道路で寝ている人が事故に遭った!損害賠償金や過失割合はどうなる?
更新日:
過度な飲酒や体調不良などが原因で、道路で寝ている人が交通事故に遭ってしまった場合にも損害賠償金を請求できます。
しかし、道路で寝ることは非常に危険な行為であり、事故が起きた原因の一端は被害者にもあると考えられるでしょう。
そのため、被害者にも一定の過失割合がつき、受け取れる損害賠償金が減額されます。
この記事では、道路で寝ている人が事故に遭ったときの過失割合と、加害者側から受け取れる損害賠償金の費目について解説します。
本記事で紹介する過失割合は、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に記載されている情報をベースにしています。
目次
道路で寝ていて事故に遭っても損害賠償金はもらえる
道路で寝ている人が事故に遭ってケガをしてしまった場合、被害者は「寝ていた自分が悪いから損害賠償金はもらえないのではないか」と考えがちです。
確かに道路で寝るという行為は危険で、被害者に落ち度がなかったとはいえません。しかし、そのような状況であっても事故でケガを負ったことに変わりはないため、加害者に対して適切な損害賠償金を請求することが可能です。
交通事故における損害賠償の基本的な考え方として、自動車対歩行者の事故では、自動車側により大きな責任が課せられます。
これは、自動車が歩行者に比べて圧倒的に大きな危険性を有しているからです。そのため、道路で寝ていたという事情があったとしても、全面的に被害者に過失があると判断されることはほとんどありません。
道路で寝ている人が事故に遭ったときの過失割合
過失割合とは、事故原因となった責任の大きさを数値化したものです。「10:90」「30:70」のように表記します。
事故の被害者に過失割合がつくと、その分受け取れる損害賠償金の金額が減ってしまいます。
過失相殺で損害賠償金額が減額する
道路で寝ていて事故に遭った場合、被害者側にも一定の過失があると判断されるため、過失割合がつき、「過失相殺」が適用されます。
過失相殺とは、被害者側にも過失がある場合に、その過失の程度に応じて損害賠償額を減額する制度です。
一般的に、道路で寝ていた人と自動車の事故における過失割合は、昼間の場合で「被害者30:加害者70」、夜間の場合で「被害者50:加害者50」とされています。
つまり被害者は、昼間の事故であれば損害賠償額の70%、夜間の事故であれば50%程度を受け取れるということです。
昼に事故に遭った場合の過失割合
道路で寝ている人が昼間に事故に遭った場合、基本の過失割合は「被害者30:加害者70」です。
昼間であれば道路上に人が寝ていたとしても、自動車から比較的発見しやすいという理由で、加害者(運転者)に過失が多くつきます。
ただし、すべての事故で前述した過失割合が適用されるわけではありません。過失割合は事故現場や被害者の年齢などにより変動します。
以下に、昼間の事故の過失割合が変動する要因をまとめました。基本の過失割合に対して、修正要素を加算したり減算したりしてください。
修正要素 | 被害者 | 加害者 |
---|---|---|
基本 | 30 | 70 |
幹線道路 | +10 | -10 |
住宅街・商店街等 | -5 | +5 |
児童・高齢者 | -10 | +10 |
幼児・身体障害者等 | -20 | +20 |
加害者の著しい過失 | -10 | +10 |
加害者の重過失 | -20 | +20 |
加害者の著しい過失と重過失の例
加害者の著しい過失と重過失には、一般的に以下のようなものが該当します。
- 加害者の著しい過失
- 脇見運転による前方不注視
- 酒気帯び運転
- 加害者の重過失
- 時速15km以上30km未満の速度違反
- 著しいハンドルまたはブレーキの操作ミス
- 加害者の重過失
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 時速30km以上の速度違反
- 道交法上の酒酔い運転
夜に事故に遭った場合の過失割合
道路で寝ている人が夜に事故に遭った場合、基本の過失割合は「被害者50:加害者50」です。
夜間では運転者の視界が制限され、道路上で寝ている被害者を発見しにくい点を加味して、昼間の事故よりも被害者の過失が多くついています。
また、被害者の過失割合が変動する要因も、昼間の事故とは若干異なっています。
夜間の事故の過失割合が変動する要因は以下のとおりです。基本の過失割合に対して、修正要素を加算したり減算したりしてください。
修正要素 | 被害者 | 加害者 |
---|---|---|
基本 | 50 | 50 |
幹線道路 | +10~20 | -10~20 |
住宅街・商店街等 | -10~20 | +10~20 |
児童・高齢者 | -10 | +10 |
