交通事故は病気が原因の場合も多い?自動車保険がおりないケースもある?
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人間なら誰でも突然、病気を発症する可能性があります。
もし、運転中に病気の発作などが起こり、事故が発生してしまったらどうなってしまうのでしょうか。
事故原因が病気だったとしても、自動車保険があれば基本的には保険で補償されます。
ただし、状況によっては保険がおりないケースもあるので注意が必要です。
車を運転する場合は、定期的な健康診断を受けるなど健康管理も十分に行いましょう。自分自身の身体を見つめなおすことは、交通安全にもつながります。
目次
病気が原因の交通事故についての基礎知識
警察が国内で発生した交通事故全件を集計している交通事故統計データを用いて、健康起因による事故の発生状況を分析した「交通事故統計データを用いた健康起因事故の分析と運転支援」によると、発作や急病として定義されている4項目(てんかん、心臓麻痺、脳血管障害、その他)を原因とする交通事故は10年間(2010~2019年)で2,556件であり、増加傾向にあります。
2010~2019年の交通事故全体の件数は減少傾向にあるため、病気を原因とする交通事故が全体のなかで占める割合も増加傾向にあるといえます。
また、上記2,556件の内訳として、死亡事故は182件、重傷・軽傷事故は2,374件であり、死亡事故に至るケースは健康起因事故の7.1%を占めています。
2010~2019年の交通事故の内訳は、死亡事故が40,011件、重傷・軽傷事故は556万6,132件であり、死亡事故比率は0.7%のため、病気を原因とする交通死亡事故は、交通事故全体の約10倍の発生割合となっており、危険性が高いといえます。
運転中に体調不良を感じたら?病気起因の事故防止対策
上記のとおり、病気が原因の交通事故は増加傾向にあり、死亡事故となる危険性が高くなっています。このような健康起因事故を防ぐにはどうしたらよいか、対策を確認していきましょう。
運転をすぐに中止して事故を未然に防ごう
運転中に体調不良を感じたら、すぐに運転を中止して事故防止に努めてください。
国土交通省のマニュアルでは、すぐに運転を中止すべき体調不良を以下の通りとしています。
ドライバーを雇っているような運送事業者向けに作成されたマニュアルですが、通常の運転でも参考となるでしょう。
運転を中止すべき体調不良
- 左胸や左肩~背中にかけた痛み、締め付けられるような圧迫感がある
- 息切れしている、呼吸がしにくい
- 脈が飛ぶ、胸部の不快感、動悸、めまい
- 片方の手足・顔半分が麻痺したり、しびれている
- ろれつが回らない、言葉が出てこない
- 片目が見えない、物が二重に見える、視野が欠けている
- 激しい頭痛
※ 参考:国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」
運転中に体調不良を感じたら、車を安全な場所に停車して運転を中止しましょう。無理は絶対にしないで、救急車を呼んだり周りに助けを求める等してください。
運転前に自分の体調を確認するのも大事
運転前にも以下のような体調不良を感じる時は、運転を見合わせましょう。
運転前のチェックリスト
- 熱がある
- 激しい疲れを感じている
- 気分が悪い
- 腹痛・吐き気・下痢がある
- 身体に痛みを感じている
- 眠気がある
- 運転に影響を与えるような薬を服用した
※ 参考:国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」
これらは、すぐに運転を中止すべき体調不良の前兆である可能性もあります。いつもと違うな、体調が優れないなと感じたら、無理して運転せず休むようにしましょう。
医師の診察や健康診断を受けよう
運転中に急激な体調不良を感じたら、無理をせずに休み、医師の診断を受けるようにしてください。
一定の病気等がみられる場合は、運転免許が取消・停止されることもあるので、体調不良の原因を探りましょう。
また、病気を起因とした交通事故を予防する方法としては、定期的な健康診断も有効です。年に一回の健康診断を通して、自身の健康状態を把握しておきましょう。
事故を防ぎきれない突発的な病気もある
病院の受診や健康診断を適切に行っていても、事故を防ぎきれない突発的な病気も中にはあります。
国土交通省がまとめた令和3年度事業用自動車健康起因事故対策協議会「健康起因事故発生状況と健康起因事故防止のための取組」によれば、平成25年~令和2年の間に健康起因事故を起こした運転者2177人のうち、心臓疾患・脳疾患・大動脈瘤及び解離が31%を占めるとされています。
いつ何時、発症するかわからない病気なので、日ごろから健康に気を付けた生活を送りましょう。
病気が原因の交通事故でも保険はおりる?
