肋骨骨折の後遺症は慰謝料いくら?胸骨骨折の後遺障害や胸の痛みの原因も解説
交通事故では、シートベルトにより胸部に衝撃や圧が加わったり、エアバックやハンドル、地面に胸を打ち付けたりすることで肋骨や胸骨を骨折することがあります。
肋骨骨折や胸骨骨折では変形障害や神経症状が後遺症として残ることがあり、この場合は後遺障害等級に応じた慰謝料の請求が可能です。
肋骨骨折や胸骨骨折で後遺症が残った場合の後遺障害等級や慰謝料相場を確認していきましょう。
目次
事故後に胸が痛い!考えられる原因とケガの種類
交通事故後、胸に痛みを感じる場合、考えられるケガはいくつかあります。まずは事故後に胸の痛みを感じる原因や、考えられるケガの種類を解説します。
(1)事故時、胸にシートベルトがくいこんだ
交通事故では、シートベルトが胸にくいこんでしまい、肋骨や胸骨、さらに内臓や背骨などを負傷することがあります。こういった外傷を「シートベルト外傷」と呼びます。
シートベルトは本来、事故時に身体が車外に飛び出さないようにするためのものです。よって、車が強い衝撃を受けると自動的にロックされる仕組みになっていますが、装着方法が正しくないとシートベルト外傷が生じやすくなります。
たとえばシートベルトがゆるんでいると、ロックがかかった時に身体にかかる衝撃が大きくなります。また、腰のシードベルトが骨盤ではなくお腹にかかっていると、内臓が圧迫されやすくなってしまうのです。
シートベルトは正しく装着すれば万が一の時に身体を守ってくれるものです。装着は義務でもあるため、正しい装着方法や着用義務違反の罰則についても把握しておきましょう。
詳しくは『後部座席のシートベルトは一般道も着用義務あり|違反点数と事故のリスク』の記事をご確認ください。
(2)胸をエアバッグやハンドルで強打した
事故の衝撃で身体が前方に飛び出たとき、シートベルトを装着していなかったり、シートベルトがゆるんだりしている状態だと、胸をエアバックやハンドルで強打することがあります。こういった外傷を「エアバック損傷」や「ハンドル外傷」などと呼びます。
エアバッグは、衝突時に瞬時にふくらむ仕組みです。この仕組みにより、ハンドルやダッシュボード、インストルメントパネルなどに直接ぶつかることを防ぎます。
しかし、エアバッグはシートベルトの補助的な役割に過ぎません。シートベルトを着用していなかったり正しく着用していないと、エアバッグの効果が十分に発揮できないのです。
それどころか、正しくシートベルトを装着していないと、本来なら事故の衝撃から身体を守ってくれるはずのエアバッグで胸や腹を強打してしまいかねません。
(3)胸を車体や地面に打ちつけた
交通事故にあったのが歩行者だった場合、車体のボンネットやバンパーに胸を打ったり、はね飛ばされて地面にたたきつけられて胸を打ちつけたりすることがあるでしょう。
大した衝撃でなかったと思っても、医師には症状とあわせて事故の状況も伝え、あらゆる怪我の可能性を探ってもらってください。
胸が痛い場合に考えられるケガの種類
交通事故後に胸部に衝撃が加わった場合、以下のようなケガを負っている可能性があります。
- 肋骨骨折
- 胸骨骨折
- 椎間板ヘルニア
- 胸部出口症候群
- 内臓損傷
- 外傷性大動脈解離
それぞれのケガについて解説します。
肋骨骨折
肋骨は胸郭を構成する骨で、呼吸を助ける重要な役割をもちます。交通事故で身体を地面に打ち付けたり、外から圧力がかかったりなど、さまざまな要因で骨折する可能性があります。
肋骨骨折の主な症状は、呼吸時や身体を動かしたときの痛みです。肋骨が臓器を傷つけている場合は、呼吸不全・出血性ショックなどを伴うこともあります。
後遺症として残りうる症状としては、骨の変形癒合や痛み・しびれが挙げられます。
治療ではギプスなどで固定して骨がくっつくのを待つ保存療法が選択されることが多いでしょう。
胸骨骨折
胸骨は、胸部正中にあり、心臓や肺を保護する大切な骨です。バイク乗車中の事故で地面に投げ出された場合には骨折、車両などで挟まれた場合には圧迫骨折が生じる可能性があります。
