自転車事故の加害者になったら?対応・損害賠償・保険を解説!
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自転車は免許がいらず、通勤・通学などで多くの人が日常的に使う乗り物です。
しかし、ふとした不注意で歩行者に衝突したり、自転車同士で事故を起こしてしまったりする可能性もあります。
本記事では、自転車事故の加害者になってしまったときの対応や、万が一に備える保険についてわかりやすく解説します。
自転車事故の加害者として警察や検察の取調べを受けているなど、刑事事件化している場合は刑事事件をあつかう弁護士に相談しましょう。詳しくは『刑事事件の無料相談』のページをご覧ください。

自転車事故の加害者がすべき対応とは?事故直後〜後日の流れ
自転車事故の加害者になってしまった場合、すぐにすべき対応は以下の3つです。
- 現場の安全確保とケガ人の救護
- 警察への通報
- 被害者と連絡先の交換
また、後日に「交通事故証明書」を発行してもらうことも忘れないようにしましょう。
それぞれの項目について、くわしく確認していきます。
すぐにすべき対応(1)安全確保とけが人の救護
自転車で事故を起こしてしまったら、まずは自分を含めて負傷者の確認をし、落ち着いて対応しながら二次災害が起こらないように安全を確保します。負傷者がいる場合は、すみやかに救急車の手配をしましょう。
安全確保とケガ人の救護は、いずれも法律によって義務付けられています(道路交通法72条1項前段)。これらの対応を怠ると、刑事罰が科されることがあるので注意してください。
すぐにすべき対応(2)警察へ連絡する
負傷者の確認が終わったら、冷静に対応しつつ、交通事故について警察に通報します。
交通事故の当事者は、事故について最寄りの警察に報告しなければならないと、法律で義務付けられているからです(道路交通法72条1項後段)。
事故について警察に報告しなかった場合は報告義務違反とみなされ、刑事罰を受ける可能性があります。
自転車事故を起こしたら、適切な対応として警察への報告は欠かせません。
軽微な事故の場合、「警察に通報しなくても大丈夫」「その場で示談しよう」といった提案をされることもありますが、そのような対応は避けた方が安全です。
後に保険金を請求できなくなったり、言った言わないのトラブルに発展したりするリスクがあるためです。
警察対応が落ち着いたら、自転車保険に加入している方は、保険会社にも早めに連絡しましょう。
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すぐにすべき対応(3)連絡先の交換
法律で定められた義務のほかにも、実務上重要な対応があります。
それは、被害者と連絡先を交換することです。
主に確認しておくべき事項は、以下のとおりです。
- 氏名
- 住所
- 連絡先
- (加入していれば)自転車保険の会社
こうした情報は、今後の謝罪やお見舞い、賠償金の交渉などを円滑に進めるために欠かせません。
連絡先の交換ができる状況であれば、冷静に対応して、忘れずに確認しておきましょう。
後日にすべき対応|交通事故証明書の取得
警察に交通事故の報告をすると、後に「交通事故証明書」という書類を発行してもらえます。
交通事故証明書とは、事故が起きたことを公的に証明する書類で、以下のような情報が記載されています。
- 事故の日時
- 発生場所
- 当事者の氏名
- 車両情報
交通事故証明書は、自動車安全運転センターが発行します。
この証明書があることで、事故の発生や関係者の情報を客観的に証明でき、今後の対応をスムーズに進められるのです。
自転車保険などの保険を使う際にも、この証明書の提出が求められることがあるため、早めに発行しておくと安心です。
なお、交通事故を警察に報告していない場合は、原則として交通事故証明書は発行されません。
発行できる期間は、人身事故で事故発生から5年、物損事故で3年までです。
交通事故証明書の具体的な入手方法については『交通事故証明書とは?後日取得の期限やもらい方、コピーの可否を解説』の記事を確認してください。
加害者としての謝罪・示談交渉の進め方
自転車事故の加害者になった場合、被害者への謝罪や示談交渉といった対応も必要です。
これらの点についても解説します。
加害者はどう謝るべき?直接会う?手紙で謝罪?
