物損事故とは?人身事故との違いや補償内容、対応方法まで
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交通事故に巻き込まれたとき、「物損事故」や「人身事故」といった言葉を耳にすることがあります。特に車や建物など「物」に被害が出た場合、「物損事故」として処理されるのが一般的です。
では、物損事故とは具体的に何を意味し、どのように対応すればよいのでしょうか?
この記事では、交通事故における物損事故(物件事故・対物事故)の基本的な知識から、保険や損害賠償のポイント、交渉で弁護士に相談すべきケースまで、わかりやすく解説します。
目次

物損事故とは?
物損事故とはどんな事故をいう?
物損事故とは、交通事故によって「人」ではなく「物」に損害が発生した事故のことです。
たとえば、自動車同士の接触で車が壊れた場合や、自宅の塀やガードレール、電柱などが破損した場合が該当します。
物損事故では、以下のようなものが破損することが多いでしょう。
- 車両(自家用車、営業用車など)
- 建物や塀、フェンス
- ガードレール、信号機、標識などの公共物
- 積載していた荷物やカーアクセサリー
「物損事故」と似た用語で「物件事故」や「対物事故」という言葉がありますが、これらは基本的に同じ意味で使われることが多く、いずれも「物に対する被害」があった事故を指します。
「物件事故」とは?警察が使う正式な用語
交通事故でケガ人がいない場合、警察はその事故を「物件事故(ぶっけんじこ)」として処理します。
これは、事故によって破損したのが「物」(車、ガードレール、建物など)で、人に被害(ケガや死亡)がなかったことを意味します。
「物件事故」という言葉は、主に警察の書類や事故処理の場面で使われる正式な分類です。物損事故を届け出た際、警察は現場検証を行わず、事故の状況だけを簡単に確認して「物件事故報告書」を作成します。
ただし、事故後に体調が悪くなるなどして、「やはり人身事故だった」と判明することもあります。その場合は、医師の診断書を提出することで「人身事故」へ切り替えが可能なケースもあります。
体の不調を感じたら、安易に物件事故で済ませず、必ず病院を受診しておきましょう。
「対物事故」とは?保険業界で使われる用語
「対物事故(たいぶつじこ)」とは、保険会社の視点で用いられる用語で、「対物賠償保険」が関係する事故を指します。
たとえば、相手の車や電柱、ショップの外壁など、第三者の「物」を破損させてしまった場合、その損害をカバーするのが「対物賠償保険」です。この保険が適用される事故を、保険会社では「対物事故」と呼ぶことがあります。
- 対物賠償保険で補償されるのは、被害者側の「物」の修理や交換費用
- 対物事故には、車両事故だけでなく建物や動産(看板、塀、商品など)への損害も含まれる
- 加入していない場合、加害者が自己負担で賠償しなければならないことも
「対物事故」とはあくまで保険の補償範囲を説明する際の用語ですが、「物損事故」「物件事故」とほぼ同じ意味で使われることが多いため、混同されやすい点に注意が必要です。
用語の違いを正しく理解しておこう
「物損事故」、「物件事故」、「対物事故」の違いは、以下の通りです。
用語 | 主な使用シーン | 意味(共通点) |
物損事故 | 一般的な表現・会話等 | 人にケガがなく、「物」に損害があった交通事故全般を表す広義の言葉 |
物件事故 | 警察による事故分類 | 人身被害がない事故として、警察が公式に分類・処理する際の用語 |
対物事故 | 保険会社による補償用語 | 第三者の物(車・建物など)へ損害を与え、保険で補償される事故 |
このように、どの言葉も「人にケガがない物の損害」を扱う点では同じですが、使われる場面や目的によって表現が異なります。
状況に合わせて用語の意味を正しく理解し、事故対応や保険手続きに役立てましょう。
物損事故と人身事故の違いとは?判断基準と注意点を解説
交通事故には大きく分けて「物損事故」と「人身事故」の2種類があります。それぞれの事故における処理方法、保険対応の内容は大きく異なるため、事故後の対応を誤らないように正しく理解しておくことが大切です。
物損事故と人身事故の主な違いまとめ
「物損事故」と「人身事故」の違いは、以下の通りです。
項目 | 物損事故 | 人身事故 |
対象 | 車や建物、ガードレールなどの「モノ」 | 人(ケガ・骨折・後遺障害・死亡など) |
警察の処理 | 物件事故として扱われる(実況見分なし) | 人身事故扱いで実況見分が行われる |
保険対応 | 主に「対物賠償保険」による補償 | 「対人賠償保険」や「人身傷害保険」などで補償 |
示談の難易度 | 比較的スムーズにまとまりやすい | 慰謝料額、通院期間、後遺障害の有無などで揉めやすい |
