認知症の家族が事故を起こしたらどうなる?責任の所在や補償を解説

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認知症の家族事故を起こしたら?

高齢化が進む中で認知症の方の増加に伴い、認知症を原因とする交通事故の増加も危惧されます。

70歳~74歳では運転免許更新時に高齢者講習を受ける必要があり、75歳以上ではさらに認知機能検査も受ける必要があります。認知症と診断されれば、車を運転してはいけません

たとえ認知機能検査で問題がなかったとしても、加齢による身体機能の低下は運転に影響しますし、知らず知らずのうちに認知症を発症している可能性もあります。
認知症の家族が事故を起こしてしまったら、どうなってしまうのでしょうか。

本記事では、認知症の家族が事故を起こしてしまった場合の責任の所在から、適用される保険、事故を防ぐための取り組みとしての免許返納制度などについて解説します。

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認知症の家族が事故を起こしたら責任を負うのは誰?

本人に責任能力がなければ原則的に家族が責任を負う

事故などにより他人を死傷させたり、他人の物を壊したりした場合、民法上の損害賠償責任を負わねばなりません。

しかし、認知症の方が車を運転して事故を起こしたような場合、認知症の方本人には責任能力がなかったと考えられ、認知症の方本人に損害賠償責任は発生しないことになります。

もっとも、損害賠償責任自体が無くなるという意味ではありません。認知症の方を監督する立場にある家族(監督義務者)などが代わって、損害賠償責任を負わねばなりません

前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(略)

民法 第七百十四条

家族のどこまでの範囲を監督義務者とするかは、諸般の事情から総合的に考慮されることになるでしょう。

監督義務者を判断する諸般の事情

  • 認知症の方の生活状況や心身の状況
  • 認知症の方の介護や看護の状況
  • 認知症の方と家族の関係性(同居の有無や日常の接触頻度など)
  • 認知症の方の財産管理の関与度合い
    など

自分自身が起こした事故でなくても、家族が事故を起こせば代わりに損害賠償責任を負わなけらばならない可能性があります。

家族が監督義務を果たしていれば責任を負わない

認知症などで責任能力がない場合、監督義務者が代わりに損害賠償責任を負わねばならないと先述しましたが、民法714条には以下の通り続きがあります。

(略)ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

民法 第七百十四条

認知症の方が運転しないように監督義務者として家族が十分に管理していたにもかかわらず起きてしまったような事故であれば、損害賠償責任を負う必要はありません。

言い換えると、認知症なのに運転しているのを放置していれば、監督義務者が損害賠償責任を負わねばならないのです。

認知症の家族が事故を起こした時に使える保険

事故相手に対する補償は自動車保険

交通事故で事故相手を死傷させた場合、事故相手に対する補償は自賠責保険や任意保険といった自動車保険で行われます。

  • 自賠責保険
    車にかける強制保険
    自動車損害賠償責任保険(自賠責法)で支払い基準の限度が定められている
  • 任意保険
    自賠責保険を超える額を補てんするために任意で加入する自動車保険
    事故相手に対する補償の「対人賠償責任保険」・「対物賠償責任保険」と、運転者に対する補償の「人身傷害補償保険」・「搭乗者傷害保険」・「車両保険」に大きくわけられる

被害者保護の観点から、認知症で事故を起こして事故相手が死傷したとしても自賠責保険の補償対象となります。

任意保険に関しては任意保険を販売する保険会社ごとに判断が分かれますが、基本的に被害者保護の観点から事故相手に対する補償は行われるようです。契約内容をご確認ください。

もっとも、任意保険が適用されるかどうかは、認知症の症状を事故前に把握していたのかどうかがポイントになります。

任意保険の補償対象になるかの判断基準

補償対象判断基準
なる免許更新できていた
医師から「自動車の運転可能」と診断されていた
ならない医師から「自動車の運転不可」と診断されていた

保険会社によって扱いは異なりますので、契約する保険の内容をしっかり確認しておきましょう。

その他に使える保険があるかも確認する

交通事故でなく、日常生活で生じる事故では個人賠償責任保険で対応できるケースもあるでしょう。自治体によっては、認知症の方向けの個人賠償責任保険を提供しているところもあるようです。

生活状況にあわせた保険に加入しているか見直してみてください。

認知症の運転者自身に対する補償はケースバイケース

一般的に、自損事故の場合や事故相手が無保険の場合、以下のような保険に加入していれば運転者自身に対する補償が受けられます。

  • 人身傷害補償保険
    被保険者や家族などに人身損害が発生した場合に補償を受けられる保険
  • 搭乗者傷害保険
    契約自動車に乗車していた人に人身損害が発生した場合に補償を受けられる保険
  • 車両保険
    事故で自分の車や物が壊れた場合に補償を受けられる保険

認知症の方の事故の場合、被害者保護の観点から事故相手への任意保険による補償は認められる可能性が高い一方、認知症の運転者自身に対する補償は保険会社ごとに対応が異なるので、ケースバイケースと言わざるを得ません。

保険約款に「被保険者の疾病または心神喪失によって生じた損害」と明記されている場合は、補償対象外となります。約款を読んでもよくわからない場合は、保険会社に問い合わせておくことをおすすめします。

認知症と事故に関するよくあるお悩み

認知症の種類によって起きやすい事故がある?

