イヤホンを付けた車・自転車の運転は違反?片耳・骨伝導も禁止?
運転中のイヤホンの使用は、交通違反として罰則の対象にもなり得ます。
運転中のイヤホンの使用は、重大な事故につながるリスクが高いです。
車の発進音やクラクション、自転車のベル、緊急車両のサイレンなどが聞こえていないと、周囲の状況に対応した適切な運転を行えません。聴覚による情報は、運転をするうえで非常に重要なのです。
この記事では、運転中のイヤホン使用がどのような交通違反になるか、イヤホン使用で事故が起きたらどのように対処すればよいかを紹介します。
目次
車の運転中にイヤホンを使用すると交通違反?
安全運転義務違反になる可能性!罰則は?
道路交通法では、運転中にイヤホンを使う行為自体は明確に禁止されていません。
ただし、イヤホンを使っていたために適切な運転ができず事故を起こした場合、道路交通法第70条に定められた安全運転の義務に違反していると判断される可能性があります。
(安全運転の義務)
道路交通法
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
具体的には、運転中にイヤホンを使っていて以下のような行為をし、事故を起こした場合、安全運転義務違反と判断される可能性があるでしょう。
安全運転義務違反となるケース
- 音楽に集中していたための運転操作ミスや前方不注意
- 周りの音が聞こえないために生じた安全確認の不十分
- 機器を操作することによる前方不注意
安全運転義務違反の罰則
安全運転義務違反と判断された場合、運転手は「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」の罰則に加えて、反則金や違反点数が科せられることになります。
罰則 | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
反則金 | 大型車:12,000円 普通車:9,000円 二輪車:7,000円 原付車:6,000円 |
違反点数 | 2点 |
各都道府県の条例で禁止されている場合がある
運転中にイヤホンを使う行為は、各都道府県の条例では明確に禁止されている場合があります。
2024年9月現在、運転中のイヤホン使用を禁止している都道府県は以下のとおりです。
あわせて、運転中のイヤホンの使用を明確に禁止してはいないものの、イヤホンの使用が条例違反につながる可能性がある都道府県も紹介します。
各都道府県の運転中のイヤホン規制
- 車両(※)を運転中のイヤホンの使用禁止
- 北海道、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
- 自転車を運転中のイヤホンの使用禁止
- 青森県、岩手県、秋田県、山形県
- 「安全な運転に必要な音声が聞こえない状態」での車両の運転禁止
- 千葉県、兵庫県、山口県、佐賀県
※車両とは、自動車(バイクを含む)、原動機付自転車、軽車両(自転車を含む)、トロリーバスのこと
具体的にどのような行為が禁止されているかは、各都道府県の条例を参照してください。
例として、東京都の公安委員会が定めている「東京都道路交通規則」では、運転中のイヤホンの使用について以下のとおり規定されています。
第8条 法第71条第6号の規定により、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
(5) 高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。
東京都道路交通規則
なお、上記の「法第71条第6号」とは、道路交通法第71条第6号を指します。
各都道府県の条例に違反して運転中にイヤホンを使用した場合、「公安委員会遵守事項違反」となります。公安委員会遵守事項違反の罰則は以下のとおりです。
罰則 | 5万円以下の罰金 |
反則金 | 大型車:7,000円 普通車:6,000円 二輪車:6,000円 原付車:5,000円 |
自転車運転中のイヤホン使用も違反
自転車も車両の一種で取り締まり対象
