むちうちで症状固定と言われたら?3ヶ月打ち切りの対処法と通院頻度の目安

むちうちでまだ症状が残っている場合、「3ヶ月で症状固定」「治療費は打ち切り」と保険会社から言われても、必ずしもその時点で治療を終える必要はありません。
この記事では、むちうちにおける「症状固定」の意味や治療費打ち切りを求められた時の対処法、後遺障害認定を見据えた場合にどのような通院が評価されるのかを解説します。
「まだ痛いのに治療をやめないといけないの?」
「これ以上通院したら慰謝料はどうなるの?」
「症状固定に同意して後々後悔するのでは?」
こうした悩みを抱える方が、次に取るべき行動の参考となる考え方をお伝えします。
目次
むちうち特有の「症状固定」とは?
まず、保険会社や医師が口にする「症状固定(しょうじょうこてい)」という言葉の意味を正しく理解しましょう。
「症状固定」=「完治」ではない
多くの人が誤解していますが、症状固定は怪我が完全に治った「完治」という意味ではありません。
症状固定とは
これ以上治療を続けても、症状が良くも悪くもならない(改善が見込めない)状態のこと。
つまり、治療効果が頭打ちになったゴール地点を指します。
症状固定と判断された時点で、治療は終了となり、残ってしまった痛みやしびれは「後遺症」として扱われることになります。

症状固定を判断する人とその基準
症状固定を決めるのは主治医(医師)です。
保険会社ではありません。
したがって、保険会社が症状固定を求めてきたとしても、医師が「まだ治療の必要がある」と判断している場合には、直ちに症状固定とされるものではありません。
実務上、医師は次のような点を総合的に見て判断します。
- 治療内容(投薬・リハビリ)が一定期間変わっていない
- 治療を続けても症状が横ばいで改善が見られない
- 医学的にこれ以上の回復が期待しにくい
一方で、痛みやしびれが日常生活に支障を与え、治療による症状の変化が認められると医師が判断する場合には、その時点ではまだ症状固定と判断しないのが一般的です。
「3ヶ月で打ち切り」と言われた時の対処法
保険会社から「むちうちは通常3ヶ月で終わりです」と言われ、治療費の打ち切りを打診されることがあります。
しかし、この「3ヶ月」という期間には医学的な根拠があるとは限らず、実際の症状や回復状況によっては、適切な対応を取ることで治療を継続できる場合もあります。
保険会社が「3ヶ月で打ち切り」と言う理由
保険会社が「むちうちは通常3ヶ月で終わりです」と言う背景には、保険業界で言われる「DMK136」という隠語のような目安が関係していることがあります。
- D(打撲):1ヶ月
- M(むちうち):3ヶ月
- K(骨折):6ヶ月
これはあくまで保険会社側の「目安」であり、被害者の体の状態や医学的な根拠に基づいたものではありません。
実際にも、医師が治療の必要性を認めている場合には、むちうちであっても3ヶ月を超えて治療が続くことがあります。
そのような場合、治療費も引き続き加害者側の保険会社から支払われるケースは少なくありません。
もっとも、医師が治療の必要性を認めていても、保険会社は必ずしもその判断どおりに治療費の支払いを続けるわけではありません。
治療を継続するためには、被害者側から一定の対応が求められることがあります。
治療打ち切りを回避・延長するための3つの対応
まだ痛みを強く感じるにも関わらず、保険会社から治療費打ち切りを提案されて不安を抱く場合には、次のような対応が考えられます。
- 安易に合意しない
痛みが残っているのに無理やり症状固定に同意してしまうと、本来もらえるはずの「後遺障害慰謝料」を請求できなくなるリスクがあります。 - 主治医に相談する
「保険会社から打ち切りと言われましたが、まだ痛みがあり治療を続けたいです。先生はどう思われますか?」と相談しましょう。 - 医師の意見を取り付ける
医師が「まだ治療による改善の見込みがある(=症状固定ではない)」と判断すれば、その旨を保険会社に伝えてもらう、あるいは意見書を書いてもらうことで、期間延長の交渉が可能になります。
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むちうちの通院期間と通院頻度の目安
むちうちで適切な慰謝料を受け取ったり、後遺障害等級(主に14級9号など)の認定を目指したりするためには、どのくらいの期間、どの程度の頻度で通院していたかが重要になります。
後遺障害認定を見据えた通院期間の目安
むちうちで後遺障害等級(主に14級9号)の認定を目指す場合、事故からおおむね6ヶ月以上の通院期間があることが一つの目安とされています。
もっとも、これは後遺障害認定の実務や裁判例の傾向を踏まえたものであり、「6ヶ月通院すれば必ず後遺障害が認定される」という意味ではありません。
一方で、3ヶ月程度で治療を終了してしまうと、症状の継続性や重症性が十分に評価されにくくなる傾向があります。
そのため、痛みやしびれが残っているにもかかわらず、通院を早期にやめてしまうことには注意が必要です。
