうるのか、そして自転車事故の被害者が知っておきたい過失割合や賠償金について説明します。

なお、本記事は「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に記載されている情報をベースにすることとします。

傘差し運転は違反行為として罰金の対象

傘差し運転は道路交通法違反

傘差し運転は、道路交通法第70条の安全運転義務違反や、各都道府県における道路交通法施行規則違反にあたります。

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

道路交通法第七十条

傘をさして運転することは、片手運転になり、ハンドル操作や周囲の状況把握が難しくなるため、この規定に違反する行為となります。

また、各都道府県の公安委員会が定める道路交通法施行細則においても、傘差し運転が禁止されているのです。参考に大阪府道路交通規則を例示します。

傘を差し、物を担ぎ、又は物を持つ等視野を妨げ、若しくは安定を失うおそれがある方法で自転車を運転しないこと。

大阪府道路交通規則第13条の2

大阪府以外にもおおよその地域で同様に禁止されています。

傘差し運転は罰金の対象

傘差し運転は道路交通法第119条1項14号より、懲役3ヶ月以下または5万円以下の罰金の刑罰が規定されています。

これは傘差し運転をしたことに対する刑罰であって、傘差し運転の結果、人身事故を起こした場合には過失致死傷罪や重過失致死傷罪が適用される可能性もあるのです。そうすると、もっと重い刑罰が適用される可能性があります。

傘を固定しての運転も違反になる場合あり

傘を自転車に固定しておく傘スタンドや傘ホルダーも違法になる可能性があります。

道路交通法第55条第2項による以下の規定をみてみましょう。

車両の運転者は、運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げ、後写鏡の効用を失わせ、車両の安定を害し、又は外部から当該車両の方向指示器、車両の番号標、制動灯、尾灯若しくは後部反射器を確認することができないこととなるような乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない。

道路交通法第五十五条

歩行者とすれ違った時に傘が接触して相手にケガをさせたり、事故を起こしたりすると、運転者が果たすべき安全運転の義務に違反しているとみなされる可能性があります。

あるいは、地方自治体によっては道路交通法施行規則で定めているケースもみられます。

たとえば、三重県道路交通法施行細則では、「かさをさして(車体に固定した場合を含む。)、自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。」として、明確に禁止しているのです。

【コラム】青切符で反則金になる法改正はいつから?何が変わる?

現在、自転車は刑事罰がついてくる「赤切符」で取り締まりが行われています。

しかし近年の自転車事故の増加傾向を受け、より軽微な違反でも対象となりうる「青切符」による取り締まりができるよう、道路交通法の改正が閣議決定されました。現時点では2026年(令和8年)から青切符が導入される見通しです。

青切符の対象となることで、これまではある意味で「見過ごされてきた」違反も、取り締まりの対象となると予想されます。

罰金と反則金の違い

これまでは赤切符による取り締まりで「罰金」という刑事罰でしたが、青切符による「反則金」をおさめることで、罰金をはじめとした刑事罰を回避できます。

反則金は5,000円から1万2,000円程度と予想されていますが、まだ不確定です。

なお反則金を支払わない場合は、刑事罰の対象となる可能性があります。

青切符の対象

傘差し運転(安全運転義務違反)も青切符の対象です。

そのほか、信号無視、通行区分違反、横断歩行者妨害、無灯火違反などの様々な違反行為が青切符の対象となる見込みです。

対象年齢

青切符の対象は16歳以上です。そのため、14歳以上から16歳未満はこれまでどおり、赤切符の対象となります。

傘差し運転が与える過失割合への影響と過失割合のパターン

傘差し運転は自転車の著しい過失

傘差し運転は、自転車側の著しい過失です。交通事故の過失割合に5%から10%の過失が上乗せされる可能性があります。

交通事故の過失割合の決まり方

交通事故は、事故態様によって基本の過失割合が定められています。そして、一つひとつの交通事故の事情を反映していき、最終的な過失割合を決める流れです。

一つひとつの交通事故の事情を修正要素といい、傘差し運転は著しい過失として修正要素にあたります。

このほか、自転車特有の著しい過失の例としては、無灯火、脇見運転などの著しい前方不注意、ながらスマホなども修正要素とされるでしょう。修正要素の具体例については『過失割合の修正要素はどのようなものがある?事故類型別に紹介』の記事をご覧ください。

