第三者行為による傷病届のデメリットとは?提出前に知っておきたい注意点と対処法

更新日:

kt eyecatch526001

交通事故や他人の不注意でケガをし、健康保険を使って治療を受ける場合、「第三者行為による傷病届」が必要になります。

第三者行為による傷病届とは、第三者である「加害者」の行為で、被害者が怪我したことを示す書類です。

この記事では、第三者行為による傷病届を提出するメリットとデメリットを具体例を交えてわかりやすく解説します。提出前に知っておきたいポイントや、トラブルを避けるための注意点もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

交通事故の無料法律相談
相談料 無料
毎日50件以上のお問合せ!

第三者行為による傷病届とは?

第三者行為による傷病届とは?第三者行為の具体例を交えて解説

第三者行為による傷病届とは、加害者(第三者)の行為によって負傷した際に、保険者が第三者の情報を把握し、後日、立て替えた治療費を第三者へ請求しやすくするための書類です。

第三者行為とは、たとえば次のようなケースが該当します。

  • 車や自転車による交通事故でケガをした
  • 他人のペットに噛まれて負傷した
  • 店舗や施設の管理ミスで転倒し、骨折した
  • 会社の設備不備が原因でケガをした

このように、第三者行為とは、自分以外の誰かの不注意や過失によってケガや病気をした場合を指します。

通常の健康保険利用時と異なり、加害者がいるケガや病気で健康保険を使う場合、第三者行為による傷病届を自身が加入する保険組合に出す必要があります。

第三者行為による傷病届の届け出が求められるケース

一般的に、交通事故の被害者が病院で治療を受ける場合、加害者側の保険会社が病院に直接治療費を支払ってくれるので、被害者が健康保険を使って支払うことはありません。

しかし、以下のようなケースでは、被害者が健康保険を使って治療を受ける必要があるため、届け出が求められることになるでしょう。

  • 加害者が任意保険に未加入
  • 保険会社から治療費を打ち切られた
  • 被害者側の過失割合が大きい

なぜ健康保険に届け出が必要なのか

第三者行為による傷病届を届け出ることで、加害者がいることを保険者(保険組合)に知らせ、保険者が立て替えた医療費を加害者側へ請求する流れを取ることになるからです。

本来、加害者がいる事故やトラブルでのケガは、加害者側が医療費を負担するのが原則となります。しかし、加害者との話し合いや示談がすぐにまとまらないケースも多いため、被害者側が先に健康保険を使って治療を受けることもあるでしょう。

ただし、そのまま保険を使ってしまうと「自己都合のケガ」として処理されてしまうため、第三者行為による傷病届を提出し、「このケガは第三者の行為によるものだ」と申告する必要があるのです。

提出のタイミング・提出先・提出期限について

第三者行為による傷病届は、なるべく早めに提出することが推奨されています。治療を始めたあとでも受理されることが多いですが、遅れることでトラブルや手続きの手間が増える可能性があるからです。

提出先・提出方法・提出期限

内容
提出先自身が加入する健康保険(全国健康保険協会、健康保険組合など)
提出方法通常は「第三者行為による傷病届」などの専用用紙に記入し、郵送または窓口に提出
提出期限法律上の明確な期限はないが、初診から速やかに届け出るのがベスト

また、医療機関によっては、第三者行為であることを伝えると健康保険の使用に制限がかかることもあるため、事前に保険者や病院に相談しておくと安心です。

第三者行為による傷病届の主なデメリット

提出書類の作成が面倒

交通事故で健康保険を使う場合、第三者行為による傷病届の他にも、被害者自身で加害者の情報や事故の詳細を記載した書類を作成し、健康保険組合などの保険者に提出せねばなりません。加えて、事故発生状況を証明する書類や、警察の事故証明書の提出を求められることもあります。

必要な書類

  • 第三者行為による傷病届
  • 負傷原因報告書:いつ・どこで・何をしていて負傷したか。
  • 事故発生状況報告書:事故詳細、道路図、車の進行方向などを図や文章で示す。
  • 損害賠償金納付確約書・念書:加害者側が記載する書類。署名拒否の場合はその旨を記入。
  • 同意書:全国健康保険協会が加害者側の保険会社に被害者の医療費明細書を提示することへの同意書。
  • 交通事故証明書:交通事故の発生を示す自動車安全運転センター事務所が発行する書類。

これらの書類作成は手間がかかるうえ、記載内容に不備があると再提出を求められるケースもあるでしょう。特に、加害者の情報が不明確な場合や、警察の事故処理が進んでいない場合には、スムーズに書類を作成できないこともあり、負担を感じる被害者は少なくありません。

