自転車事故の示談交渉|後悔しないための正しい進め方と注意点

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自転車事故の示談は、車の事故とは異なる点が多いため、正しい知識がないと重大なトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。

この記事では自転車同士の事故、歩行者が自転車に轢かれた事故について、「自転車事故の示談をどう進めるべきか?」という疑問を抱える被害者の方に向けて、示談の流れや注意点、過失割合、示談交渉のコツ、保険や訴訟との関係まで、わかりやすく解説します。

また、自動車と衝突した自転車の方については、以下の関連記事をご参照ください。
関連記事:車と自転車の事故|過失割合と慰謝料相場は?おかしいと思ったら要確認

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自転車事故の示談とは?車の事故とここが違う

自転車事故の示談の特徴

「示談」とは、事故の当事者同士が損害賠償額や責任の分担について話し合い、裁判などを使わずに合意に至ることを指します。

自転車事故の示談には、以下のような特徴があります。

自転車事故の示談の特徴

  • 被害者の体を守るものが無いので、損害賠償額が意外と高額になりやすい
  • 事故相手が保険に未加入なことが多く、示談が難航しやすい
  • ドライブレコーダーがなく、過失割合の判断が難しい
  • 後遺障害の認定が難しい

結果的に、自動車事故と比べると自転車事故では示談交渉がもめやすい、ということになります。

自転車事故で高額な損害賠償請求が認められた判決

実際に、自転車事故で高額な損害賠償額がみとめられた例を見てみましょう。

自転車事故で高額な賠償金が認められた裁判例

神戸地判平25・7・4(平成23年(ワ)2572号)

小学生が運転する自転車が坂道を下っていたところ、歩行者と正面衝突した。


裁判所の判断

「…本件事故は、Fが…衝突直前に至るまで原告Aに気付かなかったことによって発生したものと認めるのが相当である…」

神戸地判平25・7・4(平成23年(ワ)2572号)
  • 被害者は意識が戻らず、常時介護が必要な状態となった。
  • 被害者に過失は認められなかった。
  • 小学生の親権者であった母親に対する高額な損害賠償請求が認められた。
損害賠償額

9520万7082円

利用できる自転車保険・個人賠償責任保険の確認が重要

自転車事故の示談の流れを確認するためにも、まずは事故相手が保険に入っているかの確認が重要です。

自転車事故では、事故相手が加入している次のような保険が利用できる可能性があります。

  • 自転車保険(個人型・家族型)
  • 個人賠償責任保険(火災保険や自動車保険に付帯することが多い)
  • 学校やPTAが提供する保険(子どもが加害者の場合)

もし事故相手が保険に加入していて、その保険が使えるならば、示談交渉はかなり楽になります。

近年、多くの自治体では自転車保険の加入が義務化されていますし、事故相手の家族の保険が使えることもあります。

自転車事故で利用できる保険に関して詳しく知りたい方は『自転車事故の保険請求の流れや補償内容|自賠責保険が使えない場合に備えよう』の記事をご覧ください。

自転車事故の示談の進め方|事故直後から示談成立までの流れ

自転車事故発生~示談までの流れ

自転車事故の事故発生から示談交渉までの全体の流れは、以下の通りです。

自転車事故の示談の流れ

  1. 事故発生
  2. 負傷者の救護と警察への連絡
  3. 事故状況の記録(写真・目撃者確保・メモ)
  4. 保険会社などへの連絡(加入している場合)
  5. 医師の診察・診断書の取得
  6. 治療完了(後遺症が残ったのなら後遺障害の認定)
  7. 損害の確認(治療費・修理費・慰謝料など)
  8. 示談交渉
  9. 示談書の作成・署名
  10. 示談成立・賠償金の支払い

事故直後は、ケガ人の救護と警察への通報を最優先してください。たとえ軽微な自転車事故であっても、警察への報告が欠かせません。

また、事故状況を正確に把握するために、現場写真や第三者の証言を残しておくことがその後の示談交渉に役立ちます。

病院を受診した結果、ケガを負っていることが明らかとなった場合には、人身事故として届け出てください。

自転車事故における警察への報告の必要性や、事故後の対応における注意点などについては『自転車事故も警察に報告!軽い接触事故も人身事故で届け出よう』の記事で知ることが可能です。

自転車事故の示談交渉前に確認すべき5つのポイント

基本的に、示談を締結してしまうと示談書で定めた金額以外を請求できなくなります。

よって、自転車事故の示談を始める前に、以下の点をチェックしておきましょう。

  1. 被害者の治療は完了しているか
  2. 事故の損害をすべて把握できているか
  3. 事故状況や過失割合に食い違いはあるか
  4. 示談交渉相手は誰か
  5. 自分の保険は活用したか

①被害者の治療は完了しているか

示談はケガの治療が完了してから、または後遺症が残っている場合は後遺障害認定の結果が出てから行うことになります。

まだ通院中だったり、後遺障害認定の結果に納得がいってないときは、まだ示談すべきではありません。

②事故の損害をすべて把握できているか

交通事故の被害者は、治療費や慰謝料だけでなく、休業損害や治療にかかった交通費、自転車の修理代といった物的損害についても請求することが可能です。

ですがこれらの損害は、被害者側から申請しなければ、加害者側は支払ってくれません。

そのほか、事故で用事にいけずキャンセル代が発生したり、各所に提出した診断書代なども請求できる余地があります。

請求漏れのないよう、事故によって発生した損害を把握し、損害に関する証拠をすぐに出せるようにしておきましょう。

③事故状況や過失割合に食い違いはあるか

示談前に、事故相手側に「どういった状況で事故が起こったと考えているのか」「過失割合は何対何で考えているのか」と確認しておき、事故状況の認識に齟齬が無いか確認するのも重要です。

