交通事故による退職で休業損害がもらえるケースは?退職理由が重要

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交通事故で退職

交通事故によるケガや休業で退職した場合、「事故に遭わなければ引続き働き得ていたはずの収入」が得られなくなります。

この損害は、休業損害として補償される場合があります。

しかし、交通事故を理由に退職したすべてのケースで退職後の休業損害が認められるわけではありません。

どのような場合に退職後の休業損害が認められるのか、いつまでの期間休業損害を受けられるのかなどについて、詳しく見ていきましょう。

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交通事故後に退職したら賠償請求できる?

交通事故の影響で退職することになった場合、それに対する賠償として休業損害を請求できる場合があります。

具体的にどのような場合に、交通事故による退職で休業損害が請求できるのか、交通事故で退職する際にはどのような点に注意すべきなのかを見ていきましょう。

会社都合なら休業損害をもらえる可能性あり|判例も紹介

交通事故によるケガや休業が原因で退職した場合、それが会社都合による退職・解雇であれば休業損害を請求できる可能性があります。

「交通事故がなければ退職せずに働いて得ていたであろう収入」が得られなくなるため、休業と同じような扱いとして、休業損害の請求ができるのです。

ただし、交通事故による退職で休業損害の請求が認められるには、会社都合の退職・解雇であることに加え、以下の条件もクリアしていなければなりません。

  • 交通事故によるケガと仕事内容とに関連性があること
  • 早期の再就職が難しいこと

これらの点については、本記事内で後ほど詳しく解説します。

交通事故による退職で休業損害が認められた判例

ここで、交通事故後に休業したことで職場復帰が難しくなり退職し、休業損害が認められた判例を紹介します。

麻酔科勤務医(男・固定時52歳、脊柱変形11級7号)につき、(略)休業によりその職を別の医師に交替し、復職を申し出た時には復帰できず職を失ったとして、事故前の収入を基礎に、退職時から他院に勤務するまでの5ヶ月間245万円余りを認めた。

京都地判平27.3.19 交民48・2・391

自己都合の退職は休業損害がもらえない

交通事故によるケガが理由であっても、自己都合の退社だと休業損害の請求が難しくなります。

理由は以下のとおりです。

  • 会社側は被害者を雇い続けるつもりだったと考えられることから、ケガによって退職せざるを得なかったとは言えない
  • 上記の状況で自主的に退職したのは被害者自身の意思であり、加害者が責任を負うべき事由ではない

自己都合の退職にならないための注意点|退職勧奨に注意

自己都合の退職にならないためには、会社側に対して「会社都合の退職になること」をよく確認することが重要です。

自ら退職を申し出た場合はもちろん、会社からの退職勧奨を受けて退職届を出した場合でも自己都合退職となってしまうので注意しましょう。

一般的に、企業側が配置転換や業務内容の変更などで雇用継続を試みて、それでも働くことが難しいと判断された場合に、会社都合での退職となります。

そうした段階を経ず退職を打診された場合、自己都合での退職となる可能性が高いので応じないようにしましょう。

交通事故の退職で休業損害を請求するには?3つの条件

交通事故による退職で休業損害を請求するには、以下の条件を満たす必要があります。

  • ケガと仕事内容とに関連性があること
  • 会社都合の退職であること
  • 早期の再就職が難しいこと

具体的な条件の内容や、これらの条件を満たしていると証明する方法を見ていきましょう。

(1)ケガと仕事内容の関連性を証明する

交通事故で負ったケガが、被害者の仕事に多大な影響を及ぼすものであり、事故前に就いていた業務だけでなく社内のその他の業務を行うことも難しい場合には、退職はやむを得ないと判断されやすくなります。

例を挙げると、以下のとおりです。

  • 遷延性意識障害で寝たきり状態になった
  • パソコン必須の仕事で上肢を切断し、他に移れる部署がない

この条件を満たしていると証明するには、医師による診断書や各種検査結果などを用意し、その会社における仕事内容と照らし合わせましょう。

医師に意見書を書いてもらうことも1つの方法です。

(2)退職の理由が会社都合だと証明する

退職が会社都合であることは、会社が発行する「退職証明書」で証明できることが多いです。

ただし、本来なら自己都合退職となるはずのところ、会社側に頼んで、あるいは会社側の厚意で形だけ会社都合退職としてもらった場合は、休業損害が認められない可能性があります。

「会社側がどのように工夫しても雇用を続けるのが難しく、やむを得ず退職した」という事実が重要です。

(3)早期の再就職が難しいと証明する

ケガの状態などから考えて、退職後すぐに再就職することが難しい場合は、休業損害がもらえる可能性があります。

すぐに再就職できる状態なのに被害者自身の意思で無職を続けている場合は、休業損害の請求は難しいでしょう。

早期の再就職が難しいことは、医師による診断書や各種検査結果、意見書などから主張しましょう。

交通事故で退職した場合の休業損害はいくら?

交通事故で退職して休業損害を請求できる場合でも、請求可能な期間には限りがあります。

交通事故による退職で休業損害を請求できる期間や、休業損害の計算方法を見ていきましょう。

退職後に休業損害がもらえる場合、対象期間はいつまで?