治療内容が限定される

第三者行為による傷病届を提出して健康保険を利用すると、原則として「健康保険適用の範囲内」での治療しか受けられません。

たとえば、自由診療(健康保険適用外の治療)や先進医療を希望しても、健康保険ではカバーされず、全額自己負担となります。

さらに、通院の頻度や治療内容についても、保険者が審査を行うため、必要と考えていた治療が認められない場合もあるでしょう。特に、長期間のリハビリや専門的な治療が必要なケースでは、治療の選択肢が制限されるリスクがあるため、注意が必要です。

病院によっては関係が悪化する・健康保険の利用を拒否される

第三者行為による傷病届を提出し、健康保険を利用すると、一部の医療機関では対応が悪くなる可能性があります。たとえば、交通事故の治療で健康保険利用に病院が不慣れであったり、そもそも病院の方針として交通事故の治療で健康保険利用を拒否していたりすることがあるからです。

特に、交通事故による負傷で受診した場合、病院側が「自賠責保険を利用すべき」と考え、健康保険の使用を拒否することもあります。その結果、被害者が希望する病院での治療を受けられなかったり、病院側との関係が悪化したりすることがあるため、注意が必要です。

第三者行為による傷病届のメリット

医療費の自己負担が減る

第三者行為による傷病届を提出すると、通常の健康保険と同じように医療費の自己負担が3割、または1~2割になります。

たとえば、交通事故で入院や手術が必要になった場合、全額自費で支払うのは大きな負担です。しかし、健康保険を使えば大幅に軽減されます。

さらに、一定額を超えた場合には「高額療養費制度」も適用されるため、経済的な不安を和らげながら治療に専念できるのが大きなメリットでしょう。

加害者側との示談前でも治療可能

加害者との示談が成立していない段階でも、第三者行為による傷病届を出せば健康保険を使ってすぐに治療を開始することができます。そのため、治療費を全額自己負担で立て替える必要がなくなり、金銭的な負担を抑えつつ早期に治療を受けられます。

特に、示談交渉が長引く場合や、加害者がすぐに支払いに応じてくれないケースでは、健康保険を使っての治療が非常に有効です。健康状態の回復を最優先に考えるなら、治療費の心配をせずに医療を受けられるメリットは大きいでしょう。

重複しない範囲で加害者からの賠償と健康保険の併用が可能

第三者行為による傷病届を提出した場合でも、加害者に対する損害賠償請求ができなくなるわけではありません。健康保険でカバーされない費用(通院交通費や休業損害、慰謝料など)は、加害者に損害賠償請求できます。

ただし、治療費については一時的に健康保険が一部を負担しているため、同じ費用を重ねて請求する「二重取り」はできません。正しく手続きすれば、健康保険と賠償請求を上手に併用することができます

こんなケースは特に注意!提出前に確認すべきパターン

加害者とすでに示談・和解している

すでに加害者と示談や和解をしてしまった場合、第三者行為による傷病届を提出しても、保険者が加害者へ治療費を請求できなくなる可能性があります。

なぜなら、示談により「今後、一切の請求をしない」ことが合意されている場合、保険者も加害者に対して費用を請求できなくなるからです。この場合、健康保険を利用した治療費の負担分が被害者に請求されるリスクもあるため、示談前に必ず弁護士などの専門家に相談し、健康保険の利用について確認しておくことが重要です。

治療費が軽微で一時的に自費でも問題ない場合

ケガの程度が軽く、治療費も少額で済む場合は、あえて傷病届を出さず、一時的に自費で支払うという判断もあります。

たとえば、1〜2回の通院で完治するようなケースでは、手続きの手間を考えると、届出を出すことでかえって負担になることもあるからです。治療費を一時的に負担する場合は、のちに治療費を請求する際に必要になるので、領収書を手元に残しておきましょう。

ただし、治療が長引いて治療費の負担が重くなってくる可能性もあるので、一時的でも負担できるかは慎重に判断しましょう。

通勤時や仕事中に起きた交通事故の場合

通勤中や業務中に交通事故に遭った場合、労災保険が優先的に適用されるため、健康保険は使えません。労災保険を利用すれば、自己負担なしで治療を受けることができるため、第三者行為による傷病届を提出するよりも有利な選択肢となることが多いです。

もっとも、労災指定の病院でない場合は治療費の一時負担が発生するので、労災認定されるまで一時的に健康保険を利用して治療を受ける方法もあります。労災認定された後は、すみやかに健康保険から労災保険への切り替えを行いましょう。

