救急車を妨害してしまったらどうなる?違反点数・反則金・罰則は?

救急車を妨害してしまうと、道路交通法違反や刑法違反などの法律違反となる可能性があります。
法律違反となると、運転免許の違反点数が加算されたり、反則金が課されたりするだけでなく、逮捕をされたり、罰則を科されたりする可能性もあります。
本記事は、救急車を妨害するとどういった法律違反となる可能性があるのかや法律違反となった場合の不利益の内容、救急車の妨害にならないための対応方法などについてまとめた記事です。
目次

救急車を妨害すると道路交通法違反となる可能性がある
救急車の妨害は、妨害行為の際の状況や内容により、以下の道路交通法に違反する可能性があります。
緊急車妨害等違反
傷病者を緊急搬送するといった救急活動のために、サイレンを鳴らし、赤色の警光灯をつけて走行中の救急車は、道路交通法上の緊急車両(緊急自動車)に該当します。
緊急事態に対応するために緊急車両は、道路交通法上、規制が一部免除され、一般車両に優先した走行が認められています。
そのため、緊急車両の走行を妨害してしまった場合、道路交通法上の緊急車妨害等違反となり、違反者には以下のような不利益があります。
なお、緊急事態に対応するため利用される緊急車両には、救急車以外にも消防車やパトカーなどが該当します。
違反点数
緊急車妨害等違反をした場合、違反点数として1点が加算されます。
反則金
緊急車妨害等違反をした場合、自動車の種類に応じて以下の反則金が課されます。
自動車の種類 | 金額 |
---|---|
大型車 | 7,000円 |
普通車 | 6,000円 |
二輪車 | 6,000円 |
小型特殊車 | 5,000円 |
原付車 | 5,000円 |
罰則
上記の反則金を支払わない場合、5万円以下の罰金が科される可能性があります。罰金が科された場合、反則金とは異なり、前科として扱われるので注意が必要です。
本線車道緊急車妨害違反
一般道ではなく、高速道路や自動車専用道路の本線車道(加速車線、原則車線、登坂車線、路側帯などを除いた部分)で緊急車両の走行を妨害してしまった場合は、道路交通法上の本線車道緊急車妨害違反(道路交通法75条の6第2項)となり、違反者には以下のような不利益があります。
違反点数
本線車道緊急車妨害違反をした場合、違反点数として1点が加算されます。
反則金
本線車道緊急車妨害違反をした場合、自動車の種類に応じて以下の反則金が課されます。
自動車の種類 | 金額 |
---|---|
大型車 | 7,000円 |
普通車 | 6,000円 |
二輪車 | 6,000円 |
小型特殊車 | 5,000円 |
罰則
上記の反則金を支払わない場合、5万円以下の罰金が科される可能性があります。
あおり運転(妨害運転)
救急車を下記のような行為で妨害した場合、道路交通法上のあおり運転(妨害運転)に該当する可能性があります。
- 通行区分違反(対向車線にはみ出す行為)
- 急ブレーキ禁止違反(急ブレーキをかける行為)
- 車間距離不保持(車間距離を極端につめる行為)
- 進路変更禁止違反(急な進路変更を行う行為)
- 追い越しの方法違反(危険な追い越し行為)
- 減光等義務違反(しつこくパッシングやハイビームを行う行為)
- 警音器使用制限違反(しつこくクラクションを鳴らす行為)
- 安全運転義務違反(幅寄せや蛇行運転行為)
- 最低速度違反(高速道路での低速走行行為)
- 高速自動車道等駐停車違反(高速道路等での駐停車行為)
あおり運転(妨害運転)をした違反者には、以下のような不利益があります。
違反点数
あおり運転(妨害運転)により、交通の危険のおそれを生じさせた場合は、違反点数として25点が加算され、最低2年間の免許取り消しとなります。
あおり運転(妨害運転)により、高速道路で他の自動車を停止させる等著しい交通の危険を生じさせた場合は、違反点数として35点が加算され、最低3年間の免許取り消しとなります。
罰則
あおり運転(妨害運転)により、交通の危険のおそれを生じさせた場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。
あおり運転(妨害運転)により、高速道路で他の自動車を停止させる等著しい交通の危険を生じさせた場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金を科される可能性があります。
