自転車の青切符・反則金はいつから?自転車の交通ルールや罰則を解説
2024年5月24日に公布された改正道路交通法により、公布日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日(2026年5月23日まで)に、自転車の交通違反に対して反則金を納付させるいわゆる「青切符」制度が導入されます。
青切符以外にも、自転車の交通違反行為が関係する交通事故が増加傾向にあることを背景に、自転車の交通ルールが改正されたり、罰則が強化されたりするなど、自転車運転の取締りは強化されています。
本記事では、道路交通法改正を踏まえた自転車の注意すべき交通ルールについて解説していきます。
目次
自転車の交通違反にも青切符(反則金制度)が導入される
青切符(反則金制度)とは?
青切符とは、交通反則通告制度において交付される交通反則告知書のことです。交通反則告知書の紙が青い色をしているため、青切符と呼ばれています。
交通反則通則制度とは、交通違反行為のうち比較的軽微なもの(反則行為)については、反則金を納付すると、罰則の適用を受けない制度のことで、一般的には「反則金制度」と呼ばれています。
反則金は罰金と違い、刑事上の罰則ではないので、反則金を納付すれば前科がつくことはありません。
赤切符とは?
交通違反をした場合に、警察官から交付される交通切符には青切符以外に赤切符もあります。
赤切符が交付されるのは比較的重い交通違反(違反点数が6点以上の違反行為)をした場合で、交通反則通則制度の適用外となり、通常の刑事手続きにより処分が決まります。
具体的には、赤切符に記載された日時・場所に出頭し、警察官や検察官の取調べを受けた後、略式起訴され、裁判所の略式命令で支払いを命じられた罰金を納付するという手続きになることが一般的です。
罰金は刑事罰なので、前科がつくことになります。
自転車にも青切符が導入される背景
自転車運転にも青切符(反則金制度)が導入されることになったのは、自転車事故の増加傾向が背景にあります。
警察庁の発表によると、交通事故の発生件数は年々減少している中、令和5年中の自転車関連事故の件数は、72,339件で前年より2,354件増加しており、自転車事故が全交通事故に占める割合も、平成29年以降増加傾向にあります。
具体的な自転車関連事故件数の推移は下記表のとおりです。
年数 | 件数 | 全交通事故に占める割合 |
---|---|---|
平成29年 | 90,407件 | 19.1% |
平成30年 | 85,641件 | 19.9% |
令和元年 | 80,473件 | 21.1% |
令和2年 | 67,673件 | 21.9% |
令和3年 | 69,694件 | 22.8% |
令和4年 | 69,985件 | 23.3% |
令和5年 | 72,339件 | 23.5% |
現在、自転車の取締りの多くは、罰則を伴わない専用の自転車指導警告カードを用いた方法で行われています。
しかし、自転車事故が増加傾向にある中で、より実効性のある取締りを行うために「青切符」の導入が必要だと判断されたのです。
青切符の導入により、自転車運転者にとっては「反則金の支払いを避けるために、危険運転をしないようになること」、取り締まりをする警察官にとっては「簡易迅速に違反処理できるため、より効率的に取り締まりできるようになること」が期待できるからです。
青切符適用の対象となるのは?