胸骨骨折の症状は、深呼吸や咳をした際の痛みなどです。また、胸骨の奥にある「胸椎」までつぶれて変形してしまう「胸椎圧迫骨折」にいたると、激痛を感じるといわれています。
胸骨の骨折では、骨が変形癒合する、深呼吸や咳などで胸を動かすと痛む、骨折箇所が変色するなどの後遺症が残ることがあります。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にある椎間板が変形して飛び出すことで周りの神経を圧迫し、痛みなどを感じるケガです。
事故で胸に衝撃が加わった場合は、胸椎において椎間板ヘルニアが発生することがあります。
背中や脇腹に痛みを感じるなど胸以外の部分に症状を感じることも多いようです。
胸部出口症候群
胸部出口症候群とは、鎖骨と肋骨の間にある、神経や血管が通る「胸部出口」に衝撃がかかることで生じる症状です。
肩や腕、手などのしびれや痛みといった神経系の症状を感じることが一般的です。
外傷性大動脈解離
外傷性大動脈解離では、衝撃により大動脈の内膜が損傷し、中膜が裂けていきます。大動脈の内膜の中を流れるはずの血液が漏れ出して血流が止まったり、大動脈が破裂したりします。
胸や背中に強い痛みを感じることもありますが、吐き気などむちうちと類似する症状が見られることもあるでしょう。
首に衝撃を受けたならむちうち、胸部に衝撃を受けたなら外傷性大動脈解離の可能性があると考えられるでしょう。
肋骨骨折の後遺症と慰謝料相場
肋骨骨折では、骨がずれてくっついてしまう「変形障害」や痛みやしびれといった「神経症状」が後遺症として残ることがあります。
肋骨骨折の後遺症で認定されうる後遺障害等級と慰謝料相場は、12級(290万円)、14級(110万円)です。
それぞれの後遺症に分けて、後遺障害等級の認定基準と慰謝料相場を見ていきましょう。
なお、ここで紹介する慰謝料相場は、過去の判例に基づくものです。加害者側は低い金額を提示してくると考えられますが、それには増額の余地があります。鵜呑みにしないようにしてください。
肋骨骨折で変形障害が残った場合
折れた肋骨が元通りに癒合せず変形した場合、変形が「裸体になった場合に目視で変形が明らかにわかる」程度であれば後遺障害12級5号に認定される可能性があります。
後遺障害慰謝料の相場は、290万円です。
等級 | 認定要件 |
---|---|
12級5号 | 肋骨に著しい変形が認められる |
肋骨骨折で神経症状が残った場合
肋骨骨折後に続く神経症状は、後遺障害12級13号または後遺障害14級9号に認定される可能性があります。
「画像検査などで痛みや痺れの存在を証明できる」場合は12級13号、「画像検査ではわからずとも、治療の経過や状況から神経症状の存在が説明できる」場合は14級9号に認定される見込みです。
後遺障害慰謝料の相場は、12級13号で290万円、14級9号で110万円です。
等級 | 認定要件 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
胸骨骨折の後遺症と慰謝料相場
胸骨骨折では、骨折部の変形、深呼吸や咳などで胸を動かした際の痛み、骨折箇所の変色といった後遺症が残る可能性があります。
胸骨骨折の後遺症が該当しうる後遺障害等級と慰謝料相場は、6級(1,180万円)、8級(830万円)、11級(420万円)、12級(290万円)、14級(110万円)です。
後遺症別に、後遺障害等級とその認定基準、慰謝料相場を見ていきましょう。
なお、ここで紹介する慰謝料相場は、過去の判例に基づく法的正当性の高いものです。加害者側が提示してくる金額は低額であることが多いので、増額交渉が必要です。
胸骨骨折で変形障害が残った場合
胸骨骨折による変形障害は後遺障害12級5号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料の相場は、290万円です。
等級 | 認定要件 |
---|---|