関連記事

交通事故で労災保険を使う手続きは?メリット・デメリットも解説

被害者に法令違反があって事故が起きた場合

被害者に信号無視や飲酒運転などの法令違反があって事故が発生した場合、健康保険は使用できません。

健康保険法では「故意または重大な過失による事故」については、保険適用外となるためです。

第三者行為による傷病届の提出前にやるべきこと

加害者との示談状況を整理する

第三者行為による傷病届を出す前に、まず加害者との示談がどの段階かを確認しておくことが大切です。

すでに示談が成立していれば、医療費が賠償金に含まれている可能性があり、その状態で届出を出すと「二重請求」とみなされるおそれがあります。

一方で、示談前であれば、健康保険の利用によって治療をスムーズに進められるメリットもあります。

トラブルを避けるためには、示談書の内容や話し合いの経過を整理し、どの費用が誰の負担かを明確にしておきましょう。

保険組合・医療機関への相談

傷病届の提出に不安がある場合は、加入している健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)に直接相談するのがおすすめです。

届出の様式や提出方法、必要書類などを確認できるだけでなく、自分のケースで届出が必要かどうかの判断材料も得られます。

また、通院している医療機関にも「第三者行為によるケガであること」を伝えておくとスムーズです。病院によっては、保険証の取り扱いやレセプトの処理が通常と異なるため、事前に事情を共有しておくとトラブル防止になります。

必要であれば弁護士や法テラスへの相談も検討

トラブルの不安がある場合や、加害者との関係性・示談の内容が複雑な場合は、法律の専門家に相談することをおすすめします。弁護士に依頼することで、示談交渉や保険手続きにおけるリスクを事前に把握でき、安心して進めることができるでしょう。

無料の法律相談を受け付けている弁護士も多いので、有効に活用してみてください。また、「法テラス(日本司法支援センター)」では、無料の法律相談を受けられる制度もあり、費用面で不安がある方にも心強いサポートとなります。

損害賠償額が大きくなりそうなケースや、過失の有無に争いがある場合には、専門的な視点を取り入れて慎重に進めることが大切です。

アトム法律事務所は無料法律相談を実施中

アトム法律事務所では、交通事故でお怪我をされた方を対象に無料の法律相談を実施しています。

法律相談を希望される場合は、下記バナーよりまずお問い合わせください。お問い合わせは24時間いつでも対応中です。

交通事故の無料法律相談
相談料 無料
毎日50件以上のお問合せ!

第三者行為による傷病届を提出した後の流れ

保険組合から加害者へ請求が行く

第三者行為による傷病届を提出すると、まずは被害者が加入する健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)が治療費を一時的に負担します。

その後、保険者はかかった治療費を加害者に請求する「求償(きゅうしょう)」という手続きを進めます。求償に関しては、保険者と加害者の間の話なので、被害者自身が気にする必要はありません。

加害者側の保険会社との示談交渉が進む

健康保険を利用した場合でも、被害者は加害者側の保険会社と示談交渉を進める必要があります。示談交渉では、治療費だけでなく、休業損害や慰謝料、後遺障害が残った場合の賠償額など、総合的な損害賠償請求について話し合われるからです。

健康保険を利用して一部の治療費を立て替えている場合は、示談交渉時に請求漏れがないよう忘れず請求してください。

また、場合によっては、被害者が受け取る賠償金の総額を保険会社がそもそも低く見積もった状態で進めてくるリスクもあるため、慎重に対応する必要があります。

二重取りの確認が行われる(損害賠償と治療費)

第三者行為による傷病届を出した場合、治療費の一部が健康保険から支払われていることになります。そのため、示談や損害賠償請求の際には、すでに保険で支払われた金額と重複しないようチェックされるのが一般的です。

たとえば、健康保険を使って3万円分の治療を受けたにもかかわらず、示談でも同じ内容の治療費を請求してしまうと「二重取り」と見なされるおそれがあります。この場合、示談金の一部返還を求められることもあるため注意が必要です。

安心して賠償を受けるためにも、治療費の支払い状況や、保険組合・加害者側の保険会社とのやり取りを整理しておくことが大切です。

第三者行為による傷病届に関するよくある質問

Q.第三者行為による傷病届を届け出ないとどうなる?

交通事故の治療で第三者行為による傷病届を提出しない場合、健康保険を利用できません。その結果、治療費が全額自己負担となり、治療内容や治療期間によっては、被害者の経済的負担が大きくなるでしょう。

自己負担した治療費は、後から加害者側に交通事故の賠償金として賠償請求できますが、一時的にでも負担を軽減したいなら、傷病届を提出して健康保険を使うことをおすすめします。

Q.提出後に加害者から連絡が来ることはある?

