野生動物と交通事故を起こした!車両保険は使える?通報と事故対応の要点
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シカ、タヌキ、イノシシ、犬、猫といった野生動物との接触事故は誰にでも起こり得る事故です。国土交通省発表の「高速道路会社の落下物処理件数(令和4年度)」による数だけでも、ロードキルは年間5.1万件に及びます。
こうした野生動物のロードキルは物損事故として扱われるので、車の修理についてはドライバーが加入する保険で対応する必要があります。
あるいは接触の衝撃でケガをしたり、避けるために急ブレーキを踏んでむちうちを負った場合には、同様に加入する人身傷害保険などを活用していきましょう。
ここからは野生動物との接触事故を起こしてしまった場合の対応と保険の関係を説明していきます。
野生動物との接触事故にあったときの対応
野生動物との接触事故を起こすと、車両やドライバーの損害だけでなく、動物の命や後続車への二次被害などのリスクもあります。
また、警察に連絡するという対応を怠ると後々の補償請求時に困ることになりかねません。
野生動物との交通事故を起こしてしまった場合の対応をみていきましょう。
1. 二次被害の予防と野生動物の安否確認
動物と接触事故を起こしたら、できるだけ路肩や非常駐車帯に車両を停車させてください。
そして、通行車両に注意しながら、二次被害を防止するために三角表示板などで後続車に異常を知らせましょう。
二次被害防止の対策後は、衝突した動物の安否を確認します。
動物がケガをしていれば、動物病院に連れて行きましょう。
感染症の危険があるため素手で触らず、タオルや段ボールなどで包んでください。
野生動物の治療を無償とする施設でないかぎり、ドライバーが原則負担することになります。
すでに動物が死亡している場合は道路緊急ダイヤル「#9910」に連絡しましょう。
一般道よりも二次被害の可能性が高い高速道路上の事故においては、より慎重な安全確保が必要になります。
詳しく知りたい方は『高速道路で事故にあった時の対処法|料金所付近の事故の過失割合は?』の記事をご覧ください。
2. 警察に通報する
動物との接触事故を起こした場合は、必ず警察に通報しましょう。通報時は必ずガードレール外に出るなど安全な場所に退避してください。
警察に通報すべき理由としては、物損事故であっても交通事故発生の報告が義務付けられているからです。
この義務を怠ると、道路交通法違反に問われることもあるでしょう。
また、動物との接触事故は単独事故となるため、ドライバー自身の加入する任意保険から補償を受けることになります。
保険金の請求には、警察が作成する「交通事故証明書」の提出が必要となるので、警察への通報を行い、「交通事故証明書」の作成を行ってもらいましょう。
交通事故証明書には、事故発生日時、事故発生場所、交通事故の当事者氏名などが記載されています。
交通事故証明書の入手方法
交通事故証明書をもらうには、まず「交通事故証明書申込用紙」に記入をして提出します。
各都道府県の自動車安全運転センターや郵便局またはゆうちょ銀行からの提出・支払が可能です。発行には費用が掛かるため、提出を求められた際は「原本」か「コピー」かを確かめておきましょう。
交通事故証明書の詳しい入手方法については『交通事故証明書のもらい方は?後日取得やコピーの可否も解説』の記事で確認可能です。
3. 任意保険会社に連絡する
車両の修理が必要だったり、ドライバーがケガをしたりしているときは任意保険会社に連絡しましょう。
事故の損害の範囲(車の修理のみか、ご自身もケガをしたのか)を申告して、利用できる保険や利用のメリット・デメリットを聞いておくことをおすすめします。
使用する保険次第では等級が下がり、翌年の保険料に影響を及ぼす恐れがあるためです。
野生動物との事故は単独事故あつかい
野生動物には所有者がいませんので、交通事故は単独の物損事故という扱いになります。
単独事故はいわゆる自損事故となるため、車両側が負った損害については、自分の保険から補償を受ける流れです。
道で野生動物をはねたら何かの罪になる?防ぐ方法は?
