信号のない交差点の事故|過失割合はどう決まる?裁判事例も紹介!
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信号のない交差点での事故で、「過失割合が不当に高く認定された」「保険会社の提示額が納得できない」などのお悩みをお持ちの方へ。
本記事では、信号機のない交差点事故の基本的な過失割合と、過失割合を有利に争うためのポイントを解説します。
信号のない交差点事故で、過失割合が争われた裁判事例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次

信号機のない交差点事故の過失割合とは
事故の過失割合とは
事故の「過失割合」とは、事故の当事者それぞれに、どの程度の注意義務違反(過失)があったかを数値で示したものです。
たとえば、事故の過失割合が「A:B=20:80」の場合、事故の責任がAさんに20%、Bさんに80%あるという意味になります。
過失割合は、事故の状況や道路交通法違反の有無など照らして判断されますが、当事者の主張が食い違い、もめやすい部分です。
信号機のない交差点とは
信号機のない交差点とは、文字通り信号による交通整理が行われていない交差点を指します。
また、信号機が設置されていても、黄点滅信号や赤点滅信号の場合、実務では、交通整理のおこなわれていない交差点として扱われ、本記事で紹介する考え方があてはまります(最一小決昭和44.5.22刑23-6‐918など)。
信号機のない交差点事故の過失割合の決め方
信号のない交差点では、道幅の広さ、一時停止の有無、優先関係、車両の進行方向、道路交通法違反野有無などに応じて、各ドライバーがそれぞれの注意義務を果たす必要があります。
実務では、こうした注意義務違反の有無を判断する際、事故の類型ごとに定められた「過失相殺基準」が活用されています。
実務でよく用いられる過失相殺基準は、以下のような書籍に掲載されている基準です。
事故の過失相殺基準
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版」
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」(通報:赤い本)
過失相殺基準にもとづく過失割合の検討は、まず(1)典型的な事故パターンごとに、「基本の過失割合」を確認するところから始まります。この段階でおおまかな過失割合が決まります。
基本の過失割合を左右する要素
- 道幅(同幅員か、広路か)
- 一時停止規制
- 優先関係
- 車両の位置関係 など
そして、次に(2)具体的な事情を踏まえて、過失割合を調整するための「修正要素」を検討します。
過失割合の修正要素には、以下のようなものがあります。
過失割合の修正要素
- 著しい過失(例:わき見運転等著しい前方不注視、時速15km以上30km未満の速度違反、酒気帯び運転)
- 重過失(例:酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、時速30km以上の速度違反)
- 見とおしがきく交差点か
- 夜間(日没時から日出時まで)か
- 明らかな先入 など
修正要素に該当する事情がある場合、5%~20%程度、過失割合が加算(又は減算)されます。
過失割合の修正要素は、事故パターンごとに異なります。
実務の過失相殺基準に即した詳細な検討をおこなうには、交通事故に強い弁護士に相談するのが近道です。
信号のない交差点の事故(1)直進車同士の事例
さて、ここからは、信号のない交差点における四輪車同士の事故について、基本の過失割合を紹介します。
交差点の道幅がほぼ同じ場合

信号のない交差点で、道幅がほぼ同じで、車両の速度も同程度の場合、基本の過失割合はA(左方車)40:B(右方車)60です。
左方優先関係(道路交通法36条1条1号)があるため、左方車の過失割合の方が小さいです。
交差点進入にあたり減速した場合
交差点進入時の速度が、交差点事故の損害の回避に大きく関わるため、減速したか否かも過失割合を左右する重要な要素になります。
右方車が減速した場合、基本の過失割合はA(左方車)60:B(右方車)40です。
左方車が減速した場合、基本の過失割合はA(左方車)20:B(右方車)80です。
一方通行違反がある場合
