ひき逃げされた時の対処法|加害者不明時の保険・救護義務違反の過失割合

ひき逃げは検挙率が高いため、警察への連絡などを適切に行い、その後の示談交渉に備えることが重要です。
しかし、すぐに加害者が見つかるとは限らないため、当面の治療費などは自分で工面しなければなりません。
この記事では、ひき逃げされた時の対処法や加害者特定のためにできること、加害者が見つからない場合に使える保険などについて解説します。
目次

ひき逃げされた時の対処法
(1)救急・警察に連絡|ひき逃げは検挙率が高い
ひき逃げされたら、まずは警察に連絡を入れましょう。
加害者が逃げたひき逃げであっても、警察への連絡は道路交通法上の義務です。怠ると罰則を受ける可能性があります。
また、ひき逃げの場合は警察に連絡を入れることで、加害者が見つかることが多いです。この点からも、ひき逃げされたら警察に連絡を入れるべきでしょう。
警察に連絡を入れると、その日のうちまたは後日、実況見分が行われます。実況見分とは、当事者立ち会いのもと警察が事故現場を捜査することです。
立ち会いは任意ですが、できる限り協力するようにしましょう。
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ひき逃げの検挙率は?
法務省の「令和5年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節/3」によると、令和4年のひき逃げ事故の検挙率は全体で69.3%です。
検挙率の細かい内訳を見ると、重傷のひき逃げでは79.4%、被害者死亡のひき逃げでは101.0%となっています。
被害者死亡のひき逃げの検挙率はもともと高いこともあり横ばいですが、重傷の検挙率・全体の検挙率は年々上昇傾向にあります。
(2)病院で診察を受ける
ひき逃げとは人の死傷が生じている事故のことを指します。
たとえ擦り傷程度のケガであっても、あとから大きなケガが発覚することもあるので、必ず病院で診察を受けましょう。
事故後すぐに病院へ行きケガの状態を調べて記録してもらうことは、自身の保険への保険金請求や加害者が見つかった場合の損害賠償請求のためにも重要です。
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(3)適切な頻度・期間、治療を受ける
治療が始まったら、基本的には医師の指示通りの頻度・期間で治療を受けましょう。
自己判断で治療頻度を下げたり、過剰に治療を受けたりすると以下のようなデメリットが生じます。
- 治るはずのケガが治らない
- 被害者の治療への意欲が低かったとして、加害者が見つかっても慰謝料が減額される
- 保険金詐欺を疑われ、自身の保険金や加害者からの治療費の補償を十分に受けられない
ひき逃げの場合、「加害者が見つかり治療費を請求できるかわからないから、治療費はなるべく抑えたい」と考える人もいるでしょう。
しかし、先述の通りひき逃げの検挙率は高いです。
意図的に治療の頻度を下げたり早く治療を切り上げたりすると、加害者特定後の賠償請求でデメリットが生じうるため注意してください。
なお、被害者が見つかるまでの治療費負担は、保険などの活用で軽減できます。詳しくは後ほど解説するのでご確認ください。
(4)加害者特定につながる情報を集める
被害者自身が積極的に動くことで、加害者の特定につながる重要な手がかりを得られる可能性があります。事故直後の対応がその後の展開を大きく左右するため、落ち着いて、できる限り多くの情報を集めることが大切です。
- 加害車両のナンバーや特徴をすぐにメモする
- 事故状況も記録しておく
- ドライブレコーダーなどを確認する
- 目撃者と連絡先交換をする
具体的に何をすべきかは次章で解説します。
加害者特定・賠償請求のためにできること
加害車両のナンバーや特徴をすぐにメモする
ひき逃げされたら、記憶が新しいうちに加害車両のナンバーや特徴を控えておきましょう。時間が経つと記憶が曖昧になってしまいます。
車種、車の色、見えていれば運転者の特徴などを記録しておくと役に立ちます。
事故状況も記録しておく
加害車両の特徴だけでなく、事故状況も記録しておきましょう。事故状況については以下の場面で詳しい説明が必要になります。
- 警察による実況見分捜査に立ち会う時
- 政府保障事業による補償を受けたい時(後ほど解説)
- 加害者が見つかり、過失割合などについて交渉する時
加害者が見つかるか否かに関わらず、正確な事故状況の証言は重要です。忘れないうちにメモしておいてください。
ドライブレコーダーなどを確認する
自身の車や事故現場周辺の車のドライブレコーダー、防犯カメラ映像なども確認してみましょう。
加害者特定につながる手がかりが見つかる可能性があります。
ただし、事故現場周辺の車のドライブレコーダーや防犯カメラ映像は、頼んでも見せてもらえない場合もあります。
弁護士を通して閲覧をお願いすると応じてもらえることもあるので、お困りの場合は弁護士に相談することをおすすめします。
目撃者と連絡先交換をする
目撃者がいる場合は、目撃者と連絡先を交換しておきましょう。
実況見分に立ち会ってもらったり、加害者が見つかったあとの示談交渉・裁判などで証人として協力してもらったりする可能性があります。
ひき逃げの加害者がわからない・見つかっていない場合の補償は?
