格落ち損害57万円―追突されたBMWに裁判所が認めた価値 #裁判例解説
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「修理すれば元通りなんだから、格落ち損害なんて認められるわけがない!」
被告側は強く主張した。しかし、原告側の代理人弁護士は冷静に述べた。
「ご覧ください。前年登録、走行わずか1,235キロの新車同然のBMWです。新車価格540万円。枢要部分を含む広範囲に損傷を受け、事故歴が永久に残ります。修理費用とは別に、格落ち損害は現実に生じています。」
法廷には、損傷した高級車の写真と修理明細が映し出されている。修理後の車両価値をめぐって当事者の主張が対立する中、裁判所はどういった判決を下すのかー。
※東京地判平成25年1月9日(平成23年(ワ)35263号)をもとに、構成しています。
<この裁判例から学べること>
- 新車に近い高級車は、修理しても格落ち損害が認められる可能性がある
- 枢要部分を含む広範囲の損傷は、格落ち損害認定の重要な要素となる
- 自動車販売業者が所有する車両は、商品価値の観点から事情次第では格落ち損害が認められやすい傾向にある
- 修理費用が時価額の範囲内で、修理後も商品価値の下落が残る場合には、修理費用とは別に格落ち損害が問題となる
交通事故で愛車が損傷した場合、修理費用の賠償を受けることは一般的ですが、修理しても車の価値が下がる「格落ち損害」については、必ずしも認められるとは限りません。
今回ご紹介する裁判例は、初度登録から1年足らず、走行距離1,235キロのBMWが追突事故で損傷し、修理費用304万円に加え、格落ち損害57万円の賠償が認められた事案です。
本件を通じて、格落ち損害が問題となる場面や判断のポイントを見ていきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、東京地判平成25年1月9日(平成23年(ワ)35263号)を取り上げます。
この裁判は、自動車販売業者が所有するBMW車両が追突事故で損傷し、修理費用と格落ち損害の賠償を求めた事案です。
- 原告:自動車の売買等を業とする株式会社
- 被告:追突事故を起こした運転者と、その雇用主である会社
- 事故状況:信号待ちで停止していた原告車両に被告車両が追突
- 車両情報:BMW320i(初度登録から約10ヶ月、走行距離1,235km、新車価格約540万円)
- 請求内容:修理費用304万6,123円、格落ち損害57万4,000円の合計362万0,123円
- 結果:裁判所は請求を全額認容し、被告らに連帯して362万0,123円の支払いを命じた
🔍 裁判の経緯
「新車で購入してまだ1年も経っていないんです。走行距離もたった1,235キロ。それなのに…」
原告の担当者は悔しさをにじませた。ある朝、信号待ちをしていた原告車両に、後方から被告車両が追突した。その衝撃で、原告車両は前方の車両にも追突する事態となった。
修理工場で確認された損傷は想像以上に深刻だった。左フロントフェンダーやドア類、トランクリッド…
見た目だけではない。エンジンフード内のサポートパネルにひび割れが生じ、ラジエターも本来の位置から後方にずれていた。左リアフェンダーの内部板金にも歪みが生じていた。
修理工場の担当者は言った。「車体の一部を切断して板金を交換する必要があります」
修理見積もりは304万円。新車価格540万円の半分以上だ。
自動車販売業を営む原告にとって、懸念はそれだけではなかった。
「完璧に修理しても、『事故歴』『修理歴』が残る。誰が新車同然の価格で買うでしょうか?」
原告は日本自動車査定協会に査定を依頼し、57万円の格落ち損害が認められた。
しかし被告らは真っ向から異議を唱えた。「修理すれば元通りになるんだから、格落ち損害なんて認められない」
こうして、修理後の車両価値をどのように評価すべきかが争われることとなった。
※東京地判平成25年1月9日(平成23年(ワ)35263号)をもとに、構成しています。
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、「原告は格落ち損害に相当する損害を被ったと認めるのが相当である」として、修理費用304万円と格落ち損害57万円の合計362万円の支払いを命じました。
主な判断ポイント
1. 修理費用の必要性について
裁判所は、争われた修理項目について修理工場担当者の証言を踏まえ、原告が主張する修理の必要性を認めました。
左フロントフェンダーやドアは損傷の範囲や歪みが大きく、板金整形では本来の強度や外観を回復できないとして交換が相当と判断されました。
また、エンジンフード内のサポートパネルについても、車両の安全性を確保するため、部品交換が必要と認められました。
2. 格落ち損害の発生について
裁判所は3つの要素を重視しました。
- 枢要部分を含む広い範囲の損傷があること
- 前年初度登録の走行歴の浅い高価な車両であること
- 原告が自動車売買業を営む法人であること
これらの事情から、「商品価値が事故歴又は修理歴によって下落することは避けられない」として格落ち損害の発生を認めました。
3. 格落ち損害の金額について