自転車事故の加害者になった場合、まずは誠意ある対応を心がけることが大切です。
被害者に謝罪する方法としては、直接会って謝る、または手紙や電話など間接的な方法で謝るという2つの選択肢があります。
どちらを選ぶべきかは、被害者の状況や気持ちを最優先に考えて判断しましょう。
- 被害者が入院中などで直接会えない場合は、まずは電話や手紙で謝罪し、その後状況を見て面会を検討するのが適切な対応です。
- 突然の訪問などは負担になる可能性があるため、謝罪のタイミングや手段は慎重に選びましょう。
また、謝罪にあたっては感情的にならず、冷静に対応することが大切です。
保険に入っているなら事前に保険会社に連絡を入れよう
謝罪を検討している場合は、事前に加入している自転車保険の保険会社に連絡しておきましょう。
謝罪の場に保険担当者が付き添ってくれることもありますし、被害者とのやり取りの窓口が保険会社に一本化されているケースもあります。
保険会社に先に相談しておくことで、スムーズかつ適切な対応がしやすくなります。
示談の進め方と注意点・コツ
示談交渉では、被害者と損害賠償などの条件を話し合って決めます。
自転車事故の加害者として示談を進めるときは、以下のポイントを意識するとスムーズな対応につながります。
- 示談書は必ず作成する
口頭での約束だけでは、後々のトラブルにつながるおそれがあります。示談内容は必ず書面で残し、両者で署名・押印しましょう。 - 支払い方法や時期も明記する
賠償金の金額だけでなく、支払う時期や方法もあらかじめ決めて記載しておくと、後の行き違いを防げます。 - 保険会社と連携して進める
加害者が保険に加入している場合は、保険会社の指示を仰ぎながら進めるのが安心です。
示談交渉を保険会社が代行してくれるケースもあるので、自己判断で進めず、まずは相談しましょう。
【補足】加害者に問われる可能性のある責任とは?
自転車事故の加害者には、損害の内容や状況に応じて、以下のような責任が問われる可能性があります。
- 民事責任(損害賠償)
被害者に対して、治療費や慰謝料などの損害を金銭で補償する責任です。この記事でメインに解説しているのがこの民事責任です。 - 刑事責任(処罰)
飲酒運転や、ケガ人の救護を怠った場合など、道路交通法などに違反した場合に科される罰則です。重過失が認められた場合には刑事罰を受けることがあります。 - 行政処分(免許・点数など)
原則として免許が必要ない自転車では行政処分が科されるケースは少ないですが、悪質な違反などがあれば、指導や講習などを受けることがあります。
自転車事故の責任は内容によってさまざまですが、まずは落ち着いて誠実に対応することが大切です。
必要に応じて保険会社や弁護士にも相談し、適切な対応につなげていきましょう。
自転車事故の賠償金はいくらになる?
自転車事故の加害者になったとき、被害者の受けた損害を賠償する必要があります。
賠償がどれくらいの金額になるかについて、解説していきます。
賠償額は被害と過失割合で決まる
自転車事故の加害者が支払う賠償額は、事故によって発生した損害の大きさと、事故当事者の過失割合によって決まります。
被害が軽傷であれば賠償額は十数万円ほどですが、死亡事故や重度の後遺障害がある場合には、数千万円〜1億円近くにのぼることもあります。
また、賠償額は「過失割合」によっても左右されます。
過失割合とは、事故の責任が加害者と被害者のどちらにどれだけあるかを示したものです。たとえば9対1、10対0などの形で表されます。
加害者の過失が9で、被害者の過失が1だった場合、損害が100万円なら、加害者は90万円を支払うことになります(これを「過失相殺」といいます)。
このように、同じ事故でも過失の割合や被害の内容によって、賠償額は大きく変わるのです。
高額賠償になる自転車事故とは?
「車と違って、自転車ならそこまで大きな事故にはならない」と思っていませんか?
しかし実際には、自転車事故でも数千万円規模の高額賠償が命じられた事例もあります。
以下は、実際に発生した事故の一例です。
男子小学生(11歳)が帰宅途中、自転車で走行中に歩行者と正面衝突
夜間、歩道と車道の区別がない道路で、62歳の女性と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折などの重傷を負い、意識が戻らない状態となった。
賠償額:9,521万円
【神戸地裁/平成25年7月4日判決】
ペットボトル片手に下り坂をスピードを落とさず走行し、歩行者と衝突
横断歩道を横断していた38歳の女性と衝突。女性は脳挫傷などで3日後に死亡。
賠償額:6,779万円
【東京地裁/平成15年9月30日判決】
男子高校生が赤信号で横断歩道を走行し、オートバイと衝突
相手の62歳男性が頭蓋内損傷により13日後に死亡。
賠償額:4,043万円
【東京地裁/平成17年9月14日判決】
被害者に重大な被害が生じた場合は特に、自転車事故でも損害賠償金が高額になることが多いです。
子どもが事故を起こしたとき、賠償責任は保護者にあるの?
