交通事故の過失割合は自己負担額にどう影響する?自己負担を抑える方法
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交通事故に遭遇したとき、被害者であっても自己負担が発生する可能性があります。
基本的に任意保険に加入していれば、過失割合がついても自己負担分は保険でカバーされるでしょう。もっとも、場合によっては保険を利用するより自己負担した方が結果的に安く済むケースもあるので注意が必要です。
本記事では、過失割合が自己負担額にどのように影響するのか、そして自己負担を抑えるための方法について詳しく解説します。
目次
交通事故で自己負担が発生するケース
被害者にも過失割合がついた
交通事故の被害者にも過失がつく場合、過失割合に応じて加害者から受け取れる損害賠償金が減額されます。被害者にも過失割合がつくと、減額分を自己負担せねばならないのが原則的な考え方です。
さらに、加害者にも損害が発生していた場合、過失割合に応じて加害者の損害賠償金を支払わなければなりません。
もっとも、減額分の自己負担や加害者に対する損害賠償金の支払いは、自賠責保険や任意保険(対人賠償保険・対物賠償保険)に加入していれば、保険でカバーできるのが通常です。
そもそも過失割合はどうやって決まる?
基本的に、過失割合は事故の当事者同士が話し合いで決めるものです。警察が過失割合を決めることはありません。過失割合の決め方や基本的な情報について改めて整理したい方は、『交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順』の記事をご確認ください。
通常、加害者側の保険会社から過失割合が提示され、話し合いがはじまることになるでしょう。
保険会社の担当者が提示する過失割合は、会社のマニュアルに沿って判断しているだけのことも多く、実際の事故状況を的確に表しているとは限りません。
正しい過失割合でなければ受け取れる損害賠償金の額も変わってくるので、提示された過失割合を簡単に鵜呑みにしないでください。
過失割合に納得いかない場合は、提示内容の根拠を保険会社に聞いてみたり、弁護士に相談してみるのがおすすめです。
保険の補償限度額を超える損害が発生した
加入している任意保険の補償限度額を超える損害が発生した場合、超過分は自己負担となります。たとえ被害者の過失が小さかったとしても、加害者の状況によって被害者の方が負担額が多くなる可能性もあるのです。
- 加害者が乗る自動車が高級車であったため修理費用が高額になった
- 加害者が負ったケガの方が重傷であった
- 高収入な加害者であった
こういったケースでたとえば、任意保険の対人賠償保険の限度額が3,000万円で、4,000万円の損害が発生した場合、1,000万円が被害者の自己負担となる可能性があります。
もっとも、交通事故では何千万円、何億円といった金額の損害が発生することもざらなので、対人対物の任意保険は無制限としていることが一般的です。したがって、無制限の任意保険に加入しているのであれば、発生した損害賠償金は任意保険会社が全額負担します。
加害者が無保険・示談金の支払いを拒否した
加害者が任意保険に加入していない無保険の場合や、示談金の支払いを拒否した場合、被害者は自己負担を強いられる可能性があります。
加害者が無保険の場合、加害者本人に損害賠償請求することになりますが、加害者に支払い能力がなかったり示談金の支払いを拒否したりすると、損害賠償金を回収できないリスクがあり、自己負担せざるを得ない状況になってしまうでしょう。
このような場合、被害者が加入する保険を利用したり、民事調停や民事訴訟など法的手段を取る必要が出てきたりするかもしれません。
無保険の場合に起こり得るリスクや対策について詳しくは『交通事故相手が無保険でお金がない!賠償請求の方法とリスク対策8つ』の記事も参考になりますので、あわせてご覧ください。
物損事故の免責金額が設定されている
物損事故の場合、車両保険の契約内容に免責金額(自己負担額)が設定されていることがあります。
たとえば、免責金額が5万円の場合、修理費用が20万円であれば、5万円は自己負担となります。
過失割合による自己負担を軽減するために保険に加入していたとしても、免責金額が設定されている場合は自己負担が発生するので注意が必要です。
過失割合に基づく自己負担額の計算方法
自己負担額の計算方法
被害者と加害者にそれぞれ過失割合がついた場合、自己負担することになるのは「被害者の過失割合」の部分です。
被害者の自己負担が発生する場合の計算をシミュレーションしてみたいと思います。
具体例
被害者が請求できる損害賠償金は100万円、加害者から請求される損害賠償金は100万円だったとしましょう。過失割合は、被害者:加害者=10%:90%とします。
被害者 | 加害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 10% | 90% |
賠償金 | 100万円 | 100万円 |
請求金額 | 90万円 (=100万円×90%) | 10万円 (=100万円×10%) |
自己負担 | 10万円 (=100万円-90万円) | 90万円 (=100万円-10万円) |
被害者の損害賠償金100万円から過失割合10%分が差し引かれると、加害者に請求できるのは90万円です。つまり、残りの10万円を自己負担することになります。
被害者側の過失割合に基づいて損害賠償金が減額されることを「過失相殺」といいます。過失相殺のより具体的な計算方法については『過失相殺をわかりやすく解説!計算方法や交通事故判例の具体例も紹介』の記事が参考になりますので、あわせてご覧ください。
過失割合10対0なら被害者の自己負担はゼロ
過失割合が10対0、つまり加害者に100%の過失がある場合、被害者の自己負担はゼロです。