幼児・身体障害者等 | -20 | +20 |
明るいところ* | -10 | +10 |
加害者の著しい過失 | -10 | +10 |
加害者の重過失 | -20 | +20 |
*明るいところ:40~50m先が確認できる明るさを想定
過失割合は示談交渉の争点になりやすい
前述したように、被害者の過失割合が大きくなれば、その分受け取れる損害賠償金が減ります。
そのため加害者側の保険会社は、示談交渉の際になるべく被害者の過失割合を大きくつけようとしてくることがあるのです。
加害者側から提示された過失割合のまま示談を成立させてしまうと、本来受け取れるはずだった損害賠償金額よりも少ない金額しか受け取れなくなってしまうおそれがあります。
原則、一度示談が成立するとやり直すことはできません。示談交渉に不安がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。
道路で寝ている人が事故に遭ったときの損害賠償金
道路で寝ている人が事故に遭い、ケガを負ってしまった場合に、被害者が加害者側に請求できる損害賠償金の費目を解説します。
なお、被害者に過失割合がつく場合には、「過失相殺」で受け取れる損害賠償金から、被害者の過失割合分にあたる金額が控除されます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、「交通事故で負ったケガの痛みや苦しみ」、「治療・手術における恐怖や不安」などの精神的苦痛に対する補償です。
慰謝料の金額は、計算に用いる算定基準ごとに異なります。
慰謝料の算定基準
- 自賠責基準:国が定めた最低限の補償基準
- 任意保険基準:任意保険会社ごとの基準(詳細は非公開)
- 弁護士基準:過去の判例をもとにした基準
任意保険基準の詳細は非公開とされていますが、通常、加害者側の保険会社は自賠責基準と同程度の金額を提示してくることが多いです。
自賠責基準の入通院慰謝料は日額4,300円をベースに、治療期間や実際の治療日数を考慮して支払われます。
弁護士基準の入通院慰謝料
対して、弁護士基準の入通院慰謝料は「入通院慰謝料算定表」に基づき計算します。
入通院慰謝料は重症用と軽症用にわかれており、以下のように使い分けます。
- 重症用:骨折など、軽傷に該当しないケガで用いる
- 軽症用:軽い打撲や挫創などで用いる
道路で寝ている人が事故に遭う場合、被害者の意思で避けたり車道からずれたりすることができないため、重症になりやすい傾向にあります。
そのためまずは【重症用】の入通院慰謝料算定表から紹介します。
次に【軽症用】の入通院慰謝料算定表です。
慰謝料計算機を活用!
すでに保険会社から慰謝料金額が提示されており、適切な金額かどうか確認したい方は、慰謝料計算機をお使いください。
利用料無料・個人情報の登録不要で、弁護士基準の慰謝料がかんたんに計算できます。
休業損害
休業損害は、交通事故でケガをして仕事を休んだ分の収入減少を補償するものです。
休業損害としてもらえる金額は、「休業日数×基礎収入(1日分の収入)」で計算します。
基礎収入をいくらにするかは算定基準ごとに異なります。
算定基準 | 基礎収入の求め方 |
---|---|
自賠責基準 | 日額6,100円* |
任意保険基準 | 自賠責基準と同額~やや高額な程度 |
弁護士基準 | 事故前の被害者の収入を日割りにした金額 |
*2020年3月31日までに発生した事故なら日額5,700円
なお、休業損害は収入がない専業主婦や学生、無職者でも請求できます。
交通事故の休業損害について詳しくは、『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方、いつもらえるかを解説』をお読みください。
治療や通院にかかった費用
ケガの治療や入通院に関する、以下のような費目を請求できます。
請求できる治療に関する費目の例
- 治療費
- 入院雑費
- 通院交通費
- 器具・装具費
- 付添看護費 など
後遺障害に認定された場合|後遺障害慰謝料と逸失利益
事故で負った後遺症が「後遺障害」に認定された場合、前述した費目に加えて、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益が請求できます。
道路で寝ている人が事故に遭った場合は重症になりやすく、後遺障害に認定される可能性も比較的高いといえます。
そのため、まだ後遺障害認定の申請をしたことがないという方は、ご自身の後遺症が後遺障害に該当するかどうか、『【後遺障害等級表】認定される後遺症の内容が一覧でわかる』で確認してみてください。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて請求できる金額の相場が決まっています。
以下が、弁護士基準で計算した場合の後遺障害慰謝料の相場です。