青切符の取締り対象となるのは、16歳以上の自転車運転者です。
義務教育を修了し、基本的な自転車の交通ルールに関する最低限の知識を有していると考えられることや原付き免許などを取得できる年齢であること、電動キックボードを運転できる年齢であることなどが考慮されました。
青切符の取締り対象となる交通違反行為は113種類あり、そのほとんどは自動車やバイクについても反則行為とされている違反行為ですが、歩道での通行方法違反など自転車に固有の違反行為もあります。
取締り対象となる交通違反行為の中でも、重大事故の原因となる可能性又は悪質性・危険性・迷惑性が高い違反行為は重点的に取り締まりが行われる予定です。
具体的な重点的に取り締まりが行われる予定の違反行為は以下のとおりです。
- 信号無視
- 指定場所一時不停止
- 通行区分違反(右側通行、歩道通行等)
- 通行禁止違反
- 遮断踏切立入り
- 歩道における通行方法違反
- 制動装置不良自転車運転
- 携帯電話使用等
- 公安委員会遵守事項違反(傘差し)など
なお、反則金の金額は正式には決まっておらず、施行日までに政令で定められますが、原動機付自転車と同等の金額にする方針で、5000円~1万2000円程度になることが想定されます。
自転車運転時のヘルメット着用が義務化された
ヘルメット着用は努力義務
道路交通法63条の11の改正により、2023年4月1日から全ての自転車運転者に乗車用ヘルメットの着用が義務化されています。
また、自転車に運転者以外の他人を乗車させる場合に、改正前は児童又は幼児だけがヘルメットを着用させる義務の対象でしたが、改正により当該他人の全てが着用させる義務の対象となりました。
ただし、あくまで努力義務化なので、着用していなかったとしても現時点では罰則の対象にはなるわけではありません。
努力義務化された背景
自転車運転時のヘルメット着用が努力義務化されたのは、自転車事故による被害を軽減するのが目的にあります。
警視庁の調査結果によると、令和元年から令和5年までの東京都内における自転車乗用中死者の64.9%が頭部に致命傷(頭部外傷)を負っています。
また、ヘルメットの着用状況による致死率では、着用している場合と比較して、着用していない場合の致死率は約2.7倍と高くなっています。
上記のデータから、自転車用ヘルメットを着用し、頭部への衝撃を守ることが自転車事故の被害を軽減するのに必要であると考えられるため、自転車運転時のヘルメット着用が努力義務化されたのです。
ヘルメット着用の努力義務化は過失割合に影響する?
自転車のヘルメット着用が努力義務化されたことにより、交通事故で自転車運転者がヘルメットを着用していなかったことが被害者側の過失として扱われ、過失相殺される可能性が高まったといえます。
過失相殺とは?
交通事故における過失相殺とは、被害者側にも交通事故による損害の発生やその損害の拡大に寄与するような過失があった場合に、損害賠償金全体から被害者の過失分を減額することをいいます。
この点、改正前から保護責任者にヘルメット着用させる努力義務のあった当時12歳の児童がヘルメットを着用せずに自転車を運転していたところ、自動車と交差点で出合い頭の交通事故を起こしたケースで裁判所は以下のように判示しています。
裁判例
道路交通法63条の11は…児童・幼児の保護責任者に対し、努力義務として、当該児童・幼児へのヘルメットの着用を定めているにすぎないし、本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、ヘルメットを着用していなかったことを…不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない。
(神戸地方裁判所平成31年3月27日 平成29年(ワ)第63号 保険代位による損害賠償請求事件 )
上記の裁判例からすると、裁判所の考え方は、過失の有無を判断する際に、努力義務が一般社会に定着しているかどうかを重視していると考えられます。
この点、警察庁の調べによると、全国の自転車乗車時のヘルメット着用率は2024年に17.0%と昨年より3.5%向上し、徐々に自転車乗車時のヘルメット着用の努力義務が一般社会に定着してきています。
そのため、今後はヘルメット着用が努力義務であっても、過失割合に影響してくる可能性が高くなってきたと考えられます。
また、ヘルメット着用が条例で努力義務化されていた地域で、ヘルメットを着用せずにロードバイクを運転していた際に交通事故に遭ったケースで、裁判所は以下のように判示しています。
裁判例
ヘルメットの着用についても、条例上は努力義務に留まるものの、原告が、本件事故によって実際に頭部を負傷したことを踏まえると、ヘルメットを着用していれば、被害を軽減できた可能性も否定できず、原告の過失を考慮する際の事情といえる。
(東京地方裁判所令和4年8月22日 令和2年(ワ)第70号 損害賠償請求事件 )
上記の事例のように、被害者が頭部を受傷しているケースでは、ヘルメットを着用していれば、被害を軽減できた可能性があるとして過失割合に影響しやすくなると考えられます。
自転車の酒気帯び運転に対する罰則が新設された
