交通事故の嘆願書の書式と書き方|書くべき?悩んだときの判断ポイント

交通事故の被害者として、加害者やそのご家族・弁護士から「嘆願書を書いてほしい」と依頼されて戸惑っていませんか?
そもそも嘆願書とは何なのか、書いた場合に加害者にどのような影響があるのか、示談書との違いなど、悩みや疑問を抱えている方は少なくありません。
この記事では、交通事故に関する嘆願書について、その意味や役割、書く場合の注意点や断る選択肢まで、被害者の立場に寄り添ってわかりやすく解説します。
目次

嘆願書の書き方と例文|交通事故事件におけるテンプレート
嘆願書の例文(テンプレート)
以下は、交通事故加害者に対する嘆願書の一例です。
嘆願書の例文
嘆願書
〇〇地方検察庁 御中
私〇〇は、令和〇年〇月〇日に発生した交通事故の被害者です。
本件事故の加害者である〇〇〇〇氏からは、事故後、誠実な謝罪と賠償の申し出を受け、保険会社を通じて〇〇万円の示談金を受け取りました。
私としては、〇〇〇〇氏がこの事故を深く反省していることを受け、今回に限り〇〇〇〇氏について寛大な処分をくださいますよう、歎願いたします。
令和○年○月○日
被害者氏名:________
住所:___________
(署名・押印)
※あくまで一例です。示談の有無や事情に応じて、内容をカスタマイズする必要があります。
もっとも実際は、加害者側の弁護士が文面を作り、被害者側は署名と押印をするだけ、ということも多いです。
もしも嘆願書の内容に疑問や不安がありましたら、加害者側の弁護士や自身の弁護士に相談してみましょう。
交通事故の嘆願書の基本構成
嘆願書は、以下の内容で構成されています。
被害者名や日付など、重要な部分に抜けや誤りがあると再作成が必要になるおそれがあるため、ご注意ください。
- タイトル(例:「嘆願書」)
- 宛名(通常は「○○検察庁御中」「○○警察署御中」など)
- 被害者の氏名
- 加害者の名前、事故についての簡単な説明
- 嘆願の趣旨(寛大な処分を希望する旨)
- 提出年月日、署名・押印
嘆願書を書く際の注意点
嘆願書を書く際は、以下の点に注意しましょう。
- 事実と異なる記載がないか
(事故日、怪我の内容、金銭の受け取りの有無など) - 金銭を受け取ったことが書かれている場合は、その費目や金額
(民事の損害賠償金なのか、刑事の示談金なのか、一般的なお見舞金なのか) - 歎願の内容が自身の意図と一致しているかどうか
嘆願書は無理に書く必要はなく、心から納得できていない場合は書くべきではありません。
弁護士や家族とよく話し合い、後悔しないようにしましょう。
嘆願書とは何か?交通事故における役割と影響
嘆願書とは、刑事事件において当事者が裁判所や検察などの司法機関に提出する「情状を酌んでほしい」旨の要望書です。
交通事故においては、「加害者に対して、寛大な処分をくだしてほしい」という内容になることが多いです。
嘆願書が与える影響
被害者が嘆願書を書くことで、事故の当事者双方にどのような影響があるか、見ていきましょう。
嘆願書が加害者に対して与える影響
交通事故の加害者は、過失運転致死傷・道路交通法違反などで起訴されることがあります。
被害者の嘆願書は、そのような加害者の処分や刑事手続きに以下のような影響を与える可能性があります。
裁判・処分の場面 | 嘆願書の影響の例 |
---|---|
起訴・不起訴の決定 | 起訴されずに終わる |
訴訟の種類の決定 | 正式な裁判ではなく、略式起訴となる |
裁判での量刑判断 | 拘禁刑の長さが短くなる 拘禁刑に執行猶予がつく 罰金が安くなる |
このように嘆願書の提出は、加害者にとって有利な情状として考慮されることがあります。
もっとも、嘆願書を提出したからといって必ずしも刑事処分が軽くなるわけではありません。
最終的な判断は検察や裁判所に委ねられます。
嘆願書が被害者に対して与える影響
基本的には、嘆願書を書いたことで、被害者に影響が生じることはありません。
嘆願書を書いたからといって、保険会社から受け取れる損害賠償金が増額するわけではない、ということは留意しておかなくてはなりません。
嘆願書を書くタイミングは示談前でもいい?
嘆願書は、示談成立の有無にかかわらず提出することは可能です。
示談前でも加害者の刑事処分を望まない意向が固まっている場合には、問題なく提出してよいでしょう。
ただしその場合、嘆願書に「これ以上の金銭の受け取りを望まない」「十分な金銭を支払ってもらった」など、示談金や慰謝料の面で争いが生じるようなことは記載しないようにしましょう。
交通事故の嘆願書と示談書の違い
嘆願書と似たものとして、民事事件としての示談書・刑事事件としての示談書があります。
それらの違いを確認していきましょう。
交通事故の嘆願書
嘆願書とは、被害者やその家族などが、「加害者に対して寛大な処分を求める」という意見を検察官や裁判所に提出する書面です。
嘆願書の内容は刑事手続において加害者の情状として考慮される可能性があります。
刑事事件としての示談書(交通事故の刑事示談)
交通事故について、刑事責任を問われている加害者が、被害者に謝罪し、示談金を支払うなどして、被害者の許し(宥恕)を明文化してもらうのが刑事事件としての示談です。
刑事事件としての示談の際に作られる書類が、刑事事件としての示談書です。
刑事事件としての示談書には、「刑事処罰を望まない」旨などが明記されることが一般的です。
刑事示談の示談書が作成されると、検察官が起訴を見送る「不起訴処分」が下されたり、裁判における量刑の軽減、執行猶予の判断などに大きな影響を与えることがあります。
なお、刑事事件の示談書に署名すると、原則として刑事事件の示談金について追加請求できなくなることには注意が必要です。
保険会社の示談書(免責証書)
交通事故について、治療費や修理費などの損害についていくら賠償するかをとりきめるのが民事事件としての示談です。
民事事件としての示談の際に作られる書類が、民事事件としての示談書です。
保険会社の示談はあくまで金銭面の賠償の問題ですので、刑事事件としての処分には直接的な影響を及ぼさないのが一般的です。
示談書のタイトルが「免責証書」「交通事故に関する承諾書」「合意書」「和解書」などになっていることもありますが、すべて同じものです。
なお、民事事件の示談書に署名すると、原則として民事事件の損害賠償金について追加請求できなくなることには注意が必要です。