等級 | 慰謝料相場 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800 |
2級・要介護 | 2,370 |
1級 | 2,800 |
2級 | 2,370 |
3級 | 1,990 |
4級 | 1,670 |
5級 | 1,400 |
6級 | 1,180 |
7級 | 1,000 |
8級 | 830 |
9級 | 690 |
10級 | 550 |
11級 | 420 |
12級 | 290 |
13級 | 180 |
14級 | 110 |
単位:万円
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺症による労働能力の低下がなければ、将来的に得られていたはずの収入を補填するものです。
逸失利益は給与所得者や自営業者だけでなく、専業主婦や子ども、無職者でも請求できます。
後遺障害逸失利益の計算式は、「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」です。
逸失利益の計算は非常に複雑です。しかし、逸失利益は損害賠償金の費目の中でも高額になりやすいため、適切な金額で請求することが重要です。
関連記事では、逸失利益の詳しい計算方法を具体例とともに解説しています。ぜひ参考にしてください。
関連記事
【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき
被害者が死亡したときに請求できる損害賠償金
道路で寝ている人が事故に遭い、死亡してしまった場合に、被害者の家族が加害者側に請求できる損害賠償金の費目を解説します。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、事故により命を落とした被害者とその遺族の、精神的苦痛に対する補償です。
死亡慰謝料には、被害者本人に支払われる慰謝料と、遺族に支払われる慰謝料があります。ただし、被害者本人はすでに亡くなっているため、遺族の中から選任される「相続人」が代わりに請求や受け取りを行います。
そのためこの記事では、被害者本人に支払われる慰謝料と遺族に支払われる慰謝料をまとめた金額を「死亡慰謝料」とします。
死亡慰謝料の金額
死亡慰謝料の金額は、計算に使う算定基準ごとに異なります。
自賠責基準の死亡慰謝料は遺族の人数によって決まります。ここでいう遺族とは、父母(養父母含む)、配偶者、子(養子や認知した子、胎児を含む)です。
遺族が1名なら950万円、2名なら1,050万円、3名なら1,150万円です。被害者に被扶養者がいた場合は、さらに200万円が加算されます。なお、遺族がいない場合の死亡慰謝料は400万円です。
対して弁護士基準の死亡慰謝料は、被害者の家庭内での地位や属性により金額が変わります。
被害者の立場 | 慰謝料相場 |
---|---|
一家の支柱である | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
死亡慰謝料に関しても、弁護士基準で請求するためには加害者側の保険会社との交渉が必要になります。
交通事故の死亡慰謝料について詳しくは、『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』をお読みください。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、今回の事故で死亡しなければ、将来的に得られていたはずの収入を補填するものです。
死亡逸失利益の計算式は、「1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数」です。
すなわち、死亡しなければ得られていたであろう収入から、死亡しなければ支出していたであろう生活費と中間利息(ライプニッツ係数を利用して計算)を差し引いた金額が、死亡逸失利益となります。
死亡逸失利益の目安
計算方法が非常に複雑なため、ここでは死亡逸失利益がどのくらいもらえるのか、イメージをつかんでいただくための目安を紹介します。
死亡時の年齢 | 37歳 |
収入 | 600万円 |
被害者の立場 | 一家の支柱 |
被害者の被扶養者 | 2人以上 |
死亡逸失利益 | 約8,232万円 |
死亡時の年齢 | 70歳 |
収入 | 280万円 |
被害者の立場 | 男性(独身) |
死亡逸失利益 | 約982万円 |
葬儀費用
交通事故により被害者が亡くなった場合、遺族は加害者に対して150万円程度を上限として葬儀費用の実費請求ができます。ただし、金額の正当性を証明できれば150万円以上の金額が補償されることもあります。
葬儀費用として請求できる費目は以下のようなものです。
請求できる葬儀費用の例
- 通夜・葬儀