第三者行為による傷病届を提出する際、通常、加害者側には「損害賠償金納付確約書・念書」への記入を依頼します。この書類は、加害者が健康保険組合からの求償に応じることを約束するものなので、加害者がこれに応じていれば、特に被害者に対して直接連絡が来ることは考えにくいでしょう。

しかし、加害者が記入を拒否した場合や、そもそも書類の存在を知らなかった場合は、「どういう手続きなのか」といった問い合わせが来る可能性があります。また、加害者が任意保険に加入していない場合は、直接の支払い義務が発生するため、示談交渉の申し入れをしてくるケースも考えられます。

こうした状況を避けるためにも、届出をする際に加害者側と事前に確認をとり、「健康保険を使うため届出をする予定です」と伝えておくことで、無用なトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

Q.提出したことで損害賠償が減ることはありますか?

健康保険を利用すると、治療費が健康保険の基準に基づいて計算されるため、自由診療を受けた場合に比べて、最終的な賠償金額が低くなることもあるでしょう。

ただし、健康保険を利用することで、被害者が自己負担する金額が抑えられるというメリットもあるため、どちらが有利かはケースバイケースです。

また、通院交通費や慰謝料、休業損害など、健康保険でカバーされない費用については、加害者に賠償請求できます。治療費以外にも目を向けて、損害全体でいくら受け取れるのか把握しておくことが大切です。

交通事故の被害者が受け取れる損害賠償金の妥当性については、弁護士に相談して聞いてみましょう。

無料法律相談はこちら(24時間365日受付)

タップで電話をかける0120-434-9110120-434-911電話受付24時間365日全国対応!

Q.弁護士に相談するとどれくらい費用がかかる?

弁護士への相談料は、一般的に30分あたり5,000円〜1万円程度が相場です。

また、法テラスを利用すれば、収入や資産が一定以下の方は無料相談や費用立て替え制度を利用できることもあります。費用が不安な方は、法テラスに問い合わせてみるのも良いでしょう。

ただし、初回無料相談を行っている弁護士もいるので、複数の相談先を有効に活用してください。

Q.第三者行為による病院の対応の流れは?

病院で診察を受ける際には、まず「第三者行為によるケガです」と伝えます。第三者行為による傷病届等の様式は病院に用意されていないので、保険組合から取り寄せて提出しましょう。

医療機関によっては、健康保険をすぐに使えず、届出の提出後に保険扱いに切り替えるケースもあります。事前に保険者や病院に相談し、必要な手続きや書類を確認しておくとスムーズです。

Q.第三者行為による傷病届の相手がわからない場合はどうすればいい?

たとえば、ひき逃げで加害者が特定できない場合でも、状況によっては健康保険を使える可能性があります。

その際は、保険者に「加害者不明」であることを伝えたうえで、必要な手続きができるかどうか確認しましょう。警察への届け出や事故証明の取得が求められるケースもあるため、早めに行動することが重要です

Q.第三者行為による傷病届を加害者が拒否した場合の対応は?

加害者が「治療費の請求を認めない」と拒否してきた場合でも、健康保険の使用自体ができなくなるわけではありません。

保険者は必要に応じて加害者とのやり取りを行い、求償(請求)を試みますので、治療費に関して被害者が特段、気に掛ける必要はないでしょう。

ただし、このような場合、治療費以外の慰謝料や休業損害を請求していく今後の損害賠償交渉が複雑になることが予想されるため、早めに弁護士や専門機関に相談することをおすすめします

まとめ|提出は義務、でも事前の確認が大切

第三者行為による傷病届は、交通事故や他人の不注意によるケガ・病気で健康保険を使うために必要な書類です。提出することで健康保険の利用が可能になり、医療費の一時的な自己負担を抑えられたり、示談成立前でも治療を受けられたりと、大きなメリットがあります。

一方で、手続きの煩雑化や、治療内容の制限などのデメリットがあったり、状況によっては届け出を出しても健康保険が利用できない可能性もあったりするので、提出前の確認がとても重要です。

不安がある場合は、保険組合や医療機関、法テラス、弁護士などの専門機関に相談することをおすすめします。制度を正しく理解し、納得した上で手続きを進めることで、後悔やトラブルを防ぐことができます。

自分と家族を守るためにも、焦らず落ち着いて判断することが大切です。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

突然生じる事故や事件に、
地元の弁護士が即座に対応することで
ご相談者と社会に安心と希望を提供したい。