嘆願書を提出するメリット・デメリット
被害者が嘆願書の提出を検討する場合、感情的にも法的にも複雑な判断を迫られます。
以下に、被害者にとってのメリット・デメリットを整理しました。
嘆願書を書くメリット
嘆願書を書くことで、被害者にとっては以下のようなメリットがあります。
- 民事の示談成立を後押しする材料になり、早期解決が見込めることがある
- 加害者の反省態度や誠意が伝わり、心理的に区切りを付けやすくなることがある
嘆願書を書くデメリット・リスク
嘆願書を書くことで、被害者にとっては以下のようなデメリットがあります。
- 加害者の処罰が軽くなる可能性があり、「償いが足りない」と感じるおそれがある
- 自分の本心と乖離した行動を取ってしまったことで、後悔してしまう
重要なのは、嘆願書は誰かに強要されたり、義務感で書くものではないという点です。
被害者の方ご自身が納得いく形を選ぶことが大切です。
嘆願書を「書かない」選択も、当然に認められる
たとえ刑事事件・民事事件上の示談が成立していたとしても、嘆願書を書くかどうかはまったくの別問題です。
「気持ちの整理がついていない」「加害者に対してまだ納得しきれない思いがある」「処罰感情が強い」など、どのような理由であっても、嘆願書を提出しない選択は責められません。
また、嘆願書をお願いされたこと自体がストレスになっている場合は、その事情を率直に加害者側に伝え、無理に対応しないこともひとつの判断です。
不安がある場合は、弁護士など専門家に相談しましょう。
まとめ|嘆願書は「書かない自由」もあります
交通事故の嘆願書は、加害者の刑事処分に一定の影響を与える一方で、被害者にとっては大きな心理的負担にもなり得る文書です。
書くかどうかを誰かに決められるものではありません。示談とは別に、あなた自身の気持ちや状況に応じて、慎重に判断することが大切です。
特に、まだ民事の示談金を受け取っていないにもかかわらず、嘆願書を書く場合は注意が必要です。
「本当に書いてよいのか不安」「民事の示談金に影響はないのか」とご不安な場合は、早めに弁護士など法律の専門家にご相談ください。
アトム法律事務所では、交通事故に詳しい弁護士が、嘆願書の作成について・民事の示談金について両方のアドバイスを行えます。
まずは一度お電話やLINEなどでご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了