むちうちの適切な通院頻度
通院期間とあわせて重要なのが、通院の頻度です。
「毎日通院すれば慰謝料が増える」と考える方がいる一方で、仕事や家庭の事情などから、通院回数が少なくなってしまう方もいます。
通院頻度が多すぎる場合にも少なすぎる場合にも、それぞれリスクがあります。
| 頻度 | 評価とリスク |
|---|---|
| 毎日 | 過剰診療とみなされ、治療費や慰謝料が否定されるリスクがある。また「通院以外何もしていない」とみなされ休業損害で揉めることも。 |
| 週2〜3回 | 適切。 継続的な治療が必要であることの証明になりやすい。 |
| 月1〜2回 | 少なすぎる。 「もう治ったのではないか」「治療の必要性がない」と判断され、後遺障害認定が難しくなる。 |
ポイント
MRIなどの画像に異常が写らない(他覚所見がない)むちうちの場合、「真面目に整形外科に通院し続けた実績」が、痛みの存在を証明する重要な証拠になります。
なお、ここでいう「通院」は、主に整形外科や脳神経外科など、医師による診察を継続的に受けていることを前提としています。
整骨院に通う場合も、医師の診察と併用することが重要です。
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むちうちの裁判例にみる通院評価の分かれ目
むちうちの通院期間や通院頻度が後遺障害の有無や慰謝料の算定にどのように影響するのかは、実際の裁判例を見ると理解しやすくなります。
ここでは、通院の仕方が問題となった裁判例を取り上げ、どのような点がどう評価されたのかを整理します。
通院期間・通院頻度が慰謝料減額に影響した裁判例
【減額】長く通ったが「心の問題」とされた裁判例
大阪地判平26・5・13(平成24年(ワ)9617号)
裁判所の判断
「原告の通院期間の長期化には心因的な要素の関与があり、…その評価は過大になるものと考えられる。」
大阪地判平26・5・13(平成24年(ワ)9617号)
- 通院期間は長かったものの、痛みの原因は心因的要素が強いと判断。
- 実際に通院した期間よりも短い期間で計算され、慰謝料が減額された。
損害賠償の増減
減額
【減額】期間は長いが「行く回数」が少なすぎた裁判例
名古屋地判令4・5・27(令和2年(ワ)第5133号、令和3年(ワ)第1644号)
裁判所の判断
「…症状は、遅くとも、本件事故から約3か月後…には、症状固定に至っていたと推認するのが相当である。」
名古屋地判令4・5・27(令和2年(ワ)第5133号、令和3年(ワ)第1644号)
- 通院期間は約8ヶ月に及んだものの、事故の衝撃が軽微であることや、途中で通院頻度が月3回に激減した点を重視。
- むちうちの症状に変化がないまま頻度が落ちたため、約3ヶ月での症状固定を認定。
- それ以降の治療費や慰謝料等は一切認められず、大幅な減額となった。
損害賠償の増減
減額
通院期間・通院頻度が慰謝料減額に影響しなかった裁判例
【減額なし】期間は長いが「行く回数」が少なすぎた裁判例
横浜地裁令和元年11月1日判決(平成30年(ワ)第4722号)
裁判所の判断
「原告花子は、本件事故による傷害等(頸椎捻挫等のほか、非器質性精神障害)の治療のために…449日間にわたる通院を余儀なくされた。……精神的苦痛を慰謝するための通院慰謝料の額は、145万円と認めるのが相当である。」
横浜地裁令和元年11月1日判決(平成30年(ワ)第4722号)
- 精神科通院は8ヶ月で13日(18日に1回)と低頻度だが、症状の継続性を評価。
- 通院回数による減額をせず、約15ヶ月全体の治療期間を認定。
損害賠償の増減
減額なし(※事故態様の悪質性を考慮し、慰謝料額自体は増額)
これらの裁判例から分かるのは、通院期間の長さや回数だけで機械的に判断されるわけではないという点です。
医師の指示や症状の経過に即した通院がなされていたかどうかが重視され、その内容次第では、通院頻度が少なめであっても評価される場合があります。
むちうち治療費打ち切り後に通院を続ける方法
保険会社から治療費の支払いを打ち切られた後も、まだ治療が必要だと医師が判断する場合には通院を続けることも可能です。
その場合、健康保険や人身傷害保険などを利用して、通院を継続します。
健康保険を使って通院する
治療費を打ち切られた後でも、医師が治療の継続を必要と判断する場合には、健康保険を利用して通院を続けることができます。
健康保険を使えば、相手方保険会社からの支払いがなくなった後も自己負担を原則3割に抑えて治療を継続できます。
なお、交通事故による受傷で健康保険を利用する際には、「第三者行為による傷病届」を保険組合などに提出する必要があります。
自身の人身傷害保険を使う
ご自身やご家族の自動車保険に人身傷害保険(人身傷害補償特約)が付いている場合、自分の保険会社から補償を受けながら通院を続けることができます。
人身傷害保険を利用する場合、一般的にはいったん自分で治療費を立て替え、後から保険金として支払われる形になります。
