交通事故で有給を使っても休業損害(休業補償)はもらえる?請求時の注意点

交通事故に遭い、治療のために有給休暇を使って仕事を休む場合、「給与は減っていないのに休業損害はもらえるのか」と疑問に思う方もいるでしょう。
結論から言うと、休業に対する補償である休業損害は、有給を取得しても請求可能です。
一方、勤務中や通勤中の事故で労災保険から支払われる休業補償は、有給休暇を使った日は支給対象にはなりません。
本記事では、有給を使った場合の休業損害の請求方法や注意点を、労災の休業補償との違いもまじえて解説します。
交通事故の賠償実務では、損害賠償金として加害者側から支払われる休業に対する補償は「休業損害」と呼ばれます。労災保険から支給される「休業補償」とは別物なので注意してください。
目次
有給休暇は休業損害(休業補償)の対象?
治療のための有給なら休業損害はもらえる
交通事故で負傷し、治療のため有給休暇を取得した場合でも、休業損害はもらえます。
有給休暇を使うことで実際には給与が減らなかったとしても、交通事故に遭わなければ「自分のために自由に使えていたはずの有給」を被害者は消化したわけなので、経済的損害が発生していると考えられるからです。
実際に交通事故で有給を使い、休業損害が認められた事例を紹介します。
小学校技術職員(男・事故時28歳)の有給休暇(37.5日)につき、事故前3ヵ月間の収入88万9600円を稼働日数(60日)で除した金額(1万4826円)を日額として55万円余を認めた
神戸地判平25.1.24 自保ジ1900・85
自宅で静養するために合計13日の有給休暇を利用した場合につき、有給休暇の財産的価値に鑑み、前年給与所得を365日で除した金額で13日分を認めた。
東京地判平14.8.30 交民35・4・1193
休業損害は本来、治療のために仕事を休んだことで生じる減収を補償するものです。有給で休んでも減収は生じないので、休業損害を請求できないようにも思えますが、交通事故による有給取得は損害として請求できます。
有給をとっても休業損害がもらえないケース
すべての有給取得が休業損害の対象になるわけではありません。たとえば、通院日ではなく、医師から自宅療養の指示があったわけでもなく、自己判断で有給をとった場合は休業損害がもらえない可能性があります。
自己判断だと、その日に休むべき理由・正当性を証明できないからです。
しかし、ケガの状態が悪く仕事に行くのがつらい場合は、無理をせず安静にしたほうが良いでしょう。
自己判断で有給をとりたい場合は、通院予定日でなくても病院へ行き、その日のケガの状態などを医師に確認・記録してもらうことをおすすめします。
そうすることで、休業損害の請求時に「必要な休みであった」ことを証明しやすくなります。
労災の休業補償は有給をとってももらえない
勤務中や通勤中の事故であれば、労災保険から支払われる「休業補償」をもらえるケースがあります。
しかし、労災の休業補償は、有給で休んだ日に対しては支払われません。
休業補償は「業務上の事故により働くことができず、賃金を得られなかった日」を対象とするからです。有給では賃金は支払われるため、休業補償はもらえません。
一方、交通事故の損害賠償金として加害者側から支払われる休業損害は、有給を使った場合でも請求できるため、労災とは取り扱いが異なることを理解しておきましょう。
同じ「休業に対する補償」でも、適用される保険や条件が違うため、両者を混同しないようにしてください。
休業損害と休業補償の違い
休業損害と休業補償には次のような特徴があるので、押さえておきましょう。
休業補償と休業損害の違い
休業損害 | 休業補償 | |
---|---|---|
対象事故 | 人身事故 | 業務中・通勤中の事故 |
請求先 | 加害者側の自賠責・任意保険 or 加害者本人 | 労災保険 |
補償金額 | 日額100%×休業日数 | 日額80%*×休業日数 |
有給休暇の扱い | 休業日数に含む | 休業日数に含まない |
対象者 | 会社員 パート・アルバイト 専業主婦 個人事業主 一部の無職者 | 会社員 パート・アルバイト 個人事業主** |
補償期間 | 休業初日~完治・症状固定まで | 休業4日目~完治・症状固定まで |
* 休業特別支給金としての減収20%も含む
** 特別加入者の場合
なお、休業損害と休業補償の金額は相殺されるものの、休業損害と休業補償は併用できます。
休業特別支給金は相殺されないからです。休業損害と休業補償を併用することで、減収の120%を受け取れるようになります。
休業補償について詳しくは『交通事故の休業補償はいつまでもらえる?自賠責保険の休業手当との違いは?』の記事が参考になりますのでご覧ください。
有給休暇を使った時の休業損害の請求方法
通常の休業損害の請求方法と同じ