信号機のない交差点で、一方通行を逆行して交差点に進入し、交差道路の直進車と衝突した場合、基本の過失割合は一方通行無違反車20:一方通行違反車80です。
一方通行無違反者にも、他方の車両の徐行義務(法42条1号)ないし安全確認義務があることに着目し、基本的に2割の過失が認められます。
一方が明らかに広い道路である場合
信号機のない交差点で、一方が明らかに広い道路で、車両の速度も同程度の場合、基本の過失割合はA(広路車)30:B(狭路車)70です。
一方が明らかに広い道路(広路)とは、車両の運転者が交差点の入り口においてその判断により道路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものをいいます。
交差点進入にあたり減速した場合
狭路車が減速した場合、基本の過失割合はA(狭路車)40:B(狭路車)60です。
広路車が減速した場合、基本の過失割合はA(広路車)20:B(狭路車)80です。
一方に一時停止の規制がある場合

信号機のない交差点で、一方に一時停止の規制がある場合、両車が同程度の速度で交差点に進入し衝突事故がおきた場合、基本の過失割合はA(一時停止規制なし)20:B(一時停止規制あり)80です。
交差点進入にあたり減速等した場合
停止規制の無い車が減速した場合、基本の過失割合はA(一時停止規制なし)10:B(一停規制車)90です。
一停規制車が減速した場合、基本の過失割合はA(一時停止規制なし)30:B(一停規制車)70です。
一停規制車が一時停止後に交差点に進入して事故がおきた場合、基本の過失割合はA(一時停止規制なし)40:B(一停規制車)60です。
一方が優先道路である場合

信号機のない交差点で、一方が優先道路である場合、出会い頭の衝突事故をおこしたときは、基本の過失割合はA(優先車)10:B(劣後車)90です。
なお、「優先道路」とは、道路標識等により優先道路として指定されているもの及び事故のあった交差点における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいいます。
信号のない交差点の事故(2)右折車と直進車の事例
同一道路を対向方向から右折した場合

信号機のない交差点における右折車と直進車の事故について、基本の過失割合は20:80です。
交差道路から右折した場合
同幅員の交差点での事故
信号機のない交差点で、右折車と交差道路を進行してきた直進車が、同幅員の交差点で衝突した場合、右折車が左方車か右方車かによって、基本の過失割合が異なります。
右折車が左方車の場合、基本の過失割合は直進車(右方車)40:右折車(左方車)60です。
右折車が右方車の場合、基本の過失割合は直進車(左方車)30:右折車(右方車)70です。
いずれも直進車の方が過失割合が小さいです。これは、直進車が、右折車に優先するためです。
なお、「同幅員の交差点」とは、交差する道路の一方が優先道路及び明らかに広い道路(広路)以外の道路である交差点であって、交差道路の一方に一時停止の規制がある交差点を除いたものを指します。
一方が明らかに広い道路である場合
信号機のない交差点において、右折車が狭路から広路に出ようとする場合、基本の過失割合は直進車(広路車)20:右折車(狭路車)80です。
信号機のない交差点において、右折車が広路から(直進車の進入してきた)狭路に入る場合、基本の過失割合は直進車(狭路車)60:右折車(広路車)40です。
信号のない交差点において、右折車が広路から、直進車の向かう狭路に入る場合、基本の過失割合は直進車(狭路者)50:右折車(広路車)50です。
一方に一時停止の規制がある場合
信号機のない交差点で、一時停止すべき車両が右折車の場合、基本の過失割合は直進車(規制なし)15:右折車(規制あり)85です。
直進車に一時停止の規制があり、右折車が左方車の場合、基本の過失割合は直進車(規制あり・右方車)70:右折車(規制なし・左方車)30です。
直進車に一時停止の規制があり、右折車が右方車の場合、基本の過失割合は直進車(規制あり・左方車)60:右折車(規制なし・右方車)40です。
一方が優先道路である場合
右折車が非優先道路から優先道路に出る場合、基本の過失割合は直進車(優先車)10:右折車(劣後車)90です。
右折車が優先道路から、直進車の進入してきた非優先道路に入る場合、基本の過失割合は直進車(劣後車)80:右折車(優先車)20です。