ただし、保険会社との手続きによっては、実質的な自己負担なく通院を続けられるケースもあります。
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打ち切り後に通院を継続した場合のリスク
治療費打ち切り後に通院し、後で相手に請求しようと考えている場合、以下のリスクを知っておく必要があります。
- 治療費が回収できないリスク
後日、示談交渉や裁判などで「打ち切り以降の治療は不要だった(過剰診療)」と判断されると、支払った治療費は自己負担のままになります。 - 後遺障害診断書に関するリスク
健康保険を使った治療に切り替えた際、医師によっては「健康保険診療では後遺障害診断書は作成できない」と誤解している場合があります。 - 医師との関係
治療費を打ち切られる前に、必ず医師に「後遺障害診断書を最後に書いてもらえますか?」と確認し、約束を取り付けておくことが極めて重要です。
打ち切り後の通院でかかった治療費は、後から必ず加害者側に請求できるとは限りません。
事前に医師と治療の必要性や今後の見通しを確認しておくことが重要です。
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むちうちの症状固定後の流れ
症状固定と判断された後は、後遺障害の有無や最終的な賠償額を確定させるための手続きに進みます。
ここでは、一般的な流れを確認しておきましょう。

- 症状固定の診断
医師がこれ以上の改善は見込めないと判断すると、症状固定と診断されます。 - 後遺障害診断書の作成依頼
症状固定後、医師に作成を依頼します。現在残っている自覚症状を正確に伝えることが大切です。 - 後遺障害等級認定の申請
診断書を加害者側の保険会社へ提出すると、損害保険料率算出機構に書類が渡り、審査が行われます。 - 認定結果の通知〜示談交渉
後遺障害等級の認定結果が通知された後、その結果を踏まえて損害賠償額について示談交渉を行います。
むちうちの症状固定に関する解決事例
むちうちの症状固定をめぐっては、治療の続け方や判断のタイミングによって結果が大きく変わることがあります。
ここでは、症状固定や治療費打ち切りが問題となった事案について、アトム法律事務所での解決事例をご紹介します。
症状固定の判断が争点となった解決事例
治療費打ち切り後の後遺障害申請で14級を得た事例
レントゲン上で異常があり症状が残っている状況で、相手方保険会社から治療を打ち切ると言われたケース。
弁護活動の成果
治療費打ち切り後の症状や症状固定後の状態を整理し、後遺障害申請。
後遺障害14級認定を受け、示談金が約202万円増額した。
年齢、職業
40~50代、自営業
傷病名
むちうち
後遺障害等級
14級
症状固定後の通院評価が問題となった解決事例
健康保険で通院継続し、適正な示談金を獲得した事例
保険会社から4ヶ月以上の治療は不要と言われるも、治療継続の必要性や症状経過を踏まえて粘り強く交渉を続けたケース。
弁護活動の成果
治療費の支払い自体は打ち切られたものの、健康保険で8ヶ月目まで通院を継続。
4ヶ月以上の治療を否定する中、慰謝料算定期間を6ヶ月まで広げた示談金を獲得。
年齢、職業
40~50代、会社員他(家族4人)
傷病名
むちうち
後遺障害等級
無等級
打ち切り後に通院実績を積み、後遺障害14級を獲得した事例
治療費打ち切り後も症状が続いていたため後遺障害申請をいったん見送り、通院実績を整え改めて申請を行ったケース。
弁護活動の成果
一度作成された後遺障害診断書を撤回したうえで通院を延長し、実通院日数を確保。
その結果、後遺障害等級14級が認定され、示談交渉により適正な賠償金を獲得。
年齢、職業
40~50代、会社員
傷病名
むちうち
後遺障害等級
14級
まとめ:適切な判断のために
むちうちの治療は、ただ痛みを治すだけでなく、「適切な賠償金を受け取るための実績作り」という側面もあります。
- 症状固定は医師が決めるもので、保険会社の言いなりにならない。
- 後遺障害認定を目指すなら6ヶ月以上の通院が目安。
- 通院頻度は週2〜3回をキープし、極端に少ない・多いを避ける。
- 打ち切り後の通院は医師とよく相談し、健康保険などを適切に使う。
もし、「もうすぐ3ヶ月になるけれど痛みが引かない」「保険会社の対応に納得がいかない」と感じている場合には、示談書にサインをする前に、専門家の意見を確認しておくことをおすすめします。
アトム法律事務所では、交通事故によるむちうちの解決実績を多数有しています。
- 症状固定の判断や治療費打ち切りへの対応
- 後遺障害認定を見据えた通院の考え方
これらについて、保険会社との交渉や示談手続きまで一括して対応しています。
電話やLINEによる無料相談も受け付けており、弁護士費用特約をご利用の場合には多くのケースで実質的な自己負担なくご相談いただけます。

「むちうちで症状固定と言われたが、このまま進めてよいのか」といったご相談だけでも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