自転車は「軽車両」という車両の一種のため、イヤホンを使っていたために周囲の確認が不十分になったといったことが原因で事故を起こした場合は、安全運転義務違反になる可能性があるでしょう。
また、各都道府県の条例違反にもなる可能性も生じます。
なお、自転車は軽車両なので、反則金を支払えば行政処分のみで終わる「交通反則通告制度」の対象外になります。
つまり、自転車を運転中にイヤホンをしていて取り締まられた場合、基本的に刑事事件として処理されるのです。
自転車を運転する際も、イヤホンの使用は避けましょう。
2026年内に自転車の交通違反に対する「青切符」導入
2026年内に、自転車の交通違反に対する「青切符」制度が導入される予定です。
青切符制度が導入されると、自転車を運転する16歳以上の違反者に反則金を納付させる行政処分が科されるようになります。
違反行為は、具体的には以下の通りです。
- 信号無視
- 例外的に歩道を通行できる場合、徐行せずに通行すること
- 一時停止無視
- 携帯電話を使用しながらの運転
- 右側通行
- 傘さし、イヤホン使用状態での運転 など
対象となる交通違反には、イヤホンやヘッドホンを使用しての運転も含まれるようになります。この制度導入により、自転車運転中のイヤホン使用に対する取り締まりが強化されると予想されるでしょう。繰り返し違反すると、より厳しい処分の対象となる可能性もあります。
こんな使い方も違反?運転中イヤホン使用のケース
片耳でイヤホンを使っていた
片耳でイヤホンを使っていた場合も、「安全な運転に必要な音声が聞こえない状態」であったとみなされれば、各都道府県の条例違反になる可能性があるでしょう。
道路交通法や各都道府県の条例では、明確に「片耳だけの使用なら問題ない」とは定められていません。
また、片耳でイヤホンを使っていたとき、音楽に気を取られるなどして事故を起こしたら、安全運転義務違反と判断される可能性があります。
片耳だけであっても、運転中のイヤホンの使用は注意力をそがれ、大変危険です。「片耳だけなら周りの音も多少は聞こえるし大丈夫だろう」と判断せず、イヤホンの使用自体を避けましょう。
小さな音量でイヤホンを使っていた
小さな音量でイヤホンを使っていても、違反になる恐れがあります。
小さな音量でイヤホンを使っていた場合、周りの音声が比較的聞こえやすいため、違反にはならないと考えるかもしれません。
しかし、イヤホンをしていると、耳栓をしているときと同じような状態になります。そのため、音量が小さくても、「安全な運転に必要な音声が聞こえない状態」になる可能性が高いのです。
とくに、密閉型イヤホンや、ノイズキャンセリング機能つきのイヤホンを使用していた場合、周囲の音声はさらに聞こえにくくなるでしょう。
もちろん、開放型イヤホンや骨伝導イヤホンを使用していた場合も、音楽に気をとられて周りの音声に注意を払えない可能性があります。小さな音量であっても、運転中のイヤホンの使用は厳禁です。
マイク付きイヤホンを使って通話していた
マイク付きイヤホンを使って通話をしていた場合は、「安全な運転に必要な音声が聞こえない状態」とみなされ、違反になる可能性があるでしょう。
また、イヤホンの使用の有無にかかわらず、運転中に通話のためスマートフォンを操作すると「ながら運転」となり、罰則を受ける可能性があります。
なお、ながら運転とみなされるのはスマートフォンを通話のために手で操作していた場合です。スマートフォンを音声操作したり、ハンズフリーで通話をしていた場合は、ながら運転には当てはまりません。
ながら運転の罰則は以下のとおりです。
罰則 | 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
反則金 | 適用なし(基本的に刑事罰となる) |
基礎点数 | 6点 |
罰則 | 6月以下の懲役又は10万円以下の罰金 |
反則金 | 大型車:25,000円 普通車:18,000円 二輪車:15,000円 原付車:12,000円 |
基礎点数 | 3点 |
