交通事故の慰謝料は誰が払う?保険会社・加害者本人・その他請求先も解説

交通事故の慰謝料は通常、加害者が加入する任意保険会社が支払います。法律上の原則では加害者本人が慰謝料を負担しますが、実際に加害者本人に直接請求するケースは少ないのが一般的です。
被害者は民法709条に基づいて慰謝料を請求し、加害者の任意保険会社との示談交渉でその金額を決めていきます。
つまり、慰謝料を支払うのは任意保険会社で、慰謝料の受け取り時期は示談成立後が原則です。
この記事では、慰謝料を払うのが誰なのか、原則と例外を交えて説明していきます。
目次

交通事故の慰謝料は誰が払う?
加害者側の任意保険による支払いが基本
交通事故の慰謝料は、基本的に加害者側の任意保険会社が支払います。ほとんどのドライバーは任意保険に加入しているため、事故が発生した場合、被害者への慰謝料や損害賠償は任意保険を通じて支払われるのが一般的です。
厳密には、加害者側の自賠責保険が先に適用され、不足分を任意保険が補てんする流れになります。しかし、被害者側の指定口座への振込は任意保険会社がすべてまとめて行うので、「慰謝料は加害者の任意保険が払う」と理解すればよいでしょう。
自賠責保険と任意保険の違い

