交通誘導に従ったら事故にあった!運転手と警備員の責任は?過失割合と裁判例の紹介
更新日:
駐車場の出入り口や工事現場などでは、安全のために警備員が交通誘導を行っていることが多いです。
交通誘導は誘導棒や手信号で行われ、運転手としては頼りになる存在でしょう。
しかし、その誘導をうのみにして事故を起こしたり、事故に巻き込まれたりして、事故の当事者になってしまうことも起こりえます。
こうした交通誘導の関連する事故で気になる「過失割合」について解説しますので、最後までお読みください。
交通誘導に従って事故発生!責任の大半は運転手が負う
警備員の交通誘導に従ったことで事故が発生した場合でも、責任の大半は運転手が負うことになります。
その理由や、交通誘導にミスがあった場合の過失割合について見ていきましょう。
交通誘導より運転手の判断を重視して責任が決まる
交通誘導に従って事故になった場合、原則として運転手に過失があるとされます。
「警備業法」からもわかるように、警備員による交通誘導には、運転手を従わせる権限はありません。交通誘導はあくまでもお願いに過ぎず、従うかどうかは運転手の判断に委ねられるのです。
第十五条 警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。
警備業法15条
よって、たとえ警備員の交通誘導に従って交通事故が起きたのだとしても、「交通事故が起きた原因は交通誘導ではなく、交通誘導に従うと決めた運転手自身の判断にある」とされるのです。
明らかな誘導ミスがあれば警備員にも過失がつく
交通誘導した警備員の指示が明らかに道路交通法に違反していたり、警備員が交通事故の原因となるような注意義務違反を犯していたりすると、警備員側にも過失が認められる可能性があります。
ただし、運転手本人よりも警備員側の過失の方が大きくなることは考えにくいです。
交通誘導した警備員に過失が認められる可能性があるケースを例示します。
- 赤信号で車両を進めるように指示した
- 狭い道で対向車が近づいているにもかかわらず、双方の車両を通行させた
- 漫然とした誘導合図を送り、事故を引き起こした
このように、交通誘導した警備員にも何らかのミスがある場合、おおよそ10%程度から30%程度の過失がつくこともあります。
交通誘導が絡む交通事故については、明確に過失割合が決まっているわけではありません。実際の過失割合は事故状況や示談交渉次第になるとお考えください。
【注意】警察の交通整理には従う義務がある
先述の通り、警備員による交通誘導は警備業務の一環であり、法律的な権限はありません。
そのため運転手は、交通誘導に従うべきか自分自身で判断する必要があります。
一方で警察による交通誘導(交通整理)は、道路交通法により与えられた権限になります。運転手は警察の交通整理には従わねばなりません。
たとえば、信号機が赤色であっても、警察の手信号により走行を指示された場合は走行するように義務付けられています。
しかし、同じ状況で警備員が走行を指示していた場合、運転手は道路交通法の遵守を優先し、赤信号のほうに従わなければならないのです。
交通誘導に関連する交通事故の過失割合
続いて、交通誘導に関連する交通事故の過失割合を見ていきましょう。
ここでは、警備員には過失がつかないケースを想定して事故当事者(被害者・加害者)の過失割合を紹介していきます。
交通誘導をした警備員にも過失がつく場合や、ほかにも過失割合の算定で考慮すべき要因がある場合は、ここで紹介した通りにはなりません。
ここで紹介する過失割合は、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に記載されている情報をベースにしています。
道路外から右折する際の過失割合
道路外から道路へ出ようとする場面は、ショッピングセンターへの買い物の帰りや、ガソリンスタンドでの給油を終えた後など、日常生活ではよくあるシーンです。
道路外から道路に入った際に、道路を走行中の車両と衝突した場合の過失割合は、80:20となります。道路外から道路に入った方に80%の過失がつくのです。
事故状況 | A:直進車 | B:路外車 |
---|---|---|
基本の過失割合 | 20 | 80 |
Aが15km以上速度違反 | 30 | 70 |
Aが30km以上速度違反 | 40 | 60 |
Bが徐行無し | 10 | 90 |
Bに重過失あり* | 0 | 100 |
※重過失の例:酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、時速30km以上の速度違反など
道路から道路外に出るため右折する際の過失割合
道路から道路外へ出ようとして右折をしようとした際、対向車線を走行する車両と衝突した場合の過失割合は、90:10となります。道路外に出ようとした車両に90%の過失がつくのです。
事故状況 | A:直進車 | B:右折車 |
---|---|---|
基本の過失割合 | 10 | 90 |
Aが15km以上速度違反 | 20 | 80 |
Aが30km以上速度違反 | 30 | 70 |
Bが合図なし | 0 | 100 |
Bが徐行なし | 0 | 100 |
駐車場内で駐車区画から出てきた車両との事故の過失割合
