交通事故がトラウマに…PTSDやフラッシュバックの後遺障害を解説

交通事故でPTSDを発症し、精神的な症状に悩まれている方へ。
交通事故でPTSDを発症した方の多くが、「どんな症状が出るのか」「後遺障害認定はされるのか」「慰謝料はいくらもらえるのか」といった不安を抱えています。
本記事では、交通事故によるPTSDの症状や治療方法、後遺障害認定の基準、慰謝料の相場などについて、弁護士の観点から詳しく解説します。
事故後のPTSDで悩まれている方は、一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
目次

交通事故によるPTSDの症状
PTSDとは?
PTSD(PostTraumatic Stress Disorder)とは、日本語で心的外傷後ストレス障害という意味です。
トラウマになる衝撃的な出来事(外傷的出来事)に直面した精神的ストレス(ショック)によって生じる、日常生活に支障をきたす精神疾患を、PTSDといいます。
トラウマ、フラッシュバックとは違う?
トラウマは強烈な恐怖体験により心的外傷体験を負うことで、PTSDの原因の一つです。
一方でフラッシュバックは、PTSDの代表的な症状の一つです。
実務上は、PTSDが認定されるために「トラウマが残るような強烈な事故状況」「具体的なフラッシュバックの症状」双方が必要とされます。
交通事故はPTSDの原因になる
PTSDは、以下のような場合に発症しやすいといわれています。
- 事故時に生命の危機を感じる恐怖体験を認知する
- 事故直後に侵入症状や回避行動が強くみられる
- 急性期に麻痺、離人症、現実感消失などの解離症状がある
交通事故の場合は、追突事故より正面衝突の方が、発症をしやすい傾向にあると言われています。
正面衝突の方が、事故時に生命の危機を感じる恐怖体験を認知しやすいためです。
交通事故でPTSDになった場合の症状例
交通事故によるPTSDについて、より具体的な症状は以下の通りです。
- 交通事故の記憶がフラッシュバックして強い不安感や恐怖感を感じる
- 救急車のサイレンを聞くなど、事故を思い出すものに触れると動悸がする
- 事故に遭う悪夢を何度もみてしまう
- ささいなことで不機嫌になったり、怒りを爆発させたりするようになる
- ささいなことで過剰に驚きやすくなり、極端に警戒心が強くなる
- 睡眠障害
- 集中力の低下(集中困難)
- 感情や感覚の麻痺
身体的な異常がないにもかかわらず、以上のような症状が1ヶ月以上続く場合は、PTSDである可能性が高いです。時間経過により自然回復することも多いですが、症状を感じたらすぐ治療を受けましょう。
交通事故でPTSDになった場合の治療
事故後にPTSDの疑いがあるなら精神科に通院
交通事故後、不安な気持ちが続くようであれば、早めに診療を受けましょう。
PTSDなどの非器質性精神障害の治療は、精神科や心療内科などの医療機関を受診します。
診療を受けた際は、「事故にあってから症状が出始めた」「事故に関係するようなこういうフラッシュバックがいつ起きた」などと具体的に伝えることが重要です。
非器質性の精神障害は後遺障害として認められづらいため、専門医による精神医学的治療と診断書の記載が重要になってきますので、症状は細かに伝えるようにしましょう。
PTSDの具体的な治療方法
交通事故によるPTSDの具体的な治療方法としては、以下のようなものがあります。
- 持続エクスポージャー療法
- EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
- 精神療法(心理療法)
- グループ療法
- 対症療法(抗うつ薬・抗不安薬を用いる薬物療法など) など
ただし、治療方法は、患者の症状や状態によってカスタマイズされるものです。
交通事故でPTSDなどの非器質性精神障害を発症した場合は、お一人で悩まず、専門医に相談して適切な治療を受けてください。
適切な治療を受けることで、症状を改善させ、日常生活を送れるようになることが期待できるでしょう。
交通事故によるPTSDの後遺障害認定
後遺障害認定とは?
後遺障害認定とは、症状固定(治療を尽くしても、回復の見込みが無い状態)をむかえた症状について、等級を認定する手続きのことです。
後遺障害認定を受けることができれば、逸失利益と後遺障害慰謝料の賠償請求ができるようになります。

後遺障害認定は、自賠責保険の保険料率算出機構がおこないます。
後遺障害の内容や症状の程度に応じて、1級から14級が認定されます。数字が小さくなればなるほど、賠償金額は高くなります。
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PTSDは後遺障害に認められにくい?
前提として、PTSDがあるから後遺障害何級、という決まりはありません。
PTSDの症状により、仕事や日常生活への影響がどのくらいあるかによって、後遺障害が決定します。
そしてPTSD症状での後遺障害認定は、難しいのが現実です。
一方でPTSD症状を否定しつつも実際に支障が出ているとして一定の後遺障害等級を認めたり、それだけ事故態様がひどいものだったとして慰謝料を増額している裁判例も多くあります。
PTSDの後遺障害等級は?