事故相手の病気が事故原因なら補償される
事故相手の病気が原因で交通事故が発生して損害を被った場合、基本的に事故相手が加入する自賠責保険や任意保険といった自動車保険から補償を受けられます。
自賠責保険に関しては、被害者保護の観点から事故相手が病気を原因として事故を起こしたとしても、保険の補償対象となります。
任意保険に関しては、保険会社ごとに判断が分かれるところですが、こちらも被害者保護の観点から基本的に補償は受けられるでしょう。
自分の病気が事故原因ならケースバイケース
自分の病気が原因で自損事故などを起こした場合の補償は、基本的に自分が加入する任意の自動車保険(車両保険・人身傷害保険・搭乗者傷害保険特約など)からおります。
ただし、病気から直接生じた損害については事故による損害ではないので、自身の自動車保険により補償はなされません。そのため、死因が事故による外傷か元々の病気によるものかが分かりにくいケースでは、自動車保険がおりるかどうかが大きな問題になることがあります。
また、事故相手を死傷し、損害を与えてしまった場合の補償も、自分が加入する任意の対人賠償保険や対物賠償保険からおりることになるでしょう。
しかし、自動車保険の種類によっては、事故状況や運転までの経緯に応じて保険がおりない(保険金の支払い対象外となる)ケースがあるのです。
道路交通法66条において、病気の影響により正常な運転ができない恐れのある状態で運転してはならないと規定されています。
そのため、病気により事故を起こす危険性があると認識しながら運転を行い、事故を起こしたというケースでは、保険がおりない可能性があるといえるでしょう。
どのようなケースなら補償の対象となるか、保険の契約約款をよく確認しておくようにしてください。体調に不安を感じる場合には、他人だけでなくご自身の安全のためにも、そもそも車を運転することは避けるべきでしょう。
補足|自動車保険がおりないケース
事故相手でも自分でも、偶発的に生じた病気が事故原因の場合、基本的には保険がおりることがわかりました。
しかし、自動車保険の支払い条件に該当しない(免責事由に該当する)場合には、保険はおりません。
免責事由は保険会社や保険の内容によって違いがありますが、以下のような事情がある場合には、保険がおりない可能性があるでしょう。
- 故意による事故
- 飲酒運転や違法薬物服用による事故
- 無免許運転による事故
- 事故相手が父母、子供、配偶者の事故
- 自然災害などによる損害の場合 など
病気と自動車保険・運転免許との関係は?
自動車保険加入時に病気の告知義務はない
生命保険や医療保険は病気があると加入しにくい側面があるでしょう。
加入の際に病気(持病)の有無や健康状態の告知を求められるのが一般的だからです。
一方、自動車保険は病気や健康状態の告知義務はなく、「運転免許証を取得・保有しており、車を所有し、運転できる人」であれば、自動車保険に加入することが可能です。
ただし、一定の病気等があると運転免許証を取得または更新できず、車を運転できないので、そもそも自動車保険に加入する必要がなくなってしまいます。一定の病気等については後述します。
また、自賠責保険は人にかける保険ではなく、車両そのものに加入が義務付けられた強制保険なので、病気の有無は関係ありません。
病気の種類によっては運転免許が取れない
運転をつづければ重大事故を起こしかねない「一定の病気等」を患っている場合は、運転免許の取消や停止処分になることがあります。
一定の病気等の具体例
- 認知症
- 統合失調症
- てんかん
- 再発性の失神
- 無自覚性の低血糖症
- そううつ病
- 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
- アルコール中毒・薬物中毒
- その他、安全な運転に支障のあるもの
※ 道路交通法等で定められているもの
認知症と診断されると一律で運転免許取消または更新ができませんが、認知症以外の病気は個別に判断されます。
認知症の場合、知らず知らずのうちに発症したり悪化したりしてしまっている可能性もあるでしょう。認知症の家族が事故を起こしてしまった場合の対処法については、『認知症の家族が事故を起こしたらどうなる?責任の所在や補償を解説』の記事で詳しく解説しています。
一定の病気等を隠すと罰則あり
運転免許証を取得・更新する際、一定の病気等の症状に関する「質問票」を提出する必要があります。
質問項目
- 過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状を含みます。)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
- 過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。
- 過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある。
- 過去1年以内において、次のいずれかの状態に該当したことがある。
- 飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある。
- 病気の治療のため、医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒したことが3回以上ある。
- 病気を理由として、医師から、運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている。
回答は「はい、いいえ」を選ぶだけで、病名等の記載は求められません。
もし、一定の病気等を患っているのに質問票に虚偽の回答をして病気等を隠した場合には、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
交通事故にあった時の対応
(1)安全確保をしつつ警察や保険会社へ連絡
交通事故にあったら怪我人の有無を確認し、自身の安全にも十分に注意しながら怪我人を救護したうえで救急車を呼びます。
自身が体調不良を起こして事故が起きた場合は、無理に動かず救護を待ちましょう。