交通事故の通院や療養のために有給休暇を使った場合でも、休業損害の請求は可能です。 ただし、勤務先が「有給休暇を取得した」という事実を証明してくれることが前提となります。
基本的な手順は、欠勤した場合の休業損害の請求と大きな違いはありません。
交通事故で仕事を休んだ際は、勤務先に発行してもらう「休業損害証明書」を保険会社に提出するのが一般的な流れです。有給休暇を取得した場合も同様で、勤務先が有給の取得日数や日額を明記してくれれば、保険会社から補償を受けられます。
有給休暇を使ったからといって特別な手続きが必要になるわけではありません。まずは勤務先の人事・労務担当に相談し、休業損害証明書を作成してもらいましょう。

休業損害証明書に「有給」の記載があるか確認
休業損害証明書は勤務先に書いてもらうものですが、有給をとった場合は、有給休暇を取得した事実が明記されているかを必ず確認してください。
記載がなければ、保険会社が「実際の収入減はなかった」と判断し、休業損害が認められない可能性もあります。
主な確認ポイントは以下のとおりです。
- 休業期間:有給の期間も含まれているか
- 休業の内訳:有給の日数が正しく記載されているか
- 休んだ日:欠勤と同様、有給をとった日にも「◯」がついているか
休業損害証明書の内容や書き方は『休業損害証明書の書き方は?虚偽記載がばれるとどうなる?』で詳しく解説しています。参考にしてみてください。
交通事故の休業損害についてよくある疑問
Q.欠勤と有給取得はどっちが得?
欠勤と有給取得のどちらが得かは、金銭面を優先するか、有給休暇の温存を優先するかで変わってきます。
- 欠勤の場合:給料は減るが減収分は休業損害として請求でき、有給も減らない
- 有給取得の場合:給料は減らず使った有給も同額の休業損害を請求できるが、有給は減ってしまう
金銭面を重視するなら有給休暇を取得して、休業損害を請求するのがおすすめです。一方で、今後のために有給を温存しておきたい場合は、欠勤を選ぶ方法もあります。どちらを優先するかは、ご自身の状況を整理して判断することが大切です。
Q.半日の有給でも休業損害はもらえる?
半日の有給休暇でも休業損害の請求は可能です。
半日有給の場合は、1日あたりの休業損害額を基準に、半日分の金額を日割り計算して請求します。
例:1日あたりの休業損害が1万円の場合
- 半日の有給なら5,000円
- 2時間の早退なら2,000〜3,000円程度
勤務先の就業規則や給与計算方法に応じて計算されるので、勤務先が記載した「休業損害証明書」をもとに請求額は算出します。
半休や時間単位の有給を取った場合も、その内容を休業損害証明書に必ず記載してもらってください。
Q.代休や夏季休暇でも休業損害はもらえる?
代休をとって通院したり、夏季休暇や冬季休暇などに通院したりしても、原則として休業損害はもらえません。
代休は他の人と休みを代わってもらうことです。通院日に他の人に仕事してもらった分、被害者は別日に働き収入を得ます。通院のために休んで減収が生じたとは言えないため、休業損害の対象にはならないのです。
また、夏季休暇や冬季休暇は時期が決まっているものです。
土日祝など所定の休業日に通院するのと同じような扱いになるため、休業損害はもらえません。
Q.休業によって有給が付与されなくなった場合の補償は?
入社して間もないタイミングで交通事故のために長期間休むと、出勤日数が足りずに有給休暇の付与が受けられないことがあります。
この場合、有給休暇が付与されるはずだった日数分の休業損害を受け取れる可能性があります。
Q.加害者が提示する休業損害が少ない!なぜ?
休業損害を加害者側の任意保険会社に請求した際、実際の減収入分よりも少ない金額を提示されることがあります。
理由としては以下が考えられるでしょう。
- 有給休暇など一部の休みが休業損害の対象に含まれていない
- 日額を少なく算定されている
休業損害の日額は、弁護士や裁判所が計算する場合は「事故前3ヶ月間の収入÷実労働時間」とされることが多いです。(給与所得者の場合)
一方、加害者側の任意保険会社は「事故前3ヶ月間の収入÷90日」として計算することがあります。
こうした形で加害者側の提示する休業損害が少なくなっている場合は、示談交渉時に増額を求めることが必要です。
交通事故の休業損害(休業補償)でお困りなら弁護士に相談
交通事故の休業損害についてお困り事やわからないことを抱えている場合は、弁護士にご相談ください。
アトム法律事務所では、電話・LINEにて無料相談を実施しています。
ご依頼まで進んだ場合は費用がかかりますが、弁護士費用特約を使えば保険会社に費用を負担してもらえます。
弁護士費用特約が使えない場合は基本的に着手金が無料です。
無料相談のみのご利用も可能なので、お気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了