バイク事故で多い5つの原因と対策|死亡率・重傷率や事故時の対処法も
バイク事故で死亡したケースを、ニュースなどで目にする方も多いのではないでしょうか。
内閣府の統計によると、2020年度のバイク事故における死亡率は1.3%でした。
また、2022年の統計を見ると、交通事故死者数のうちバイク事故による死者数が占める割合はおよそ17%でした。
バイク事故による死傷者数は決して少なくありません。バイクは小回りが利くことが魅力の便利な乗り物ですが、車体などの特性上、事故にあったときは死亡や重傷といった重大な被害を受けやすいのです。
この記事では、バイク事故における死亡率や、バイク事故で死亡が多くなる原因と対策を紹介します。あわせて、バイク事故で被害者が死亡した場合の対応や損害賠償金も解説しているので、ぜひご一読ください。
バイク事故の原因は?事故しやすい人の特徴
(1)危険なすり抜けや追い越しをする
赤信号や渋滞で他車の間をすり抜けて走行する、いわゆる「すり抜け」は、バイクによる事故原因となりやすいです。すり抜けによって起こる可能性のある事故例としては、以下が挙げられます。
- 交差点ですり抜けをしたところ、右折してきた車と衝突する
- すり抜け時に周囲の車が急に車線変更してくる
- 停車している車のドアが突然開く
バイクによるすり抜け(追越し・追い抜き)は必ずしも違法ではありませんが、違法となるケースもあります。
事故を起こした場合の過失割合で不利になることもあるでしょう。
詳しくは、『バイクのすり抜け事故|過失割合や損害賠償請求の流れ、違反になるケースもわかる』の記事をご覧ください。
(2)ヘルメットや前傾姿勢で視野が狭くなっている
バイクを運転する際は、ヘルメットを着用することが義務付けられています。
ヘルメットを着用すると、頭部が守られる反面、何もかぶっていない場合よりも視界が狭くなってしまいます。
よって、自動車からはバイクの存在を目視できていても、バイクが自動車の存在に気付いておらず、事故につながることがあるのです。
また、スポーツタイプのバイクを運転する際は、前傾姿勢になることにより視野が狭くなることもあります。この場合、前の車の急ブレーキなどに気づかず事故を起こしてしまうことがあるのです。
(3)自動車の死角に入ってしまう
バイクは車体が小さいため、自動車の死角に入ってしまうことが多いです。たとえば、以下のような形で死角に入ることがあるでしょう。
- 対向車の陰に隠れる
- 窓柱の後ろに車体が入る
- 自動車のサイドミラーやバックミラーに映らない
- トラックなどの大型車の側面や後方に隠れる
バイクが自動車の死角に入った場合、自動車側はバイクの存在を認識していないので、スピードを落とすことなくバイクに衝突してきます。
そのため、事故により生じる衝撃が強く、死亡や重傷につながりやすいのです。
とくに夜間は、バイクが自動車から見落とされやすい傾向にあります。夜間にバイクを運転する際は、周囲の交通状況にとくに気を配った方がよいでしょう。
バイクが死角に入った場合に起こりやすい巻き込み事故については、『巻き込み事故とは?車・バイク・自転車の過失割合と内輪差の危険性』をご覧ください。
(4)制動距離の短さを考慮していない
バイクの特徴として、自動車よりも短い距離で停止できることがあげられます。
バイクはブレーキが前輪と後輪が独立して作用するうえ、車体が自動車に比べて軽量であるため、制動距離が短くなるのです。
これにより、バイクが急ブレーキをかけた際、後続の自動車によるブレーキが間に合わず追突してしまうことがあります。
また、バイクは自動車側に「バイクなら簡単に停止できるだろう」と捉えられがちなため、不適切な車間距離を取られてしまい、事故につながることもあります。
バイク側でも十分にそのことを認識し、車間距離やスピード、急ブレーキなどに気を付けましょう。
(5)あおり運転の標的となってしまう
バイクがあおり運転の標的となってしまうケースも存在します。あおり運転を受けて急ブレーキをかけた場合、重大な事故につながるおそれがあります。
あおり運転をされていると感じたら道を譲るなどして距離を取る、あおり運転の標的にならないよう安全運転を心がけるなど、あおり運転による事故も避けられるような工夫をするとよいでしょう。
バイク事故は重傷化しやすい|統計から解説
バイク事故の死亡率と重傷率
「令和3年度版交通安全白書」(内閣府)によると、2020年のバイク事故における死亡率は1.3%です。この数値は、自動車事故のおよそ3倍、自転車事故のおよそ2倍になります。
死亡率と重傷率を、自動車や自転車などと比べてみましょう。
- 死亡率
- バイク:バイク事故全体のうち1.3%
- 自動車:自動車事故全体のうち0.4%
- 自転車:自転車事故全体のうち0.6%
- 歩行者:歩行中の事故全体のうち2.6%
- 重傷率