自賠責保険は、公道を走るすべての車両に加入が義務付けられている強制保険です。
しかし、自賠責保険は主に被害者の最低限の補償を目的としているので、たとえば怪我の場合なら治療費や慰謝料は最大120万円までしか支払われません。
自賠責保険だけでは損害をすべて補うことができないので、不足分をカバーするための保険として任意保険が存在しています。
自賠責ではカバーしきれない損害(慰謝料の超過分や休業損害・逸失利益、物損など)を補うための任意保険は、保険の契約内容に応じて幅広い損害が補償され、実際の慰謝料支払いの大部分を担います。
法律上は加害者本人による支払いが原則
法律上、交通事故の慰謝料を支払う義務があるのは加害者本人です。被害者は、民法709条「不法行為による損害賠償請求」の権利に基づき、慰謝料や治療費などの損害賠償を加害者に対して請求するのが原則となります。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法709条(不法行為による損害賠償請求)
ただし、現実的には慰謝料をはじめ損害賠償の総額が数百万円~数千万円に上ることも多く、これだけの大金を加害者が個人で全額を支払うのはむずかしいでしょう。
こういった事態に備えるため、ドライバーの多くは任意保険に加入しており、多くの交通事故慰謝料が任意保険から支払われています。
保険会社以外が交通事故の慰謝料を払うケースとは?
加害者が無保険の場合
加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合、加害者本人が直接慰謝料を支払う必要があります。この場合、被害者が慰謝料を受け取れるかは、加害者の資力(支払い能力)に頼ることになるため、必ずしも十分な慰謝料を受け取れるとは限りません。
加害者に支払い能力がない場合の対策
加害者が任意保険だけでなく自賠責保険にも加入していない、いわゆる「完全な無保険状態」の場合は、内容証明郵便で示談を申し入れたり、公正証書による財産差し押さえや保証人を立ててもらって踏み倒しを防ぐなどして、加害者本人から慰謝料を支払ってもらうよう努めることが大切です。
しかし、どうしても加害者に支払い能力がない場合は、被害者自身が加入する自動車保険を利用したり、健康保険を使って治療を受ける・労災保険に保険金を請求するなどの対策が考えられます。
また、政府保証事業という国の制度を利用して、最低限の補償が受けられることもあるでしょう。
自賠責保険で対応できる可能性あり
なお、加害者が無保険だと思っても、任意保険に未加入なだけで自賠責保険には加入していることもあるでしょう。自賠責保険に加入している場合には、一定程度の補償を自賠責保険から受けられます。
加害者の自賠責保険に対して被害者が直接請求する方法を「被害者請求」といい、被害者に認められた権利でもあるので、積極的に活用しましょう。
ただし補償額には上限があること、物損への補償は受けられないことなどには注意が必要です。
被害者自身の保険で支払われることもある
交通事故の被害者が、自身の加入している保険に対して慰謝料を請求すべきケースがあります。この方法を利用することで、加害者の支払いを待つことなく迅速に補償を受けることが可能です。
相手の保険会社から慰謝料を受け取っているときに二重取りはできない点には注意しましょう。
被害者加入の保険の代表例
- 人身傷害補償保険
- 無保険車傷害保険
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険は、被害者が契約している自動車保険のオプションとして加入できる補償です。
交通事故によりケガをした場合や死亡した場合に、被害者自身が直接保険会社から補償を受けられる仕組みになっています。
過失割合に関係なく補償されることや、加害者や保険会社との交渉を待たずに補償されることが特徴です。
通常、慰謝料や治療費の支払いを、加害者やその保険会社から受ける場合、示談交渉が必要です。そのため、支払いまで時間がかかることがあります。
一方で、人身傷害補償保険を利用すれば被害者の保険会社が早期に補償金を支払ってくれるため、治療費や生活費の負担を軽減できます。
なお人身傷害補償保険の利用だけでは等級に影響しないため、翌年度以降の保険料が高くなるという事態は起こりません。
無保険車傷害保険
無保険車傷害保険は、死亡事故や後遺障害が生じた事故について、事故の相手が無保険だった場合や、加害者が特定できない場合でも、被害者が補償を受けられる特約です。
無保険車との事故でも補償が受けられる、加害者が特定できない場合にも対応できる点が特徴といえます。
加害者が任意保険に加入していない、あるいは事故後に逃げてしまったなどのケースでは、被害者が十分な慰謝料や補償を受け取れない可能性があります。
このような場合でも、無保険車傷害保険を利用することで、被害者の保険会社が慰謝料や治療費を支払ってくれるのです。
加害者が仕事中だった場合
加害者が仕事中であれば、使用者責任を根拠とし、加害者の雇用主にも慰謝料を請求できる場合があります。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
民法715条前段(使用者等の責任)
一個人よりも、雇用主の方が資力に富んでいることが考えられます。
加害者が仕事中で、なおかつ保険未加入といった状況で十分な補償を受けられないときは、ドライバー本人を超えて雇用主にも請求できることをおさえておきましょう。
加害者が子ども(未成年)の場合
加害者が子どもである場合、本人に責任能力が問えるのかが問題になります。本人に責任がない「責任無能力者」とされるのはおよそ12歳~13歳までです。
子に責任能力がないときには、民法上の監督義務者である保護者に対して、民法714条の監督義務違反にもとづき、未成年の加害者本人に代わって慰謝料を請求することになります。
ただし、未成年者が突然に予測不能な行動を起こした場合など、監督義務を果たしていても事故が防げなかったと証明できれば、保護者に賠償責任は生じないことがあります。
このほか、子どもに責任能力があると判断されても、実質的には支払い能力がないことも多いです。よって、いずれにせよ最終的には親に請求を試みるということになるでしょう。
交通事故の「支払い」にまつわるよくある疑問
Q.交通事故の治療費は誰が払う?
交通事故の治療費も、慰謝料と同じく基本的に相手の保険会社が支払ってくれます。
慰謝料と同じく、本来法的には加害者に請求できるものを、加害者の保険会社が契約に基づいて支払っているというものです。
治療費については、相手の保険会社のサービスの一環として「任意一括対応」を受けられる場合があります。
任意一括対応とは、相手の任意保険会社が直接病院に治療費を支払ってくれることをいい、被害者は入院・通院による窓口負担が発生しません。

