【被害者向け】交通事故加害者の起訴の基準は?刑事裁判や注意すべき点も解説
更新日:

交通事故の加害者は、起訴され裁判を経て刑事罰を受けることがあります。
被害者としては「加害者からどれだけの損害賠償金を受け取れるか」だけでなく、「加害者は起訴されるか」、「どのような刑事罰を受けるか」も気になるところでしょう。
しかし、交通事故の加害者は必ずしも起訴されるとは限りません。また、起訴されたとしても、刑事裁判ではなく略式裁判というものになることもあります。
交通事故における起訴・不起訴の判断基準や加害者が起訴された後の流れについて確認していきましょう。
目次

交通事故で加害者の起訴・不起訴はどう決まる?
交通事故における起訴の判断基準4つ
交通事故の加害者の起訴・不起訴は検察が判断します。主な判断基準は以下のとおりです。
- 行為態様
- 被害結果
- 社会的な影響
- 示談の成立
それぞれについてくわしく見ていきましょう。
行為様態
加害者の運転態様や事故の状況が、過失運転致死傷等罪などの罪の構成要件に該当するかが判断されます。
具体的には、速度超過や信号無視などの違反行為があったかどうか、注意義務違反があったかどうかなどが重視されます。
被害結果
被害者のケガの程度や死亡の有無が、起訴の必要性の判断に影響します。被害者が重傷を負っていたり死亡したりしている場合は、起訴される可能性が高くなります。
社会的な影響
事故が社会に与えた影響の大きさが、起訴の必要性の判断に影響する場合があります。
例えば、重大な事故や公職者による事故などは社会的影響が大きくなるため、起訴される可能性が高くなります。
示談の成立
被害者と加害者が刑事面で示談を成立させている場合、起訴される可能性が低くなります。示談が成立していると、「加害者はすでに反省を示し、被害者はそれを受け入れた」と判断されるからです。
交通事故の加害者が不起訴になるケース3つ
以下のような判断がされた場合は、交通事故の加害者が不起訴になります。
- 嫌疑なし
起訴しても加害者が有罪にならない、または有罪であることを立証する十分な根拠がないことが明白である - 嫌疑不十分
加害者が有罪である可能性はあるが、それを証明する十分な根拠がない - 起訴猶予
加害者が有罪になる可能性は高いが、本人が反省していたり被害者の被害が小さかったり、被害者から許しを得ていたりといった理由であえて起訴を見送る
不起訴に納得できない時は検察審査会に申し立てる
加害者が不起訴になり納得いかない場合は、「検察審査会」に申し立てをすると不起訴処分の妥当性を検討してもらえます。
検察審査会で「起訴相当」「不起訴不当」という判断がなされれば、検察官に再度捜査、起訴・不起訴の判断をしてもらうことが可能です。
交通事故で加害者が起訴されるとどうなる?
刑事裁判か略式裁判で刑事罰が検討される
交通事故で加害者が起訴されると、刑事裁判か略式裁判がおこなわれます。
内容 | |
---|---|
刑事裁判 | 実際に法廷で裁判が開かれ、正式な手続きを経て判決が下される |
略式裁判 | 法廷での裁判は開かれず、検察が簡易裁判所に提出する書類をもとに判決が下される |
加害者が起訴されて刑事裁判や略式裁判がおこなわれると、以下のいずれかの判決を受ける可能性があります。
- 罰金刑
罰金刑は、交通事故では過失運転致死傷罪で科されることが一般的です。 - 懲役刑
懲役刑は、原則として1ヶ月以上20年以下の範囲で科される刑罰です。交通事故では危険運転致死傷罪で懲役刑が科されることが一般的です。 - 執行猶予
執行猶予は、刑の執行を一定期間猶予し、その期間内に更生を図った場合に、刑の執行を免除する制度です。交通事故で執行猶予が認められる場合は、懲役刑と併せて科されることが多いです。
また、起訴されて有罪となり、刑事罰を受けた加害者には前科がつきます。
略式裁判で罰金刑になることが多い
交通事故で加害者が起訴された場合は、刑事裁判ではなく略式裁判となることが多いです。
略式裁判で加害者に下される刑事罰は、100万円以下の罰金または科料です。
略式裁判になるケースと略式裁判の流れ
それほど被害の大きくない交通事故で、なおかつ以下の条件に当てはまる場合は略式裁判となることが多いでしょう。
- 被疑者(加害者)が罰金刑または科料刑に該当する罪を犯したことが明らかである
- 被疑者が罪を認めている
- 被疑者が異議を申し立てない
刑事裁判では判決が下されるまでに数ヶ月~数年かかりますが、略式裁判であれば起訴後2週間~1ヶ月程度で手続きが終了します。
交通事故の略式裁判の流れ
略式裁判の場合は、まず加害者が検察から略式裁判についての説明を受け、同意したのち略式起訴されます。
その後、2週間~1ヶ月で簡易裁判所から判決(略式命令)が発布され、加害者に郵送されます。
略式裁判は加害者と裁判所・検察官の間で進められるので、被害者が手続きに関与する機会は基本的にありません。
なお、被害者が逮捕・勾留されている場合は略式命令が交付されたタイミングで釈放となります。
刑事裁判になるケースと刑事裁判の流れ
懲役刑が下される可能性の高いケースでは、刑事裁判がおこなわれる傾向にあります。
懲役刑が下される事例としては、危険運転致死傷罪にあたるケースが挙げられます。著しいスピード違反や飲酒運転、薬物を使用しての運転などが該当し、刑事罰は以下のとおりです。