偶然の事故の場合には罪に問われることはないでしょう。
そのため、動物との事故を起こした場合にも、あわてず、速やかに警察へ事故発生を連絡するなど適切な対応を心がけてください。
ただし故意に動物を引いた場合には動物愛護法違反、器物損壊罪として処罰される可能性があります。また、ニホンカモシカやイヌワシ、奈良の鹿などは国指定の天然記念物です。こうした天然記念物への殺傷は文化財保護法違反にあたり、懲役刑になる可能性もあります。
野生動物との事故を防ぐ方法
国土交通省の「高速道路会社の落下物処理件数(令和4年度)」で計上される動物は、シカ、熊、イノシシなど大型、タヌキ、キツネ、犬、猫など中型、鳥類などその他小型動物は小型という3分類です。
タヌキを例にあげると、夜行性であること、車のライトに目が眩んで道路上で立ち止まってしまうことが事故にあいやすい要因ともいわれています。
また、動物によっては複数で移動する習性もあり、1匹を避けることが出来ても、後続をはねてしまうこともあるようです。
動物との事故であるロードキルを防ぐためには、以下のような対策を取るべきでしょう。
- 警戒標識が設置されている周辺では遭遇時にすぐ停止できるよう速度を落として走行する
- 夜間はハイビームを使用して動物を発見しやすくする
- ロードキルの多い地域かどうかを事前に確認する
野生動物との事故で保険はおりる?
野生動物との事故では、飼い主のいるペットとの事故と異なり損害を請求できる相手がいないため、自損事故として自身の保険を利用することとなります。
具体的には車両保険や人身傷害保険、搭乗者傷害保険、自損事故保険などがあげられるでしょう。
ただし、契約内容しだいでは補償対象外となることも十分あるので、契約内容をよく確認してください。
物損には車両保険が使える|エコノミー型は要注意
動物と接触したことで車両が破損した場合、ご自身の車両保険から補償を受けることができます。
ただし車両保険には一般型とエコノミー(限定)型があり、エコノミ―型の場合は動物事故による補償を受けられないことも多いです。
一般 | エコノミー | |
---|---|---|
自損事故 | 〇 | ― |
他車との衝突 | 〇 | 〇 |
当て逃げ | 〇 | ― |
台風・洪水 | 〇 | 〇 |
エコノミー型は一般型と比べて補償範囲が狭いです。
そのため、自損事故については補償外となっている可能性があります。
動物事故に関連するものでいえば、鳥類が飛来して窓ガラスにひびが入ったり、ガラスが割れたりした場合の補償のみというエコノミー型も有り得ます。
もっとも、保険商品によってはエコノミー型であっても動物事故の損害に対して保険請求できる場合があるので、詳細な補償内容は必ずご自身の保険会社に確かめるようにしてください。
自損事故でチェックしておきたい自分の保険
人身傷害保険以外にも、ドライバーが加入する任意保険から保険金を受け取れる可能性があります。
たとえば、動物との接触事故でケガをしている場合には、自損事故保険や搭乗者傷害保険を利用できる可能性があるでしょう。
自損事故保険
自損事故保険は、自損事故を起こしたドライバーや、同乗者が死傷した場合に補償してくれる保険です。基本的に、自動車保険には付帯されているものなので、特別な加入手続きは不要とされています。
もっとも人身傷害保険と比べると補償金額が低水準なので、自損事故保険で全ての損害を補てんできるとは言い難いものです。
なお、人身傷害保険と重複している場合は、人身傷害保険のほうが適用され、より広い補償を受けられます。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険は、保険契約者とその家族や、契約車両の同乗者に生じたケガなど、人身損害を補償する保険です。
もっとも実際の発生損額ではなく、こういったケガの場合にはいくら、この部位ならいくら、といった定額計算による保険金支払いがなされます。
このように、人身傷害保険のほかにも自損事故で適用される保険があります。関連記事『自損事故で使える保険や補償の範囲は?』も参考にしてみてください。
野生動物との事故で保険を使ったら等級はどうなる?