駐車場内にも交通誘導の目的で警備員が配置され、交通誘導を行っているシーンは多数あります。
駐車場内の通路を走行する車両(通路進行車)と、駐車スペースから出てきた車両(駐車区画退出車)が接触した場合の過失割合は、30:70です。駐車スペースから出てきた車両側に70%の過失が認められます。
事故状況 | A:通路進行車 | B:駐車区画退出車 |
---|---|---|
基本の過失割合 | 30 | 70 |
Aの著しい過失 | 40 | 60 |
Aの重過失 | 50 | 50 |
Bの著しい過失 | 20 | 80 |
Bの重過失 | 10 | 90 |
著しい過失や重過失があれば10%もしくは20%、過失割合が高くなります。
著しい過失の例としては、脇見運転などの著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキの不適切な捜査、ながらスマホ、酒気帯び運転などです。
重過失の例としては、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、過労や病気及び薬物の影響などで正常な運転ができない恐れがある場合などがあげられます。
交通事故の過失割合は、基本の過失割合に修正要素を反映して決まります。過失割合についてさらに詳しく知りたい方は、関連記事もお読みください。
交通誘導ミスによる事故の事例|過失割合もあり
ここからは、交通誘導ミスによって発生した交通事故の事例を紹介します。過失割合についても紹介しているのでご確認ください。
信号と違う誘導に関する交差点事故の判例
この事故は、対面信号が直進及び左折の青矢印の表示をしているにすぎないところ、交差点を右折しようとした原告車が、対向車線を直進してきた車両に衝突した事故でした。
原告車両の運転手は、誘導員が、右手に持っていた赤い誘導灯を左肩の辺りから右下に向けて振っているのが見えたため、交差点を右折しても構わないものと考え、そのまま交差点内に進入したということです。
裁判所は、次のような理由から原告車両運転手に7割、誘導員に3割の過失割合を認めました。
- 誘導員は運転手から見て「右折合図」と取れる行動をしたこと
- 誘導員は右折をさせることで直進車との事故発生を予見できた
- 誘導員の合図に指示に法的権限がなく、最終的には運転手の規範意識によらざるを得ない
- 信号機の表示する信号に従うという運転手の基本的な義務に違反するという重大な過失があった
- 道路状況も踏まえて誘導指示をうのみにしたこと自体、慎重さを欠いた運転態度であった
誘導員の指示に従うかどうかは運転手が決めることであるから、交通事故の責任の多くは運転手にあると判断されました。(東京地方裁判所 平成15年9月8日判決)
ガソリンスタンド従業員の誘導に関する事故の判例
ガソリンスタンドでの給油を終えた運転手が、ガソリンスタンドの従業員の指示のもとで公道に出ようとしていました。
その際に車両の左後方を計量器と接触させてしまい、計量器が破損してしまったのです。
裁判所は、次のような理由から原告車両運転手に8割、誘導した従業員に2割の過失割合を認めました。
- 運転手が後方の安全確認をする義務を怠ったことが事故の原因である
- 誘導員の停止の合図が遅かったなど、適切さを欠く誘導でもあった
誘導を受けていると、誘導員に注意が向いてしまい、周囲への注意が散漫になっていたことも指摘されました。(東京地方裁判所 昭和52年8月30日判決)
交通誘導による事故は弁護士に相談を
過失割合は個別的に算定するもの|専門知識が必要
交通事故の過失割合は、各事故の個別的な事情を考慮しながら柔軟に算定します。
特に交通誘導が絡む事故は判断が難しい部分も多く、専門知識や過去の事例を参考に慎重に過失割合を算定する必要があります。
過失割合はどれくらいなのか、警備員にも過失はあるのかを把握しておくことは、適切な示談交渉の第一歩です。
過失割合についてはアトム法律事務所の無料電話・LINE相談でもご相談いただけるので、お気軽にご連絡ください。
警備員にも過失がある場合は、警備会社との交渉が必要
明らかな誘導ミスなどがあり警備員にも過失があると主張したい場合は、警備員本人ではなく警備員が所属する警備会社との交渉が必要です。
具体的には警備会社が加入する保険の担当者か、警備会社側の弁護士との交渉が予想されます。
以下の点から交渉は難しいものになる可能性が高いので、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
- 交通誘導に従うか否かは運転手の判断次第なので、交渉時にも運転手の判断ミスを指摘されやすい
- 過失割合は損害賠償金額に影響するので、警備会社側もシビアな態度で交渉に臨んでくる
まずは無料電話・LINE相談で過失割合を確認しよう
アトム法律事務所では、無料電話・LINE相談を実施しています。
相談後にご依頼まで進む場合は、弁護士費用特約を使うと弁護士費用の負担を大幅に減らせます。弁護士費用特約が使えない場合は、着手金が無料です。
もちろん、無料相談のみのご利用でも問題ありません。まずは適切な過失割合の確認のため、お気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了