交通事故の示談はその場でしてはいけない|リスク回避についても解説
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交通事故は、ある日突然誰の身にも起こりうる出来事です。
そのため、事故にあった被害者の方は、当然現場でパニックになってしまうことでしょう。
ありがちなのは、現場での事故処理で頭がいっぱいになってしまい、その先の示談について考える余地すらないといった状況です。
そのため、「示談」の意味すら理解せぬまま、その場で知らぬうちに示談が成立してしまったり、ご自身の判断であえて示談をしてしまったりということもあるかもしれません。
しかし、交通事故が起きたその場で示談をすることは、のちに被害者を苦しめる結果になりかねません。
以下、本記事内で詳しくみていきましょう。
目次
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その場で交通事故の示談を行ってはいけない理由
一度行った示談は取り消せない
示談とは、民法に規定されている「和解契約」を指します。
一般的に裁判外での和解契約のことを「示談」といいます。
(和解)第六百九十五条
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
民法695条(e-Gov)
和解行為である交通事故の示談とは、事故の当事者が互いに条件を譲り合い、争いをやめ、事件を終了させることです。
示談の形式は問いません。
基本は話し合いによって解決するものであり、書面であっても口約束であっても成立しえます。お互いが納得すればそれでいいのです。
示談をする際に気を付けるべきこととは、示談は一度成立してしまうと、原則撤回はできません。
その場で示談をしてしまうということは、示談の金額を決定する要素がなにも確定していない状態で金銭的な約束をすることであり、非常に危険な行為といえます。
事故現場での対応に疲れ、ついついその場で示談をしてしまうお気持ちはわかります。
また、現場で加害者に懇願され、ついつい示談に応じてしまったのかもしれません。
示談は、どのような状況であってもその場でしてはいけません。
たとえ非接触事故であってもです。
加害者の車両と接触していなくても、過失割合が問題になるケースは存在しますし、よって賠償問題にもなりえます。
事故現場での対応が終わったら、専門家に一度相談されることをおすすめします。
交通事故の示談に関する基本事項は関連記事で詳しく解説中です。示談を進める上での注意点もまとめていますので併せてお読みください。
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その場で示談をすると十分な賠償金を受け取れない
万が一にも被害者がその場で示談をしてしまったら、被害者は適正な賠償金をもらい損ねる可能性があります。
賠償金をテーマにして、どれほどの損害が発生するのかを検討してみましょう。
交通事故における賠償金とは?
賠償金とは、交通事故が発生した場合に、被害者が加害者に請求できる損害金の総称です。
治療費などの実費損害をはじめ、精神的損害なども賠償金の範囲に含まれます。
具体的には、治療中・後遺障害等級確定後・死亡後に支払われる慰謝料や、逸失利益などがあります。
休業中に請求できる損害金もあります。
交通事故にあい怪我をしたら、代表的な賠償金には治療費が考えられます。
加害者は実際に発生した治療費を支払うことになるのです。
軽傷だったら治療費くらいしか請求できないのでは?と思われる方ももしかしたらいるかもしれません。
しかし、交通事故で加害者から受け取れる賠償金は、治療費だけではありません。
事故の怪我により、入院や通院をした場合には、入通院慰謝料も請求することができます。
また、事故による治療などで仕事に行けなくなった場合には、休業に対する補償についても請求が可能です。
これらは1日あたりいくらとして計算されるため、先に示談金を確定させてしまうと、休んだ日数分をまともに受け取れなくなってしまいます。
交通事故被害者にとって案外盲点なのは、交通事故には多額の賠償金が必要になるということです。
通常、保険会社をはさんで示談交渉をしていく場合、賠償金はまず自賠責保険から支払われます。
傷害事故の場合、自賠責保険からは上限120万円まで支払われますが、基本的には自賠責保険ですべての損害を補てんすることは難しいでしょう。
そのため、自賠責保険の上限を超えた損害金は任意保険から支払われますが、損害額を確定させるには時間がかかります。
正確な賠償金を確定させるための検討要素を、代表的な賠償金についてまとめてみました。
項目 | 賠償金確定のための検討要素 |
---|---|
治療費 | 怪我の内容・程度 |
入院・通院した場合の慰謝料 | 入院・通院の期間 |
後遺障害が残った場合の慰謝料 | 後遺障害の等級認定 |
死亡事故の場合の慰謝料 | 死亡した本人の立場など |
休業損害 | 休業した日数分の給料や所得の金額 |
逸失利益 | 事故にあわなければ得られていたであろう利益 |
このように、代表的な賠償金だけでも、多数の項目について請求できる可能性があります。
賠償金は、治療が終わった段階、もしくは後遺障害が確定するなど、これ以上請求しうる損害金が発生しなくなった段階で確定していくので、交通事故が発生した時点で金額を予想することは不可能といえるでしょう。