- 火葬
- 祭壇
- 墓石
- 位牌 など
香典返しや引き出物代、遺体運送料などは、過去に請求が認められた事例があるものの、通常は請求できないことが多いです。
道路で寝ていてひき逃げされた場合
加害者が見つかるまで各費用は自己負担
道路で寝ている人がひき逃げされてしまった場合は、加害者が見つかるまで被害者が治療費や通院交通費などを自己負担する必要があります。
加害者特定までの負担を減らすためには、被害者が加入する保険の活用が有効です。
ひき逃げされた場合に使える保険には、以下のようなものがあります。
- 人身傷害補償保険
- 交通事故で被保険者やその家族が死傷したときに、治療費や休業損害などを補償
- 保険加入時に設定した金額を上限に、実際の金額が支払われる
- 過失相殺の影響を受けずに補償される
- 無保険車傷害保険
- 加害者の車が無保険のとき、加害者がわからないときに使用できる
- ただし、被害者が死亡または後遺障害認定された場合のみ
- 補償内容は人身傷害補償保険と同じ
加害者が特定されたあとは、ケガの治癒または症状固定・後遺障害認定後に、通常の交通事故と同じく損害賠償請求のための示談交渉をはじめます。
ひき逃げを理由に過失割合が変わることはない
加害者がひき逃げした場合、「ひき逃げをしたのだから、加害者の過失割合が高くなるのではないか」と考える方も多いでしょう。
しかし、ひき逃げで加害者の過失割合が増えることはありません。
過失割合は、事故が発生した時点での両者の行動や状況に基づいて判断されます。
つまり、事故後の行動は原則として過失割合の算定には含まれません。ひき逃げは事故発生後の行為ですので、過失割合の判断には影響しないのです。
ひき逃げは慰謝料の増額事由になる
ひき逃げによって過失割合が変わることはありませんが、慰謝料の増額事由にはなり得ます。
慰謝料は、事故で生じた精神的苦痛に対する補償です。ひき逃げの場合は被害者の精神的苦痛がより大きいと考えられるため、慰謝料が増額される可能性があるのです。
ひき逃げによる精神的苦痛の増大は、主に以下のような点から認められます。
- 救護義務違反を犯した加害者に対する憤りを感じる
- 加害者が不明なことで将来的な補償への不安を感じる
- 加害者が速やかに救護していれば、ケガの苦痛はもう少し軽かったかもしれない
どのくらい慰謝料が増額されるかは交渉次第です。加害者側から提示された慰謝料額に、ひき逃げによる増額がなされているのか判断できない場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
道路で寝ている人が事故に遭ったときに気になること
道路で寝ていたことは罪に問われる?
道路で寝ている人は、路上横臥(ろじょうおうが)として、道路交通法違反で罰金の対象となる可能性があります。路上横臥とは、道路上で横たわったり寝たりする行為です。
法律上、路上横臥が罰金の対象となるのは「交通の妨害をする目的で路上に寝転んでいる場合」とされています。つまり、故意に交通を妨害する意図があったかどうかが問題になります。
そのため、たとえば酔っぱらって道路で寝てしまった場合や、体調不良で道路に倒れてしまった場合には、故意であったと証明するのは難しいでしょう。
ただし、これは罰金の可能性が完全に無いということではありません。たとえ罰金の対象にならなくても、道路で寝ることは非常に危険な行為なので十分な注意が必要です。
過失相殺された分の損害賠償金をもらう方法はある?
過失相殺された分の損害賠償を受け取るためによく活用される方法としては、被害者が加入している「人身傷害保険」の利用が挙げられます。
人身傷害保険は事故の過失割合に関わらず、被保険者の人的損害を補償する保険です。つまり、過失相殺で減額された分を保険金でカバーできるイメージです。
人身傷害保険について詳しく知りたい方は、『人身傷害保険ってどんな保険なの?慰謝料も受け取れる保険について解説』をお読みください。
損害賠償金や過失割合の交渉はアトム法律事務所に依頼
道路で寝ていた人が事故に遭った場合、寝ていた人にも責任があると考え、「加害者側の保険会社が提示してきた示談内容にそのまま合意しよう」と考えている方もいるのではないでしょうか。
しかしながら、基本的に加害者側から提示される損害賠償金額や過失割合は、被害者に不利な内容であることが多いです。
そのためまずは、アトム法律相談所が実施している電話やLINEによる無料相談で、加害者側から提示された内容が適切なものかどうかご確認ください。
また、ご相談時に無理にご契約を勧めるようなことは一切ありません。弁護士が介入することで増額が見込まれる金額と弁護士費用とのバランスを見て、弁護士に依頼すべき事案かどうかご検討いただけます。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了