ながらスマホについては、『ながらスマホによる事故|どんな行為が罰則の対象?被害にあったら?』の記事で詳しく解説しています。
ワイヤレスイヤホンを使っていた
運転中のイヤホン使用は、ケーブルの有無に関わらず違法です。道路交通法上の安全運転義務違反や、各都道府県の条例違反となる可能性があります。
ワイヤレスイヤホンだとケーブルがないので運転操作の邪魔にならないように感じるかもしれませんが、周囲の音が聞こえにくくなり事故のリスクが高まります。
イヤホンの形態に関係なく、運転中の使用は注意力を低下させる危険な行為です。交通事故の際、イヤホン使用が判明すると過失割合が増加する可能性もあります。安全運転のため、運転中はイヤホンの使用を控え、周囲の状況に十分注意を払いましょう。
骨伝導イヤホンを使っていた
骨伝導イヤホンの場合も、基本的に運転中の使用は交通違反になると考えた方がいいでしょう。
骨伝導イヤホンは耳をふさがないため、通常のイヤホンよりも周囲の音が聞こえやすい利点がありますが、音楽や通話に気を取られることで注意力が散漫になるリスクは依然として存在します。
埼玉県や島根県など自治体によっては、安全な運転ができないと判断できるような骨伝導イヤホンの使用を禁止しています。
イヤホンやヘッドホンには、密閉型と解放型があります。名前の印象から「密閉型は周りの音が聞こえないが、解放型は周りの音が聞こえる」という誤解がありますが、メーカーや製品によって性能は様々ですし、耳の形や聴力にも個人差がありますので一概には言えません。単純に「解放型だから大丈夫」ということにはなりません。
埼玉県道路交通法施行細則(自転車関係)について「密閉型・解放型について」
島根県では、島根県道路交通法施行細則に、車両等(自転車を含む)の運転者が守らなければならない事項のひとつとして、「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。」と規定されています。
片耳でのイヤホーン使用、骨伝導イヤホーンの使用、自転車へのスピーカー設置のいずれの場合も、前記規定に該当するような使用は禁止されています。
島根県「自転車乗車中の片耳イヤホン使用について」
安全運転を心がけるためには、運転中はいかなる種類のイヤホンも使用せず、周囲の状況に十分注意を払うことが重要です。
イヤホン使用による事故を防ぐための代替手段
スピーカーを利用する
自動車運転時
車載スピーカーを利用することで、イヤホンの代わりに音楽や通話を楽しむことができます。ハンズフリー機能付きのカーナビや、スマートフォンと連携するBluetoothスピーカーを使用すれば、安全に通話することが可能です。
ただし、音量は周囲の交通音が十分聞こえる程度に抑えることが重要です。また、運転中の操作はながら運転に該当します。停止した時に操作するか、できるだけ音声コントロールを活用しましょう。
自転車運転時
自転車にはスピーカーが搭載されていないため、携帯用のBluetoothスピーカーやスマートフォンのスピーカーなどから直接音を出す方法があります。ものによっては、スピーカー付きのサイクルヘルメットなどもあるでしょう。
ただし、いずれの場合でも音量は周囲の音が十分聞こえる程度に設定し、交通量の多い場所では使用を控えるなど、状況に応じた判断が必要です。通話に関しては、安全な場所に停止してから行うことをおすすめします。
やむを得ない使用予定があるなら運転自体を見直す
運転中のイヤホン使用が避けられない状況になると予めわかっている場合、安全のために運転自体を見直すことも検討しましょう。
あるいは、休憩スポットやサービスエリアで定期的に停車し、その間に必要な通話や音楽鑑賞を行うことも一案です。ルートを見直し、安全に停止できる場所を事前に把握しておくのもいいでしょう。
また、運転を開始する前に関係者に状況を説明しておいたり、メールやメッセージアプリといった代替的な連絡手段を提案しておくことで、運転中の通話を避けることができます。安全運転はドライバーの責任であり、事前の準備と適切な判断が重要です。
運転中のイヤホン使用による事故の被害にあったら?