- 被害者がケガをした場合:1ヶ月以上15年以下の懲役
- 被害者が死亡した場合:1年以上の有期懲役
交通事故の刑事裁判の流れ
刑事裁判は、起訴後、複数回の公判を経て判決が言い渡されるという流れで実施されます。
公判では以下のようなことをおこないます。
- 冒頭手続
加害者の本人確認や起訴状の確認、裁判での争点の確認など。 - 証拠調べ
書類や証拠物の確認、証人尋問など。 - 被告人質問
被告人(加害者)が、自分の言い分や反省・謝罪の言葉などを述べる。 - 弁論手続き
検察官が意見を述べたうえでどれくらいの刑罰が妥当かを主張する。弁護人は検察官への反論や被告人を擁護する意見を述べる。被告人も意見を述べる。
交通事故被害者が刑事裁判に参加する義務はありません。
しかし、刑事裁判に参加して検察官に意見を述べたり、証人や被告人に質問したりしたい場合は、被害者参加制度を利用して裁判に出ることができます。
被害者参加制度の利用には事前の手続きが必要なので、確認してみてください。
交通事故の被害者が刑事裁判に参加できる制度
被害者参加制度とは?
被害者参加制度とは、一定の重大な犯罪について、被害者や遺族が加害者の刑事裁判に参加できる制度です。交通事故では、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などが対象となります。
かつては、交通事故で大きな被害を受けた当事者であるにもかかわらず、加害者の刑事裁判がどのように進んでいるのか分からない、被害者が刑事裁判に直接関われないといった問題を抱えていました。
交通事故に限らず、刑事裁判すべてで被害者が参加することはできず、傍聴席で見守ることしかできなかったのです。そんな被害者の声を反映し、被害者が刑事裁判に直接関われるように「被害者参加制度」が設けられました。
被害者参加制度では、具体的に以下のようなことが認められています。
- 裁判での傍聴だけでなく、検察官の隣で審理に立ち会うこと
- 加害者や証人への質問を行うこと
- 被告人に対して意見陳述を行うこと(被害者の思いを直接伝える場)
被害者参加制度により、加害者の責任をしっかり追及し、裁判官にも被害者の被害感情や実態を伝えることができます。
参加を希望する場合は、事件を担当する検察官に申し出ると、裁判所に通知してくれます。ただし、実際に参加できるかどうかは裁判所の判断に委ねられるため、必ず参加が認められるとは限りません。犯罪の性質や被告人との関係、その他の事情などが総合的に考慮されます。
刑事裁判で控訴・上告の権利は被害者にない
刑事裁判の判決に対して、「判決が軽すぎる」「納得できない」と感じた場合でも、被害者に控訴や上告を行う権利はありません。控訴や上告をできるのは、検察官と被告人です。
判決に対して直接的に抗議できる被害者の手段はなく、被害者サイドで控訴するかどうかは検察官の判断に委ねられてしまいます。
ただし、以下のような方法で被害者自身の意思を伝えることは可能です。
- 検察官に対し、控訴を望む意見を述べる
- 控訴審にも引き続き傍聴や意見陳述(被害者参加対象事件の場合)を行う
このように、被害者の声を届ける仕組みはあるものの、刑事裁判はそもそも「国家が犯罪を裁く手続き」なので、限界があることは留意しておきましょう。
起訴・刑事裁判のために被害者が注意すべきこと
刑事面での示談には慎重に対応する
交通事故の刑事裁判では、「被害者が加害者を許している」と判断されると不起訴になったり刑事罰が軽くなったりすることがあります。
よって、加害者側が「加害者を許す」という内容での示談を持ちかけてくることがありますが、この示談への対応は慎重に検討しましょう。
なお、「加害者を許す」という内容の示談は刑事面でのものであり、損害賠償問題について決める民事面での示談とは別物です。
たとえ損害賠償金について示談が成立していても、「加害者を許す」とする刑事面での示談にまで応じる必要はありません。
加害者の起訴・厳罰を望む場合は、刑事面での示談には慎重に対応しましょう。
見舞金や謝罪の申し入れは受け入れない
交通事故後、加害者から見舞金や謝罪の申し入れを受けることがあるかもしれません。
しかし、これらを受け入れると「加害者は被害者から一定の許しを得ている」として不起訴処分になったり刑事罰が軽くなったりする可能性があります。
加害者に対する処罰感情が強い場合は、見舞金や謝罪の申し入れは受け入れない方が良いでしょう。
事故後の警察の捜査にはしっかり協力する
交通事故後におこなわれる警察の捜査には、しっかり協力しましょう。ここでの捜査内容が、加害者の起訴・不起訴の判断や刑事罰の判断に影響してくるからです。
警察がおこなう捜査には以下の2種類があります。
- 実況見分捜査:実際に事故現場を見ながら事故発生時の状況を確認する捜査。基本的に人身事故の場合のみおこなわれる。
- 聞き取り捜査:事故時の状況などについて、事故の当事者から聞き取る捜査。
捜査への協力は任意ですが、協力しなかった場合は加害者側の言い分のみが捜査資料に記録され、被害者側に不利な内容になるおそれがあります。
実況見分捜査で聞かれる内容や注意点は『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』にてご確認ください。
交通事故の刑事裁判と民事裁判はどう違う?