よって、その場で示談をして加害者が支払う金額を決めてしまうと、被害者の予想を超えて発生した賠償金についてもらい損ねる可能性が非常に高くなります。一度成立した示談を後から撤回したり、追加で請求することは原則認められません。あとから後遺障害が発覚することも考慮するなど、示談には慎重な判断と対応が必要です。
その場で示談を済ませて警察を呼ばないリスク
つづいて、事故現場で警察を呼ばなかった場合のリスクについてみていきましょう。
リスクについては2パターンあり、届け出をしないことによる義務違反が生じることと、今後の示談交渉がスムーズに進まないという側面があります。
(1)警察への報告は義務
事故にあった当事者は、警察への報告義務があります。
怪我人がいないという理由や、車両同士が接触していないからという理由で、警察への報告義務が免除されることはありません。
事故にあったら、真っ先に警察に連絡してください。
その後、事故処理が終わった段階で、加害者と連絡先などの交換をしましょう。
警察への報告義務を怠ると、道路交通法違反となり、3月以下の懲役または5万円以下の罰金という刑事罰を科されることになります。
(2)示談交渉に必要な書類が作成されない
事故現場に警察がくると、警察は実況見分をおこないます。
警察の実況見分が終了すると、その情報は自動車安全運転センターに提供され、自動車安全運転センターが交通事故証明書を発行します。
この交通事故証明書こそが、賠償金の請求に必要となる書類になります。
よって、警察に事故の報告をしないということは、交通事故証明書も発行されないということになってしまうのです。
なお、交通事故証明書は、事故の当事者などが自動車安全運転センターに直接取得の申請をすることが可能です。
弁護士に示談交渉を依頼している場合は、弁護士が取り付けることもできます。
また、人身事故である場合は、実況見分の結果として事故の状況を客観的に証明する「実況見分調書」が作成されます。
実況見分調書とは、いわば事故の証拠となるものであり、交通事故証明書とは別物です。
なお、物損事故においては、実況見分調書は作成されません。
実況見分調書も賠償金の請求いおいて重要な資料となるため、内容の確認をおこないましょう。
事実と相違する内容が書かれていないか、被害者ご自身の目で確認する作業は大切です。
現場での混乱状態で確認作業まですることは困難かもしれませんが、現場での正しい対応こそが、今後の賠償金を確定させる重要な第一歩になります。
加害者がその場で示談をしたいと言う理由とは?
事故現場で、加害者からその場での示談を懇願されるケースは少なくありません。
被害者からすれば非常に残念なことですが、加害者が警察への連絡すら躊躇し、その場で解決したいと言ってきた場合は、悪質なケースであることも考えられます。
どういうことかといいますと、加害者にとって警察への報告・連絡をしないということは、免停などの行政処分や、刑事処分を免れたい心理がはたらいている可能性があるということです。
人身事故であれば、過失運転致傷罪や危険運転致傷罪などの罪に問われることがあります。
これらの刑事罰を免れるため、警察を呼ばずにその場の示談で済まそうと考える加害者もいるでしょう。
もっとも、このような悪質な加害者が得をすることもありませんが、被害者が損をすることは明白です。
警察のおこなう事故処理をはさまない結果、正確な事故状況が記録されないことにより、本来受け取れるはずの賠償金が受け取れなくなるからです。
また前述しましたとおり、示談はその場であっても、お互いが納得していれば成立してしまいます。
その先は当事者の自己責任となり、誰に相談したところで、成立してしまった示談はどうにもなりません。
加害者に念書の記入を懇願された場合であっても、けっして承諾しないようにしましょう。
加害者の対応に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談されるといいでしょう。
今後の示談交渉についてや、加害者への正しい対応の仕方についてアドバイスを受けることが可能です。
交通事故の示談を行うなら弁護士に相談を
これまで見てきたとおり、交通事故の示談交渉はけっして容易ではありません。
その場で示談をすることはもちろん厳禁ですが、きちんとした手続き・証明をおこなっていたとしても、複雑な手続きがからんでくることは事実です。
賠償金の確定にいたるまで、事故現場の現場検証から加害者とのやりとりまで、被害者がやるべきことは多岐にわたります。
また、人身事故となると、被害者は何よりも治療を優先しなくてはなりません。
そのうえ示談交渉まで自分自身でおこなっていくとなれば、心身ともにストレスがかかることは想像に難くないかと思います。
交通事故の示談交渉は、多数の交通事故案件を扱っている弁護士に依頼することが得策といえます。
弁護士に依頼することで、得られるメリットは数多くあります。
弁護士に相談・依頼することによるメリットについては、以下の関連記事も参考にしてください。
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まとめ
- その場で示談をすると、撤回できないうえ正確な賠償金も得られない
- 事故を警察に報告することは、正確な賠償金請求のためにも不可欠
- 加害者がその場で示談を懇願する理由には悪質なものもある
- 加害者の対応は弁護士に依頼がスムーズ
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了