ホワイトアウトと事故の過失割合。視界不良は影響?多重事故なら?示談金相場も解説
更新日:
ホワイトアウト現象による視界不良が原因となって、交通事故が起こってしまうことがあります。
天候は致し方ない部分もあるとはいえ、その事故の責任はどの程度、どちらが負うことになるのかは当事者にとって大切なポイントです。
この記事では、ホワイトアウト事故の特徴と過失割合、事故被害別の示談金相場について解説しています。地吹雪によって起こった交通事故の裁判例も紹介しているので、参考にしてみてください。
この記事であつかう過失割合は「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に記載されている情報をベースとしています。とくにホワイトアウトという悪天候下では、過失割合は状況次第となるため、参考程度にお読みください。
目次
ホワイトアウト事故に注意すべき時間帯と特徴
ホワイトアウトの意味と発生する時間帯
ホワイトアウトは、雪で視界が真っ白になり、前方および周囲の状況が視認できなくなる現象です。
吹雪いている場合はもちろん、風速が毎秒5mを超えると地面の雪が舞い上がり、光の反射や散乱によって生じることから、晴れた日中や、太陽が視界を遮りやすい朝方や夕方の地吹雪でも発生するリスクがあります。
ホワイトアウトが発生した場合は、可能な限り運転をやめ、路肩に停車して非常灯を点灯させることが大事です。
停車させる場合には、まず減速をして徐行し、ゆっくりと停車させましょう。急な停車は後続車との追突事故を誘発しかねません。
また歩行中であれば風にあおられないようにゆっくりと慎重に歩くほか、自分の姿が周りからは視認されづらいことを認識して、道路から十分距離をとり、できれば屋内に退避しましょう。
ホワイトアウト事故は多重事故になりやすい
ホワイトアウト事故は、二つ以上の事故が続けて発生する多重事故につながりやすいです。
ホワイトアウトにより複数の運転手が視界不良の状態になります。そのため、他の車両や歩行者の動きが把握できず、同時多発的に事故が起こることが考えられるでしょう。
あるいは、すでに事故で停止している車両が視認できず、事故現場へとそのまま突っ込んでしまうこともあるのです。
このようにして、複数の追突事故が起こったり、事故車両にさらに突っ込んでしまったりと多重事故が発生しやすいのです。
雪道はスリップしやすい
また、路面が濡れていたり、凍結したりと悪い状態では、制動距離が伸びやすくなってスリップ事故が多発してしまいます。こうしたスリップ事故も、雪道では注意が必要です。
関連記事『雪道でスリップ事故。過失割合に積雪状況は影響する?事故防止策もわかる』では、雪道でスリップしてしまった場合の過失割合や、事故発生後の対応についても解説しています。あわせてお読みください。
ホワイトアウト事故の過失割合|パターン別解説と多重事故のリスク
停止中に後ろから衝突される追突事故の過失割合
停止中に後ろから追突された場合の過失割合は100:0となり、追突車にすべての過失がつきます。
しかし、ホワイトアウトでよく前が見えなかった状況が「視認不良」と判断されれば、追突した側の車両は停止車両を発見できなかったものとして、過失割合が10%減る可能性があります。
一方で、ホワイトアウトによって前方で既に交通事故が起こっていて停車している場合、追突された側は行き場もなく、仕方なく停車していたと考えられるでしょう。
その場合は、退避不能であった追突された車両の過失割合が10%減る可能性もあります。
修正要素 | 修正 |
---|---|
Bの退避不能 | +10 |
Aが15km以上の速度違反 | +10 |
Aが30km以上の速度違反 | +20 |
Aに著しい過失 | +10 |
Aに重過失 | +20 |
視認不良 | -10 |
駐停車禁止場所 | -10 |
Bの非常灯点滅など不灯火 | -10~20 |
Bの駐車方法不適切 | -10~20 |
Bに著しい過失 | -10 |
Bに重過失 | -20 |
交通事故の過失割合は、まず事故態様別の基本の過失割合が参照されます。
そして、基本の過失割合に対して個別の事情を反映させていき、過失割合は決まるのです。個別の事情を修正要素といい、個々の事故に合わせて反映させなくてはなりません。
もっともホワイトアウトという気象下では、どの程度まで修正要素を反映させるかは慎重な判断が求められます。上表の修正要素は参考程度にとどめておいてください。
順番に追突事故が起こった事故の過失割合
ホワイトアウトにより前方が良く見えず、追突事故が複数起こってしまうことも考えられます。多重事故のひとつで、順次追突事故が起こっていることから、順突事故ともいわれているものです。