刑事裁判と民事裁判は争う内容が違う
交通事故で被害を受けると、刑事裁判と民事裁判の両方が行われる可能性はありますが、いずれも目的や手続きが大きく異なります。
- 刑事裁判:加害者の有罪、無罪、刑事罰の内容を決めるためのもの。裁判の当事者は検察官(国)と被告人(加害者)。
- 民事裁判:加害者が被害者に対して支払う損害賠償金や過失割合について争うためのもの。裁判の当事者は原告(被害者)と被告(加害者)。
もう少し簡潔に言い換えると、刑事裁判は「加害者を罰するための裁判」、民事裁判は「加害者に金銭補償させるための裁判」だと考えるとわかりやすいでしょう。
刑事裁判と民事裁判は双方に影響を与えうる
刑事裁判と民事裁判は争う目的が異なるとはいえ、互いに一定の影響を及ぼすこともあります。
たとえば、刑事裁判で加害者が有罪となれば、その事実が民事裁判で「過失の存在」や「損害発生の証拠」として有利に働くことがあるでしょう。また、刑事裁判で提出された証拠や証言を、民事裁判でも利用できるケースがあります。
反対に、加害者が被害者と示談をしている点が刑事裁判で「情状酌量」として扱われ、刑罰が軽くなる可能性もあります。示談は、民事上の損害賠償請求にも影響を与えるため、被害者としては示談の内容やタイミングに注意が必要です。
つまり、刑事裁判と民事裁判は別物でありながらも、互いに影響しあう関係だといえます。どちらか一方ではなく、両面からの対応が重要になるケースも多いため、必要に応じて弁護士に相談し、適切な対応をとることが大切です。
交通事故の起訴・刑事裁判についてよくある質問
Q.交通事故の刑事裁判にかかる期間は?
交通事故の刑事裁判にかかる期間は、数ヶ月~数年です。裁判の内容に応じて公判の回数は変わります。
ただし、略式裁判であれば起訴後、2週間~1ヶ月程度で手続きが終了します。
Q.加害者が起訴されないと賠償金はもらえない?
加害者が起訴されなくても賠償金は請求できます。
刑事裁判と賠償金の支払いは別の手続きであり、起訴・不起訴の結果にかかわらず、被害者は民事上の損害賠償請求を行う権利があります。
実際、加害者が不起訴になったとしても、次のような方法で賠償金を受け取ることが可能です。
- 加害者が加入する任意保険と示談交渉による損害賠償請求を行う
- 加害者が加入する自賠責保険に保険金を請求する
- 加害者本人や加害者側の任意保険会社に対して、民事裁判による損害賠償請求を行う
特に交通事故の場合、多くの加害者が任意保険に加入しているため、起訴の有無に関係なく保険会社から治療費や慰謝料などが支払われるケースがほとんどです。
賠償金の提示を受けたら弁護士に相談
任意保険会社が提示してくる金額は、被害者にとって不当に低額であることも多いので、弁護士に一度相談しておくことをおすすめします。
交通事故で怪我したら、弁護士にご相談ください。交通事故の被害者として受け取るべき妥当な賠償金の金額を弁護士に聞いてみましょう。
アトム法律事務所は弁護士による無料相談を実施中です。無料相談の受け付けは24時間いつでも対応中なので、気軽にお問い合わせください。

まとめ
交通事故の加害者が起訴されるか不起訴になるかは検察が決めます。加害者が起訴されれば、刑事裁判や略式裁判で刑事罰が決まります。
加害者に対する処罰感情が強い場合は、起訴や刑事裁判の前に刑事面での示談を成立させたり、見舞金や謝罪を受け入れたりしない方が良いでしょう。
加害者が不起訴になり納得いかない場合は、検察審査会への申し立ても検討してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了