もし事故相手側と被害者側とで認識が一緒であれば、示談交渉は比較的スムーズに進むでしょう。

一方で事故態様や過失割合について双方の意見が対立しそうなのであれば、自分の意見を補強するための証拠を揃えておくことが大事です。

自転車事故における事故状況別の過失割合については『自転車同士の事故状況別の過失割合|損害賠償請求と事故後の対応も解説』の記事で確認可能です。

④示談交渉相手は誰か

事故相手が保険に加入しており、その保険に示談代行サービスがついていれば、いずれ保険会社の担当者から連絡が来ます。その場合は、その担当者と示談交渉をすることになります。

相手が保険未加入の場合、加害者本人と示談交渉を行わなければなりません。

しかし、法律知識が不十分であるために示談交渉がうまく進まなかったり、そもそも支払いができないために連絡が取れなくなる恐れすらあります。

相手が無保険であったり、連絡が取れなくなった場合には、すぐに弁護士に相談しましょう。

交通事故の加害者が無保険の場合における対処法について詳しく知りたい方は『交通事故の相手が無保険でお金もない?泣き寝入りしないための賠償請求・対策法』の記事をご覧ください。

⑤自分の保険は活用したか

示談交渉前に、自身の保険からの支払いがないか、支払いがある場合はどういった費目かを確認しておきましょう。

支払いの内容や保険金の費目によっては、事故相手からの損害賠償額を調整しなければならないこともあります。

保険会社からの支払い通知はがきなどを保存しておくと便利です。

示談交渉の進め方

治療が終了したことを伝えるか、後遺障害の認定結果に異議がないことを伝えると、示談交渉が開始されます。

示談交渉の具体的な進め方は、事故相手が保険会社に加入しているか、被害者が弁護士に依頼をしているかなどで変わってきます。

状況示談の進め方
事故相手が保険に加入している
被害者が弁護士に依頼している
保険担当者と弁護士がやりとりする
事故相手が保険に加入している
被害者が弁護士に依頼していない
保険担当者が金額提示してくるので、回答する
事故相手が保険に加入していない
被害者が弁護士に依頼している
事故相手と弁護士がやりとりする
事故相手が保険に加入していない
被害者が弁護士に依頼していない
事故相手と被害者がやりとりする

もっとも、保険担当者の金額提示は不相当に低いことが多いですし、ましてや事故相手と直接やりとりはスムーズに進まないことが多いです。

自転車事故で相手方とのやりとりがうまく進まない場合は、速やかに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

示談交渉を行う際に知っておきたいテクニックについては『交通事故の示談テクニック8つ!自分でできる交渉術と慰謝料増額の近道』の記事で確認可能です。

未成年や高齢者が関係する自転車事故の注意点

未成年者や認知症などの高齢者が事故を起こしていた場合、本人には支払い能力が無かったり、責任をとれなかったりすることがあります。

加害者が未成年・高齢者の場合

  • 事故現場では、加害者本人のほか家族の連絡先も聞けるとよい
  • 本人ではなく家族が交渉の窓口となることが多い
  • 加害者側の家族が自転車保険などに加入しているか確認する

また被害者が未成年・高齢者の場合は損害額の算定に影響が出てきます。

被害者が未成年・高齢者の場合

  • 本人ではなく家族が交渉の窓口とならなければならないことが多い
  • 被害者が幼年の場合、通院付添費や親の休業損害を請求できることもある
  • 後遺障害が残った場合、後遺障害逸失利益の計算が成人と異なる

示談書の作成方法と重要なチェックポイント

示談交渉がまとまったら、口頭で終わらせるのではなく、必ず示談書を作成すべきです。

保険会社の担当者がいる場合は、示談書を作成して被害者宛に送ってくれることがほとんどです。

当事者間でやりとりしているような場合はどちらかが示談書を作らなければなりません。被害者と加害者、どちらが作るかについて決まりはありません。

示談書に記載されているべき主な内容は、以下の通りです。

  • 事故の発生日時、発生場所
  • 当事者の氏名、連絡先
  • 示談金額と支払方法
  • 今回の支払いによって今後一切の請求をしない旨(清算条項)
  • 当事者の署名・押印

できれば返送前に、一度弁護士に確認してもらうと安心です。

示談書の記載内容について詳しく知りたい方は『交通事故の示談書の書き方と記載事項!テンプレート付きで注意点も解説』の記事をご覧ください。

示談が成立しない場合の対処法

もし当事者同士で話し合いがまとまらない場合は、次のような手段が検討できます。

  • 裁判所の調停を利用する
  • 少額訴訟などの民事訴訟
  • 弁護士に依頼して交渉してもらう

調停や訴訟を行うのであれば、専門知識を有する弁護士に一度相談することをおすすめします。

精神的にも大きな負担になる前に、一人で抱え込まず専門家に相談しましょう。

自転車事故で示談交渉に不安があるなら弁護士に相談を

自転車事故の示談は、保険の有無や当事者の属性(未成年・高齢者など)によって、トラブルが生じやすい傾向にあります。

「相手とどう話せばいいかわからない」「保険が使えるのか不安」「示談書をどう書けばいいかわからない」と少しでも感じたら、早めに弁護士などの専門家に相談するべきでしょう。

適切に示談を進められれば、感情的なもつれや法的トラブルを未然に防ぐことができます。後悔しないためにも、正しい理解と落ち着いた対応を心がけましょう。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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