- バイク:バイク事故全体のうち17.5%
- 自動車:自動車事故全体のうち3.1%
- 自転車:自転車事故全体のうち9.8%
- 歩行者:歩行中の事故全体のうち18.0%
上記の統計から、バイクに乗車していて交通事故にあった場合、自動車または自転車に乗車していた場合よりも、死亡または重傷となる確率が高いことがわかります。
バイク事故で死亡率や重傷率が高い理由
バイクは自動車と異なり、運転者の身体が外に露出しています。
自動車と違い運転者の身体がボディやエアバッグによって保護されないため、事故によって頭部や胸部といった重要な部位を強打しやすく、死亡・重傷につながりやすいのです。
また、バイクは自動車と比べてバランスがとりにくく、転倒してしまう可能性が高いです。少しの操作ミスで転倒し、大事故につながってしまうこともあるでしょう。
自動車を運転していた場合は比較的軽いケガで済むような衝撃でも、バイクを運転していたなら死亡したり重傷を負ったりするような大事故につながってしまうのです。
バイク事故対策で日頃からしておくべきこと
(1)ヘルメットや胸部プロテクターを「正しく」つける
「二輪車の交通死亡事故統計(2021年中)」(警視庁)では、2021年中の東京都のバイク死亡事故について、以下のような報告がされています。
- 致命傷部位
- 頭部:62.9%
- 胸部:17.1%
- 腹部:5.7%
- その他:14.3%
バイク事故で被害者の方が死亡した場合、損傷部位として多いのが頭部・胸部・腹部です。
そのため、万が一バイク事故にあったときに死亡や重傷を避けるためには、ヘルメットやプロテクターで致命傷となりやすい部位を守ることが重要になります。
ただし、たとえヘルメットをつけていても、事故時に脱着してしまい死亡事故に発展しているケースは多いです。ヘルメットを着用するときは、あご紐をしっかりと締めましょう。
なお、バイク乗車時にヘルメットをつけることは、道路交通法に定められた義務でもあります。
第七十一条の四 大型自動二輪車又は普通自動二輪車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶらないで大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転し、又は乗車用ヘルメットをかぶらない者を乗車させて大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転してはならない。
2 原動機付自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶらないで原動機付自転車を運転してはならない。
道路交通法第七十一条の四
(2)日常的にバイクの点検やメンテナンスを行う
バイクのメンテナンスが不足していたため、車体に何らかのトラブルが発生して事故につながってしまう可能性もあります。
バイクには12ヶ月点検、24ヶ月点検といった法定点検が義務付けられています。
また、排気量が250ccを超えるバイクには車検も義務付けられているため、必ず実施するようにしてください。
12ヶ月点検や24ヶ月点検以外にも、日常的なバイクの点検・メンテナンスを行うことは大切です。走行前に燃料・オイルやタイヤ、ライト、バックミラーなどを点検し、問題が発生していないか確認するようにしましょう。
(3)バイク事故が多い朝や夕方は特に気をつける
警視庁の統計によると、交通事故が多いのは曜日別では金曜日、時間帯別では8時~10時、16時~18時となっています。
週末である金曜日は仕事の疲れで集中力が落ちやすいことや、通勤・退勤の時間帯は交通量が多く、急いでいるため運転が荒くなりやすい、渋滞を避けるために抜けが多くなるといった状況になりやすいことが原因です。
よって、通勤・退勤時はとくに時間と心に余裕を持った運転をすることが重要です。出勤時は早めに家を出るように心がける、退勤時は暗くて見通しが悪いこともあり法定速度を遵守するといった対策が有効になるでしょう。
対策の有無は万一の時の損害賠償金にも影響する
ここまで挙げた対策は、バイク事故防止のためだけでなく、事故に遭った場合の損害賠償金の減額を防ぐためにも重要です。
バイク事故の被害者になった場合でも、バイク側がヘルメットを着用していなかったり、日常的な点検を怠って車体に不備があったりすると、過失割合が加算されて損害賠償金が減額されてしまう可能性があります。
過失割合とは
交通事故が起きた責任が加害者側と被害者側にどれくらいあるかを示した割合のこと。被害者側に過失割合が付くと、その割合分、受け取れる損害賠償金が減額される(過失相殺)。
バイク事故にあった際、過失割合で悔しい思いをしないためにも、日ごろから事故対策を徹底しておきましょう。
バイク事故が発生してしまったら?