右折車が優先道路から、直進車の向かう非優先道路に入る場合、基本の過失割合は直進車(劣後車)70:右折車(優先車)30です。
信号のない交差点の事故(3)その他の事例
左折車と直進車の交差点事故
交差道路からの左折車と直進車の事故についても、交差点の幅員、一時停止の規制の有無、優先関係などにより、基本の過失割合が異なります。
同幅員の場合、基本の過失割合は左折車(左方車)50:直進車(右方車)50です。
左折車(左方車)が狭路から、直進車の進行する広路に入る場合、基本の過失割合は左折車(左方車・狭路)70:直進車(右方車・広路)30です。
左折車(左方車)が一時規制のある道路から、直進車の進行する一時規制のない道路に入る場合、基本の過失割合は左折車(左方車・規制あり)80:直進車(右方車・規制なし)20です。
左折車(左方車)が、直進車の進行する優先道路に入る場合、基本の過失割合は左折車(左方車・劣後車)90:直進車(右方車・優先車)10です。
右折車同士の交差点事故
信号のない交差点における右折車同士の事故については、交差点の道幅が同幅員の場合、基本の過失割合は左方車40:右方車60です。
一方が明らかに広い道路の場合、基本の過失割合は狭路車70:広路車30です。
一方に一時停止の規制がある場合、基本の過失割合は一時停止の規制のある車75:規制の無い車25です。
一方が優先道路の場合、基本の過失割合は劣後車80:優先車20です。
左折車と対向右折車の交差点事故
左折車と対向右折車の交差点事故とは、左折を始めた左折車の進路に、右折車が進入し、衝突するような事故を指します。
基本の過失割合は左折車30:右折車70です。
右(左)折車と後続直進車の事故
右折車と追越直進車の事故
追越し禁止の交差点で、中央線(ないし道路中央)を越えて追い越した直進車と、あらかじめ中央に寄って合図を出して右折しようとした車が衝突した場合、基本の過失割合は追越直進車90:右折車10です。
右折車と追越直進車の事故(優先道路の場合)
優先道路では交差点内の追越しも可能ですが、道路中央を越えて追い越した直進車と、中央に寄らず右折した車が衝突した場合、基本の過失割合は追越直進車50:右折車50です。
後続直進車が中央線・道路中央を超えない場合
こちらの事故類型は、道幅が広く、直進車と右(左)折車が横に並んで走行できる状況で、先行する右(左)折車が合図は出していたものの、あらかじめ道路中央(または左側端)に寄らずに曲がろうとして、後続の直進車に衝突される事故です。
この場合、基本の過失割合は直進車20:右(左)折車80とされています。
なお、右折車があらかじめ道路中央に寄っていたり、左折車が左端に寄っていた場合は、直進車80:右(左)折車20とする見解があります。
また、右折車があらかじめ道路中央に寄ると右折できない場合や、左折車が左側端に寄ると左折できない場合は、基本の過失割合が直進車40:右(左)折車60になります。
丁字路交差点の事故
直線路直進車と突き当り路右左折車の事故
信号のない丁字路交差点における事故でも、道路の幅や一時停止線の有無、優先関係によって過失割合が変わります。
道幅が同幅員の場合、基本の過失割合は直進車30:右(左)折車70です。
狭路から広路に右(左)折した際に事故がおきた場合、基本の過失割合は直進車(広路車)20:右(左)折車(狭路車)80です。
右(左)折車に一時停止の規制があるときは、基本の過失割合は直進車15:右(左)折車85です。
直進車が優先道路を走行していた場合は、基本の過失割合は直進車10:右(左)折車90です。
右折車同士の事故
信号のない丁字路交差点における右折車同士の事故は、十字路交差点における右折車同士の事故とパラレルに考えられています。
道幅が同幅員の場合、基本の過失割合は直進路右折車40:突き当り路右折車60です。
直進路が広路の場合、基本の過失割合は直進路右折車30:突き当り路右折車70です。
突き当り路に一時停止の規制がある場合、基本の過失割合は直進路右折車25:突き当り路右折車75です。
直進路が優先道路の場合、基本の過失割合は直進路右折車20:突き当り路右折車80です。
信号機のない交差点の事故の事例
信号機のない交差点で過失割合が10:90になった事例
東京地判平成30年3月19日(自保ジ2028-69)