ただし、こうした取り組みはあくまでサービスのため、任意保険会社の方針や病院の都合などで任意一括対応を受けられない場合があります。
そうすると治療費はいったん被害者が立て替えて支払い、示談交渉時に請求することが原則となるのです。
治療費の支払いには健康保険が使えますが、それでも日々の生活を圧迫してしまいます。こうした交通事故の治療費についても、相手の自賠責保険会社に直接被害者請求できますので、被害者請求のサポートを受けたいという方は、一度弁護士にご相談ください。
弁護士であれば被害者請求のサポートから示談交渉の対応まで一括任せることができます。
Q.慰謝料の支払い額を決めるのは誰?
交通事故の支払い額を決めるのは、交通事故の当事者同士であることが原則です。
交通事故では、まず示談交渉での解決を目指すことが多いです。示談交渉とは、裁判外で当事者同士が話し合うことをいい、お互いに譲歩しつつ納得できる内容を決めることをいいます。
よって、被害者はもちろん、加害者側も支払い額に納得して解決することを目指すのです。
しかし、当事者同士の主張が食い違うと示談交渉での解決が難しく、最終的には裁判での解決になる可能性があります。
当事者は自身の主張を述べることはできても、裁判で損害賠償額を決めるのは裁判官です。

Q.慰謝料はいつ支払われる?
交通事故の慰謝料は、示談成立後の受け取りが原則です。
もし示談成立前に慰謝料を受け取りたい場合は、加害者側の任意保険会社に「被害者請求」することで、示談より前に慰謝料を受け取れます。
ただし、この時受け取れる慰謝料額は自賠責保険の基準にもとづくため、本来もらえる相場額の一部にすぎず、不足分は示談交渉を通して請求していきましょう。
こうした慰謝料受け取り時期については、関連記事でわかりやすく解説していますので、あわせて参考にしてください。
Q.加害者も被害を受けていたら慰謝料の支払いはどうなる?
加害者も人的被害を受けており、かつ被害者にも過失があるときは、被害者も加害者に慰謝料を支払うことになります。
もっとも、被害者自身が支払うのではなく、被害者が加入する任意保険会社が支払う流れになるのが通常です。
10対0の事故で被害者に過失がないときには、被害者から加害者へ慰謝料の支払いはありません。
交通事故の慰謝料請求は弁護士に相談
示談交渉で相場まで引き上げる必要がある
相手の任意保険会社から示談金額の提示を受けることで示談交渉はスタートしますが、その提示額は相場よりもずいぶん低くなります。
その理由は、慰謝料に3つの算定基準があるからです。相手からは自賠責保険基準や任意保険基準といった低額な慰謝料でしか提案されないため、その金額をうのみにしていると損をしてしまいます。

弁護士や裁判官といった法律の専門家は、自賠責基準や任意保険基準ではなく、弁護士基準(裁判基準)で慰謝料を算定します。
弁護士基準で算定すると、相手の保険会社が用いる基準よりも高額な慰謝料になるため、被害者にとっては弁護士基準による慰謝料獲得が重要になります。
しかし、被害者が独力で交渉しても、「皆さんこれくらいで納得されている」「これが当社の限界です」などといって、なかなか増額には応じてもらえません。
そこで弁護士が交渉の場にでると、相手の保険会社は「示談交渉がまとまらないと、裁判になるかもしれない」と危惧します。
裁判では弁護士基準での損害賠償算定がされますし、解決までに時間もかかるため、保険会社としても裁判は避けたいところです。
弁護士が示談交渉の場に出ることで、被害者側の増額要請にも応じてくれる可能性が高まるのです。

過失割合の交渉にも弁護士は有効
慰謝料の金額を左右する要因には、過失割合があります。
過失割合とは
交通事故の当事者が負う責任の程度を割合で示したもの。損害賠償額に直結する。
過失割合は9対1や7対3のように割合で示すことが多く、その割合はそのまま慰謝料を含む示談金額に影響します。
たとえば過失割合が10対0で、被害者に過失がないとされたときには、被害者は損害額の全てを請求して受け取ることが可能です。一方で相手の損害に対して、支払いは生じません。
しかし、過失割合が7対3となり、被害者にも3割の過失が付いたときには、被害者は相手の損害について3割を支払わねばなりません。また、自分の損害も7割しか補償されないのです。
交通事故の過失割合には、「判例タイムズ」という書籍にもとづいて交渉していくことが多くなります。
相手の保険会社の主張が適切かどうかを判断するには、同じ書籍を参照して話ができることに加えて、これまでの判例を熟知した弁護士に任せることをおすすめします。
過失割合とはどういうものか、どうやって決めていくのかの詳細は以下の関連記事を参考にしてください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了