たとえばA車にB車が追突した後、C車がB車に追突したというようなイメージしてみてください。
この場合、A車とB車の間の追突事故で1件、B車とC車の間の追突事故でもう1件と別々に考えて、2つの追突事故として扱われます。それぞれ追突した側が100%の過失を負うことになるでしょう。
もっとも急ブレーキや急ハンドルなどの操作ミスがあったり、速度超過があったりすると過失割合は変動する可能性があります。
過失割合の関連記事
玉突き事故の過失割合
玉突き事故の場合は、事故発生の原因によって基本の過失割合が異なります。
たとえば、C車がB車に追突をしてしまい、その衝撃でB車が前に押し出されてA車に追突してしまう玉突き事故では、そもそもの事故原因であるC車にすべての過失があると考えられています。
しかし、B車が急ブレーキを踏んだり、運転ミスをしたりしてC車が追突してしまった場合には、全面的にC車が悪いとは言えないでしょう。
ホワイトアウトによる多重事故は過失割合が決まりにくい
ホワイトアウト現象下の事故は、最初の事故の原因は何だったのか、どの自動車を起点になっているのかを調査するところからスタートです。
とくに、複数の車両が関連する多重事故の過失割合の確定には時間がかかります。過失割合が決まらない以上、損害賠償金の受けとりにも時間がかかる傾向です。
治療費や休業損害の請求についてお困りのことがあれば、弁護士の法律相談を活用してみてください。
交通事故の中でも過失割合が争われやすい玉突き事故については、関連記事『玉突き事故の過失割合や損害賠償責任を負う人は?』でより詳しく解説しているので参考にしてみてください。
ホワイトアウトが原因となった交通事故の裁判例
地吹雪で歩行者が見えなかったとして自動車の過失減
この交通事故は、橋の上の国道を自動車が走行していたところ、歩行者と衝突した事故です。歩行者には後遺障害併合12級相当の後遺症が残ってしまう、大きな事故でした。
事故当時は地吹雪により一瞬前方が見えなくなっており、歩行者の発見が困難であったことを指摘したのです。
また、他にも歩行者はいたものの、当該歩行者のみが道路のほぼ中央地点まで風で押されて進入してしまったことから、歩行者が無過失とは言えないとしました。
こうして歩行者側にも25%の過失がつき、自動車75:歩行者25と認定されたのです。(大津地方裁判所平成28年5月19日判決)
ホワイトアウトによる事故で請求すべき示談金
ケガが完治した場合の示談金内訳
交通事故のケガが幸いにも完治した場合には、治療中に生じた損害として、治療費、休業損害、通院交通費などを請求していきましょう。
損害費目 | 概要 |
---|---|
治療費 | ケガの治療費用。投薬代や手術費用も含む。 |
休業損害 | ケガの通院治療のために働けず、減収したことへの補償。 |
通院交通費 | 通院治療のための交通費。 |
入通院慰謝料 | ケガの治療期間に負った精神的苦痛を緩和する金銭。 |
休業損害については、基本的に事故前3ヶ月の給与を元に日額を算出します。その日額を、休業日数分だけ受けとれるのです。
サラリーマンはもちろん、自営業、主婦、アルバイトをしている学生なども請求可能ですが、被害者の立場や職業によって請求に必要な書類が異なります。
関連記事『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方』も参考にして、適正額の休業損害を請求していきましょう。
入通院慰謝料について
入通院慰謝料は、ケガの程度や治療期間に応じて計算します。
打撲や挫創、むちうちは比較的軽度のケガとされているので、「軽傷・むちうちの慰謝料算定表」を用いて計算します。
いずれの算定表も、入院月数と通院月数の重なる部分を慰謝料額の相場としています。
たとえば、手首を骨折した場合には「重傷の慰謝料算定表」を使ってください。入院なし・通院6ヶ月のとき、慰謝料相場は116万円です。
一方でむちうちの場合には「軽傷の慰謝料算定表」を用います。入院なし・通院6ヶ月のとき、むちうちの慰謝料相場は89万円です。
もし入院期間や通院期間に端数がある場合は、端数の生じた月を日割計算します。少々複雑な計算式になるので、以下の慰謝料計算機で自動計算してみてください。
後遺症が残った場合の示談金内訳
後遺症が残った場合には後遺障害認定の申請手続きを始めましょう。
後遺障害認定を受けられれば、ケガの部分の損害費目とは別に、後遺症が残ったことへの慰謝料として後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料は後遺障害等級ごとの相場があり、110万円から2,800万円です。