自転車を酒気帯び状態で運転した際の交通事故が死亡・重傷事故となる場合が高いことから、交通事故を抑止するため、2024年11月1日から、自転車を酒気帯び運転すると罰則の対象となりました。
道路交通法令上、飲酒運転には「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の2種類があります。
酒気帯び運転とは、血液1ミリリットルにつき0.3mg以上または呼気1リットルにつき0.15mg以上のアルコールが検出された状態のことを言います。
(アルコールの程度)
道路交通法施行令
第四十四条の三 法第百十七条の二の二第三号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。
一方、酒酔い運転とは、血中や呼気中のアルコール濃度にかかわらず、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態のことを言います。
道路交通法改正前、自転車の飲酒運転が処罰対象となるケースは「酒酔い運転」のみでした。しかし、2024年11月1日に施行された改正道路交通法により、「酒気帯び運転」についても罰則に追加され処罰対象となりました。
具体的には、自転車を酒気帯び運転すると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。
また、自転車の飲酒運転をするおそれがある者に酒類を提供したり、自転車を提供したりした場合も、酒気帯び運転を幇助したとして罰則の対象となります。
なお、改正前から罰則の対象となっている自転車の酒酔い運転をすると、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される可能性があります。
飲酒運転についてより詳しく知りたい方は、『飲酒運転の法律知識|飲酒運転の範囲、違反時の罰則は?防止策も紹介』の記事をご参考ください。
自転車のながら運転の罰則が強化された
自転車運転中にスマートフォンなどを使用する「ながら運転」(「ながらスマホ」)による交通事故が増加傾向にあることから、交通事故を抑止するために、2024年11月1日から、自転車のながら運転が道路交通法により直接禁止され、罰則が強化されました。
2024年10月31日までは、ながら運転を禁止する道路交通法71条第5の5号の規制対象に自転車は含まれておらず、公安委員会遵守事項違反(道路交通法71条6号違反)として、罰則は5万円以下の罰金でした。
しかし、自転車のながら運転が後を絶たないため、道路交通法改正が行われ、道路交通法第71条5の5号の規定が「自動車、原動機付自転車又は自転車を運転する場合」と改正され、自転車運転中も規制対象に加わりました。
そのため、上記改正道路交通法の施行日である令和6年(2024年)11月1日からは自転車のながら運転をした場合、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金(交通の危険を生じさせた場合は1年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に罰則が強化されます。
具体的にながら運転に該当するのは以下のような行為です。
ながら運転に当てはまる行為
- 自転車運転中にスマホで通話する
- 自転車運転中にスマホに表示された画面を注視する
なお、ハンズフリー装置を利用した通話は規制の対象外ですが、イヤホンをしながらの自転車運転は、公安委員会遵守事項違反(道路交通法71条6号違反)としての罰則の対象になる可能性があるので注意が必要です。
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危険な違反行為を繰り返すと自転車運転者講習の対象に
自転車運転講習とは?
自転車の交通ルール遵守を徹底するため、自転車の運転について違反行為を繰り返す者に対して、都道府県公安委員会が講習の受講を命じる自転車運転者講習制度が平成27年6月1日から施行されています。
具体的には、交通の危険を生じさせるおそれのある一定の違反行為(自転車危険行為)について3年以内に2回以上検挙された違反者が対象となります。
命令を無視し、自転車運転者講習を受けなかった場合は、5万円以下の罰金が科されます。
対象となる違反行為に酒気帯び運転とながら運転が追加された
自転車運転者講習の対象となる違反行為(自転車危険行為)は以下の16種類です。
- 信号無視
- 通行禁止違反
- 歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反)
- 通行区分違反
- 路側帯通行時の歩行者の通行妨害
- 遮断踏切立入り
- 交差点安全進行義務違反等
- 交差点優先車妨害
- 環状交差点安全進行義務違反等
- 指定場所一時不停止等
- 歩道通行時の通行方法違反
- 制動装置(ブレーキ)不良自転車運転
- 酒酔い運転、酒気帯び運転
- 安全運転義務違反
- ながら運転
- 妨害運転
上記のとおり、2024年11月1日からは酒気帯び運転とながら運転も自転車運転者講習の対象となる違反行為(自転車危険行為)に追加されています。
自転車安全利用五則が改訂された
自転車安全利用五則とは?