認知症と一口にっても種類はさまざまで、認知症の種類ごとに起きやすいとされる事故があります。

認知症の種類起きやすい事故の内容
アルツハイマー型認知症迷子運転(行き先が分からなくなる)
駐車や車庫入れで接触する
血管性認知症注意散漫
速度維持が難しい
操作が遅い
前頭側頭型認知症交通ルールが守れない(信号無視、スピード違反)
わき見運転
注意散漫
車間距離を見誤る
レビー小体型認知症幻視(ないはずのものが見える)
運転中でも一時的に意識レベルが低下する

家族の運転に少しでも不安が感じられる場合は、免許返納を促すなど事故を防ぐための対策を取りましょう。

高齢の親が免許返納に応じてくれない?

高齢の親が運転免許の自主返納に応じないとお悩みの方は多いです。

認知症が疑われる場合は、病院を受診して医師の診断を受けてみてください。医師の診断により認知症と診断された場合は、運転免許の取消または停止となります。

診断の結果、認知症でなかったのに高齢であるからという理由だけで無理に免許返納を強いると家族関係が悪くなったりすることもあるでしょう。やみくもに免許返納を強いると外出の機会が減って、認知症を発症したり悪化したりしたというケースも聞きます。

しかし、高齢者の運転による事故を防ぐためにも、早めの対応が必要です。

  • 高齢者による事故のリスクを説明する
  • 高齢者教習を受けてもらう
  • 医師などの第三者から説得してもらう
    など

交通事故は他人ごとではないと理解してもらいましょう。

返納したくない理由として、移動する手段がなくなってしまう点を懸念していることもあるようです。

自主返納した後に交付される「運転経歴証明書」は、公的な身分証として使えるだけでなく、バスやタクシーの乗車賃金割引が受けられるなどの特典があります。

車がなくても生活できるのだという免許返納後の生活を具体的にイメージできるよう、説得してみましょう。特典は各自治体によって異なりますので、お住いの地域ごとに調べてみてください。

事故による怪我で認知症が発症してしまった?

交通事故で怪我したことをきっかけとして、認知症を発症するケースもあります。

事故で頭部を打ちつけたり、長期入院のストレスから認知症を発症してしまうことがあるようです。場合によっては、認知症と勘違いされやすい高次脳機能障害の症状が出ていることもあるでしょう。

交通事故を原因として認知症や高次脳機能障害を発症したら、後遺障害等級の認定を受け、後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料などの補償を請求しましょう。

交通事故と認知症の因果関係を証明するのはむずかしい?

認知症は、交通事故に遭わなかったとしても発症していた可能性も考えられます。そのため、交通事故による怪我と認知症との間に因果関係があることを証明する必要があるのです。

医学知識や法律知識を用いて因果関係を証明できなければ、慰謝料などの適切な補償は得られません。

ご家族だけでの対応に不安がある場合は、交通事故案件を扱う弁護士に相談してみましょう。今後の取るべき対応についてアドバイスがもらえます。

アトム法律事務所では、弁護士による無料相談を実施中です。無料相談の予約を24時間365日いつでも受け付けています。気軽にお問い合わせください。

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弁護士に相談した方がいいのか迷っている方は、関連記事『交通事故を弁護士に依頼するメリット8選|弁護士は何をしてくれる?』をご確認ください。弁護士に依頼することで得られるさまざまなメリットを丁寧に解説しています。

まとめ

高齢者による交通事故をふまえて、免許更新時の高齢者講習・認知機能検査など高齢運転者に対する対策の充実や強化が図られています。

しかし、気づかぬうちに認知症の症状が進み、交通事故を起こしてしまう可能性もあるでしょう。

認知症で事故を起こしても、事故相手に対する補償は保険でまかなわれることになりますが、認知症の方本人への補償は保険から十分に受けられない可能性があります。

認知症の家族が事故を起こせば、監督義務者の立場となる人が代わりに損害賠償責任を負う可能性もあります。

高齢の家族の物忘れがひどくなった・身体能力が衰えたと感じたら、免許返納を促すなど事故を未然に防ぐために家族としてできることからはじめましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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