等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800万円 |
2級・要介護 | 2,370万円 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
ただしこの表の相場額は、裁判所や弁護士が後遺障害慰謝料の損害額として考えている金額です。相手の保険会社はもっと低水準の金額を提案してくるので、すぐに受け入れるべきではありません。
示談交渉によって増額を目指していきましょう。
後遺障害逸失利益の請求
また、後遺障害によって労働能力が下がり、将来的な減収が生じた分の補てんとして、逸失利益も請求可能です。
逸失利益を計算するには、被害者の事故前年収、症状固定時の年齢、後遺障害等級などの複数の要素が関連します。
複雑な計算式は関連記事『交通事故の逸失利益とは?計算方法を解説!早見表・計算機で相場も確認』で説明していますが、不明点があれば弁護士に見積もってもらいましょう。
後遺障害認定の基本がわかる関連記事『交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方』もあわせてお読みください。
死亡してしまった場合の示談金内訳
交通事故でご家族が死亡してしまった場合、遺族が損害賠償請求を担うことになります。
死亡事故の主な示談金内訳は、死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用に大別されるので、それぞれについてみていきましょう。
死亡慰謝料について
死亡慰謝料の相場は2,000万円~2,800万円です。
ただし悪質な運転や遺族への態度がきわめてひどく、反省の態度がみられないといった背景があれば、相場よりも高額な慰謝料が認められる可能性があるでしょう。
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他の場合 | 2,000万円~2,500万円 |
死亡逸失利益について
また、死亡しなければ働いて得られたはずの生涯賃金の補てんとして死亡逸失利益も請求していきましょう。事故前の年収を示す資料などをもとに請求していくことになります。
相手方の任意保険会社は死亡逸失利益と死亡慰謝料を一括して提示し、さも高額であるかのように見せてくる場合もあるでしょう。
死亡事故という痛ましい事故のあとでは、示談交渉に臨むことすらつらいことです。一度弁護士の無料相談を活用して、示談交渉を任せられる弁護士がいないか探してみることをおすすめします。
葬儀費用について
交通事故で無くなられた場合の葬儀費用の相場は、150万円程度を上限として実費請求が認められる見通しです。
ただし、加害者側との交渉によっては低い金額しか支払ってもらえない場合もあるほか、香典返し、引き出物代、ご遺体の運送料、通夜・葬儀以外の法要に関する費用などは、請求できない可能性が高いとされています。
弁護士基準での示談金獲得を目指そう
交通事故の示談金には、どの計算基準を用いるかで金額が異なるという性質があります。
交通事故の被害者が最低限受け取れる金額を自賠責基準といいます。事故相手の任意保険会社は自賠責基準か、自社基準である任意保険基準で、示談金を計算しているのです。
しかし、本来は裁判所などで認められる「弁護士基準」の示談金を受け取るべきでしょう。そのため、裁判を起こす前の示談段階から、弁護士基準での示談金水準に近づけることが目標となります。
弁護士基準での請求は、被害者お一人で主張してもなかなか受け入れてもらえません。のらりくらりとかわされたり、「弊社基準ではこれが限界です」などと言われたりして、取り合ってもらえないという話も耳にします。
弁護士が示談の場に立つことで「示談がうまくいかなければ裁判で請求する」という意思表示にもなり、相手方の保険会社の態度も変わる可能性が高まるでしょう。
視界不良の中で発生した事故は弁護士に相談しよう
アトム法律事務所では、交通事故でケガをしてしまった方からの法律相談を無料で受け付けております。
- 悪天候のなかで追突されてしまった。ケガへの適正な慰謝料が欲しい。
- 相手の保険会社が言ってくる金額に不満がある。
- 過失割合について、弁護士の見解を聞いてみたい。
このように、適正な慰謝料の金額や過失割合の見通しなどについての相談も受け付けております。
もっとも、示談金額や過失割合については事故状況しだいになるので、あくまで見通しにとどまったり、回答できる範囲が限られたりする点をご了承ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了