自転車事故の加害者が未成年の子どもだった場合、誰が損害賠償責任を負うのでしょうか?
一般的に、12〜13歳以上であれば本人に責任能力があると判断されることが多く、原則として子ども自身が損害賠償責任を負います。
一方で、小学生など責任能力がないとされる年齢の子どもが事故を起こした場合には、基本的に保護者が賠償責任を負うことになります(民法714条)。
また、責任能力がある子どもの場合でも、実際に賠償金を支払うのは親(保護者)になるケースがほとんどです。
実際に、未成年者の加害によって高額な賠償が命じられた判例も複数存在しています。
保護者としては、日常からの安全指導とあわせて、自転車保険などの備えをしておくことが大切です。
自転車事故で有効な自転車保険とは?
自転車事故では、自動車用の保険である自賠責保険や自動車保険は使用できません。
自転車事故の加害者になった場合の備えとして、自転車保険があります。自転車保険について解説します。
自転車保険では自身と相手方への補償ができることが多い
自転車保険とは、自転車事故によって生じた損害に備える民間保険です。
一般的に、次の2つの補償がセットになっています:
- 個人賠償責任保険
他人にケガをさせたり、物を壊してしまったりした場合の損害賠償に対応。
自転車事故の加害者になったときに、被害者への賠償に使える。 - 傷害保険
自分自身がケガをしたときの治療費や入院費に対応。
また、自転車保険の中には以下のような特約が付いていることもあります。
- 弁護士費用の補償
- ロードサービス(自転車の搬送など)
- 家族全体をカバーするタイプの保険
加入前には、これらの内容が補償対象に含まれているかを確認しておくことが大切です。
自転車事故の保険請求の流れや保険の補償内容など、詳しい解説は下記の関連記事をお読みください。
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自転車保険が義務化されている地域もある
自転車事故の賠償金が高額化していることを背景に、各地で保険加入の義務化が進んでいます。
- 2015年:兵庫県が全国初の義務化
- その後:大阪府、滋賀県、東京都などでも義務化がスタート
現在では多くの自治体で、自転車保険の「義務化」または「努力義務化」が進んでおり、加入していないと条例違反になる場合もあるため注意が必要です。
自転車保険の加入前にチェックしたい注意点
自転車保険に新たに加入する前に、すでに入っている他の保険と補償が重複していないかをチェックしましょう。
たとえば以下のような保険やサービスには、個人賠償責任保険が特約として付いていることがあります。
- 自動車保険や火災保険の特約
- クレジットカード付帯の保険
- 自転車保険以外の傷害保険や共済
また、以下の点も確認しておくと安心です。
- 家族が加入している保険の内容を確認する
同居の親族が加入している保険に、自分や子どもが補償対象として含まれているケースがあります。 - 補償の範囲や金額が十分かをチェックする
補償額が1億円未満などの場合、賠償金が足りなくなる可能性があります。
重複加入してしまうと、いざというときに「どれが使えるかわからない」「複数請求できない」などのトラブルにつながる可能性もあります。
まずは今ある保険を見直し、それでも足りない部分があれば新たに自転車保険を検討するのが賢い選び方です。
まとめ
自転車事故を起こしてしまったとき、加害者としてはまず落ち着いて対応を進めることが大切です。
現場での救護や警察への通報、被害者への連絡・謝罪、示談の準備など、対応すべきことはたくさんあります。
特に損害賠償については、場合によっては数千万円単位になることもあり、保険の有無が大きな影響を与えます。
すでに加入している保険が使えるか、家族の保険が適用されるかなど、今できる確認をしておきましょう。
不安な場合は、専門機関への相談や、保険会社への問い合わせをすることで、少しでも安心につながるはずです。
まずは一つずつ、できることから進めていきましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了