12級5号 | 胸骨に著しい変形が認められる |
変形障害とは、レントゲンで確認できるだけではなく、衣服を着ない状態で目視で変形が明らかな場合に限られる点には注意しましょう。
胸椎圧迫骨折について
胸椎圧迫骨折は、元通りの骨の形には戻らない可能性が高い骨折です。そのため骨折が胸椎にまで及んで胸椎圧迫骨折となっていると、変形が残ってしまう場合があります。
胸椎圧迫骨折での変形障害では、後遺障害6級5号、8級相当、11級7号、12級5号などのさらに重い後遺障害等級を含む認定を受けられる可能性があります。
後遺障害慰謝料の相場は、6級5号で1,180万円、8級相当で830万円、11級7号で420万円です。
等級 | 認定要件 |
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6級5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
胸骨骨折で神経症状が残った場合
胸骨骨折後に神経症状が残ってしまった場合、後遺障害12級13号または14級9号に認定される可能性があります。
後遺障害慰謝料の相場は、12級13号で290万円、14級9号で110万円です。
等級 | 認定要件 |
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12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
神経症状とは、痛みやしびれといった自覚症状のため、その症状があることを示す必要があります。後遺障害申請を考えている方は、一度弁護士に相談してみてください。
肋骨骨折や胸骨骨折の後遺障害に関する疑問
ここでは、肋骨骨折や胸骨骨折に関する以下の疑問にお答えします。
- 肋骨骨折や胸骨骨折は内臓損傷のリスクもある?
- 肋骨骨折や胸骨骨折で仕事に復帰できる時期は?
- 肋骨骨折や胸骨骨折で使える保険金は?
- 心配蘇生で胸骨圧迫骨折したら訴訟や賠償請求は可能?
肋骨骨折や胸骨骨折は内臓損傷のリスクもある?
肋骨骨折や胸骨骨折は、内臓損傷も引き起こすリスクもあります。
たとえば、肋骨骨折では、折れた肋骨の数が多いと、肺をはじめその他の臓器を損傷する可能性が高まります。
また、胸骨骨折は心臓や肺などの重要な臓器に近いため、注意が必要です。
内臓損傷が起こった場合、重篤な症状を引き起こす可能性があるため、早急に医療機関を受診することが大切です。
内臓損傷の関連記事
- 肋骨や胸骨の骨折等をきっかけに残る内臓損傷の後遺障害について
交通事故で内臓損傷・内臓破裂|後遺障害等級の認定基準や慰謝料の相場
肋骨骨折や胸骨骨折で仕事に復帰できる時期は?
肋骨骨折や胸骨骨折で仕事に復帰できる時期は、骨折の程度や個人の回復力によって異なります。
軽度の骨折であれば、数週間で仕事に復帰できる場合もあるでしょう。
しかし、重度の骨折や内臓損傷を伴った場合は、数か月間、仕事に復帰できないこともあります。仕事に復帰する際には、医師の指示に従うことが大切です。
いずれにせよ、仕事を休むと収入が減少して不安を感じることでしょう。交通事故による怪我で仕事を休む場合は、収入の減少に対する補償を請求できます。
収入の減少を気にして無理に働き続けると、治るものも治りませんし、本来なら請求できたはずの補償も請求できなくなってしまいます。
こちらの関連記事『交通事故で仕事しながら通院するコツ!仕事を休んだ、働けなくなったときの補償』を読んで、仕事を休んだ時にもらえる補償や仕事をしながら治療を続けるポイントをおさえておきましょう。
肋骨骨折や胸骨骨折で使える保険金は?
交通事故で肋骨骨折や胸骨骨折を負った場合、被害者自身の自動車保険では人身障害補償保険や搭乗者傷害保険が使えます。
交通事故において被害者が使える保険については『交通事故で使える保険の種類と請求の流れ』で解説しているのでご確認ください。
心配蘇生で胸骨圧迫骨折したら訴訟や賠償請求は可能?