また、交通事故の過失割合はどのように決まるのか、いつ決めるものなのか、くわしい解説は以下の関連記事をお読みください。

傘差し自転車と歩行者|事故の過失割合

自転車と歩行者の交通事故においては、基本的に歩行者の過失が小さくなります。そして、信号の有無や道路の状況、当事者の年齢や過失の有無が双方に検討され、最終的に過失割合が決まるのです。

ここではいくつかのパターンについて、傘差し自転車と歩行者の過失割合をみていきましょう。

なお、ここで紹介するパターンはあくまで一例であり、そのほかに過失割合に影響する修正要素も多数あります。くわしい過失割合は交通事故にくわしい弁護士から助言を受けてください。

横断歩行者の事故

歩行者が青信号

信号機が青だったため、歩行者が横断歩道をわたろうとしたところへ、傘差し自転車が車道を走行してきて接触した事故の過失割合は、傘差し自転車(赤):歩行者(青)=100:0です。

この状況は傘をさしていなくても変わらず、横断歩道上を青信号に従って渡っていた歩行者に一切の過失はありません。

歩行者が黄信号から赤信号

歩行者が黄信号で横断を開始したものの、その後赤信号になってしまったとします。

そこへ、青信号の傘差し自転車が車道を走行して接触した事故の過失割合は、傘差し自転車(青):歩行者(黄から赤へ)=75:25です。

傘をさしていなければ自転車(青):歩行者(黄から赤へ)=65:35だったものの、傘差しが著しい過失となるため、自転車側に10%の過失がプラスされます。

歩行者と右左折自転車

青信号で交差点を曲がった傘差し自転車が、赤信号を無視して横断していた歩行者と横断歩道上で接触したとき、事故の過失割合は傘差し自転車(青):歩行者(赤)=50:50です。

傘差し運転でなければ、基本の過失割合は自転車(青):歩行者(赤)=40:60です。これは、信号を無視した歩行者の過失が高く考えられています。

しかし、傘差しという行為により歩行者の発見ができなかったことが自転車側の過失となるため、自転車側に10%の過失がプラスされるのです。

横断歩道や交差点でもない場所での事故

横断歩道や交差点付近でもない道路において、道路を横断しようとした歩行者と、車道を走行する傘差し自転車が接触したときの過失割合は傘差し自転車:歩行者=90:10です。

傘差し運転でなければ、基本の過失割合は自転車:歩行者=80:20となります。

傘差し自転車と自動車|事故の過失割合

自転車と自動車の交通事故は、基本的に自転車側の過失が小さくなります。しかし、傘差し運転をした自転車は、基本の過失割合よりも重い過失となる見込みです。

ここではいくつかのパターンについて、傘差し自転車と自動車の過失割合をみていきましょう。

もっとも、紹介するパターンはあくまで一例です。過失割合に影響する修正要素はそのほか多数ありますので、ご自身の事故状況を話したうえで、交通事故にくわしい弁護士から助言を受けてください。

信号機のある交差点での事故

自転車が赤信号

傘差し自転車が赤信号を無視して走行していたところ、青信号で走行してきた車両と、出会い頭に交差点でぶつかった事故のとき、過失割合は傘差し自転車(赤):四輪車(青)=90:10です。

信号機で整理がおこなわれている交差点においては、信号を守らなかった自転車側の過失が基本的に高いです。傘をさしていなければ80:20の過失割合でしたが、傘差し運転で10%過失が高くなります。

信号機のない交差点での事故

道幅が同じ交差点で、傘差し自転車と四輪車が出会い頭に衝突した事故のとき、過失割合は傘差し自転車:四輪車=30:70です。

もっとも、双方の道幅に違いがあるときや一時停止の規制有無などで過失割合が異なってきます。

道幅による過失割合の違いは下表のとおりです。

傘差し自転車と自動車の交差点事故(道幅の違い)

道幅傘差し自転車四輪車
同じ3070
自転車が広い2080
自転車が狭い4060

一時停止の規制有無による過失割合の違いは下表のとおりです。

傘差し自転車と自動車の交差点事故(一時停止の有無)

一時停止規制傘差し自転車四輪車
自転車側にあり5050
四輪車側にあり2080

右左折自転車と四輪車(信号機なし)

信号機のない交差点において、傘差し自転車が直進しようとし、右折しようとした四輪車と衝突した右直事故の過失割合は傘差し自転車:四輪車=15:85あるいは20:80です。

