交通事故の慰謝料は交渉で増額できる|示談交渉のポイント解説
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慰謝料とは、加害者から受けた精神的苦痛を金銭的価値に置き換えて補償するものです。
交通事故の場合は、「事故に遭ったせいで経験することになったケガや後遺障害による精神的苦痛」が慰謝料によって補償されます。(関連記事:交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ)
多くの場合、慰謝料の金額は相手方の保険会社から提示されますが、その提示額は交渉によって大幅に増額できる可能性が高いです。
これから示談交渉の方法・注意点などを解説していくので、しっかりと最後まで目を通し、交通事故の賠償問題で損をしないようにしましょう。
目次
慰謝料額を交渉する、交通事故の示談とは
示談とは、民事上の紛争を話し合いで解決すること
示談とは、民事上の紛争を当事者が話し合いで解決することです。
交通事故においては、主に損害賠償金額がいくらになるのか、という点に焦点を当てた話し合いが行われます。
交通事故の損害賠償金には、慰謝料を含めて以下のような項目が含まれます。
交通事故における代表的な損害賠償項目
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- 休業損害
- 治療費
- 修理代
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益 など
話し合いの末に示談が成立すれば、被害者は示談金として損害賠償を受け取ります。
交通事故の示談金に関しては、『交通事故の示談金|内訳・金額から示談交渉まですべて解説』の記事もおすすめです。
慰謝料額の交渉は損害額が確定してから始める
示談交渉は損害額が確定したタイミングから始めることができます。
交通事故における「損害額が確定したタイミング」とは「交通事故による損害がすべて出そろったタイミング」のことを言い、具体的には以下の通りです。
損害額が確定するタイミング
- 傷害に関する損害の確定:治療が終わり、これ以上入通院をする必要性が無くなったとき
- 後遺障害に関する損害の確定:後遺障害等級認定の申請結果が返ってきたとき、あるいは後遺障害等級認定の異議申立て結果が返ってきたとき
通常は治療終了後に相手方の任意保険会社から慰謝料などの金額が提示され、そこから示談交渉を始めます。
相手方の任意保険会社から示談について連絡が来る前に、被害者側から示談を提案しても問題ありません。
なお、弁護士に依頼する際は治療終了後~示談交渉を始める前に依頼することが一般的です。
治療終了後であれば損害額も計算しやすく、後遺症が残っている場合は後遺障害等級認定の申請方法についてアドバイスをもらえることもあるため、特別な事情が無い限りは治療終了後に弁護士に依頼することをおすすめします。
慰謝料の交渉後は示談書に署名・捺印|書き方や書式は?
示談書には特に決まった書き方・書式はありません。
交渉相手が任意保険会社なら、保険会社側が示談書を作成して送ってくれることがほとんどなので、被害者側はそれに署名・捺印するだけで良いです(示談書ではなく、「免責証書」という名称が使われていることもあります)。
示談書に署名・捺印をすると、原則として示談書の内容撤回・再交渉はできなくなります。
つまり、後戻りできなくなる当事なので、必ず「示談条件」や「清算条項」、「後遺障害の留保事項」などの項目に不備がないか確認しましょう。
- 示談条件…示談金額の内訳、支払い方法、支払い期日などの取り決め
- 精算条項…示談締結後は被害者・加害者間で金銭のやり取りをしないようにするための取り決め
- 後遺障害の留保事項…示談締結後に後遺障害が発覚した際、改めて協議するのか・しないのかに関する取り決め
本当に示談書の内容で示談を締結しても良いのか迷った場合や、示談書の内容について少しでも疑問点がある場合は、後戻りできなくなる前に、弁護士に相談してください。
交通事故の慰謝料には3つの相場がある
交通事故の慰謝料には以下の3つの相場があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
金額の多寡は弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準の順です。
それぞれの計算基準の意味と金額の程度についてはこれから解説していきます。
自賠責基準(最も低額)
自賠責基準は「自動車損害賠償保障法(自賠法)」という法律によって支払金額が定められている計算基準です。
自賠責保険は被害者に対して必要最低限の補償を行うことを目的としているため、3つの相場の中では最も低い金額が算出されます。
任意保険基準(交渉時に相手が提示する金額)
任意保険基準は各任意保険会社によって独自に定められている計算基準です。
それぞれの任意保険会社で自由に金額が決められていますが、自賠責基準と同等か若干増額されている程度のことが多く、それほど高額な慰謝料にはなりません。
弁護士基準(最も高額かつ正当な金額)
弁護士基準は過去の判例に基づいて支払金額が算出されている計算基準です。
弁護士基準は3つの相場の中で最も高額な慰謝料が算出されます。
ただ、弁護士が交渉を行わなければ弁護士基準での支払いは原則認められないため、慰謝料の増額を望む場合は弁護士に依頼するようにしましょう。
慰謝料の計算方法がわかる記事
慰謝料(示談金)を交渉で増額する方法とは
治療終了後、弁護士に示談交渉を依頼すれば、高額な弁護士基準の慰謝料を支払ってもらえる可能性が高まります。
弁護士基準
過去の裁判例に基づいて決められた慰謝料相場のことを指す
慰謝料の3つの基準の中では最も高額な金額になる