一般人が交通事故でケガをした人に対して心配蘇生をし、結果的に肋骨骨折や胸骨骨折が発生しても、基本的には損害賠償の対象になったり、訴訟問題になったりはしません。
こうした一般人による応急措置は、原則として民法698条に定められた「緊急事務管理」に該当し、悪意や重大な過失がなければ損害賠償責任は生じないとされているからです。
(緊急事務管理)
民法698条
第六百九十八条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
胸骨圧迫骨折や肋骨骨折の訴訟事例
ここでは、交通事故による衝撃で胸骨圧迫骨折や肋骨骨折を負い、訴訟になった事例を紹介します。
なお、交通事故では示談交渉で弁護士を立てることで、訴訟しなくても十分な慰謝料が得られることが多いです。訴訟には費用も労力も時間もかかるため、裁判に近い水準の慰謝料額を望む場合はまず弁護士にご相談ください。
弁護士への依頼については次の章で解説しています。
胸骨圧迫骨折の訴訟|変形障害の認定
大型貨物自動車と大型貨物自動車の追突事故で、被害者は胸部打撲傷、第3から第7胸椎圧迫骨折、外傷性頸部症候群、両膝打撲傷、疼痛性ショック、胸髄不全損傷を負いました。
自賠責保険は「せき柱に中程度の変形を残すもの」として後遺障害8級相当と認定するものの、脊髄への圧迫所見などが認められないことから歩行障害などは後遺障害に当たらないと判断したのです。
一方で、被害者はせき柱変形障害に加えて、日常の歩行に杖が必要であること、階段の昇降に手すりを要するなどをもとに、後遺障害3級に相当すると主張しました。
裁判所の判断は、医師の意見書を元に歩行障害は後遺障害にあたらないものとして8級認定にとどめたのです。そこで、後遺障害慰謝料830万円、逸失利益約432万円、休業損害約328万円などの損害を認めました。(東京地方裁判所 平成26年(ワ)第129号 損害賠償等請求事件 平成29年3月27日)
肋骨骨折の訴訟|肩部分のしびれの認定
被害者の乗車するバイクと、加害者の自動車との間で起こった交通事故でした。
被害者は、左鎖骨骨幹部骨折、左第2・4肋骨骨折を負い、左肩関節可動域制限、鈍い痛み、しびれ、仕事で必要な重量部を持てないなどの症状を訴えました。自賠責保険では14級9号認定にとどまりましたが、被害者はこの認定を不服とし、争点となったのです。
裁判所は意見書や画像鑑定報告書をもとに、12級13号相当の神経症状の残存を認め、後遺障害慰謝料280万円、逸失利益約390万円、休業損害約137万円を含む約1,030万円の損害を認めました。(京都地方裁判所 令和2年(ワ)第2346号 損害賠償請求事件 令和4年1月27日)
肋骨骨折するほどの衝撃を受けた場合、肩や腹部などにも何らかの影響が出る可能性があります。この訴訟事例では左鎖骨骨幹部骨折による神経症状を認めました。
肋骨骨折や胸骨骨折の慰謝料増額は弁護士に相談
慰謝料増額は弁護士だから可能
肋骨骨折や胸骨骨折の慰謝料相場として紹介した金額は「弁護士基準」によるものです。弁護士基準は、過去の判例に基づく法的正当性の高い基準です。
しかし、加害者側の任意保険会社は、自賠責基準や任意保険基準といわれる弁護士基準よりはるかに低い金額しを提示してきます。被害者だけで相手の任意保険会社と交渉しても、弁護士基準の慰謝料を認めてくれることはほぼありません。
専門家ではない被害者が裁判で認められるような金額を主張しても、説得力がないとされてしまうのです。
しかし、示談交渉で弁護士を立てれば、加害者側の任意保険会社は裁判への発展を恐れ、態度を軟化させる傾向にあります。
裁判となると手間も費用もかかってしまい、保険会社として負担が大きくなるからです。
弁護士はこういった保険会社の事情をうまくつつき、弁護士基準に限りなく近い金額を示談交渉で獲得することを目指します。
弁護士を立てるメリットは他にもあるため、詳しくは関連記事『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』をご確認ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了