事故の規模に関わらず警察への連絡は必須
万が一バイク事故が発生してしまったら、軽いケガしかしていなかったとしても必ず警察に連絡しましょう。
警察への連絡が必要な理由は以下のとおりです。
- 道路交通法に定められた義務であり、違反すると罰則を受ける可能性がある
- 交通事故証明書が発行されず、自身の保険をスムーズに使えなかったり、示談交渉時に問題が生じたりする
限られた人しか出入りしない駐車場は私有地とされるため、警察への通報が義務ではないこともあります。
しかし、こうした場合でも交通事故証明書が発行されないと不都合・不利益が生じる可能性があるので、警察には連絡を入れておきましょう。
警察への連絡時に伝えるべきことや、その後の流れについては『交通事故後は警察への報告義務がある』にてご確認ください。
治療は速やかに受け、必要に応じて後遺障害認定も受ける
事故現場での対応が終わったら、速やかに病院を受診しましょう。ケガがないように思えても、後から発覚することがあります。
事故から初診までの期間が長いと、事故とケガとの因果関係を証明できず、治療費や慰謝料を十分に請求できない可能性があります。よって、病院へは早い段階で行っておくことが重要です。
また、医師から治療終了と言われる前に治療を終えたり、通院頻度が低すぎたりすると、慰謝料や治療費が減額される可能性もあるので要注意です。
治療の結果後遺症が残ったら、後遺障害認定を受けましょう。認定を受ければ後遺障害に関する慰謝料・賠償金がもらえます。
関連記事
示談交渉は一度弁護士に相談|費用負担は大幅に軽減できる
治療や後遺障害認定が終わったら、加害者側との示談交渉で慰謝料・賠償金額や過失割合を決めていきます。
この際、事前に正しい示談内容を把握しておくことが重要ですが、事故の個別的な事情も考慮しつつ判断するものなので、専門知識や過去の事例に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
また、加害者側は保険担当者を立てて示談交渉してくることが多く、交渉経験や専門知識の少ない被害者は不利になりがちです。
弁護士に示談対策に関するアドバイスを聞いたり、示談そのものを依頼したりすることも検討してみてください。
弁護士費用の負担は大幅に軽減できる
それでも弁護士費用が不安な場合は、以下の方法で負担の軽減を図れます。
- 弁護士費用特約を利用する
(保険会社に一定金額まで弁護士費用を負担してもらえる) - 相談料・着手金無料の事務所を利用する
(初期費用がかからないため、すぐに大きなお金を用意できなくても依頼可能)
弁護士費用特約について詳しく知りたい方は『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事をご覧ください。
死亡事故の場合は遺族が代わりに対応
バイク事故で被害者が死亡した場合、家族がすべき対応は以下のとおりです。
- 交通事故の発生
- 通夜や葬儀を終えたあと、加害者側の任意保険会社との示談交渉
- 示談が成立すれば、約2週間後に損害賠償金が支払われる
- 示談が不成立となれば、民事裁判などで解決を目指す
解決までの各段階においては、以下の点に気を付けるとよいでしょう。
通夜や葬儀における注意点
通夜や葬儀においては、加害者側から香典や参列の申し出があることが想定されます。どのように対応するかについては、事前に遺族の間で決めておくとよいでしょう。精神的に負担になるようであれば、断っても問題ありません。
なお、香典を受け取った場合、あとから「損害賠償金の前払いとして支払った」と主張されてトラブルになることがあります。香典を受け取るときは、香典と損害賠償金は別物であることを確認しておくとよいでしょう。
加害者側との示談交渉前後の注意点
加害者側との示談交渉は、遺族の中から選ばれた相続人が行います。
示談交渉においては、加害者側の任意保険会社は相場より低い金額を提示してくることがほとんどである点に注意してください。
死亡事故の損害賠償金は高額になりがちなため、一見すると十分な金額に思えますが、法律の専門家から見ると大幅に不足していることが少なくありません。提示された金額が妥当かどうかは、弁護士に相談して確認するとよいでしょう。
受け取った損害賠償金のうち、被害者本人分については、遺族の中で分配することになります。遺産分割については、『交通事故の慰謝料|遺産分割できる相続人は?相続分はどれくらい?』の記事で解説しているので、ご参考ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了