自分の保険金でまかなう
ひき逃げされて加害者が見つかるまでの間、治療費や車の修理費などは自身の負担となります。ただし、保険を活用すれば負担を軽減させられます。
ひき逃げされた場合に使える保険には次のものがあります。
- 人身傷害保険
- 無保険車傷害保険
- 車両保険
それぞれについてくわしく見ていきましょう。
人身傷害保険とは?
人身傷害保険とは、交通事故により被保険者やその家族が死傷した場合に、治療費や休業損害などの損害を補償する保険です。
保険加入時に設定した金額を上限として、実際の金額が支払われます。
人身傷害保険の具体的な補償内容は保険会社によって異なりますが、一般的には以下のとおりです。
- 治療費
- 休業損害
- 死亡補償金
- 後遺障害補償金
治療費や休業損害などは本来加害者側が補償すべき費目です。
しかし、ひき逃げで加害者がわからない場合や、被害者側にも過失割合がついて過失相殺が適用された場合、加害者側から十分な補償は受けられません。
人身傷害保険は、そうした時に役立つ保険なのです。
無保険車傷害保険とは?
無保険車傷害保険とは、加害者の車が無保険で十分な賠償を受けられない時に使える保険です。
ひき逃げで加害者がわからないときにも使えます。
補償内容は基本的に人身傷害保険と同じですが、無保険車傷害保険は被害者が死亡した場合、もしくは後遺障害が生じた場合のみ使えます。
車両保険とは?
車両保険とは、車の修理費などを補償してもらえる保険です。
加害者のわからないひき逃げでも利用できます。
政府保障事業を活用する
ひき逃げされて加害者がわからない場合は、政府保障事業を活用することで国から補償を受けられます。
加害者不明のひき逃げ被害者が政府保障事業を使えることは、自賠責法第72条で明言されています。
第七十二条 政府は、自動車損害賠償保障事業として、次の業務を行う。
一 自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときに、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害を塡補すること。
自動車損害賠償保障法第72条
政府保障事業による補償の内容と、補償を受けるための手続きについて解説します。
政府の保障事業の補償内容
政府保障事業の補償内容は、基本的には加害者側の自賠責保険による補償と同じです。
つまり、治療費や休業損害、慰謝料といった人身被害に関する費目について、国が定めた最低限の金額が支払われるということです。
また、自賠責保険からの賠償金同様、以下の上限も設定されています。
上限 | |
---|---|
傷害に関する費目 | 120万円 |
後遺障害に関する費目 | 75万~4,000万円 ※後遺障害等級による |
死亡に関する費目 | 3,000万円 |
政府保障事業で支払われる金額は、被害者側に7割以上の過失があれば過失相殺されます。これも加害者側の自賠責保険に賠償請求する場合と同様です。
合わせて、以下の点にも注意しましょう。
- 労災保険や健康保険などの補償を受けている場合、その分は相殺される
- 損害の内容や他に受けている補償などの調査が実施されるため、申請から支払いまでに時間がかかる
政府保障事業を利用する手続き
政府保障事業の申請手続きをする際は、まず自賠責保険を扱っている損害保険会社に連絡します。自身が加入している保険会社でなくても構いません。
保険会社に政府保障事業の利用手続きをしたいと伝えると、手続きの案内冊子や必要書類の書式などが届きます。それを見ながら必要書類を揃えましょう。
その後、書類請求をした損害保険会社に必要書類を送ってください。
書類送付後、損害内容などについての調査が行われます。調査機関から事故状況などに関する問い合わせを受けることがあるので、対応しましょう。
なお、政府保障事業の利用には時効があります。令和2年4月1日以降の事故における時効は次のとおりです。
時効 | |
---|---|
傷害に関する費目 | 事故日から3年 |
後遺障害に関する費目 | 症状固定日から3年 |
死亡に関する費目 | 死亡日から3年 |
加害者が見つかったときにできること
損害賠償請求の流れ(示談交渉・訴訟)
加害者が見つかったら、損害賠償請求のため示談交渉から開始するのが一般的です。
ケガが完治し治療が終了している、あるいは後遺症が残り後遺障害認定が終了している段階であれば、基本的には加害者側の任意保険会社から示談案が届きます。
内容を確認して問題なければ示談成立、交渉すべき点があれば交渉に入りましょう。
基本的に、任意保険会社は低めの示談金額を提示してきます。提示された内容をそのまま受け入れると不十分な金額しか受け取れないため、増額交渉が必要です。
示談が成立しない場合や、加害者が任意保険に加入していない場合は、民事訴訟の提起も検討します。訴訟では、被害者側が請求する損害額や証拠を裁判所に提出し、最終的には裁判所が賠償額を判断します。
示談交渉・訴訟といった損害賠償の手続きは法的知識が求められる場面も多いです。弁護士に依頼することで適正な金額を受け取れる可能性が高まるでしょう。
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慰謝料の請求額はどのくらい?