一般的に、車両保険を利用すると等級ダウンとなり、翌年の保険料が上がります。
動物との事故も物損事故なので、約款の範囲で保険の利用は可能です。
しかし、保険を使って修理すべきかどうかは、修理代と保険料の増額とを比較して判断する必要があります。ご自身の保険会社の担当者と相談して検討してみましょう。
車両保険の免責に注意
車両保険の免責金額とは、保険会社が補償してくれるもののうち、保険者自身で自己負担する金額のことです。
たとえば、免責金額を5万円とする契約において、事故の修理費用が30万円だった場合には、30万円から免責金額の5万円を控除した25万円が保険金となります。
車両の損害額が免責額を下回る場合、保険金は支払われません。
野生動物との接触を避けてガードレールに突っ込んだら保険はおりる?
非接触の事故であっても、自損事故として車両保険や人身傷害保険から保険金を受け取ることが可能です。
ただし、車両保険が自損事故を対象としていることが前提といえます。
また、警察によって「交通事故証明書」が作成されていないと、保険金請求ができない可能性が高いです。必ず事故の発生を連絡してください。
ガードレールに突っ込んでしまった場合には、ガードレールの修理費用の支払いが必要になる可能性があります。
弁償の手順や利用できる保険などについて詳しく知りたい方は『ガードレールにぶつかった!事故後の報告義務と点数|弁償はどうなる?』の記事をご覧ください。
野生動物との事故でケガをした場合の補償は?
人身傷害保険から治療費や慰謝料がもらえる
動物との接触事故でドライバーや同乗していた人がケガをした場合、人身傷害保険から治療費や慰謝料を受け取ることができます。
交通事故の損害賠償費目には、治療関係費、休業損害、慰謝料、逸失利益といった費目が該当します。
費目 | 内容 |
---|---|
治療関係費 | 治療費、入院費、通院交通費など |
休業損害 | 治療のために仕事を休んだことへの補償 |
入通院慰謝料 | 痛みや苦しみの精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害による精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害逸失利益 | 後遺障害による生涯収入減額への補償 |
死亡慰謝料 | ケガで死亡した精神的苦痛に対する補償 |
死亡逸失利益 | 生涯得るはずの収入を失ったことへの補償 |
※請求可能な費目は被害者の負った損害により異なる
治療費や慰謝料、休業損害として補償される金額は保険約款に基づきます。
関連記事『人身傷害保険ってどんな保険なの?慰謝料も受け取れる保険について解説』では、人身傷害保険についてさらに詳しく解説しています。
野生動物との接触を避けて対向車と接触したらどうなる?
野生動物との接触を避けようとして急ハンドルを切り、対向車と接触事故を起こした場合には、対向車から損害賠償請求をされる可能性があります。
対向車の物的損害については対物賠償保険、人的損害については対人賠償保険を使って対応することになるでしょう。
センターオーバーで対向車に接触している場合には、対向車側には何ら過失がないと判断される見込みです。その場合、相手方からの補償は受けられないので、自身の保険を使うことになります。
野生動物との事故で支払われる保険金にも注意点あり
後遺障害への保険金額は弁護士に相談|無料相談窓口もあり
人身傷害保険から支払われる保険金のほとんどは約款に従うことになるため、増額交渉の余地はありません。
しかし、後遺障害認定を受けた場合は別です。
野生動物との事故でケガを負い、何らかの後遺症が残ってしまうことは十分あり得ます。
たとえば、骨折箇所が動かしづらくなったり、変形したままだったり、指先が動かせないなどの症状があげられるでしょう。
こうした後遺症は1級から14級までの後遺障害等級認定を受けることで、等級に応じた補償を受けることができます。
後遺障害への補償のうち「逸失利益」という費目は、保険の約款に明確な算定基準がないことも多いです。
そのため、後遺障害等級に応じた適正な補償額を提示されていない可能性があります。
後遺障害認定を受けた場合、保険会社から提示されるの逸失利益の金額については、一度弁護士に金額が適切なのかを確認してもらうことをおすすめします。
野生動物との事故で覚えておきたいこと【まとめ】
- 野生動物との接触事故も、必ず警察に報告する
- 野生動物との事故は車両保険を使える(契約内容による)
- 野生動物との事故でケガをした場合は人身傷害保険などに保険金を請求できる
- 後遺障害が残った場合の保険金については一度弁護士に相談する価値あり
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了