通常、弁護士資格を所持していない一般の方が弁護士基準の慰謝料を請求しても、相手方の任意保険会社が素直に応じてくれることはありません。
しかし、弁護士であれば弁護士基準の慰謝料を支払ってもらえる可能性が高まります。
示談交渉で被害者側が弁護士を立てると、相手方は裁判に持ち込まれることを警戒し、態度を軟化させるのです。
相手方が裁判を恐れる理由は以下の通りです。
- 裁判になれば、どのみち弁護士基準の金額が認められる可能性が高い
- 裁判になれば、相手方の任意保険会社は遅延損害金・裁判費用も支払わなければならない
- 裁判になれば、解決までに長い期間と労力がかかるので、他にも案件を抱えている任意保険会社にとっては不都合
なお、裁判になれば、被害者にとっても「解決までに時間や労力がかかる」「被害者に不利な判決が出る可能性もある」といったリスクがあります。
こうしたことから、示談交渉で弁護士を立てて慰謝料を増額させることがベストです。
交通事故で請求できる損害賠償項目とは
交通事故の被害者が請求できる損害賠償項目は慰謝料だけではありません。
交通事故の示談金に含まれる項目はすでに少し紹介しましたが、ここでより詳しく紹介しておきます。
損害賠償項目 | 内容 |
---|---|
慰謝料 | 精神的な苦痛を金銭的価値に換算したもの |
入通院費 | 治療のためにかかった費用 |
通院交通費 | 通院のためにかかった交通費 |
付添看護費 | 入通院で付添が必要な際に生じる費用 |
器具等購入費 | 車椅子や松葉杖などの購入費 |
家屋等改造費 | 後遺障害が残った場合に自宅をバリアフリー化するための費用 |
物損費用 | 交通事故で破損した物品の費用 |
葬儀関係費 | 葬儀に関する費用 |
休業損害 | 交通事故が原因の休業で減収したことに対する損害賠償 |
逸失利益 | 交通事故で後遺障害を負わなければ将来得られたであろう経済的利益 |
なお、通院交通費や修理費の請求では、領収書が必要になるので保管しておきましょう。
損害賠償金の各費目の計算方法については、『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説』の記事が参考になります。
後遺症が残ったら後遺障害等級認定の申請を行う
交通事故の治療が終了しても、痛みやしびれといった症状が身体に残ってしまうことがあります。
この場合、後遺障害等級認定の申請手続きを行いましょう。
後遺障害等級認定の申請後、1~14級いずれかの後遺障害等級が認定されれば、相手方に対して後遺障害慰謝料と逸失利益も請求できるようになります。
なお、上記の手続きをしても、必ずしも満足のいく結果が得られるとは限りません。
想定よりも低い等級に認定されたり、非該当として等級が認定されなかったりした場合は、異議申立てにより再度審査を受けることも可能です。
適切な等級が認定されやすくするためにはどうすればいいのか、等級認定の一連の流れなどについて気になる方はぜひ弁護士までご相談ください。
関連記事
交渉で慰謝料増額のチャンスがあるケース
(1)加害者側に重過失がある
加害者側に重過失がある事故では、通常よりも慰謝料が高額になる可能性があります。
重過失にあたるのは、酒酔い運転・居眠り運転・無免許運転・一般道で30キロ以上の速度違反・薬物を使用して運転をした場合などです。
実際に、歩行者が加害車両に衝突された後に加害車両が逃走した事案では、通院76日だったにも関わらず、入通院慰謝料130万円が認められています(京都地判平成21年6月24日)。
通院76日の場合、弁護士基準でも入通院慰謝料は約63万円になるので、2倍近く増額されていることがわかります。
(2)加害者側の対応が不誠実
加害者が「虚偽の供述をする」「事故直後に救助活動をしなかった」といった明らかに不誠実な対応を取っていた場合、それが原因で被害者の精神的苦痛が増大したと認められ、慰謝料が増額されるケースがあります。
ただ、初めて交通事故に遭った被害者の方であれば、加害者の対応が不誠実なのかどうか、不誠実だったとしても本当にそれで慰謝料が増額できるのかどうか、という点で判断に迷うと思います。
そのようなときは弁護士に相談し、加害者の態度を理由に慰謝料を増額できるかどうか質問してみるといいでしょう。
(3)逸失利益の算定が難しい後遺障害が残った
顔の傷のように、逸失利益の算定が難しい後遺障害が残った場合、逸失利益を0円にする代わりに慰謝料を増額し、損害額のバランスを取ることがあります。
そのため、嗅覚傷害・味覚障害・顔の傷といった逸失利益を出しづらい後遺障害が残った場合は、どの程度まで慰謝料を増額することが可能なのか弁護士に相談してみることをおすすめします。
交通事故の慰謝料交渉は弁護士に依頼しよう
弁護士が示談交渉をすれば、相手方の任意保険会社から弁護士基準の損害賠償金を支払ってもらえる可能性が高まります。
以下の慰謝料計算機では、弁護士が慰謝料額を交渉した場合、どれくらいの金額が得られるのかがわかります。
ただし、あくまでも機械的な計算であり、実際にはさまざまな事情を考慮して、より多くの金額が得られることもあります。
参考程度に金額を確認してみて、厳密な相場は弁護士に問い合わせることがおすすめです。
「交通事故で苦しい思いをしたので、適切な補償を受け取りたい」とお考えの方はぜひアトム法律事務所までご相談ください。
交通事故案件を多く手がけたことがあるアトム法律事務所であれば、被害者の方のお力になれる可能性があります。
アトム法律事務所にご依頼いただければ、相手方から提示された慰謝料金額を増額できるケースもあるので、事故後の対応でお困りの方は今すぐご連絡ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了