交通事故によるPTSDについて、後遺障害等級が認定される場合、以下のような等級になる可能性があります。
非器質性精神障害の後遺障害等級
等級 | 内容 |
---|---|
9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当程度に制限されているもの |
12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少障害を残すもの |
14級9号 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの |
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PTSDの後遺障害等級の認定基準は?
具体的には、以下のような基準が用いられ、等級認定がおこなわれます。
PTSDの後遺障害認定基準
- 以下の精神症状のうち、1つ以上の精神症状を有している
かつ - 以下の能力に関する判断項目のうち、1つ以上の能力に障害が認められる
精神症状 | 1.抑うつ状態 2.不安の状態 3.意欲低下の状態 4.慢性化した幻覚・妄想性の状態 5.記憶又は知的能力の障害 6.その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴等) |
能力に関する判断項目 | 1.身辺日常生活 2.仕事・生活に積極性・関心を持つこと 3.通勤・勤務時間の遵守 4.普通に作業を持続すること 5.他人との意思伝達 6.対人関係・協調性 7.身辺の安全保持、危機の回避 8.困難・失敗への対応 |
精神症状の内容
精神症状の内容について一つずつ見ていきます。
1.抑うつ状態
持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的であるなど)、何をするのもおっくうになる(おっくう感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態をいいます。
2.不安の状態
全般的不安や恐怖、心気症、脅迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態をいいます。
3.意欲低下の状態
すべてのことに対して関心が湧かず、自発性に乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない、口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態をいいます。
4.慢性化した幻覚・妄想性の状態
自分に対する噂や悪口、命令が聞こえるなど実際には存在しないものを知覚体験する(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っているなど確信が異常に強く、訂正不可能な妄想を持続的に示す状態をいいます。
5.記憶又は知的能力の障害
非器質性の記憶障害としては、自分が誰であり、生活史の全部または一部を思い出せない状態(解離性(心因性)健忘)を、非器質性の知的能力の障害としては、自分の名前や年齢を答えられない、1+1=3のように的外れの回答をするような状態(ガンザー症候群、仮性認知症)をいいます。
6.その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴等)
1~5に分類できない多動(落ち着きの無さ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状やだるい、眠れないなどの状態をいいます。
能力に関する判断項目を評価する際のポイント
能力に関する判断項目について一つずつ見ていきます。
1.身辺日常生活
入浴・更衣など清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかなどが判定のポイントです。なお、特筆すべき事項がある場合は、食事・入浴・更衣以外の動作についても加味して判定が行われます。
2.仕事・生活に積極性・関心を持つこと
仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽など日常生活に対する意欲や関心があるか否かが判定のポイントです。
3.通勤・勤務時間の遵守
規則的な通勤や出勤時間など約束時間の遵守が可能かどうかが判定のポイントです。
4.普通に作業を持続すること
就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかなどが判定のポイントです。
5.他人との意思伝達
職場の上司や同僚に対して発言を自主的にできるかなど他人とのコミュニケーションが適切にできるかが判定のポイントです。
6.対人関係・協調性
職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかなどが判定のポイントです。
7.身辺の安全保持、危機の回避
職場における危険から適切に身を守れるかどうかが判定のポイントです。
8.困難・失敗への対応
職場で新たな業務上のストレスを受けたときにどの程度適切に対応できるか(極度に緊張したり、混乱したりすることなく対処できるか)などが判定のポイントです。
具体的に何級に該当するのかについては、非器質性精神障害の認定基準である「精神症状」と「能力に関する判断項目」の組み合わせで判断されます。
非器質性精神障害の9級
就労意欲 | 能力低下 |
---|---|
ある | 能力に関する判断項目の2.~8.のうち一つを喪失 能力に関する判断項目のうち4つ以上で、しばしば助言・援助が必要 |
ない | 能力に関する判断項目の1.について、時に助言・援助が必要 |
非器質性精神障害の12級
就労意欲 | 能力低下 |
---|---|
ある | 能力に関する判断項目のうち4つ以上で、時に助言・援助が必要 |
ない | 能力に関する判断項目の1.について、適切または概ねできる |
非器質性精神障害の14級
就労意欲 | 能力低下 |
---|---|
ある | 能力に関する判断項目のうち一つ以上で、時に助言・援助が必要 |
PTSDの後遺障害慰謝料の相場金額
PTSDについて後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料は、等級に応じて、以下のような金額が相場となります。
後遺障害慰謝料(抜粋)
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
9級 | 249万円 | 690万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
自賠責基準とは、自賠責保険から支払われる保険金の金額です。
弁護士基準とは、裁判になった場合に、事故相手に請求できる法的正当性のある賠償金額のことです。
PTSDの後遺障害逸失利益の相場金額
PTSDについて後遺障害等級が認定された場合、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数」で計算される後遺障害逸失利益も請求できます。
なお、PTSD症状での認定の場合、「労働能力喪失期間」については9級や12級の場合で10年程度、14級で3~5年程度と低く計算されることが多くなっています。
これはPTSD症状について、比較的短期で回復する見込みがあると考えられているためです。
交通事故によるPTSD・後遺障害でよくある質問
Q.事故相手がPTSDを否定してきたらどうすればいい?