また、事故の二次被害を防ぐために、事故車両を路肩の安全な場所に移動したり、後続車両に発煙筒を使って事故発生を知らせたりして、周囲の安全を確保してください。
高速道路上における交通事故では、後続車による二次災害の可能性が高いので、より慎重な対応が求められます。
詳しく知りたい方は『高速道路で事故にあった時の対処法|料金所付近の事故の過失割合は?』の記事をご覧ください。
警察への報告は義務
周囲の安全確保が済んだのであれば、警察に連絡しましょう。
仮に、怪我人のいない物損事故であっても、事故が発生した場合の警察への報告は義務づけられているので冷静に対応しましょう。
また、警察へ報告をしていないと、後の手続きで必要書類として求められることの多い交通事故証明書が、自動車安全運転センターで発行されなくなってしまいます。
警察への連絡を行ったのであれば、加入する任意保険会社にも連絡しましょう。事故発生の報告を怠ると、本来おりるはずであった保険がおりない恐れがあるのです。
あわせて、事故相手が加入する任意保険会社もわかれば連絡してもらうようにしましょう。
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事故発生から示談締結までの流れ:交通事故被害者がすべき対応の流れ
(2)怪我の治療
交通事故で怪我したら、病院を受診して適切な治療を受けるようにしてください。
軽傷の場合だと整骨院や接骨院で済ましてしまおうとする方も多いのですが、一番はじめは病院で医師による診断を受けましょう。
医師による診断を受けないと、診断書が得られないためです。
また、怪我がないように思っても、念のため病院を受診しておくようにしてください。
事故直後は興奮のあまり痛みを感じないことも多くなっています。怪我がないことを確認することも大切です。
交通事故発生の後に、いつまでにどこへ受診すべきなのかについては『交通事故で病院の何科をいつまでに受診すべき?受診後は賠償問題を弁護士に相談』記事で詳しく知ることができます。
完治または症状固定まで治療を
交通事故で怪我をしていたら、必ず完治または症状固定まで治療を継続するようにしましょう。途中で治療を止めてしまうと、請求できる損害賠償金の金額に大きく影響します。
怪我が完治せずに症状固定と判断された場合、損害賠償金の金額をさらに大きく左右する後遺障害等級の認定を受けることが重要です。
症状固定と後遺障害等級の認定については、『症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談』の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
(3)損害額の算定
怪我が完治するか、症状固定して後遺障害等級の認定を受けたら、損害賠償金の算定が可能になります。
交通事故では主に、治療費・休業損害・入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・逸失利益・修理費等を合計した損害賠償金を事故の相手方に請求することが可能です。
怪我のみの場合は、治療費・休業損害・入通院慰謝料等を請求できます。
怪我をして後遺症が残った場合、後遺障害等級が認定されると、治療費・休業損害・入通院慰謝料等に加えて逸失利益と後遺障害慰謝料の請求が可能です。
損害賠償金の内訳や各費目の計算方法の詳細は、『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説』の記事をご参考ください。
(4)示談交渉の開始
通常、事故の相手方が加入する任意保険会社から損害賠償金を提示されて示談交渉が開始することになるでしょう。
交通事故前から持病があると、示談交渉において任意保険会社から、元々あった持病なので交通事故とは関係ないと因果関係を争われたり、持病で後遺症が重くなったとして、素因減額を主張されたりするケースがあります。
また、任意保険会社が提示する損害賠償金は、被害者が本来であればもらえるはずの妥当な金額よりも相当低い金額になっているのがほとんどです。
提示された金額を鵜呑みにしないでください。
もっとも、被害者のみで損害賠償金の増額交渉に臨んだとしても、任意保険会社は簡単に認めてくれません。
「保険会社としてもできるかぎりの金額を提示しています」
「他の皆さんも、このくらいの金額でご納得されています」
任意保険会社はさまざまな言い訳を並べて、増額を受け入れる可能性は低いでしょう。
一方、弁護士が増額交渉を行えば、任意保険会社は増額を認めてくれる可能性が高まります。
弁護士が示談交渉に介入してくると、民事訴訟に発展する可能性を保険会社は危惧して、増額を認めてくれるのです。
民事訴訟に発展すれば、任意保険会社としては手間も費用も余計にかかってしまうので、示談交渉の段階で早めに手を打っておこうと考えます。
被害者のみで増額交渉をつづけても、保険会社は強気で反論してくるでしょう。損害賠償金の増額を実現したいなら、まずは弁護士相談からはじめてみることをおすすめします。
弁護士に相談・依頼を行えば、損害賠償金の増額以外にも多くのメリットが生じます。
詳しく知りたい方は『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事をご覧ください。
交通事故の示談交渉に困ったら弁護士に相談しよう
任意保険会社との示談交渉を一人で行うと、肉体的にも精神的にも辛い状況が続きます。
「提示された金額が妥当なのかわからない…」
「交渉に疲れたから早く終わらせたい!」
「相手の病気を起因とした事故なら慰謝料増額の事由になる?」
早く示談を終わらせられるなら少しくらい低額でも進めてしまおうかという気持ちもあるかもしれません。
しかし、弁護士が示談交渉に介入することで、やり取りの辛さから解放されるだけでなく、増額の可能性が高まります。
交通事故の示談交渉で困ったら、今後どのような対応をとっていくべきか弁護士に相談してみましょう。
アトム法律事務所では、弁護士による無料の法律相談を実施中です。無料の法律相談は、予約を24時間365日いつでも受け付けています。気軽にお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了