自転車安全利用五則とは、警察庁が発表している自転車の交通ルールの広報啓発に用いられる5つの重要な交通ルールのことです。
この自転車安全利用五則が、2022年11月1日、15年ぶりに改訂されました。
改訂された自転車安全利用五則の内容は以下のとおりです。
- 車道が原則、左側を通行
歩道は例外、歩行者を優先 - 交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
- 夜間はライトを点灯
- 飲酒運転は禁止
- ヘルメットを着用
上記のうち、本記事でまだ触れていない1~3の交通ルールについて解説していきます。
自転車の右側走行は禁止
道路交通法上、自転車は軽車両と位置づけられており、自転車は原則自動車やバイクと同じ交通ルールに従う必要があります。
そのため、自転車は原則として車道の左側部分を走行しなければいけません。
右側走行は逆走となり、3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます。
また、自転車が歩道を走行できるのは例外的な場合に限られ、走行できる場合でも車道寄りを走行し、歩行者を優先させる必要があります。
徐行せずに歩道を走行したり、一時停止をせずに歩行者の通行の妨げとなったりした場合、2万円以下の罰金又は科料が科されます。
自転車の右側走行は過失割合の修正要素
なお、自転車が右側走行をしていた際に自動車と交通事故に遭った場合、自転車側の過失割合が大きくなる可能性があります。
具体的には、右側走行は、自転車の著しい過失として、自転車側の過失が5%~10%加算される過失割合の修正要素となります。
もっとも、自転車の右側走行が全て著しい過失として過失割合の修正要素になるわけではなく、著しい過失として考慮されるのは事故の相手方から見て自転車が左方から交差点に進入しているケースです。
事故の相手方から見て自転車が左方から交差点に進入している場合、自転車が右側走行をしていると、自転車を容易に認識できなく(認識が直前と)なり、事故を起こりやすくさせたといえるからです。
自転車同士の衝突事故で右側走行していたケースの過失割合
また、自転車の右側走行(逆走)は、自転車同士の正面衝突事故でも過失割合の修正要素となります。
具体的には、右側走行は、左側通行義務違反として、違反車側の過失が10%~20%加算される過失割合の修正要素となります。
実際、夜間、前照灯を点灯させて走行していた自転車と無灯火で右側走行していた自転車とが正面衝突をしたケースで、裁判所は双方に前方不注意の過失があるとした上で、以下のように判示しています。
裁判例
「被告は、本件事故の時刻及び現場の状況にかんがみ、前照灯を点灯して進行すべき義務があるところ、これを怠った過失がある。また、被告は、本件車道の進路方向に向かって右側部分を走行したものである。…右側を通行する以上は、より一層進路前方の状況に注意を払い…事故回避に努めるべきである。ところが、被告はかかる事故回避措置を怠ったと認められる。以上、双方の過失を対比すると、過失割合は原告が三、被告が七の関係にあると評価することができる。」
(岡山地方裁判所平成25年3月21日 平成24年(ワ)第689号 損害賠償請求事件 )
自転車同士が正面衝突をした事故の基本過失割合は5:5ですが、上記のケースでは、被告に右側走行と無灯火という修正要素があったため、原告と被告の過失割合が3:7になりました。
信号無視をせず、交差点では一時停止
自転車は、道路を走行する際は、信号機に従わなければいけません。
自転車は車両なので、車道を走っているときは車と同じ信号に従うのが原則ですが、歩道を走っている場合は歩行者用の信号に従わなければならないので注意が必要です。
車道を走行している際、歩行者用の信号が青だからといって車用の信号が赤なのに交差点を渡った場合は「信号無視」ということになります。
また、一時停止の標識がある場合は、車と同じように停止線の直前で一時停止して、左右の安全を確認した上で走行しなければなりません。
信号無視や一時不停止をした場合、3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます。
夜間は必ずライトを点灯する
夜間に無灯火の状態で自転車を運転すると、周囲から自転車の存在を認識してもらいにくくなり、事故に遭う危険性が高まります。
安全のためにも、夜間は必ずライトを点灯する必要があります。
夜間の無灯火は道路交通法52条違反となり、罰則は5万円以下の罰金です。
本記事で解説したとおり、自転車の交通ルールは近年改正されているものが多く、しっかりと把握しておかないと、知らず知らずのうちに交通違反で取り締まりを受ける可能性があります。
自転車を運転する際には、交通事故に遭わないようにするためにも、しっかり交通ルールを守るという意識をもって運転しましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了