事故相手がPTSD症状について否定してきた場合、被害者側としては以下のような主張立証を行っていく必要があります。
被害者側の主張立証
- 事故が被害者の心身に与えた衝撃が強烈なものであること
- そのような衝撃により、PTSDが発症するのも当然と言えること
- 事故以前はPTSDの症状が無かったこと
- 事故以外にPTSDが発症するような原因が無かったこと
- 具体的にPTSDの症状が出ていること
これらの主張には、医師の診断書、意見書など、医学的な見地からの主張立証が重要です。また、被害者自身の供述も医学的証拠と合致した、筋の通ったものでなければなりません。
被害者がこれらの証拠を集めるのは困難ですので、可能であれば弁護士に相談しましょう。
Q.交通事故で元からの精神疾患が悪化した場合も、後遺障害は認定される?
交通事故の被害者の方には、交通事故に遭う前から、何らかの精神症状をお持ちの方もおられます。
そのような場合でも、交通事故によりうつ病などの精神疾患が悪化した結果、上記の後遺障害認定基準を満たしていれば、後遺障害等級は認定されます。
ただし、この場合、「加重ルール」が適用されます。
「加重ルール」とは、交通事故前の精神疾患の症状が、既に後遺障害等級認定基準を満たしていた場合、もともとあった障害分の慰謝料が減額されるというルールです。
例えば、事故前から後遺障害14級相当の精神疾患があった方が、事故によって後遺障害12級相当の精神疾患になったと認定されたとします。
この場合の弁護士基準の後遺障害慰謝料の相場は、290万円(12級)-110万円(14級)=180万円となります。
Q.PTSDで素因減額されるってどういうこと?
交通事故によるPTSDでは、事故相手から素因減額を主張されることが多いです。
素因減額とは、被害者の心因的・精神的な要素が寄与して、損害が拡大した場合に、公平の観点から、賠償額が減額されるというものです。
つまり、被害者の生活や傷つきやすい性格などで治療が長引いたり、PTSDの遠因になったと思われる分を、損害から差し引くという考え方です。
被害者としては、医師の意見書などを提出して対抗していく必要があります。
交通事故によるPTSD・後遺障害に関する裁判例
こちらでは、交通事故によるPTSDが争点になった裁判例をご紹介します。
PTSDにより後遺障害11級相当が認定された裁判例
京都地判平成23・4・15(平成20年(ワ)第1993号)
原付自転車にのっていた原告がセンターラインを越えてきた対向自動車と正面衝突し、かつその衝撃で後ろから来ていた自動車にも挟まれるように衝突した。
裁判所の判断
「…原告は本件事故を原因とするトラウマに関連するPTSDに罹患しており、これに関連する損害は本件請求による賠償の対象とすべき」
京都地判平成23・4・15(平成20年(ワ)第1993号)
- PTSDによりフラッシュバック、不眠の症状が出ていた
- 事故状況はまさに生命の危機に直面する体験
- 原告がPTSDに罹患していることは、一般的な診断基準にしたがって、複数の医師が関与して診断されている
- 等級として9級は重すぎ、12級では軽すぎとして11級相当として認定
損害賠償額
2445万5283円
PTSDは否定されたが後遺障害14級9号に認定された裁判例
東京高判平成26・7・3(平成26年(ネ)第196号)
横断歩道を渡っていた被控訴人が、右折しようとする控訴人運転の車両に衝突され、捻挫や打撲の症状を負った。
裁判所の判断
「…同人の症状がPTSDの診断基準を満たすものと解することは困難であるといわざるを得ない。」
東京高判平成26・7・3(平成26年(ネ)第196号)
- ケガの内容などを鑑みると、事故状況は生命の危険があるような強烈なものとは言い難い
- 過覚醒、フラッシュバックの具体的な体験に関する主張がない
- 無意識の回避症状がない
- 等級としては14級9号に該当する非器質性精神障害と認定
損害賠償額
229万745円
PTSDと事故の因果関係が否定された裁判例
横浜判平成28・3・31(平成26年(ワ)第1065号)
原告がバイクで走行中、右折してきた乗用車と衝突し、頸椎捻挫・打撲などを負った。
裁判所の判断
「…原告は、本件事故により、PTSD等の精神障害を受傷したものとは認められず…」
横浜判平成28・3・31(平成26年(ワ)第1065号)
- ケガの内容が軽く、強烈なトラウマ体験とは認められない
- 原告が事故後も頻繁に運転しており、フラッシュバック症状に関する供述が信用できない
- 事故を想起させるバイクの運転を避けていたわけではない
損害賠償額
18万9925円
交通事故とPTSDの因果関係は、実務上、争点になりやすいです。
効果的な主張をおこなうためには、早期の対策が必須となります。
PTSDをはじめとする精神症状でお悩みの方は、お早目に弁護士までご相談ください。
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- 全国の交通事故に対応可能
- 交通事故の後遺障害申請や賠償問題に精通した弁護士が在籍
交通事故でPTSDを発症し、後遺障害も含め示談交渉でお悩みの方は、アトム法律事務所まで是非一度ご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了