人身事故への切り替えが必要なケースもあるので要注意
事故直後、「特に痛みがないから」と自己判断で物損事故として処理するケースは少なくありません。
しかし、時間が経ってから首や腰に痛み、しびれなどの症状があらわれることもあります(これを“むち打ち”と呼ぶこともあります)。
このような場合、医療機関を受診し、「診断書」を取得できれば、後から人身事故として警察に切り替えてもらえる可能性があるのです。
人身事故に切り替えることで、以下のようなメリットがあります。
- 交通事故証明書に「人身事故」と記載される
- 加害者に対する刑事処分(行政処分含む)が検討される
- 人身傷害保険や自賠責保険から治療費・慰謝料などの請求が可能になる
痛みが軽い・疲労と区別がつかないと感じても、一度病院で医師の診察を受けるようにしましょう。人身事故へ切り替えるタイミングを逃すと、あとで保険が適用されず、自費負担になるおそれもあります。
このように、物損事故と人身事故では対応内容が大きく異なります。とくに体への影響が少しでも疑われる場合は、念のため医師に相談し、必要に応じて「人身事故扱い」への切り替えを検討しましょう。
物損事故で請求できる主な損害賠償
物損事故では、加害者側に対して「損害賠償請求」を行うことができます。具体的な請求項目は以下の通りです。
1. 車両の修理費用
事故によって破損した車の修理にかかる費用です。修理不能な場合は、時価額や買換え費用が賠償されることもあります。
2. 評価損(格落ち損)
事故歴がついてしまったことによる車両価値の下落分をいいます。高年式車などでは一定の評価損が認められる可能性があります。
3. 代車費用
修理中、代わりに借りたレンタカーなどの費用です。ただし、通勤や仕事で実際に必要な場合に限られることが多いでしょう。
4. レッカー代・移動費用
事故によって車が自走できなくなった場合の、移動のためにかかる費用です。
5. その他の損害
ナビ、ドライブレコーダー、カーキャリアなど付属品の損傷や、壊れた荷物の賠償なども対象になり得ます。
過失割合とその交渉の注意点
物損事故でも、事故当事者の「過失割合」が損害賠償の金額に大きく影響します。たとえば、被害者側にも一部過失があると見なされれば、その分賠償額が減額されてしまうのです。
過失割合は、基本的に事故状況から相手方と交渉して決定しますが、以下のような点に注意してください。
- 相手方の保険会社は自己の利益を優先することがある
- 過去の判例を根拠とする基準に基づく交渉が必要
- 被害者として納得がいかない過失割合でも、交渉しないとそのまま決定してしまう可能性がある
被害者側として「納得のいく補償を受けたい」「過失割合に不服がある」と感じたときには、早めに弁護士に相談するのが得策です。
弁護士に相談するメリットとは?
物損事故でも、専門家のサポートを受けることで適正な賠償を得られる可能性が高くなります。以下のような場面では弁護士への相談をおすすめします。
- 保険会社とのやりとりで不利益な条件を押し付けられている
- 過失割合に納得できず、修理費が十分に補償されない
- 評価損や代車費用などの賠償が不当に否定された
- 自分で交渉するのが精神的に負担
弁護士費用特約付きの自動車保険に加入していれば、弁護士費用を自己負担せずに依頼できる場合もあります。まずは無料相談の利用からでも検討してみましょう。
よくある質問(FAQ)
物損事故と物件事故、対物事故の違いはありますか?
基本的にはいずれも「物に対する損害」を扱う言葉で、ほぼ同義語として使われています。
軽い接触事故で、相手から「物損事故で処理して」と言われました。人身事故扱いにできないの?
遅れて症状が出る場合もあるため、早めに病院を受診し、診断書が出たら人身事故への切り替えを警察に相談できます。
弁護士に頼むと高くつきませんか?
弁護士費用特約に加入している場合、多くのケースで自己負担なく相談や交渉を依頼できます。
まとめ|物損事故の正しい知識で不安を解消しましょう
物損事故(物件事故・対物事故)は、交通事故の中でも人にケガがない代わりに、「物」の損害について冷静かつ慎重な対応が求められます。保険会社との交渉や、納得のいく賠償の獲得には、被害者側にもある程度の知識と主張が必要です。
少しでも疑問や不安を感じたら、早めに法律の専門家へ相談することで、トラブルを未然に防ぐことができます。焦らず、正しい情報をもとに、あなた自身や大切な財産を守りましょう。
以上、物損事故の基本的な知識と対応方法についてお届けしました。あなたの状況に応じた参考になれば幸いです。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了