- 事故態様:原告車が南北道路を北進、被告車が一時停止の規制がある東西道路を東進。信号機のない十字路交差点で出会い頭に衝突。
- 裁判所の判断:とりわけ被告車は速度が速く、一時停止規制の見落としなど前方不注視の程度も看過できないと判断。過失割合は原告10:被告90と認めるのが相当とした。
事例について一言コメント
この事例は、一方に一時停止規制がある側の車両の速度が速く、かつ前方不注視が著しかったことで、基本の過失割合(20:80)が修正された事案です。
交差点での出会い頭事故では、ただ単に一時停止の規制があるかどうかだけでなく、速度や注意義務の履行の程度が過失割合に大きく影響することが分かります。
信号機のない交差点で過失割合が40:60になった事例
東京高判令和5年9月20日(令和5年(ネ)第2151号、令和5年(ワ)第3096号)
- 事故態様:優先道路と一時停止規制のある道路とが交差する信号機のない交差点で、一時停止規制のあるX車は、一時停止後、交差点に進入。右方から進行してきたY車と、出会い頭に衝突。Y車は、優先道路を走行していたいが、制限速度を時速40km超過していた。
- 裁判所の判断:原告X(控訴人)は「一瞬だけ一時停止したにとどまり、適切に一時停止したとまではいえない」と判断。被告Y(被控訴人)の速度超過を踏まえ、過失割合はX60:Y40が相当とした。
事例について一言コメント
本事例は、判例タイムズ38の【104】図におおむね沿った判断といえるでしょう。
裁判所は、原告の「一時停止後進入」を認定していません。この場合、判例タイムズ38を参考にすると、過失割合は一時停止規制なしのB車が20%、規制ありのA車が80%になるのが基本です。
さらに、本事例では、B車に制限速度を時速40キロ超過するという過失(重過失)が認められたため、B車の過失割合に20%の修正が加えられたと考えられます。
結果として、B車が40%、A車が60%という過失割合となり、全体として裁判所の判断は、判例タイムズ38の基準に整合的であると評価できます。
信号機のない交差点事故の過失割合の争い方
実況見分調書
警察が人身事故の直後に作成する「実況見分調書」は、現場の状況や各車両の位置関係を示す重要な資料です。
実際、保険会社との示談交渉で用いたり、裁判に証拠として提出することも多いです。
ただし、実況見分調書はあくまで警察官の見立てにすぎないため、必ずしも当事者の言い分が正確に反映されるとは限りません。
事実と異なる点があれば、実況見分の段階で警察にしっかりと伝え、不利な内容が残らないように努めることが大切です。
実況見分の流れについて詳しくは『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』をご覧ください。
ドライブレコーダー
ドライブレコーダーの映像は、車両の速度、位置関係、一時停止の有無などを客観的に示す非常に有力な証拠です。
ドラレコの活用法
- 交差点への進入タイミングを裏付ける
- 停止の有無を裏付ける
- 左右からの車の接近状況を裏付ける
ドラレコは時間が経過すると、データが上書きされることがあります。
出来る限り早く、バックアップをとるなど、証拠映像の保存をおこないましょう。
ドラレコの活用方法については『ドラレコは警察に提出すべき?証拠能力や過失割合への影響も解説』の記事でも紹介しています。
弁護士への相談で有利に進める
交差点事故の過失割合の争いでは、専門的な法的知識や、豊富な交渉経験が求められます。
交通事故に強い弁護士であれば、実況見分調書やドラレコ映像を精査し、過失割合の妥当性について的確なアドバイスが可能です。
相手方保険会社とのやり取りに不安がある方は、早めに弁護士に相談することで、有利な条件で示談を進められる可能性が高まります。
信号機のない交差点の事故、お悩みは弁護士まで
信号機のない交差点で起きた事故では、過失割合の判断が難しくなるケースも少なくありません。
過去の事例を参考にしつつ、適切な対応を取るためにも、弁護士への相談を検討してみてください。
アトム法律事務所では、無料での法律相談を行っていますので、事故後の対応に不安がある方はぜひご活用ください。
弁護士相談の受付は24時間いつでも対応中です。お問い合わせお待ちしています。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了