過失割合が10対0になる事故の典型例としては、信号待ちで停車中に後ろから追突された場合などがあげられます。その他、過失割合が10対0になるケースを知りたい場合は『交通事故で過失割合が10対0になる場合とは?』の記事もあわせてご覧ください。
過失割合がまったくないなら、被害者の損害は加害者に全額請求できますし、加害者に損害が発生していたとしても被害者が負担する責任は当然ないのです。
もっとも、被害者の損害を全額請求できるからといって油断してはいけません。多くのケースでは示談を通して最終的に示談金の金額が決まるのですが、加害者本人や加害者が加入する任意保険はできるだけ支払う金額を抑えようと、あの手この手を使って交渉してきます。
交通事故の賠償問題について知識がないと、そもそも妥当な金額がいくらになるのか見当もつかないでしょう。交通事故の被害者として受け取れる妥当な金額はどのくらいなのか、無料相談を活用して弁護士に相談してみてください。
交通事故の自己負担を最小限に抑える方法
補償限度額や免責金額を確認する
自動車保険に加入する際や更新時には、補償限度額や免責金額を確認しましょう。
必要に応じて、補償限度額を引き上げたり、免責金額を下げたりすることで、事故時の自己負担を抑えることができます。
あらゆる特約を活用する
自動車保険にはさまざまな特約があるので、もしもの場合にも自己負担の軽減につながるので安心です。
- 人身傷害保険
被害者の過失割合に関わらず、保険会社が定める基準で保険金が支払われる保険 - 無保険車傷害保険
無保険の加害者から補償が受けられないリスクをカバーする保険 - 自損事故保険
事故相手のいない場合の損害を補償する保険 - 車両全損修理時特約
車両が全損と判定された場合でも修理費用全額が補償される保険 - 弁護士費用特約
弁護士の依頼にかかる弁護士費用をカバーするもの
※ 保険会社によって特約の名称や内容は異なります。
これらの特約を上手に活用することで、自己負担を抑えることができます。
定期的に保険の内容を見直す
補償限度額や免責金額を確認することにもつながりますが、ライフスタイルの変化や車の年式に応じて、定期的に保険の内容を見直しましょう。
たとえば、新車購入時は手厚い補償が必要ですが、車の経年劣化に伴い、車両保険の補償を見直すことで保険料を抑えられる可能性があります。
保険見直しのために保険会社を比較したい場合は以下のサイトを参考にしてみてください。
保険を利用するか自己負担がいいかはケースバイケース
保険を利用して自己負担を回避した方がいいケース
保険を利用して自己負担を回避した方がいいケースとしては、以下のような場合があげられます。
- 被害者の過失割合が小さくても、加害者に高額な損害が発生している場合
- 自損事故で後遺障害の可能性がある場合
損害賠償責任は本来、自己負担するべきものではありますが、保険はこういった自己負担の事態に備えるために加入しています。交通事故が故意や重過失といった免責事由に該当しない限り、保険は利用できます。
保険を利用せず自己負担した方がいいケース
損害が少額の場合、保険を使わずに自己負担した方が結果的に出費が安くなるケースもあります。
たとえば、物損事故の損害額が10万円で、保険を使うと次年度の保険料が年間で12万円高くなる場合、保険を使わずに自己負担したが2万円安くなります。
コラム|どちらがいいか判断に迷ったら
保険を利用して自己負担を回避するか、保険を利用せずに自己負担するか迷ったら、保険料の値上がりを考慮して決めましょう。
任意保険を使った場合、次年度から任意保険の等級が下がり、保険料は高くなる仕組みです。自動車保険の等級は一般に1級から20級まであり、等級が低いほど保険料は高くなります。
たとえば、物損事故で対物賠償保険や車両保険を使った場合、通常は等級が3つ下がってしまうでしょう。
また、多くの保険会社では事故を起こして保険を使うと「事故あり」扱いになり、同じ等級でも無事故の場合より保険料が高くなるのが一般的です。
保険会社に見積もりを依頼すれば、事故の損害額と保険を使った場合の保険料の増額を比較して、どちらが安く済むかを教えてくれるので、判断の基準としてみてください。
自己負担額を軽減するための正しい過失割合にするなら
弁護士に相談する
適切な過失割合を主張して、自己負担額を軽減するためには、弁護士に相談することが効果的です。弁護士には以下のようなサポートが期待できます。
- 事故状況を適切に分析し、法的な観点から過失割合を評価
- 妥当な損害賠償金の算出
- 後遺障害申請のサポート
- 保険会社との示談交渉
- 必要に応じた調停や訴訟の対応
など
弁護士に何を求めて依頼するかによりますが、被害者にとってどのような選択肢があるのか法律面からアドバイスがもらえます。交通事故案件を弁護士に依頼してみたいが一歩踏み出せないという方は『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事もあわせてご覧ください。
また、アトム法律事務所では、交通事故の被害者の方を対象に無料の法律相談を実施しています。法律相談に関するお問い合わせは24時間いつでも対応していますので、気軽にお問い合わせください。
弁護士特約があれば基本的に弁護士費用の負担なし
任意保険の多くは「弁護士費用特約」が付帯されているでしょう。
弁護士費用特約に加入していれば、基本的に弁護士費用の自己負担なく専門家のサポートを受けられます。ただし、特約にも補償限度額があるので、事前に確認しておくことが重要です。
弁護士費用特約のメリットや具体的な使い方については、下記の記事をご覧ください。
まとめ
交通事故は誰にでも起こりうる不測の事態です。しかし、適切な知識を持ち、準備をしておくことで、事故後の経済的・精神的負担を軽減することができるでしょう。
自己負担を最小限に抑えるためには、日頃から保険内容を確認し、事故時には冷静な対応と適切な専門家への相談が重要です。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了