裁判所は、日本自動車査定協会作成の事故減価額証明書に基づく57万円について、原告車の損傷状況等に照らし相当として、この金額をそのまま採用しました。
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👩⚖️ 弁護士コメント
格落ち損害(評価損)が認められる要件
格落ち損害とは、修理後も事故歴が残ることで車両の市場価値が下落する損害です。
「評価損」とも呼ばれます。
本判決では、以下の3つの要素を考慮しました。
- 枢要部分を含む広範囲の損傷
エンジンルーム内や車体内部まで損傷が及んだこと - 新車に近く高価な車両
初度登録から約10ヶ月、走行距離1,235キロ、新車価格約540万円 - 自動車販売業者
商品価値の下落が直接的な損害となる立場
特に車体の一部を切断して板金を交換するほどの損傷があったことが、格落ち損害認定の大きな理由となりました。
新車や高級車の格落ち損害
初度登録から約10ヶ月、走行距離1,235キロ、新車価格約540万円という状態も重要な要素でした。
一般的に、新車に近い車両や高級車ほど事故歴による価値下落が大きいと考えられます。
中古車市場では、こうした車両の購入者ほど事故歴のない車両を強く希望するためです。
高級車や新車であっても格落ち損害が常に認められるわけではありませんが、車両の状態や損傷の程度などの事情を踏まえて判断されます。
実務上のポイント
格落ち損害請求には、日本自動車査定協会の「事故減価額証明書」取得が重要です。
本判決でも事故減価額証明書に示された金額が損傷状況等に照らして相当として採用されました。
裁判例や交通事故実務では、以下のような点が考慮されることがあります。
- 初度登録から3年以内
- 走行距離3万キロ以内
- 車両の中心部分に損傷が及んでいる
保険会社が格落ち損害を認めない場合でも、適切な証拠があれば修理費用とは別個の損害として裁判で認められる可能性はあります。
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格落ち損害(評価損)のとは
格落ち損害とは、交通事故で車両を修理しても、事故歴や修理歴が残ることで車両の交換価値(市場価値)が下落する損害のことです。
評価損とも呼ばれます。
具体的には、事故がなければいくらで売却できた車両が、事故後はいくらの価値になるのか、その差額分を指します。

格落ち損害は全てのケースで認められるわけではなく、車両の年式や走行距離、損傷の程度、修理内容などの事情を総合的に考慮して判断されます。
格落ち損害と修理費用の関係
修理費用と格落ち損害は、性質の異なる損害です。
修理費用は車両を事故前の状態に戻すための費用であり、格落ち損害は修理後も残る車両価値の下落分を指します。
ただし、修理費用が車両の時価額を超える場合(全損の場合)には、通常は時価額までしか賠償されず、格落ち損害は認められません。
本件のように修理費用が車両価値の範囲内である場合に、修理費用に加えて格落ち損害も認められる可能性があります。
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🗨️ よくある質問
Q1:修理が終わってからでも格落ち損害(評価損)を請求できますか?
A1:修理が終わった後であっても、事故による価値下落が残ることを示す資料があれば、格落ち損害を請求できる場合があります。
この場合、修理内容や車両の状態、事故からの経過状況などによって判断が左右されるため、修理前後の状況が分かる資料を早めに確保しておくことが重要です。
Q2:事故減価額証明書以外に、格落ち損害を裏付ける資料はありますか?
A2:事故減価額証明書は重要な資料ですが、それ以外にも、修理見積書や修理明細、事故直後や修理前後の損傷状況が分かる写真などが判断の参考とされることがあります。
これらの資料を踏まえ、事故による価値下落の有無や程度が総合的に判断されます。
Q3:軽微な事故でも格落ち損害を請求できることはありますか?
A3:損傷が軽微な場合には、修理後も商品価値の下落が残ると言えるかが問題となり、格落ち損害が認められないことが多いです。
損傷の部位や車両の状態によっては、軽微に見える事故であっても、評価が分かれる場合があります。
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交通事故による車両損害について、「修理すれば元通りだから」「格落ち損害は認められないと言われたから」と、修理費用以外の賠償を諦めてしまう方は少なくありません。
しかし、車両の年式や走行距離、損傷の内容によっては、修理後も残る価値下落として格落ち損害が問題となり、適切な主張や資料の提出によって賠償の可否や金額が変わることがあります。
アトム法律事務所では、交通事故に関するさまざまなご相談を取り扱っており、事故全体の状況を踏まえたアドバイスを行っています。
初回相談は無料ですので、交通事故後の対応や保険会社とのやり取りについて不安がある方は、お気軽にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