退職後に休業損害がもらえる場合、対象となる期間は基本的に「次の就職先が決まるまで」もしくは「次の就職が決まるまでにかかる妥当な期間」のうち短い方とされます。

後者については被害者のケガの状態などよっても変わってくるでしょう。

なお、会社を休業した場合の休業損害は、基本的にケガの完治または症状固定までの分支払われます。

しかし、退職による休業損害は、完治・症状固定よりも前の段階で打ち切られることもあります。完治・症状固定に至っていなくても再就職が可能な場合もあるからです。

退職でもらえる休業損害の計算方法

退職でもらえる休業損害の計算方法は、「日額×対象日数(「再就職までの期間」または「再就職までにかかる妥当な期間」のうち短い方)」です。

日額は、会社員の場合は休業損害証明書に記載された事故前の収入から算出します。

自営業者の場合は、基本的に事故前年の確定申告の内容から算出します。

交通事故で退職した場合の賠償金に関する質問

最後に、交通事故で退職した場合の賠償金に関する以下の質問にお答えします。

  • 交通事故での退職で失業保険や労災保険は使える?
  • 交通事故での退職で慰謝料や逸失利益はもらえる?
  • 廃業した自営業者も休業損害をもらえる?

交通事故での退職で失業保険や労災保険は使える?

失業保険(雇用保険の失業給付)や労災保険は、それぞれ以下の場合に使えます。

  • 失業保険:雇用期間が1年以上(会社都合退職の場合は半年以上)ある
  • 労災保険:通勤中・業務中の交通事故だった

それぞれについて詳しく解説します。

失業保険

雇用期間が1年以上(会社都合退職の場合は半年以上)ある場合は、雇用保険の失業給付を受けられます。

失業給付は社会福祉の一環として給付されるものなので、交通事故の損害を補償する休業損害とは別物として扱われます。よって、両方受け取っても金額が相殺されることはありません。

受け取れる失業給付額は失業前の収入や勤続年数などにより変わります。

失業給付を受けられる期間は次のとおりです。

  • 会社都合退職の場合:最長330日(最低7日間の待機期間あり)
  • 自己都合退職の場合:最長150日(3ヶ月間の給付制限と7日間の待機期間あり)

失業給付の申請はハローワークで行いましょう。

労災保険

業務中・通勤中の事故で休業する場合は、労災保険による休業補償も受けられます。

休業補償は「休業4日目~完治・症状固定まで、あるいは傷病等級の認定を受けるまで」受け取ることができ、この間に退職したとしても打ち切られることはありません。

労災からは、療養給付や障害給付なども受け取れます。これらも、要件を満たす限り退職したからという理由で打ち切られることはありません。

なお、休業補償と休業損害は同一の性質を持つものとみなされるため、両方受け取ると金額が相殺されます。

しかし、休業補償と一緒に支払われる休業特別支給金は相殺の対象外なので、休業損害と休業補償・休業特別支給金を併用するほうがより多くの金額を受け取れます。

交通事故での退職で慰謝料や逸失利益はもらえる?

交通事故による退職に対して、慰謝料や逸失利益が支払われることは原則としてありません。

慰謝料は「交通事故による身体的被害から生じる、精神的苦痛」を補償するものです。
基本的には以下の精神的苦痛が対象となります。

  • ケガによる入通院で生じる、「痛い」「苦しい」などの精神的苦痛
  • 後遺障害が残ったことによる、「辛い」「不便」などの精神的苦痛
  • 死亡した本人や遺族の「悔しい」「悲しい」などの精神的苦痛

また、逸失利益は交通事故による後遺障害や死亡で減ってしまう、生涯収入を補償するものです。

「退職を余儀なくされて減ってしまう収入」ではなく、以下を対象として支払われます。

  • 後遺障害により労働能力が落ちて減ってしまう収入
  • 死亡により働けなくなり減ってしまう収入

廃業した自営業者も休業損害をもらえる?

自営業の場合、交通事故によるケガのために廃業すると休業損害を受け取れることがあります。

ただし、「事故に遭わなければ事業を継続し、得ていたはずの金額」が休業損害として補償されるのではなく、開業にかかった費用が補償されるケースもあります。

実際の判例は次のとおりです。

事故後廃業した美容院経営者(女・50歳)につき、事故に遭わなければ美容院の経営を継続していたことが推認されるとして、事故から約2年前の開業時に支出した費用564万円余の約5割を認めた

高松高判平13.3.23 自保ジ1404・1

交通事故による退職でお困りなら弁護士に相談を

交通事故により今までの仕事を続けることが難しくなり、会社都合で退職した場合、退職後も一定の期間休業損害を受け取れる可能性があります。

しかし、加害者側が退職後の休業損害を否定してきたり、休業損害の一部しか支払おうとしなかったりすることは十分考えられます。

適切な補償を受けるためにも、交通事故で退職を余儀なくされた場合は一度弁護士にご相談ください。

アトム法律事務所では、電話・LINEにて無料相談を実施しています。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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