(1)必ず警察に通報する
交通事故の被害にあったら、まずは現場の安全を確保し、ケガ人の救護を行いましょう。
その後、警察に必ず通報してください。警察への通報は法律上の義務となっています。
警察が現場に到着したら、実況見分が行われます。
ただし、ケガ人がすぐに治療を受けなければならない場合などは、後日実況見分が行われることもあります。
加害者が運転中にイヤホンをしていたのであれば、警察に伝えておきましょう。
交通事故の被害にあったときすべき対応や、事故相手と交換しておきたい情報については、『交通事故にあったら初期対応の手順は?』の記事でも解説しています。
(2)病院でケガを治療する
事故現場における対応が終わったら、必ず病院で医師による診察を受けましょう。
むちうちなどの症状は、あとから痛みが出てくることも多いです。
そのため、事故の直後は自覚症状がなかったとしても、すみやかに病院にかかることが大切です。
ケガの治療は、医師から「完治」または「症状固定」と判断されるまで続けましょう。
症状固定とは、これ以上ケガを続けても症状が改善しない状態のことです。症状固定と判断されたら、残った後遺症について、「後遺障害等級」の認定申請を行うことになります。
症状固定の重要性や、症状固定後に行う後遺障害認定申請方法については、関連記事『症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談』で詳しく解説しています。事故によって後遺症が残りそうな方はお役立てください。
(3)加害者側に損害賠償を請求する
ケガが完治するか、後遺障害等級の申請結果が出たら、加害者側に事故に関する損害賠償を請求します。多くの場合は、加害者側の任意保険会社との示談交渉で損害賠償金が決められます。
加害者側の任意保険会社からは、被害者にとって不利な示談内容を提示されることが少なくありません。
交通事故の示談について解説した記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点、避けるべき行動』では、示談における注意点も紹介しています。加害者側との示談で損をしないためにも、ぜひご一読ください。
【ポイント】イヤホン使用は過失割合に影響する場合あり
交通事故の加害者もしくは被害者が運転中にイヤホンをしていた場合、示談交渉で「過失割合」への影響が争点になることが多いでしょう。
過失割合とは?
交通事故が起こった責任が加害者と被害者にそれぞれどれくらいあるかを示す数値。
被害者にも過失割合がついたら、その分だけ、損害賠償金が減額される。
(関連記事:交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順)
とくに、自転車事故では運転中のイヤホン使用が過失割合に影響しやすいです。
自転車はバックミラーが装着されていないことが多いため、事故を防ぐにあたって周りの音声が重要になります。
よって、自転車の運転中にイヤホンをしていたことは、重大な過失とされる可能性があるのです。
イヤホンをしていたことが重大な過失と認められたら、イヤホンをしていた側の過失割合が5%~10%ほど増えることが多いでしょう。
実際に、運転中にイヤホンをしていたため、過失割合が変更された判例を紹介します。
以下の判例では、被害者側が自転車の運転中にイヤホンをしていたため、被害者側の過失割合が加算されました。
判例
信号機がない交差点における中型トラックと自転車の衝突事故。事故当時、自転車の運転者はイヤホンを装着していた。裁判所は、イヤホンを装着していたことにより周りの音が聞こえにくい状況であったことなどを考慮し、同様の事故では「トラック:自転車=8:2」の過失割合となるところ、「トラック:自転車=7:3」の過失割合を認めた。
(大阪地方裁判所 平成28年(ワ)第6266号 損害賠償請求事件 平成29年3月29日)
運転中のイヤホン使用に関する過失割合でもめているのなら、交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士なら、過去の判例にのっとった適切な過失割合を算定し、主張することが可能です。
また、過失割合だけでなく、適切な損害賠償金額の主張を行うための方法を知っているので、交通事故の被害者となった場合には、一度相談してみると良いでしょう。
まとめ
- 運転中のイヤホン使用は「安全運転義務違反」や「公安委員会遵守事項違反」として処罰の対象となる可能性がある
- 運転中にイヤホンを片耳で使用する、小音量で使用するなども処罰の対象となり得る
- 自転車の運転中にイヤホンを使用する場合も処罰の対象となりえる
- 運転中のイヤホン使用で事故が起こった場合、過失割合に影響する可能性がある
運転中のイヤホンの使用は、周囲の音声が聞こえなかったり、音楽に気を取られたりした結果、重大な事故につながる可能性があります。
実際に、自転車を運転中にイヤホンを使用していたことによる死亡事故も発生しています。
事故を避けるためにも、運転中はイヤホンの使用をやめ、周囲の様子に気を配りましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了