逆に、傘差し自転車が右折しようとして、直進中の四輪車と衝突した右直事故では、過失割合は傘差し自転車:四輪車=55:45あるいは60:40です。

直進と右折では基本的に直進車が優先されるので、過失割合においても直進側の過失が小さくなる傾向にあります。

傘差し自転車との自転車同士|事故の過失割合

自転車同士の事故については、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」としてまとめられた試案をベースに解説します。

信号機のある交差点での事故

信号機の色によって過失割合は異なり、下表のとおりです。

自転車同士の事故(一方が傘差し運転)

信号自転車傘差し自転車
青:赤(傘差し運転)0100
黄:赤(傘差し運転)1090
赤:赤(傘差し運転)4060

自転車同士の交通事故は、自動車事故よりもなお、これまでの判例や試案をもとにした交渉が必要です。

傘差し行為以外の修正要素についても細かく検討していく必要があるでしょう。

傘差し運転での交通事故でケガをした人からのQ&A

相手が「傘をさしていなかった」と嘘をついているときは?

相手が「傘をさしていなかった」と嘘をついている場合には、目撃者の証言、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、物的証拠などが証拠となる可能性があります。

目撃者の証言

事故現場にいた第三者が傘差し運転を目撃していた場合は、その証言が最も有力な証拠となります。

目撃者には証言への協力をお願いし、相手が傘をさしていたことや、傘の色や柄、どんな傘でどのようにさしていたかなど具体的に話してもらえるほど、証拠となりやすいです。

複数名の目撃者がいればなおよいでしょう。

ドライブレコーダーや防犯カメラの映像

事故現場付近を走行するドライブレコーダーの記録や、近隣の防犯カメラが設置されていた場合は、その映像が証拠となります。

映像の鮮明性や記録の保存期間にも限りはあるので、できるだけ早めに証拠を確保しておくと安心です。

物的証拠

事故現場に残っていた傘や傘の破片があれば、それが物的証拠となります。傘の色や柄、破片の形などが、相手が持っていた傘と一致すれば、証拠となるでしょう。

人身事故として届け出ていれば、現場検証が行われています。警察に連絡をして、調書を確認したい旨を申告することで、見せてもらえる可能性はあります。

関連記事『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』では、実況見分の流れや実況見分調書の取り寄せ方を解説しているので参考にしてみてください。

ケガで働けないときの補償はしてもらえる?

交通事故のケガの治療で仕事を休んだ場合、休業損害として請求できます。

休業損害は働いている人(会社員、パート、アルバイト、自営業者など)だけでなく、家事労働者(専業主婦、主夫など)も請求可能です。

休業損害は、会社(雇用先)から休業損害証明書を書いてもらったり、自営業者であれば確定申告関連の書類だったりと、請求の根拠になる資料が必要です。

手順を踏めばひと月分ずつでも請求はできますので、治療が長引いて生活費に余裕がなくなる前に、以下の関連記事から休業損害の計算方法や請求の流れを確かめておきましょう。

交通事故の慰謝料はいくらもらえる?

交通事故で請求できる慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。

事故で負った損害によって請求できる慰謝料は違いますが、入通院慰謝料なら通院1か月~6か月かつ重傷の場合で28万円~116万円、後遺障害慰謝料なら110万円~2800万円、死亡慰謝料なら2000万円~2800万円が相場です。

もっともこうした金額は過失割合の影響を受けて変わるので、一度弁護士に相談してみて、見積もりを取ることをおすすめします。

慰謝料の計算に関する基本情報は、下記の関連記事を参考になさってください。

後遺症が残ったらどうすればいい?

後遺症が残ったときには、後遺障害等級認定を受けることを検討してください。等級認定が受けられれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益といった損害賠償金を追加で請求できます。

ただし自転車事故においては後遺障害等級認定の申請先に注意が必要です。

自転車が加害者となった事故については、自賠責保険で後遺障害の認定を受けることができないため、自動車事故とは異なる方法で認定を受けねばなりません。

ひとつは相手の自転車保険の後遺障害認定機関、もうひとつは労災事故であれば労災保険で認定を受ける方法です。

後遺障害等級認定を受けるということは、後遺症の存在を客観的に認めてもらう必要があります。審査時に提出する書類については十分に内容を精査し、認定を受けられるよう準備をしっかりおこないましょう。

どんな症状であれば後遺障害等級認定を受けられるかは、関連記事で解説しています。自動車が関連する事故の解説記事にはなりますが、等級一覧を紹介しますので参考にしてみてください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

突然生じる事故や事件に、
地元の弁護士が即座に対応することで
ご相談者と社会に安心と希望を提供したい。