救急車の妨害は道路交通法以外の法律違反となる可能性もある
救急車の妨害行為は、道路交通法違反だけでなく、下記のような法律違反となる可能性もあります。
公務執行妨害罪
救急車に乗車している救急隊員(救命救急士)は公務員なので、救急車の妨害(「暴行」)によって、救急隊員の職務を妨げたといえる場合には、刑法95条1項の公務執行妨害罪に該当します。
公務執行妨害罪に該当すると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
危険運転致死傷罪
救急車をあおり運転で妨害したことにより、人身事故が発生した場合、自動車運転処罰法2条の危険運転致死傷罪に該当する可能性があります。
危険運転致死傷罪に該当すると、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役を科せられる可能性があります。
救急車の妨害に関するよくある質問
救急車の妨害にならないようにするにはどう対応すべき?
道路交通法第40条に記載されている対応をする必要があります。
道路交通法第40条の条文は下記のとおりです。
1 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは…車両…は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
道路交通法第40条
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。
交差点やその付近では、徐行ではなくしっかりと端に寄って一時停止することが大切です。
また、緊急車両に進路を譲る際には、他の車両と接触しないように、周囲の車両の動きをよく確認することも大切です。
救急車を妨害したら逮捕される?
救急車の妨害があおり運転や公務執行妨害罪、危険運転致死傷罪などに該当する場合には、逮捕される可能性があります。
救急車の妨害が、緊急車妨害等違反や本線車道緊急車妨害違反にとどまる場合には、反則金の支払いをすれば刑事手続きにはならないため、基本的に逮捕されることはありません。
一方で、救急車の妨害が、あおり運転や公務執行妨害罪、危険運転致死傷罪などに該当する場合には、刑事手続きの一環として逮捕される可能性は否定できません。
現場で現行犯逮捕されなくても、後日逮捕(通常逮捕)される可能性もあります。
後日逮捕の要件の一つとして、逃亡または罪証隠滅のおそれがあることが必要になるところ、救急車を妨害した際に、現場から逃走してしまった場合は、逃亡のおそれがあると判断され、逮捕される可能性が高まります。
実際、救急隊員が「やめてください」と何度も呼びかけたにもかかわらず、約2分間の妨害行為により、容体に影響はなかったものの、患者1人の病院への到着が約2分遅れた事案で、現場から逃走した容疑者が、道路交通法違反(あおり運転)と公務執行妨害の疑いで(後日)逮捕されています。
救急車を妨害したら後日に警察から連絡が来る?
警察が意図的な妨害と判断した場合には、後日警察からの連絡が来る可能性があります。
道路交通法の緊急車妨害等違反および本線車道緊急車妨害違反は、意図的に緊急車両の走行を妨害してしまった場合に限り成立するからです。
もっとも、意図的かどうかは運転者の内心の問題のため、緊急車両の走行を妨害する態様、時間などを総合考慮して、意図的な妨害だったかどうかを警察は判断します。
警察から連絡が来た場合、緊急車両の接近に気付いていなかったのであれば、しっかり否認するという対応が大切です。
ただし、否認する場合には、緊急車両の接近に気付けなかった合理的な理由が求められるので、その点を説明できるようにしておく必要があります。
救急車を妨害して交通事故が発生したらどう対応すべき?
直ちに車両の運転を停止して、負傷者を救護し、警察に連絡するという対応が必要です。
上記の対応を怠ると、道路交通法上の救護義務違反・報告義務違反となり、罰則の対象となります。
その後の対応については、下記の関連記事を参考にしてください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了