ひき逃げ事故の被害者が請求できる慰謝料の額は、ケガの内容や治療期間、後遺障害の有無などによって大きく異なるので、ここで一概に請求額を言い切ることはできません。
ただし、慰謝料の種類には主に以下の3つがあります。
- 入通院慰謝料:入院・通院による精神的苦痛に対する補償。通院日数や期間によって金額が決まる。
- 後遺障害慰謝料:後遺症が残った場合に支払われる慰謝料。後遺障害等級に応じて金額が設定されている。
- 死亡慰謝料:被害者が死亡した場合に、その遺族に支払われる慰謝料。
慰謝料の金額は、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの算定基準のうちいずれかを用いて決められます。
なかでも弁護士基準がもっとも高額になるため、示談交渉の際は弁護士に相談することで、適正な金額を受け取れる可能性が高まるでしょう。

弁護士基準の慰謝料額を確認したい場合は、以下の慰謝料計算機をお使いください。
加害者の刑事責任と民事責任の違い
簡単に言うと、刑事責任は国に対する責任、民事責任は被害者に対する責任です。ひき逃げ事件の加害者は刑事責任と民事責任の両方を負うことになります。これらは似ているようで全く異なるものです。
- 刑事責任:加害者が救護義務違反や過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪といった犯罪を犯した場合に、国から処罰を受ける責任。罰則としては懲役刑や罰金刑等が科されることになり、ひき逃げの「救護義務違反」は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処せられる可能性がある。
- 民事責任:被害者に与えた損害(治療費、休業損害、慰謝料など)を金銭で賠償する責任。被害者側が損害賠償請求を行うことで、加害者またはその保険会社が支払い義務を負う。
刑事責任と民事責任は並行して追及されることが多く、被害者が適切な補償を受けるには、民事手続きでの請求が重要になります。
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ひき逃げは救護義務違反|過失割合や示談金は?
救護義務違反では加害者側の過失割合は変わらない
ひき逃げの場合、加害者は「救護義務違反」を犯したことになります。
しかし、救護義務違反で加害者の過失割合が増えることはありません。
過失割合は「事故が起きた原因」の割合を示すものです。一方、救護義務は交通事故が起きた後に取るべき行動なので、事故が起きた原因とは関係ないとされます。
救護義務違反は慰謝料の増額事由になる
救護義務違反は、加害者に対して請求できる慰謝料の増額事由になります。
慰謝料は、交通事故による身体的損害から生じる精神的苦痛を補償するものです。
加害者が救護義務違反を犯した場合、以下の点から被害者の精神的苦痛はより大きくなったと考えられます。
- その場から逃げた加害者の無責任さに対して、より一層の憤りを感じる
- 加害者が被害者を速やかに救護していれば、ケガによる苦痛はもう少し軽かったかもしれない
交渉次第にはなりますが、こうした事情から加害者の救護義務違反を理由に、慰謝料を増額させられることがあるのです。
実際に救護義務違反により被害者の慰謝料が増えた事例を紹介します。
事故により全治一週間の被害を受け1日通院で全治したが、事故直後、加害者が被害者を現場に放置したまま走り去ったため、傷をおして追跡し立ち合い等をした被害者につき、20万円を認めた
事故日平7.2.3 神戸地判平12.9.14 交民33・5・1515
ひき逃げ犯が見つかったら弁護士に相談を
ひき逃げされて加害者が見つかったら、損害賠償請求に移ります。
先述の通り、ひき逃げでは加害者の救護義務違反を理由に慰謝料を増額させられる場合があります。しかし、あくまでも交渉次第なので加害者側は増額を拒否し、もめることもあるでしょう。
また、加害者側はそもそも低めの損害賠償金を提示してくることがほとんどです。
ひき逃げの加害者が見つかったら一度弁護士にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了